エコッツェリア会員企業を中心に、CSRについて学び、CSVを目指し、学びから実践に向けたアクションを行うCSRイノベーションワーキンググループ(以下CSRイノベーションWG)の2014年度第1回が、4月18日(金)新丸ビル10階のエコッツェリアで開催され、30名が参加しました。
ゲスト講師に笹谷秀光氏(株式会社伊藤園 CSR推進部長 取締役/元農林水産省審議官・環境省審議官)、ファシリテーターに臼井清氏(一般社団法人企業間フューチャーセンター/かなりあ社中)を招き、講演とワークショップが行われました。
環境コミュニケーション・ワーキンググループからCSRイノベーションWGへ名前を変え3年目を迎える今年度。昨年度は勉強会や企業・コミュニティ訪問などインプットがメインでしたが、今年度はいよいよ、アウトプット段階へ入ります。
今年度の方向性について、田口真司氏(エコッツェリア協会)は、「CSRは、事業を活かした社会貢献などの『攻めのCSR』、コンプライアンス・人権などの『守りのCSR』という区分もされます。今年度は攻めのCSRを重点的に取り上げるとともに、共有価値を創造する考え方「CSV」も取り上げ、CSRの本質について深く考えていきたい」と話しました。
ゲスト講師の笹谷氏は、CSRの本質について、伊藤園を例として、「トリプルS」を解説しました。
トリプルSとは、Sを含む3つの概念「CSR・CSV・ESD」を合わせた経営戦略で笹谷氏がその著書「CSR新時代の競争戦略―ISO26000活用術」(日本評論社、2013年12月刊)で提唱した考えです。伊藤園のCSRはこれをもとに体系化されています。
講演はまず、CSRについての話から始まりました。CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略で、一般的に「企業の社会的責任」と訳されています。
横文字なので難しく考えられていますが、日本の伝統的な商文化には既に、CSRが内包されていました。「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)という、近江商人の哲学です。企業が持つ社是にCSRの考えが内包されていることが多く、三方よしの哲学が根付く日本には、CSRに取り組みやすい文化があると笹谷氏は言います。
伊藤園の社是は『お客様を第一とし 誠実を売り 努力を怠らず 信頼を得るを 旨とする』です。"お客様第一"のお客様は、カスタマーではなくマルチステークホルダーのこと。すべての関係者がお客様という意味を持ちます。また、最後の「信頼を得るを旨とする」との点がCSRの考えです。「自社の社是をもう一度確認してみてほしい。そこにCSR活動のヒントがあるかもしれません」と、参加者に訴えました。
企業の社会的責任と訳されるCSRですが、笹谷氏は、この日本語訳によって、本質的な意味が伝わりづらくなっていると言います。そこで、2010年にISO(国際標準化機構)が策定した「社会的責任に関する手引」(ISO26000)が示した「定義」と体系が参考になります。
この規格は、世界160数ヵ国の様々な関係者により策定され、第三者認証規格ではなく、手引として組織が個性や規模に応じて柔軟に活用できます。この規格は使い勝手がよく、また、企業以外にもあらゆる組織に適用できるものとして定められました。もちろん企業のCSRにも活用できます。
この初めて定められた国際合意の「定義」が画期的です。定義なき時代のCSRについての理解の混乱を収束させるものです。定義として、要すれば、『組織が法令を遵守して、関係者の意見をよく聞きながら、本業を通じて実践する、社会・環境の持続可能性に貢献するための活動』としました。この定義でCSRを推進することが効果的です。いまやこのISO26000によるCSRが世界各国で事実上の標準になってきているからです。
この定義で特に重要なのは、"本業を通じて実践する"と"持続可能性"の2点です。
"本業を通じて実践する"という点については、大きく①「本業そのものを通じたCSR」②「本業に関連づけたCSR」③「本業スキルを活用したCSR」の3つの活動が考えられます(以下「本業CSR」といいます)。
例えば伊藤園で①の取り組みは、茶産地育成事業(緑茶製品の原料である茶葉の安定調達や生産農家の育成、遊休農地の活用を目指す事業)を、②では「お茶で日本を美しく。」キャンペーン(全国各地の環境課題に対して、伊藤園だからこそ出来る支援を行うキャンペーン)、③ではティーテイスター制度(お茶に関する高い知識と技術を持つ社員に資格を付与し、お茶に関する知識と技術の向上、社内外への茶文化および知識の普及などを目指す制度)などがあります。
"持続可能性"は、企業・組織の発展、消費者や関係者の持続可能性、社会・環境の持続可能性、これら3つがともに成り立つ、トリプルWINの関係を目指す活動を行うことです。
ISO26000は、7つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)を定めました。
あわせて、7つの取り組み課題(「中核主題」という)として、「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」(以下「コミュニティ課題」)を設定しています。
これは優れものでいま企業として対処が求められる項目を網羅しています。
