イベント3*3 LABO・レポート

【3*3 LABO】「番外編・今年1年間を振り返ります!」セミナー報告レポート

12月14日(金)開催

今年の11月、3*3ラボプロデューサーの土谷と、事務局メンバーの本村、熊坂(株式会社グランマ)は、マレーシアで開かれた国際カンファレンスに参加し、アジア各国の起業家やNGO代表たちと共に、グラスルーツ・イノベーション(※)についての議論を交わしてきました。議論のテーマは「自分の生活を変えるために試行錯誤の研究開発から生まれたグラスルーツ・イノベーションを、他の国・地域に暮らす、それを必要とする人びとに届けるにはどうしたらいいか?」というもの。インド、ラオス、インドネシアなど各国の活動家たちの熱意と創発は、これまで3*3ラボに登壇してくれた若き起業家たちから放たれる熱量と非常に近いものがありました。(※グラスルーツ・イノベーション:草の根から生まれた発明)

そこで、今回は1年間の総決算も兼ね、これまでに登壇くださった方を含む6名のゲストと共に、彼らの活動から見えてくる、これからの日本・アジアの未来について熱いトークを繰り広げました!

グラスルーツ・イノベーションを辺境地に届ける

まずは、マレーシア国際会議でワークショップを企画し、グラスルーツ・イノベーションを辺境地に届けるプロジェクトを開始したグランマの本村から、プレゼンテーションがスタート!

「グランマは途上国の経済的弱者とされる方々を対象に、彼らの生活を向上させる製品・サービスの開発を目的に活動しています。今年は、現地の起業家と共に途上国で生理用ナプキンを生産・販売するプロジェクトを、自分たちが金銭的なリスクを負ってはじめるという大きな決断をした年でした。
現在、Ready for?というクラウドファンディングを通じて、インドの生理用ナプキン製造機の発明家とのプロジェクトを実施するための資金調達を行っています(募集期間は12月27日まで)。発明家であるムルガナンサン氏は、ナプキン製造機をインドの辺境地に届けることで、現地の女性達を巻き込んでナプキンの製造・販売を行っています。このモデルをインド以外の地域でも実践し、ナプキンを辺境地に住む女性達に届けようと立ち上げたのが『ナプキンをフィリピン農村部の女性に届けるプロジェクト』です。
プロジェクトを行うには、ブランディング、流通、ファイナンスなどのプロフェッショナルが必要不可欠なのですが、こういったグラスルーツ・イノベーションというテーマのもとに各プロフェッショナルが集うという機会がこれまでありませんでした。そこで、彼らを集うためにマレーシアの国際会議においてワークショップを企画し、フィリピンのみならず、インドネシア、パキスタンなど各国の辺境地にナプキンを届けるにはどうしたらよいか、という議論を交わしてきました」

ゲストスピーカーたちの紹介プレゼンテーション

草の根からはじまる活動は、アジアの新興国や途上国だけで行われているわけではありません。日本でも"草の根発"にフォーカスした活動をオーガナイズする、ゲストの方々の活動紹介です!

久志 尚太郎さん(NPO法人Rainbow Tree)

「宮崎県の限界集落で『暮らしの自給自足』というのをやっています。活動場所は串間市幸島地区。人口1000人、高齢化率50%、後継者ゼロ、という感じのところです。ここにはなにもない...という地元の人びとに、『なんでもできるでしょ!』と背中で見せてきて、この地域にあるコンテンツをどうビジネスにし、どう活かして生活していきたいのか、というのを前向きにやっています」

矢島 里佳さん(株式会社和える)

「日本の宝物である伝統産業を、もう一度日本に、世界に発信したい。伝統産業は、その良さが埋もれてしまっていて、あんまりかっこ良くない...というイメージがあると思います。でも本当は素敵なものがたくさんあるんです!和えるでは0歳から6歳のための伝統品ブランド事業と、企業さん向けに伝統産業を活かしたものづくりの相談にのるコンシェルジュ事業の2つを行っています」

