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日本人は無宗教なんてとんでもない!? 「宴会」でつながる日本の伝統的コミュニティとは―「京・みやびサロン in 丸の内」

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奇数月の第2火曜日にecozzeriaで開催されている「京(みやこ)・みやびサロン in 丸の内」。京都館が主催し、毎回さまざまなゲストを迎えて京都の歴史文化を幅広く学ぶ講座です。
新年最初となる今回は「信仰と菓子から日本をみる」をテーマに、京都上七軒にある有職菓子御調進所「老松」の主人、太田達(おおたとおる)さんを講師に迎えました。
京都館
老松

お着物の方も多く、京言葉も飛び交うなどなど、新年にふさわしくみやびな雰囲気のなか、セミナーはこんな謎かけからスタート。

「粢」―この漢字、さてなんと読むのでしょう?

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正解は「しとぎ」。
米を一晩水漬けし、すり潰して粉にして丸めたものです。寝かして発酵させれば「酒」となり、火を入れれば「餅」となります。「粢」は火を使う以前の炭水化物の摂取方法とも言われています。この「粢」は、日本人の基本的な信仰である神道の「まつり」における「神饌(しんせん)」(お供物)の基本とされ、昭和30年代までは日本各地で見られたのだそう。
「まつり」は「神饌」を神前にあげることから始まり、祝詞の奏上、神楽舞と続きます。これこそ、主賓のあいさつ、乾杯、そして無礼講へと続く、皆さんおなじみ、日本の「宴会」のルーツ。
参加者の序列をまず確認してから無礼講で破壊する。それにより、そのコミュニティはより強固なものとなる。日本において、「宴会」は、コミュニティの秩序を確認・破壊・強化して再生する、コミュニティをケアする装置として機能してきました。また、茶道、華道、香道など日本の伝統文化はすべてこの「宴会」から生まれてきたと言っても過言ではありません。

京都には代表的な「宴会」として、「花街」「茶事」があります。また、町内のお祭りである「地蔵盆」がある。"お隣の木が自分の家の方に伸びてきたから切ってほしい"など、今では大きなトラブルになりうる近隣のもめごとも、無礼講の際に一言「切ってえな」とお隣さんに伝えるだけで済んできました。

また「粢」の変形である「酒」「餅」(菓子)は、今でも代表的な贈答品として、人と人のあいだをつなぐもの。「宗派は?」と聞いても、答えられる人は少なくなってきているのはたしかに事実ですが、日本人のコミュニティのルーツに信仰があることは間違いありません。

「イトコニ」を知っている人?

正解は、「いとこ煮」と書く、かぼちゃと豆などの煮物。浄土真宗の精進料理で、富山など北陸地方で主に食されています。
コミュニティを機能させる装置である「宴会」には欠かせない食と芸能。当然、地方ごとまた宗派ごととコミュニティごとに違って、実にさまざまです。特にお正月の大事な食であるお雑煮などを見ると、その地方で最も大切にしている食、その背景にある文化までもがわかってしまう。たとえば、京都のお雑煮は、白味噌に頭芋。米を贅沢にたくさん使って造る白味噌と、里芋の親芋である頭芋を使うのは、大和民族を代表するみやこ人を象徴させるため。また、東北では必ずいくらを添えますが、鮭を主食とする狩猟民族の年始ならではの贅沢と言えるでしょう。

京友禅、京扇子、京野菜...京都名物としてたくさんある「京○○」ですが、固有名詞になっているのは?

miyakomiyabi_3.JPG正解は「京菓子」。"有職儀式典礼に用いる菓子、または、茶道における菓子"と定義されますが、これも「茶事」という「宴会」により育まれてきた食です。マカロン誕生以前(!?)、世界で唯一の色味のある菓子でした。(カラフルなマカロンのルーツは京菓子かという裏話も。あのジャン=ポール・エヴァンも「老松」に来て、色粉を興味をもっていたそうですよ)

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お土産は、月餅を京菓子風にアレンジした「老松」の香果餅

「老松」ではレシピもなく、注文を受けると、床の間掛け軸、茶碗を聞くことから始めるのだそう。正真正銘、一期一会とはこのこと

「スタッフは役員も含め全員お菓子を作ります。茶事、京菓子というと一見難しいようですが、日本人が培ってきた自然との遊び方、共生の仕方。本来はとても自由なものです。どんな色を使うかと聞かれれば「山を見なさい」と答える。山を見てなかったら色は決められません。昨日と今日で山は色が違う、ボーダーの色も違いますから」

「宴会」でつながるコミュニティは強い

「昨年の震災の際、被害を受けた直後の日本人の伝統的なコミュニティの機能については海外からもとても高く評価されましたが、マニュアル化された行政が入ってきた途端、一変した気がします。原理主義ではありませんが、信仰や本来のお茶など伝統文化を見直すことも大事。なんでも経済ありき、右肩あがりという考え方の世の中ではもうないのだと思います」
最後はこんなコメントで、セミナーは締めくくられました。

太田さんは、大学で教鞭をとりながら、国内外での講演、「茶事」のプロデュース(FIFAユーロ2004のティーコラボレーション、安藤忠雄氏制作の茶室での茶会などなど!)を行うと多忙を極めるなか、江戸中期の京都を代表する儒者であり、優れた風流人でもあった、皆川淇園が主催した学問所「弘道館」の保存・復興にも力を入れているとのこと。元の所有者が手放す際にあやうくマンションになりかけていたのを、「老松」の女性スタッフが中心になって運動し、買い取ったのだそう。アートイベントなど開催されるほか随時見学も可能だそうなので、京都に滞在の際はぜひ。

弘道館

「京(みやこ)・みやびサロン in 丸の内」

次回は3月13日(火)、講師は京友禅の老舗「岡重」の岡島重雄さん。お客一人ひとりの好みに合わせた友禅をしつらえる「誂え」へのこだわり、京友禅の魅力についてたっぷりお話が聴けるようですよ!

場所:新丸ビル オフィスゾーン10階 エコッツェリア(東京都千代田区丸の内1-5-1)
日時:奇数月の第2火曜日 19:00~20:30
定員:60名(先着順)
参加費:2,000円 茶菓付き(京都館みやこ会会員の方 1,600円 着物の方 1,500円)
申込先:京都館
TEL:03-5204-2260
FAX:03-5204-2266
http://www.kyotokan.jp/contact/seminar.html

共催:大丸有エリアマネジメント協会 http://www.ligare.jp/