国内で稼働中だった原発が全て停止し、この夏の電力不足が盛んに報道されています。今年は関西が関東より深刻とのことですが、昨年の夏を思い出すと「今年もあの節電の夏がやってくるのか」と憂鬱になる人もいるかも知れません。節電を進めながら憂鬱にならないように、さらには健康を害したり、労働効率を下げないようにする、そんな対策こそが今求められているわけです。
そのような対策の中でも、照明はその違いが人間の心理に与える影響が大きく、昨年も節電しながら快適さを保つための照明の減らし方を多くの企業が試行錯誤しました。そんな中、光を通じて、より良い生活環境を築くための知識や方法を提案している「TREND OF LIGHT」というプロジェクトがあります。「ただ今ある照明をLEDに置き換えればいいというわけではない」というその提案をちょっと見てみましょう。
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presented by greenz.jp(greenz.jpは、丸の内地球環境新聞をプロデュースしています、じつは。)
近年、「節電」という言葉が、当たり前のように飛び交うようになりました。「寿命が長い」「電気代が安い」「エコだから」といった理由で照明器具や電球を選ぶ方も多いでしょう。もちろん、こういった選択も間違いではありません。しかし、その光が生活を心地よいものにしているかという視点では、あまり考えられていないのではないでしょうか。
実は、光は知らず知らずのうちに私たちの健康や暮らしに大きな影響を与えているのにも関わらず、なかなか光に意識を向けられていないのが現状。それに警鐘を鳴らし、光に対する意識づくりや、健康的で心地よい空間の作り方の提案を行っているのが「TREND OF LIGHT」です。
TREND OF LIGHT の湯田さん
光を通じて、より良い生活環境を築くための知識や方法を提案している「TREND OF LIGHT」。最適な光の環境を公平な視点で考えるトークイベント「光論会」のプロデュースや、獨協医科大学協力のもと「光とカラダ」をテーマにしたプロジェクトなどを展開しています。
建築家やインテリアコーディネーターといったプロ、セミプロが参加する、このようなイベントだけでなく、レストランや美術展、ウェディングといった業界の垣根を超えたところでのコラボレーションも積極的に行い、それぞれの目的にあった適切な光の提案を通して、より上質な光に満ちた「豊かな暮らし」を実現することを目指しています。
主宰者である湯田剛史さんは、長年、海外の照明メーカーなどと付き合ってきた中で、海外(特に北欧やヨーロッパ)と日本の光に対する考え方、文化の差を感じたそうです。
例えば北欧で鬱病の人や自殺者が多いのは、日照時間が少ないからだと聞いたことがあるかもしれません。それだけ光と健康が密接に関係しているということです。そこで北欧の照明メーカーは何をしたかというと、小さな光で効果的に明るさを得るためのアイディアを商品に反映させていくんです。生きていく術として照明がデザインされ、そして購入されていくんですね。
しかし、日本は健康のために光を買うという考え方は、残念ながら根付いていません。水や空気に対しては健康に気を使って、ミネラルウォーターや空気清浄機を買いますが、光に関しては「今流行りのLEDにすれば良し」という話になってしまうんです。そして売る側も、「部屋の大きさに応じて何ルクスの光が必要」という数字を話せる人はいても、その人に合った光の提案をしっかりできる人というのはいないんです
そして今の日本における白色LEDの過剰な宣伝にも疑問を投げかけます。
家電量販店に行くと、どこも白色LEDを大々的に推していて、これからはどこもLEDに差し替えていくという流れがあるんですが、これもとても危険だと思っています。その人に合った光を選んでいくためにも、選択肢はあったほうがいいんです。
LEDは見た目の光の色こそ、普通の白熱電球などと変わらなくなってきましたが、分光分布図を見てみると、青色の波長が異常に多い。これは片頭痛の発作を誘引する可能性が高いということも医学的に数字として出ていますし、正しい色が正しく発色されないという懸念もあるんです。こういった情報が消費者に行き届いていないことも問題だと思っています。
LEDが世界の主流になる流れは正しいと思いますが、環境面でも優れていて、非常に可能性のある光源だからこそ、より本質の部分での議論と開発が重要なのだと考えています。
光を感じる感覚は、人によってさまざま。周りの人は平気なのに、目の色素が薄いがゆえに、自分だけすごく眩しく感じてしまうなんて経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、日照時間の少なさが鬱病を広めてしまっている原因のひとつにもなっているように、光は人のホルモンバランスに影響を与えたり、不眠症や片頭痛の症状を引き起こす原因になったりします。こう考えてみると、いかに光が私たちの生活の質を左右するのかということを実感することができます。
では、自分にとって心地よい光をどのように探していけばいいのでしょうか。それには「調光をしてみること」、そして「照明器具の固定概念を外してみること」が気づきにつながると湯田さんは言います。
調光というと、光の強弱をつけるイメージがあるかもしれませんが、消すことも大いに調光になるんです。例えば、リビングには天井付きの照明と置き型の照明があって、ダイニングにも上からぶら下がる照明がついていたりしますよね。食事のときはすべてつけたとしても、食後の寛ぎ時間、そして寝る前と、ひとつずつ引き算していくだけで、調光になるんです。そしてそれは、結果的に節電にもつながります。
日本の住宅は大きな照明が1個ついているケースが多いですが、これだとONかOFFかという話になってしまいます。理想的なのは、照明を分散させること。すると照明の引き算の選択肢が広がり、その日の気分で調整していくことができますから。寝る時間に向けて、ひとつずつ光のトーンを落としていくと、とても眠りやすくなりますよ。
また、身近にある照明を、普段と違った使い方をしてみるという、照明器具の固定概念を外すことも心地よい光探しの第一歩になると言います。
例えば、書斎や勉強机に置いてあるデスクスタンド。普通は、手元を照らすために使うって考えると思います。でもそれを壁に当ててみてもらえば間接照明になるんですよね。
さらにもっと具体的に考えたい人には、延長コードにクリップライトをつけて、真っ暗な部屋の中を歩きまわり心地良い光を探すのもおすすめだそう。観葉植物の裏から光を当てれば緑が美しく見えるし、ソファの下に置いてみれば、おしゃれな雰囲気に。壁に当てれば空間に奥行きが出ます。こうして楽しみながら光と向き合っていくことで、より身近に感じていくことができるのです。
少しずつ自分の身の周りから光に向き合っていくと、いかに明るすぎる環境にいるのかということに気づくことができると思います。こうして「必要な光」に気づいていくことも大切だと、湯田さんは話します。
谷崎潤一郎さんが80年前に書かれた『陰影礼賛』という本があるんですけど、その中で日本の家屋は明るすぎだと書いてあるんです。豊かになりすぎて、日本の情緒が失われていっていると。でも本来、日本人は光に対してとても繊細な感覚を持っているんですよね。
昔の日本建築は雨風を避けるために軒が長く作られていますが、そんな状態でも光を効率的に取り入れるために、庭に池や白い砂利を敷きつめたり、縁側に漆や箔をあしらうことで反射させ、光を部屋の奥に奥にと取り込んでいたんです。さらに障子があることで、やわらかく拡散されていく。だから、日本人は光に対して繊細なはずなんです。必要な光に気づくことができれば、節電はあっという間にできると思うんですよ。それを「TREND OF LIGHT」の活動を通して伝えていきたいですね。
とても身近でありながら、ないがしろにされがちだった光に対する認識。今日からさっそく「心地よい光さがし」をしてみてはいかがでしょうか。