2012年度、5年目を迎えた地球大学アドバンス、今年度は「食」の問題に焦点を当て、丸の内「食の大学」として展開しています。第3回となる今回は「都市のグリーン化、TOKYOの菜園化」と題し、本社ビル内での稲作や菜園づくりを行なっているパソナの南部靖之社長と、 銀座ミツバチプロジェクト副理事長の田中淳夫氏をお招きして9月24日に開催しました。
今年度はこれまでのレクチャー形式に加えて、ワールドカフェの協力の下、参加者がワークショップを行う参加型の地球大学です。今回も「都市における食と農」をテーマに参加者も議論を交わしました。
先日、坂本龍一さんと対談するのにニューヨークを訪れました。ニューヨークでは都市緑化が進んでいて、周辺地域の人たちが野菜を作ったり花を植えたりというコミュニティに根ざした活動があります。HIGH LINEという貨物鉄道の跡地の高架を使ったり、セントラルパークのような大きい公園以外でも小さなコミュニティガーデンや箱庭が結構ありました。これを見て未来の丸の内を見ているような気がしました。丸の内だったらこれをもっともっと超えて行く事ができるはずです。
そのようなことも含めて、都市がグリーン化していくというのはいま不可避のトレンドになってきています。そのトップランナーに東京がなっていかなければならない。そのシナリオを考えていくためにも、今日は斬新な試みをされている二方においでいただきました。南部さんは日本の農業の未来を何年も前から考えて、新しい農業者を育てるということをやっておられる。そして、そのために本社に稲作を作ったり、グリーンビルディングを作っている。日本の食と農の未来についてどういうビジョンを持っているかうかがっていきたいと思います。
大手町のパソナ本社ビルは緑で覆われていて、春には10万本のバラが咲きます。こういうことをやろうと思った時に、まずこの辺りではなかなかベランダがあるビルもないし、窓を開けるというのがそもそも無理だと言われました。そこで考えたのが壁面を引っ込めるという方法。この方法だとオフィスの面積は減りますが、壁面緑化と違ってベランダに植木を置くことができ、窓を南側でも東側でも付けられるんです。窓が開くようにすると安全の問題から柵を付けなければいけないのですが、それを利用して蔦を這わせて上へ上へと伸びるようにしました。そうすることで夏場は太陽が遮られて木漏れ日が入り、冬になると葉っぱが落ちて陽の光が入ってくるようにできたんです。
建物の中は、1階に水田を作ったんですが、節電の影響で太陽光を再現したライトが使えなくなって今は水槽になっています。でも、それだけでなく受付の天井にはかぼちゃ、応接間の天井にはトマト、通路の真ん中にも畑、会議室の椅子の下で種を育てる、使わない場所は植物工場にして、社員食堂の野菜は100%自給しています。
このようなことを初めたのは2005年。ビルの地下2階に地下農園を作ってニートやフリーターが農業を学べるようにしよう企画でした。米やいちごトマトなどを作って朝顔が夜に咲いたりひまわりが冬に咲くというような実験もしました。ただ稲作は2回失敗して、失敗の原因を大学の先生に聞くとクリアするのに3000万だか4000万だかかかると言われました。でも、森田さんという京都の農業従事者の方に相談すると、問題は3つあって1つ目は風、2つ目は間隔、3つ目は雨だと。要は酸素が足りないということのようで、それを解決したら見事に実ったんです。
今年は大阪の御堂筋にパソナグループビルが完成しました。これも築40年か50年のビルをリニューアルしたもので、ビルに棚田を作って屋上から雨が入ってくるようにデザインしたんですが、これは緑化美的協会の審査に引っかかってできなかったけれど、最上階の天井は開けてあるのでこれからいろいろやっていこうと思ってます。あとは淡路島で廃校を使って緑とアートのレストランを作ったり、社員がのびのびと緑と共生できるような環境を作って行きたいと思っています。
竹村: 南部さんはこれまでの都市デザインの常識からすると過激なことをやっていますが、これからこの過激な方法をどう丸の内に内在化できるかを考えて行かなければならないと思っています。
南部: この新丸ビルの14階にもパソナのオフィスがあって、本当はそこでヤギを飼おうと思って、ヤギの周りで人が働けるようにオフィス全体を丸くしたんですが、ヤギは飼えなくて、今は丸の真ん中にぼくのオフィスがあってみんなから見えるようになっています。でもこれは社員との交流という意味では良くて、大阪ではエレベーターの中にオフィスをつくろうかと思って。そうすれば呼び出したり会いに行ったりしなくても会いたい人に会えるわけですから。
竹村: お話を聞けば南部さんがいかに破格な方かということがわかると思いますが、今日来ていただいたのは、南部さんのようにこれまでの常識を外してゼロから考えていくことが今必要なんだということのその実例としてなわけです。南部さんの発想に触れていただいて、前提を外してゼロから東京を考えたらどうなるか。
