"富士山ブーム"と言われて久しい今日この頃。年間登山者数は2005年から6年間で約12万人増加し、2010年には過去最高の約32万1千人を記録(平成22年環境省登山者数調査より)。"山ガール"人気と相まって、富士山は、名実ともにブームのまっただ中にあると言えるでしょう。
そんな中、丸の内朝大学にも夏学期より「富士山雑学登山クラス」が開講しました。そのブームの訳はいったいどんなところにあるのでしょうか?
今回は、「富士山雑学登山クラス」の初回授業にお邪魔し、その講義を体験。さらには、講師を務めるおふたりに、ブームと言われる現状について、そして、富士山の魅力についてお話を聞きました。これから登山を考えているみなさんに役立つ情報も、たくさん教えていただきましたよ。
まずは、「富士山雑学登山クラス」初回授業の様子をレポートでお届けします。
梅雨の晴れ間が広がったこの日、講義開始の朝7時15分には、会場の楠公レストハウスは満席に。本格的な夏の訪れを予感させる朝日が差し込む中、講義がスタートしました。
この日の講師は、日本百名山協会事務局長で、このクラスの発案者でもある加藤洋氏と、富士山で登山ガイドを務める林智加子氏。
まずは加藤氏による講義全体についてのオリエンテーションからスタート。全8回の講義の中で、前半は、登山の心得や富士山の歴史、四季の変化などについての座学を。後半は富士古道登山を経て、最後は1泊2日のフィールドワークで富士山頂を目指します。「学ぶ・知る・登る」をトータルで体験し、富士山のオイシイところを味わえる、充実した内容になっています。
続いて本日のテーマ「富士登山の心得・登山用具」のお話へ。前日まで富士山頂にいた(!)という林氏により、山小屋の過ごし方、高山病の対策、装備品などについて、実体験を交えた講義が展開されました。登山において最も重要なのは、しっかりとした装備品。日本一高い富士山の寒さや荒天に対応するためには、しっかりとした装備が欠かせません。林氏は、自らの雨具やファーストレイヤー(インナー)、登山靴等を持参して、その性能や選び方のポイントを解説。受講生のみなさんは、配布された「富士山登山ガイドマップ」を片手に必死にメモを取り、登山に向けて気持ちを引き締めている様子でした。
最後に林氏からは、「良い装備で安全・快適に登りましょう!」「そして、トレーニングも忘れずに...」という2つのメッセージが伝えられました。トレーニングとしては、街でも気軽に取り組める「階段の上り下り」を提案。2ヶ月後の登山に向けてみなさんの期待感が高まる中、講義は終了となりました。
講義終了後も受講生のみなさんに囲まれ、装備や携行品に関する質問に答えていた林氏。「初心者が多かったですね。みなさん興味はあって、きっかけを求めて来ているんですよね」と、熱い想いを実感した様子。
加藤氏も、「ある程度は予想していましたが、登山経験のある人はほとんどいないのに驚きました。これがきっかけで"始めたい"と思う人がこれだけいるというのも、面白いですよね」と、このクラスの意義と人気のほどを改めて感じたようです。
林氏に、まずは"富士山ブーム"について聞きました。
「実はあまりにも人が多くて、最近は頂上でのご来光を目指す時間帯には"渋滞"が発生しているほどです。そんなときはガイド同士で連絡を取り合って解消に努めますが、多いときは1日の入山者が1万人に達することもあります」
登山道で渋滞が起こっているなんて、驚きです。やはりそうなると、事故などが増えていることも考えられますが、実際はどうなのでしょうか。
「いえ、実は事故は増えていません。その原因は、事故に関する報道が多くなってきたこともありますが、山ガールファッションの影響も大きいです。あのファッションは、見た目もかわいいですが、機能的にも、とてもいい物なんです。山ガールファッションの方は、あとは寒さ対策さえあれば、装備的には何も心配していません」
と、林氏からは意外なコメントが。ファッションが先に立つブームにはネガティブなイメージを持ってしまいますが、事故を防ぐ効果をもたらしているなんて、うれしい発見でした。
「ただ、富士山はイメージとのギャップが大きい山。やはり、日本一なので、登山はとてもハードなんです。旅行会社からは、夜行日帰りのツアーも出ていますが、体力的には心配です。ツアー会社の事前案内などをしっかり読んで、準備は万全にしていただきたいですね」
やはり富士山登山には、しっかりとした事前の準備が欠かせません。そのためにも、今日の講義のような時間が、大きな意味を持ってくると感じます。
ここで話は富士山の歴史に。昔から富士山は信仰の対象で、江戸時代には"富士講"を結成して組織的に富士山参詣を行っていました。でも、当時は現在のように5合目から登ることはできなかったはず。いったい、どのように登っていたのでしょうか。
「江戸から3〜4日かけて富士吉田の街に辿り着いきます。そこで富士講を支えたのが、"御師"(おし)です。富士吉田には、最盛期には64もの御師の家があって、富士講の宿泊のお世話をしていました。そこで1泊してから、浅間神社に寄って登り始めていたようです。江戸時代には既に山小屋もあったそうですよ」
と、林さん。地元の人々の支えで富士登山は成り立っていたんですね。一方で、女性は登れなかったという驚きの話も。
「江戸時代、女性は2合目までしか登れませんでした。その理由には2つの説があって、ひとつは富士山の神様が女性なのでヤキモチをやくということ。もうひとつは、山は男性が修行する場所なので女性が入ると気が散る、という説です。昔の女性は、それでもこっそりすり抜けて登り、富士山を拝んでいたそうですよ」
昔から人々の信仰の対象・霊山である富士山。おふたりにお話を聞いていると、富士山の昔話や逸話は全く尽きる様子はありません。朝大学の講義では、こんな話もたくさん聞くことができそうです。
「僕はどんな旅に行くときも事前にいろいろと調べていきますが、そのことで旅が何倍も楽しくなります。地名の由来もそうですし、"歴史上の人物がここを通った"と思うだけでもワクワクしますよね。そういう意味でも、2回目以降は富士山を学べる講座にしていこうと思っています」
旅を楽しくするために「知る」講義。来週以降もとても楽しみです。
最後におふたりに、改めて富士山の「魅力」について聞いてみました。
林「富士山は、他の山とはカテゴリーが違うような気がするんです。富士山を知らない人はいないし、初心者の方にも"一生に一度は登りたい"という気持ちがあって。そんな風に人を惹き付けるのは、富士山だけですよね。昔から富士山は信仰の対象だったのですが、それは、山が身近で、山と共に生きて、山に感謝してきた"日本人の血"なんだろうな、と。だから今の富士山ブームも、本来の日本人の心に戻ってきたのではないかな、とも思います」
加藤「新幹線に何度乗っていても富士山の前では思わず見てしまうように、本当に富士山を嫌いな人はいないですよね。そういう光景を見ていると、形だけじゃないんじゃないかな、と思います。霊山としての側面もありますし、やっぱり日本人の中心的役割なのかもしれないな、と感じています」
計り知れない富士山の魅力。そこには、私たち日本人を惹き付けて止まない、「何か」があるようです。その「何か」を確かめるために、私たちは富士山に登るのかもしれませんね。