地下鉄宝町駅を上がると真新しいビルディングが視界に飛び込む。特徴的な外壁とエントランスのアルミキャスト・ストラクチャーが目を惹く、清水建設(株)の新本社。【環境コミュニケーションの現場】第22回は、竣工以来2ヵ月足らずで約200の会社・団体から約2,000人の見学者が訪れたという、最先端技術による"超環境オフィス"について、同社設計本部設備設計2部設計長の髙橋満博さんと、広報部報道グループ長の今村秀夫さんにお話しをうかがいました。
清水建設
髙橋: CASBEEの格付けは「S(素晴らしい)」ランクから「A(大変良い)」「B+(良い)」「B−(やや劣る)」「C(劣る)」まで5段階ですが、3.0以上がSランクと格付けされるわけです。ですから、CABEE 9.7という数字は超Sランク。一般のオフィスビルでは、「凄いな」というのでも、だいたい4点台ですから、「そんな数字が出るんですか!」と驚かれます。
髙橋: オフィスで電力消費量が大きいのは、空調、照明、OA機器です。
まず空調については、一般的な空調は天井などの送風口から冷・温風を吹き出し室内温度をコントロールしますが、新本社では温度と湿度、気流の3つの要素を個別に制御して、快適性を保ちながら省エネを実現しています。温度は輻射空調でコントロールしています。輻射空調は天井材である金属パネルに冷水を流し天井面を冷やすことにより、輻射効果で空調する方式です。湿度に関してはデシカントという除湿剤を用いて、外気や室内の余分な水分を取り除くことで、少ないエネルギーで除湿を行っています。気流については各個人の足もとにパーソナル吹き出し口があり、それを開閉して風量を調整する仕組みになっています。
照明についてはタスク&アンビエント照明を採用しています。通常、オフィスでは天井の照明はデスク上で700ルクス程度の照度ですが、これを半分の350ルクスくらいに抑えています。足りない部分はタスクライトをつけて700ルクスをとるわけです。明るさセンサーが内蔵されていますので、350ルクスを超えるとアンビエント照明が自動的に絞られていきます。ですから、外光が入る窓側では日中、照明はほとんど消えている状態ですね。もちろん照明はすべてLEDで省エネと長寿命化を図っています。
髙橋: それについては、ビル管理系とOA系のネットワークを統合するIP統合技術を活用して、8月末から全従業員のパソコンに「PC節電制御」というシステムを導入しています。OA系の管理サーバーで個々のパソコンの使用状況をモニターしています。一定時間、使っていないとまずモニターをOFFし、さらに時間が経過すればPC本体を待機状態にします。スクリーンセイバーはあまり省エネにならないのですが、待機状態にすれば約9割の節電になると言われています。自動制御によって省エネ効果を高めていくシステムです。このIP統合には、たとえば夏に電力需給が逼迫した場合、OA系のサーバーに指令を送ってPCの待機状態までの移行時間をさらに早めるような、デマンド制御技術も入っています。また一人ひとりの節電意識を高めるため、各個人のPCには前日のPC利用状況や消費電力、CO2排出量が表示される仕組みとなっています。
髙橋: 外装のPC板はアルミキャストを型枠としてコンクリートを打ち込んでいるわけですが、断熱材を入れて外断熱構造になっています。また掘りの深い形式にし、水平と垂直の庇効果により日射を遮蔽します。これらにより外壁の熱負荷を大幅に削減します。それから、太陽光パネル、Low-Eガラスと耐震パネルの3つの要素を取り込んで「ハイブリッド外装」としたのが特長です。太陽光パネルは建材一体型という、太陽電池が挟まっている合わせガラスを用いています。ガラスがそのまま太陽光パネルになっているもので、国内でもまだあまり採用されていない。超高層オフィスビルの太陽光パネルの取り付けの見本になるのではないでしょうか。屋上面積は限られますが、超高層ビルでは外壁の面積は大きいですから、それを活用するのが有効だと思います。
これらの先進技術によって、2012年のCO2排出量を62%削減* する予定です。今後もさらなる節電・省エネ化に取り組むことによって、2015年には70%削減を目指しています。そこにCO2の排出権を割り当てることによって、ゼロ・カーボンを達成することしようという計画です。
* 2005年東京都内事務所ビル平均比
髙橋: 新本社はRC免震構造で、100mを超える高層オフィスビルでは初めてのものです。構造体と外壁の役割を担うPC外周フレームと中心部のコアウォールによって外と内からしっかり支えています。さらに42台の免震装置を設置するとともに、長周期地震動に対応するオイルダンパー、床振動を抑える回転慣性ダンパーによって耐震安全性を高めています。
