イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】廃棄物が電力になる。超小集電(MPC)が描く自立分散型エネルギーの未来

OFF-GRID DESIGN OPEN SUMMIT 2026(Session I) 2026年3月26日(木)開催

様々な自然物を媒体としてイオン反応により発生する小さな電気を集める、「超小集電(Micropower Collection:MPC)」。この超小集電技術を活かし新たなサービス、新たな産業や価値創造等に取り組む一般社団法人オフグリッド・デザインコンソーシアム(OGD)に一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(以下、「エコッツェリア協会」)は共感し、2025年12月から3×3Lab Futureにおいて超小集電技術の作品を展示、啓発活動の協力を行ってきました。
そして2026年3月26日、オフグリッド・デザインコンソーシアムの年次報告会「OFF-GRID DESIGN OPEN SUMMIT 2026 」が開催されました。
当日は、OGD代表理事でトライポッド・デザイン株式会社CEOの中川聰氏をはじめ、コンソーシアムの運営をサポートするKPMGコンサルティング株式会社執行役員 パートナーの麻生多恵氏や企業連携先の代表者が登壇し、3×3Lab Futureにおいて展示されたものを含め、2025年度に実施したコンソーシアムの普及と啓発に関わる活動成果を総括し、実施内容をご報告するとともに、関連する製品技術の展示を実施しました。この一年間で具体化した風力発電の廃棄ブレード・廃竹・牡蠣殻を活用して集電するプロジェクトの成果が報告されました。

 ogd260326image_2.jpg 一般社団法人オフグリッド・デザインコンソーシアム 代表理事の中川聰氏

続きを読む
超小集電は仕組みの発明。ドラえもんの世界が現実になる

超小集電は仕組みの発明。ドラえもんの世界が現実になる

OGDが普及を進める「超小集電」は、様々な自然物や廃棄物から微弱な電力を取り出す技術です。性質の異なる二つの電極を電解質に浸して接続し、材料間の電位差から電気を集めます。電解質とは電力を生む反応を起こす素材のことで、竹炭、牡蠣殻、廃棄ブレードの粉砕物など、ものが自然に還る過程で微細なイオンを帯びる素材がその役割を果たします。太陽光や風力と異なり天候や時間帯に左右されず、比較的安全性の高い直流電源である点も特徴です。一つの製品を生み出すことではなく、廃棄物や地域資源を電力の原料として活用できる「仕組み」を提供する点にこそ、超小集電の本質があります。

 ogd260326image_3.JPG会場に展示された超小集電(MPC)のセル。さまざまな未利用資源が電解質となり、電力が生み出されます。

麻生氏がこの技術に初めて触れたのは約1年前のこと。「ドラえもんの世界のような未来の技術を見たという感覚でした。それからたった1年で、今日この場で活動成果をご報告できる場を開くことができています。このスピード感に驚いています」と麻生氏は語りました。

インターネットプロトコルやGPSも、開発された当初、その社会的価値を理解した人は少なく、通信会社やメーカーなど多様な産業と結びつくことで初めて、社会に不可欠な基盤となりました。麻生氏は超小集電をそれと同じ文脈で捉えて、「超小集電も一つの製品を生み出すということではなく、インターネットと同じように仕組みを創り出したという状況です。皆さんの産業やビジネスと合体させ、発展的なかたちで展開していくものです」と会場に呼びかけました。

ogd260326image_4.jpg KPMGコンサルティング株式会社 麻生多恵氏

中川氏は、デザイナーとして製品開発前に行うユーザー調査で「使いにくい」という声が届いたと、自身の経験を振り返りました。その背景には、右利きで男性の平均的な体格の人をスタンダードとして設計するという業界の常識がありました。そうしたスタンダード設計への疑問からユニバーサルデザインに取り組み始め、銀座の街頭で通行人に靴のアンケートを行うなど、ユーザーの声に耳を傾ける経験を重ねました。「私たちが持っている技術の種(シーズ)と、社会の側にもニーズがあって、それがうまくマッチすると一つのシンフォニーというか、共創が生まれるんです」という考え方は、そうした経験から培われたものだと語りました。