成瀬 勇輝さん(NOMAD PROJECT/CIRCUS)

「4ヶ月前まで世界一周をしていて、世界中のビジネスの流れを体感し、世界で活躍している日本人を『NOMAD PROJECT』で発信してきました。これからは、日本から世界に、目的をもった若者を1万人輩出したい!彼らが日本に帰ってきた時、「ソトモノ(外から日本を見られる若者)」として日本を変革していってほしいと思います。それが新しくはじめた『CIRCUS』です」

林 賢司さん・佐々木 喬志さん(Innovation for Japan)

林:「大学生が1年間休学して、地方自治体の『町長付き』というポジションに就任して活動してもらっています。今年の4月から島根県津和野町で学生4人が活動しています。僕はもともと行政コンサルタントをした経験から見えてきた問題に、地方が都市に依存している構造があり、都市から地方へ若者が流れていく仕組みをつくれないかと『Innovation for Japan』をはじめました」

佐々木:「僕は人材会社で3年働いて、独立して林くんと一緒に活動しています。島根で教育プロジェクトに関わっている大学生は、地元の高校生に対して学習指導を行っています。推薦入試に合格するなど、小さな成功体験の積み重ねが大事だと思っているので、そういった成功体験ができる場になったらといいなと思いながらやっています」

長谷川 哲士さん(minna)

「『デザインをみんなが使える力にしたい』というコンセプトのもと、みんなのために、みんなのことを、みんなでやるデザイン事務所『minna』をやっています。グラフィック、プロダクト、ロゴなど、デザインと名の付くものあれば何でもやっていて、最近では製品をつくりたいという印刷会社との仕事や、かまぼこの可能性を探ってくださいという仕事が舞い込んだりしています」

ゲスト全員の紹介プレゼンが終わったところで、ディレクター土谷からイキナリ突っ込んだ質問が。

土谷「いま抱えている一番の課題はなに?今の事業で、『食えている』かな?」

久志「課題は、僕がいなくても事業が回っていくようにすること。そのために今一番、人材育成に力を入れているんです。サラリーマン時代の5分の1ほどの年収なので、そのときに比べれば金銭的な豊かさは下がりますが、心は豊かですよ」

矢島「課題...難しいですね。私1人で出来るキャパを超えている感じはあって、でもその人材問題は丁度解決しそうなところです。金銭的には私1人は食べられていますが、メンバーのみんなが食べられていけるように売り上げを伸ばしていきたいですね」

成瀬「CIRCUSをやっているメンバー5人、それぞれ色が強くて、どうマネージしていくかというところが課題です。昔から投資をやっていて、それで食えていますが、今後は今やっている事業で食っていきます」

林・佐々木「行政のお金でやっているので民間予算でどうやるかというところ、また、地方の人はやはり外部の企画に反発心があったりするので、それをどう改善するかも今後の課題ですね。僕たちは完全にボランティアでやっているので、お金の稼ぎ方も今まさに考えているところです」

長谷川「デザインへの偏見があるということと、大きなクライアントと対等に渡り合えないことが課題。ジャンルレスにやっているので嬉しいことに仕事は絶えない状態で、食えています」

本村「アジアのことをどれだけ(日本の人にとって)身近なものにできるか、というのはいつも難しいと感じますね。お金に関しては、本来だったからこれくらい稼げるだろう、という見込みの3分の1くらいの稼ぎですかね。生きられてはいるので、食えてはいます」

日本の未来とアジアの未来

土谷「今日のゲストの共通点は、『大量生産・消費の世の中ではいけないよね』という議論の原点に立ち戻ってやっている人たちだと思っているんですが、会場の皆さんは『日本を変えなきゃだめだよ』と思っているか、それとも『変えるべきか否か、わからない』と思っているか、どっちだろう?」