ISO26000は、7つの中核主題は、①全体的なアプローチをすべきであり、②相互依存性がある、としていることが重要です。
事例として、パリの「ヴェリブ」という世界最大の「自転車シェアリングシステム」を紹介し、環境、景観、消費者対応、コミュニティ対応などに総合的に対処していることに触れました。今は複合課題へ関係者が協力して対処する必要がある時代であることを強調されました。
トリプルSの2つ目CSVとは、Creating Shared Valueの略で「共有価値の創造」と訳されます。ISO26000策定直後の2011年1月に、マイケル・ポーター氏らが提唱している「社会課題解決と企業の競争力向上を同時に実現して共有価値を創造する」という概念です。
ポーター氏によれば、これまでのCSRは、企業による慈善事業(フィランソロピーとも言います)として、とらえられることが多かった。しかし、これでは企業業績に左右されるので持続的な活動につながりません。また、本業での環境責任などをないがしろにして慈善活動をしているのは許されません。そこで本業を活用した、利益も見込める社会的活動をねらうCSVという概念が生まれ、「CSRからCSVへ」移行するべきであると提唱されました。
しかし現在CSRは、ISO26000により「本業CSR」と定義されています。CSVとISO26000によるCSRを比較すると、ISO26000は人権・労働慣行・公正な事業慣行など網羅的な課題に対応する手引となります。一方、CSVは経営戦略です。両者を比較すると表の通りですと説明しました。
つまり、さまざまな領域に対処するCSR、新しい領域を作り出すCSVと、CSRとCSVは活用局面・次元が異なるため、相反するものではないのです。両者は「互いに補完するもの」として捉えるべきです。社会的価値と経済的価値を同時に実現しなければ、企業活動は長く続かないという考えから、本業活用のCSRを使い、あわせて、CSVで競争力を強める戦略を取るべきです。
なお、CSVは日本の「三方よし」と似ていますが、「三方よし」とともに心得とされている「陰徳善事」、つまり、「良いことは黙って行え」という点で発信が抑えられているところが問題で、現在の日本はこの点に修正が必要と指摘しました。
トリプルSの3つ目は ESDです。笹谷氏は、CSR/CSV活動を行っていくために、ESDは大切な概念だと言います。
ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で、「持続可能な開発のための教育」のこと。環境に悪影響を与えない、持続不可能な開発をこれ以上行わない、多様性を理解するなどの「明日」と「子孫のため」ためを考えることができる人づくりをしていこう、という取り組みです。特に笹谷氏は、教育方法として「座学」ではなく実践重視の「車座・ワークショップ」と「気づきの共有・学習」の2つを狙うことが重要だと言います。
さらに各企業のCSR推進セクションでは、国際理解、ダイバーシティ、環境・エネルギー、コンプライアンスなど、さまざまな分野の社員教育をバラバラに行いがちですが、「持続可能な開発のため」というテーマでこれらを総合的に考え、それぞれが関係していると捉えるように教育していくことも必要と、語りました。
以上の通り、CSR、CSV、ESDのトリプルSの組み合わせが、新たな企業戦略になると、笹谷氏は言います。
これをイメージにした次の図が示されました。「世のため、人のため、自分のため、子孫のため」という「持続可能性」の実現に向けて、皆で恊働しつつ、本業活用のISO26000のCSRを使い、CSVで共有価値の創造し、ESDでCSRとCSVを学ぶ、という考えです。
図 トリプルSの経営戦略 ©hsasaya2014
伊藤園はトリプルSを実践していますとして、茶産地育成事業・茶殻リサイクルシステム・ティーテイスター制度活用の「おもてなし」の食育などを事例として紹介され、それぞれの「トリプルS」の適用を説明されました。
この事例も通じて、参加者は気づき、ヒントを得ることができたのではないでしょうか。
講演後のディスカッションでは、参加者同士で自己紹介、講演の感想、疑問点などについてテーブルごとに話し合いました。
ディスカッション後は、幻の小麦「ハルユタカ」、「道の駅」などの地域振興施設や調理家電などの事例を、「三方よし」に当てはめるワークショップを展開。正解を見つけるためではなく、さまざまな気づき、着眼点の共有を目的として行われました。
笹谷氏は、「三方よしやCSVは身近に多く存在します。まずそれらを見つけられることが大事で、ESDワークショップでその目を養ってほしい。勉強して帰るのではなく、勉強のコツ、ヒントを持って帰る、気づきを得るのがESDであり、このCSRイノベーションWGはまさにみんなで学ぶESDの場所です」とまとめました。
第2回は、企業だからこそ実現できる地域活性化モデルについて、NEC(日本電気株式会社)を訪問し考える予定です。
エコッツェリア会員企業を中心に、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)について学びあいます。さらには、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)をめざし、学びから実践に向けたアクションづくりを行います。