実用化フェーズへの移行について、麻生氏は現状をこう分析します。「未来のドラえもんの世界を語る段階では、誰も課題を気にしません。しかし実用化となれば、大量生産や素材の壁が具体化してきます。それを一つ一つ解決してきた結果が、今の姿なのです」。単なる夢物語から現実のビジネスへと移行しつつある現状を提示した上で、麻生氏は「誰かが価値を生み出すのを待つのか、自ら一緒に生み出す側に立つのか。それは皆さんの経営判断です」と問いかけ、企業に当事者としての参画を促しました。

標準規格の100W・12Vを達成。茨城の実証から見えた課題と手応え

2025年度の成果として報告された「100Wチャレンジ」は、茨城県の空庵・琉庵(KU-AN・LU-AN)で実施した実証実験です。多数のセルを用いて自然環境下での100W発電に試みるこの実験の成果について語りました。

ogd260326image_5.jpg

実験当日はKPMGコンサルティングのメンバーも現地に入り、作業に加わりました。麻生氏はこの実験の結果について、「100W・12Vというのは、既存の電化製品がそのまま動く標準規格のラインです。超小集電に既製の製品を挿せば動くということで、社会実装が現実のものに近づいた証左だと思います」と評しました。

この一年で技術面も大きく前進しました。その一つが「チャージマネジメントシステム」です。これは、超小集電の極めて弱い電流を市販のポータブル電源に引き込むための専用充電制御装置です 。市販の電源は超小集電の微弱な電流に反応せず充電をストップしてしまうため、少しずつ引き込む専用の制御装置の開発が必要でした。充電装置の1cm角への小型化も目標に設定されています。
もう一つは「パワーブロックシステム」です。これは10個の電源に10Wずつためて100Wを作る仕組みで、電源ユニットをレゴブロックのように連結しながら電力を循環させます。
一方、高温環境下でリチウムイオンキャパシタが危険な状態になった事例や、コンクリート埋設での浸水問題から、超小集電に適した安全な蓄電池の開発と完全防水設計の必須化が次の課題として共有されました。

風力発電の廃ブレードをデザインの力で地域資源へ

風力発電の廃棄ブレードを再活用するプロジェクト「PROJECT réveil(プロジェクト・レベイユ)」の報告に、前田建設工業株式会社の井上卓氏が登壇しました。「réveil」はフランス語で「目覚め・再生」を意味します。

ogd260326image_6.jpg PROJECT reveilについて語る前田建設工業株式会社の井上卓氏(中央)

プロジェクトの背景には、風力発電設備の更新(リプレース)の本格化があります。日本では今後、年間150〜200機分の廃棄ブレードの発生が予測されています。ブレードはGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合素材で構成されており、現状は管理型処分場に埋めるしか選択肢がありません。世界全体では4300万トンが放置されているとも言われます。
参照: MIT Technology Review「使用済み風力タービンの羽根がゴミの山に? 再生可能にする新手法」

「そもそもはリサイクルという観点だけで始まった相談でした。ブレードを外側の筐体として使い、中に電解質を詰め込んで電池の器にできないか、というアイデアを中川先生にご相談しました」と井上氏は語りました。粉塵が周辺の農地に飛ばないよう空調設備を備えた専用の小屋で防護服を着用した上で粉砕作業を行い、廃棄ブレードの粉砕物を電解質に用いた「照明付きアートベンチ"réveil"」が完成しました。

ogd260326image_7.png 廃棄ブレードを活用したベンチ型の超小集電プロダクト(写真提供:一般社団法人オフグリッド・デザインコンソーシアム)

「もともとリサイクルという観点だけだったものが、デザインの力をセンターに置くことでプロダクトの見え方が大きく変わりました。新たに分散自立型電源の観点、さらに地域貢献という観点も加わり、当初のリサイクルの観点と合わせて新たに三つの付加価値を生み出すものになりました」と井上氏は振り返りました。中川氏は「多様な産業副産物との連携を歓迎する」と言い、マイクロパウダー化・活性炭化技術を持つ企業との連携を呼びかけました。