会場の参加者の反応は、『日本を変えなきゃだめだよ』という思いに手を挙げた人が多数でした。

土谷「一方でいま、新興国・途上国はめきめきと成長していっているわけです。そこで、『アジアの途上国・新興国には日本や西洋とは違う別の未来があるんじゃないか』それとも『経済成長の限界までいかないと、他の豊かさに目が向かないんじゃないか』、みなさんはどちらだと思いますか?」

この質問に対する参加者の皆さんの反応は、半々といったところ。

日本の未来は変えていく必要がある。一方でアジアの未来は、日本が辿ってきた道とは別の道を描いていきたいという思いもあるが、まずは物質的な豊かさを求めるのが人間の性じゃないかという見方もある、というのが会場全体の雰囲気のようです。

新しい習慣をつくるための、デザインの力

若きゲストたちに向けて、人生の先輩である参加者の方々が話しはじめます。

「僕たち60歳代は、日本が成長の段階に入ったときに生まれています。どんな未来にするかということは考えたことが一度もなかったです。一方いまお話を聞いていると、自分の未来をどうしていくか、さらには日本のアジアの未来をどうしていくべきかを真剣に考えられる人がいることに驚いたと共に、こういった議論に興味をもつ方が多くいらっしゃるということに感心いたしました」

「冒頭にあったナプキンプロジェクトで、一番大変なのは『女性にナプキンを使ってもらう』というBehavior Design(行動・習慣のデザイン)の部分だと思うんですね。習慣のない人たちに新しい習慣をつくっていくのだから、これはとても難しいことです。習慣をつくるには、デザインの力がなければできない。ゲストの皆さんの活動はコミュニティの回復や創造や、デザイン力が共通していると思うのですが、どれも現場でBehavior Designをつくっていくことが重要で、かつ最も大変なのだろうと感じました」

先輩たちの意見に、ゲストの皆さん、参加者の皆さん、「うんうん」と深くうなずきます。

ゲストたちが取り組む活動のゴールとは?

参加者の皆さんからもゲストへの質問が飛び交い、最後に『みなさんの活動のゴールはなんですか?』という問いに答えていただきました。

佐々木「Innovation for Japanの活動を全国に広げていきたいです。町に住む人が、主体的に自分の町のことを考えて、行動を起こしていけるようになればと思います」

林「地方のとなりに世界をつくっていきたいなと。つながる先が東京だけではないと思う。世界とつながれるような地域の役割を、僕らのプロジェクトを通してつくれたらと思っています」

長谷川「デザイン業界の池上彰さん、でんじろう先生のような会社にしていきたい。デザインはまだ(一般の人との)距離があるので、もっとわかりやすく身近な存在にしたいです」

成瀬「世界一周して、外からみた日本のいいところにいっぱい気づくことができた。だからもっと日本のポテンシャルブランドを世界に発信し、そして日本の若者を世界に輩出したいと思います」

矢島「職人のクラフトマンシップが根底に根付き、かつ将来のライフスタイルに変容しながら和えていくことのできる、日本発・世界に向けたブランドに、和えるを育てていきたいです」

久志「一番大事だなと思うのは規模感。その土地のサイズに合った規模、いまの日本の経済にあった規模にアジャストしていき、そこにある価値を持続して伝えていくのが大事だと思っています」

本村「日本が辿りつけない未来に興味があるんですね。ナプキンの話で言うと、紙ナプキンを提供することが本当の答えじゃないかもしれない。布ナプキンかもしれないし、また別の何かかもしれない。日本が到達していない新しい未来をつくれたら、それは価値あることだなと思います」

最後に、土谷が熱っぽく締めくくります。

土谷「会場に投げかけた問いである『アジアの未来』は、どっちが正しいかじゃない。その葛藤のなかにいるのが僕たちなんだと思う。今日のゲストは、色んな葛藤を積み重ねて、今ここにいる。最初の1ページ目を書き換える人たちであってほしいなと思う。新しい未来をつくりだそうと一歩踏み出そうとしている人たちが、今日集まってくれた人たちのテーマだと思います」

今回のイベントが、今年最後の登壇だったというゲストも多かったようで、みなさん今年を振り返りつつ、来年やその先に向けたビジョンを熱く語ってくださいました。ありがとうございました!