RC免震構造は耐震性だけでなく、柱のない"コラムレスオフィス"を実現することにもひと役買っています。通常は太い柱をグリッド状に配置しなければならないのですが、コアウォールと外周フレームだけですから、窓まわりも含め室内の柱が一切不要となり、スッキリとした広いスペースを確保することができるわけです。このメリットを活かして、オフィスレイアウトはフレキシビリティのあるプランニングが可能になっています。
髙橋: 当社では、「ecoBCP」というコンセプトをお客様に提案しているわけですが、新本社はこの「ecoBCP」の最初のモデルです。平常時には快適で環境に配慮した節電・省エネを確実に行い、ひとたび災害等が発生したときには堅牢な施設とエネルギーの自立性を確保するシステムによって安全・安心を提供します。
BCPのためとは言え、一般的に非常時対策用の施設・設備はほとんど使われることがないため、費用対効果を実感しにくい。ですから、エコと組み合わることで毎日、効果を生み出すことを提案しているわけです。たとえば、マイクログリッドは太陽光パネルの発電と蓄電池を組み合わせたシステムですが、これによって電源が完全に停止されても瞬時に自立運転に移行することができるんですね。日常の節電・省エネとBCP的な働きが両方できますので、お客様も投資しやすくなって普及していくのではないかと思います。
髙橋: おかげさまで多くの方が見学にみえています。いまは専門のチームを組んで1日3回、ご案内していますが、それでもこなしきれないため、営業や設計部門のスタッフも対応している状態です。企業をはじめ行政の方や大学の先生、それから設計事務所さんや同業者まで、いろいろなお客様に見ていただいています。
髙橋: 省エネやCO2削減効果に感心されるとともに、環境技術を体感されて輻射空調やアンビエント&タスク照明などの快適性・効率性をご評価いただいています。設計事務所や同業のプロの方からは「建築と設備がよくまとまっている」とのお声をいただいています。建築と設備がどこかで喧嘩して微妙なデザインになったりすることが少なくないのですが、「どうやって調整したの?」と聞かれますね。
髙橋: ゼネコンらしさを見せたいという意図があって、ものづくりの過程をできるだけデザインとして表現する工夫をしています。低層部のコアウォールはコンクリートに木目を写した「本ざね型枠コンクリート」で仕上げています。2Fへのエスカレーターの側面はアルミを溶かして風で模様をつけた「流体アルミパネル」です。きれいに成形する前の模様をデザインにする、色や大きさが不揃いな石を敷くとか、材料が持つ本来の姿を活かし、美しく表現することにチャレンジしています。
ゼネコンらしさを表現するためもう一つ意識したのが、デザインと機能の融合です。エントランスのX型のアルミキャストは単なるデザインでなく、1枚7.9m×2.1mの大きなガラスを支える構造体としての役目を果たしているわけです。ハイブリッド外装は太陽光パネル、Low-Eガラス、耐震パネルの3つの要素からなりますが、これらを組み合わせることによって外装のデザインができています。また輻射空調においても天井材が空調装置となっていますので、これは建築と設備の融合ですね。
これからは「建築は建築、設備は設備」という時代ではなくなるでしょう。弊社では"建備一体"と言っていますが、設計にしても施工にしても、建築・設備を一体のものとして推し進めて行くこととしています。
今村: 「ecoBCP」を実現する超環境型オフィスビルである新本社を建設関係者だけでなく、一般の方にも広く知っていただくために、最新の技術や取り組みなどをわかりやすく紹介するサイトです。写真やパースなど、いろいろな見せ方を検討したわけですが、CGを使ってビルの回転や透過、ズームイン・アウトなどを駆使して、新本社の特長を解説しています。サイト内のコンテンツは50にも及ぶのですが、幅広いユーザーに楽しんでいただくために、流れに沿って新本社を読み進める「ストーリーモード」と、興味ある記事を好きなように楽しめる「記事モード」を用意しています。
また、環境とともに地域貢献も新本社の大きな役割だと考えています。地域貢献としては、都営地下鉄浅草線・宝町駅の出入口新設、都営宝町駐車場のバリアフリー化、子育て支援施設の整備(2013年完成予定)などを実施しています。ですから、SPECIAL SITEでは地域とのつながりをはじめ、日本橋・銀座・八重洲周辺エリアの史跡等も紹介しています。
CGは約1年を費やして制作したものですが、PC環境や視覚障がい等によってCGムービーを見ることができない方のために、HTMLモード(読み上げソフトに対応)も用意していますので、ぜひ多くの方にサイトを楽しんでいただければと思います。
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