放置竹林400ヘクタールを、新たな電力資源へ

京都の放置竹林をテーマとした照明制作プロジェクト「照竹燈(しょうちくとう)」の報告に、NPO法人 京都発・竹・流域環境ネット(通称「竹ネット」)の大島大輔氏が登壇しました。

 ogd260326image_8.png 放置竹林の竹を利活用した照明「照竹燈(しょうちくとう)」

洛西地域は、京都市域の竹林600ヘクタール以上のうち400ヘクタール強が集中する竹の産地です。竹ネットは20年近くにわたって年間2万本以上の竹の間伐を続けてきましたが、間伐材の約6割は竹集成材などに活用できる一方、枝葉など残り4割は利活用の手段がなく、長年の課題でした。加えて近年は害虫による若葉の食害が深刻化しており、放置すれば観光資源にも影響が及ぶ状況です。

解決の糸口となったのが、竹炭と、本事業で連携している地元の株式会社林造園建設工業の剪定残渣コンポスト(有機物を発酵させた堆肥状の素材)を電解質として組み合わせる方法で、間伐で出た竹の枝葉など、これまで利活用できなかった廃棄物が電解質の原料になりました。「竹炭と剪定残渣のコンポストという二つの素材がこの技術とマッチしたことで、竹を100%産業利活用できる道筋が開いたと感じています」と大島氏は話しました。完成したのは、間伐した竹を筐体に、竹炭と竹コンポストを電解質に用いた照明器具「照竹燈」です。

ogd260326image_9.jpg NPO法人 京都発・竹・流域環境ネットの大島大輔氏

電解質としての有効性について、中川氏は半導体のアナロジーで説明しました。半導体は純粋な物質よりも、微量の不純物を意図的に加えることで電気を通しやすくなります。コンポストに含まれる有機物も同様で、電解質の反応を助ける役割を果たします。「竹はほぼ完璧な素材です」と中川氏は語りました。

大島氏は今後の展望として、デジタルセンサーを使って竹林の生態系をリアルタイムで観察・管理する運用と、竹のイメージ転換による観光資源化を挙げました。「竹の明かりで写経ができるようなイベントを今年中に京都でやりたい」と中川氏は続けました。

ろうそくの明かりを越える提灯を。盛岡から女川へつなぐ思い

東日本大震災から15年。中川氏は、震災直後に立ち上げた「hug Japan(ハグ・ジャパン)」による支援活動を通じて、被災地の子どもたちの絵や詩の展覧会、参加型ワークショップなどを国内外で開催してきました。今年度は、結果としてそうした活動の延長線上にも位置づけられる取り組みとして、盛岡での実証と、女川での実証計画という2つのプロジェクトが報告されました。

岩手県盛岡市では、牛乳パックやお茶のパックで作られた灯籠を並べる鎮魂イベント「祈りの灯火」が15年間続いています。今年は1万2000個の灯籠が集まり、そのうち100個を超小集電技術で点灯しました。東京海上ホールディングス株式会社の鍋嶋美佳氏のチームも現地に赴き地元のコンポストを電解質として灯籠に詰め、電極を挿して明かりを灯しました。「災害が発生して不安な中、さらに停電すると暗闇の中で不安な気持ちが増幅します。そんな時にオフグリッドの灯りが灯ることは、安心感、そして復興への希望につながると思います」と鍋嶋氏は語りました。

ogd260326image_10.jpg 東京海上ホールディングス株式会社の鍋嶋美佳氏

一方で中川氏が現場でぶつかったのは、ろうそくの明かりの強さでした。「ろうそくの明かりは強く、LEDの散光しない光ではあの暖かさに勝てない。でもろうそくを超えないと意味がない。鍋嶋さんと盛岡でろうそくに勝てる提灯を作りたい」。こうした盛岡での経験を受け、現在、中川氏は全方向へ光を放つフィラメント型LEDへの転換と、透明な樹脂への封入による光の拡散という技術的改良に取り組んでいます。