写真:望月 小夜加


ゲストプロフィール

株式会社グランマ
本村拓人(もとむら たくと)氏

2009年、株式会社グランマを創業。2010年に世界を変えるデザイン展を開催。その後、南アジアの塩害地域における水の浄化装置や、無電化地域へのソーラーランタンの設計・普及活動を日系企業と実施。2011年からは低技術でも普及可能なグラスルーツイノベーションに焦点をあてその普及活動に尽力している。現在、低価格で環境負荷の低い生理用ナプキンの発明家と共に製品、製造プロセス改善、マーケティング、及び地域に根ざした継続的な啓蒙活動を開始している。

株式会社和える
矢島里佳氏

2011年慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、伝統を次世代に繋ぐ株式会社和える代表取締役就任。高校時代TVチャンピオン2「なでしこ礼儀作法王選手 権」優勝(テレビ東京)。2010年2月ビジネスコンテスト「学生起業家選手権」優勝(東京都・財団法人東京都中小企業振興公社)。 著書に『その常識もし かして非常識?!自分を魅せる本当のマナー』(高陵社書店)、他2冊有り。現在、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科社会イノベータコース修士課程2年在学中。

NOMAD PROJECT
成瀬 勇輝(なるせ ゆうき)氏

早稲田大学に通いつつ、ベンチャー会社でWeb制作、音楽レコード立ち上げに携わる。その後、起業学で有名なバブソン大学で起業学(Entrepreneurship)を学ぶ。世界にでて活躍できる日本人、日本を引っ張れるアジア人、そして世界に広がるビジネスの発起を目標のもと、プロジェクトを開始。

Rainbow Tree
久志尚太郎 (ひさし なおたろう)氏

1984年7月1日中学を卒業後単身渡米。16歳でアメリカの高校を卒業し大学に進学するも911テロを経験し時代の節目を感じドロップアウト、一度目の起業後、日本へ帰国。その後独学でITを学び、外資系証券会社や米軍基地などのITプロジェクトに携わり、19歳でデル株式会社法人営業部に入社。入社後は法人営業部のトップセールスマンとして、新人研修や社内研修、新規事業の立ち上げに参画。25歳で同社の最年少ビジネスマネージャーに就任。26歳で同社退職後、NPO法人Rainbow Treeを宮崎県串間市で起業。人口1000人高齢化率50%の土地でソーシャルビジネス展開。次世代の暮らしの在り方デザイン・実践中。

innovation for japan
林 賢司(はやし けんじ)氏

東京生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。在学中から町づくりに携わり、2010年長野県「白馬村新民宿宣言プロジェクト」への参加をきっかけに起業。2012年、大学生が「町長付」に1年間就任するプログラム『innovation For Japan』を佐々木氏と立ち上げる。

佐々木 喬志(ささき たかし)氏

1984年 宮城県生まれ。東北学院大学経済学部卒。在学時より2社のベンチャー企業にて新規インターンコーディネート事業などに参画。その後リクルートHRM,GLナビゲーション株式会社を2009年創業。2012年『Innovation For Japan』を林氏と立ち上げる。

minna
長谷川 哲士(はせがわ てつし)氏

1986年 愛知県名古屋市生まれ。2008年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリアデザインコース卒業。株式会社 Central Line チーフデザイナー (2006-2008) EDING:POST デザイナー (2007-2008)。2009minna設立。

3*3ラボ(さんさんらぼ)

環境プロダクト「ものづくりからことづくり」研究会

3R(Reduce:減らす、Reuse:再活用、Recycle:リサイクル)と3rdプレイス(家と職場以外の場所)づくりを目指し、毎月ゲストをお招きしたセミナーを実施します。

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