丸の内だって、400年前は海だったわけで、その250年後に三菱がビジネス街を作り、それが育ってきたのが今。実は最初からこういう東京があったのではなくて、実はゼロから作り上げてきた都市。だからこれまでの常識が通用しなくなったときに今この場所をどう作っていくかを考えるには南部さんくらい破格な発想でやらないと1000年続くサステナブルなまちなんてできないと思うわけです。
もう一つ重要なのは他者性というか異質性があることで、多様な要素が共存する環境を作ろうとされていること。実は人間にコントロール出来ない他者性があるというのが人材開発には必要なんじゃないかというヒントがそこにあると思うんです。
田中: 食に関する勉強会をしていた時に養蜂家との出会いがあり、2006年に安易な考えではじめました。でも、蜜が欲しいんであれば一緒にとりましょうということで、シェフやママさんに仲間になってもらい、2010年には900キログラムを収穫しました。三笠会館でカクテルにしたり、松屋銀座でスイーツにしたり、酵母から地ビールを作ったり蜜蝋は銀座教会で使ったりしています。ミツバチの行動範囲は3キロ四方と言われていて、その範囲にはトチノキだとかれんげ、サクラ、マロニエなどいろいろな木がありますが、ミツバチは少量の農薬でも死んでしまう環境指標生物なので、このあたりの環境を知るのにも役だっていて、中央区の幼稚園小中学校でも出張授業をやったりしています。
それから、ミツバチのために花を植える「銀座ビーガーデン」という活動をはじめて、そこで花だけでなくて野菜も植えようということで、いま松屋の屋上など10箇所1000平米を超えるガーデンができています。そして、そこで育てる苗を各地から頂くことで地域との交流も盛んになりました。そのつながりから震災後に福島のバーにママさんたちと行ったり、いろいろなところから人に来てもらって農産物なんかを紹介してもらったりしています。
このように都市が環境と共生して、それを農業や教育や福祉とつなげることで都市のさまざまな問題を解決できればと思って活動を続けています。
竹村: 田中さんの話には普遍化すべきさまざまなことが含まれていると思います。「銀座ビーガーデン」はいわゆる「エディブルガーデン」と言われるもの。グリーンというのは環境に大切だけれど、あくまで風景で風景は風景としてみてしまう。しかし、食べられるということことは身近になるということで、自分の環境を等身大化する時に「食べられる」という要素があるというのが実は大切になってくるわけです。
それから、都市環境を生物にとって住みよい環境に変え、都市こそが生物のサンクチュアリ/避難所にしていくということは、農薬などによって田舎が生物にとって住みにくくなりつつある中で重要なことなんじゃないか。実は都市農業というのが地球の環境を考えるためにこれからますます大切になっていくんじゃないかという気がしてきます。
そして、お話を聞いて思ったのは人間関係も受粉するとういこと。ミツバチの世話をしたり田植えをしたりすることで違う業種の人の間に交流が生まれてきたわけで、コミュニティマネジメントとかソーシャルキャピタルを作るのも、実は他の生物が介在してくれることで促進されるんじゃないでしょうか。都市の生物多様性というのが実は人間のためにこそ重要なんじゃないかということを感じました。
今年度はワールドカフェ形式にワークショップを行い、参加者の理解をより深める試みを行なっています。今回も参加者が5人くらいの組に分かれ、まず「都市における食と農の話を聞いて何を感じましたか」という話題で、次にグループのメンバーを変えて「これからの都市をどう創っていきますか。」という話題で約20分ずつ話し合いを行い、最後に各グループがそれを短いキャッチフレーズにまとめて発表しました。
今回も「屋上は夢の楽園いろんな連鎖が生まれるところ」「街中グリーンカーテン」「ハチミツ都市」「それぞれ考える」「都市に水系を拓く」など個性豊かなキャッチフレーズが発表されました。どの意見も「自分たちで創っていく」という思いが強く感じられ、人ごとではなく自分ごととして都市の問題を捉えられているのだと感じられました。
発表を受けて田中氏は「みなさんがやりたいことをどう表現するかが楽しみ。私もみなさんに負けないように頑張りたいです。手作りを極めていくと素材に行き着く、それがわれわれの社会を強くする何かになるんじゃないかと今は思います」と発言。竹村氏も「多様な存在が出会う時、人間以外の要素が含まれることを忘れてはいけない。都市のアクターとして他の生物をどれだけ見込んでいるかが大事になる」と発言しました。
そして最後に竹村氏が「地球の風景は生物が創造して作ってきたものだが、今人類が地球を作り変えつつあります。なかでも都市が地球の未来を変えて行こうとしている今、地球の器官として機能する都市をわれわれが作れるか。都市デザインが地球を左右するこの時代には、都市のグリーン化をもう少しブロードバンドに捉えて考えていく必要があるのではないでしょうか」と締めくくりました。