盛岡での経験を踏まえた次の実証の場が宮城県女川町です。会場では本サミットの2日後、3月28日に女川町常設の避難誘導灯設置イベントが予定されていると紹介がありました。今回、地元の稲井石の台座とフィラメント型LED封入筒で制作する誘導灯の電解質には、女川の特産品である牡蠣の殻を使うと説明がありました。盛岡のコンポストと同じく、その土地で出る廃棄物が電力の原料となる地産地消のモデルです。こうしたモデルについて中川氏は自身の思いを「牡蠣から電気ができて、その電気が避難の道を照らす。子どもたちが誇りに思えるものにしたい。普段は美しい明かりとして街を彩り、いざとなった時に消えないインフラを目指しています」と語りました。

現在、女川町には「女川は流されたんじゃない」という詩が標語として掲示されています。かつてハグ・ジャパンの活動で出会った子どもが書いたものです。その子どもは現在、女川町役場で働き、活躍しています。支援で出会った子どもが地域の防災を担う立場となり、今その街に灯りが消えないインフラを整備しようとしているのが、今回の女川プロジェクトです。中川氏はこれを「NO BLACKOUT(ノーブラックアウト)-暗がりのない街)」運動の起点と位置づけ、女川を皮切りに輪島、熊本など各地への展開を構想しています。

「技」は社会の財産。共創でインフラを創る

麻生氏は報告会全体を総括し、超小集電が多様な産業と結びつく「基盤」であることを改めて強調しました 。「今日紹介された各プロジェクトを、単に照明という製品が生まれたと見てしまうと、そこで終わってしまいます。しかし実際には、牡蠣殻も竹も、地域で捨てられていたものが電力を生む素材です」

廃棄物などまでも電力に変えるこの仕組みは、インターネットやGPSのように、活用次第でまちづくりや製造、サービスなどあらゆる分野に応用できる可能性を秘めています 。「参加者の皆さんそれぞれのビジネスや技術と超小集電をどう結びつけられるかという視点でお持ち帰りいただければ嬉しいです」と呼びかけました。

ogd260326image_11.jpg

中川氏は閉会の挨拶で、恩師ダイアン・ハウザーマン・ピルグリム氏のエピソードを紹介しました。「なんで人の知恵貸しをやってるんだ。直接社会と戦え」そう叱咤され続けた経験が、中川氏の現在の活動の礎にあると語りました。そして、ジョン・F・ケネディ大統領の演説を自らの言葉で引き、「できるからやるじゃない。できないと思うからやるんだ。日本にもその精神を残さなければならないと思っています」と続けました。
最後に中川氏は「技(わざ)は社会の財産。術(すべ)は継ぐ人の心の表れ」と述べ、その言葉で会は幕を閉じました。

異なる性質の素材が出会うところに、電気が生まれる。超小集電はその原理を、土や竹、牡蠣殻、廃棄ブレードへと広げました。電気をつくる側と使う側という境界線が薄れ、その土地にあるもので誰もが等しく電気を生み出せる社会。消費と供給、都市と地方という従来の区分を問い直すこの技術は、エネルギーをめぐる社会の姿そのものを書き換えようとしています。

(取材・執筆:和田 みどり)

環境プロジェクト

環境に関する様々な課題や問いと向き合う

エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1【大丸有シゼンノコパン】水辺の小さな生きものを「覗る(みる)」 ~ハイスぺな光学顕微鏡でミクロの世界へ!~【まちの生きもの/親子・初心者の大人向け】
  2. 2【ハイブリッド開催】【丸の内プラチナ大学】 第11期 開講説明会
  3. 3大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 夏
  4. 4【レポート】大丸有に集い、語り、未来への一歩を踏み出そう Day 1
  5. 5【夏休み特別企画 キッズプログラム】 葉っぱから木の生き方を「観る(みる)」~レース模様に隠された植物のヒミツ~
  6. 6【丸の内プラチナ大学】2025年度開講のご案内~第10期生募集中!~
  7. 7【受付終了】丸の内サマーカレッジ2025
  8. 8【大丸有シゼンノコパン】ビルの屋上から夏の星空を「仰(み)る」 ~まちの煌めきと夜空の煌めきのあいだで ~【まちの星座】
  9. 93×3Lab Future個人会員~2026年度(新規・継続会員)募集のお知らせ~
  10. 10【大丸有シゼンノコパン】大手町の森をスマホの目で「眺(み)る」 ~大丸有で写真沼ッ!~【緑地を探ろう!】