ワーキンググループCSRイノベーションワーキング・レポート

【CSRWG】フューチャーセッションを活用したアサヒグループホールディングスの取り組み

アサヒグループHDの対話型CSR推進のカギは

2014年度の第4回フィールドワークがアサヒグループ本社ビルで開催されました。テーマは「対話型CSR」への取り組み。アサヒグループHDがステークホルダーとのコミュニケーションの一環として取り組んでいる、従業員との対話や消費者からの相談窓口、地域社会との連携に加え、さらにオープンな「対話型CSR」の実践事例などを、同社CSR部門の松沼彩子氏、松香容子氏に紹介いただいたあと、26名の参加者が意見交換を行いました。

2014年度の第4回フィールドワークがアサヒグループ本社ビルで開催され、26名が参加しました。今回のテーマは「対話型CSR」への取り組み。アサヒグループHDがステークホルダーとのコミュニケーションの一環として取り組んでいる、従業員との対話や消費者からの相談窓口、地域社会との連携に加え、さらにオープンな「対話型CSR」の実践事例などを、同社CSR部門の松沼彩子氏、松香容子氏に紹介いただいたあと、26名の参加者が意見交換を行いました。

すべての人々とともに考え、行動していく
そのために必要なコミュニケーション

まず各グループの自己紹介の後、アサヒグループHDのフューチャーセッションなど、対話型CSRへの取り組みについて、同社CSR部門の松沼氏より説明が行われました。

アサヒグループHDといえば、浅草にあり金色のオブジェが特徴的な社屋で有名ですが、そのオブジェは何を表しているのかという問いかけからプレゼンテーションがスタート。「ビールの泡」ではなく、グループ社員の燃える魂を「金の炎」で表現していることが紹介されました。

アサヒグループの事業はグローバル化の進展とともに、酒類だけでなく食・飲料全般にわたる事業展開が行われているがゆえに、CSRを推進していくことは簡単ではなさそうです。「規模・事業内容が多様で、企業風土も直面する社会的課題も異なっている」(松沼氏)ため、CSRの推進には、基本方針やビジョンが重要になってきそうです。

基本方針図.png2010年に見直されたグループのCSR基本方針は、法令遵守以上のことに積極的に取り組み、社会の人々と感動をわかちあえる活動を推進するというもの。この基本方針に沿った取り組みには、あらゆるステークホルダーとのコミュニケーションが重要と位置づけられています。コミュニケーションの一例として、同グループでは、アサヒビールお客様相談室(年間数万件のご意見・お問い合わせ)や、CSR部門でのステークホルダーダイアログなどが紹介されました。「2013年は安定調達についてダイアログを行った。担当者と社外の有識者との対話にとどまらず、今回はお取引先に参加していただいた」(松沼氏)と、多様なステークホルダーとの対話が積極的に行われていることがわかりました。

対話の手段としてフューチャーセッションを採用

このような取り組みと平行して、多様化する社会の中でステークホルダーの信頼や共感を得ていくためのグループのありたい姿を社員自身が考えていこうと、『アサヒグループのありたい姿を考えるプロジェクト』が2012年に発足。グループ9社から20名の社員が参加し、8ヵ月にわたって議論が行われたといいます。「プロジェクトでは、社内だけで議論していても社会の状況はわからないと、他企業、NPO、NGO、農家、行政など社外の多様な人々との対話を何度も行っていた」そうで、その手法としてフューチャーセッションが採り入れられていました。

asahi01.jpgこのプロジェクトで生まれた、グループのありたい姿『誰よりも食の感動を真剣に考え続ける社員があふれるグループ』が経営トップに提言されたといいます。
そして、それが2013年に策定された『長期ビジョン2020----食の感動(おいしさ・喜び・新しさ)』を通じて、世界で信頼される企業グループを目指す----』として実を結んだというのには少々驚かされました。

「企業の長期ビジョンは一部の部門や担当役員の間で検討されて、上から社員に周知されることが多い中で、アサヒグループでは社員20名が組織したプロジェクトのエッセンスを採り入れてビジョンができたのは一つの成果だったと思います」(松沼氏)。

グループのありたい姿を考えるプロジェクトでは『食の感動を考え続ける』という趣旨のことを提言していますが、ひと口に食といっても、食の安全、食育、過度の痩身志向など、食に関する課題は多様で、アサヒグループでも「どこから手をつければいいのか」という悩みを解決するために始めたのが食のフューチャーセッションということです。

Matsunuma.jpgすでに4回を数える食のフューチャーセッションはどのように実現できたのでしょうか。松沼氏は「ありたい姿を考えるプロジェクトから自発的に生まれた"0回"の経験が大きかった」と話しています。プロジェクトのメンバーが社会と対話をしたいという想いから、「『食べる』を分解する」をテーマにして試行したのが"0回"のフューチャーセッションです。当初は継続できるとは思ってもみなかったようですが、実際にやってみたら楽しくて、「いろんな人に会って意見を聞けてよかった」「これでやめてしまうのはもったいない」ということからCSR部門で継続することになり、第1回「食の新しいストーリーを生み出そう」、第2回「食の循環」、第3回「食と身体づくり」と、いまにつながっていることが紹介されました。

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フューチャーセッション成功のカギは
参加者ごとの目的を考えること

フューチャーセッション成功のカギは
参加者ごとの目的を考えること

続いて松香氏から、フューチャーセッションの取り組みが述べられました。広報の経験が長かった松香氏。第1回目では「対話って何?」という状態だったといいますから、大きな不安を抱えてのスタートだったのでしょうが、「その不安は杞憂に終わっている」と、フューチャーセッションの効果を実感しているようすがうかがえました。

asahi02.jpg「たとえば、第2回の「食の循環」では『フードロス』が課題となりますが、メーカーとしてはちょっと思い切ったテーマです。皆さんからお叱りを受けるだろうか、あるいは「どれくらいのフードロスがあるのか?」と情報開示を求められたら、「フードロスを何%なくすと宣言して」と求められたらどうしようなどと、不安も多少ありました」(松香氏)。しかし、実際にフューチャーセッションに参加した人々は、アサヒに対して物申そうというスタンスではなかったという。「他の参加者との対話をとおして、自分なりのアクションを見出して行きたい」という純粋な想いから参加してくださった方が多かった」と松香氏は話しています。

セッションを成功させるために、どのようなことに気をつければいいのかも、大いに気になるところです。それについては『毎回、セッションの目的を考える』ことという。「今回の目的は社外の参加者にとって、社員にとって、またアサヒグループにとってはどうだろうと、いつも3つの軸で考えています」(松香氏)。

具体的には、社外の参加者には多様な人と出会い一緒に考える機会になるような工夫をしているようです。社外の専門家を呼んで有意義な情報をインプットしてもらう、あるいはアサヒの研究所のスタッフに専門的な話をしてもらうよう設計しています。そして、アサヒグループならではの仕掛けが『ビールの提供』です。「ビールを提供すると、皆さんのテンションがすごく上がって、素敵なアクションプランのアイデアが出てくる」(松香氏)といいます。ただ提供するのではなく、どのようなタイミングでどう出せば最も効果が上がるかなど、細かく検討しているところがポイントでしょう。

Matsuka.jpgでは、社員の皆さんに対しては、どのような目的を設定しているのでしょうか。内向きになりがちな社員の姿勢に悩んでいる企業も多く、その目を外に向けることは日常の業務においても大変意義のあることです。アサヒグループでは、得意先など業務の中で接する限られた人だけでなく、幅広いステークホルダーがいることを認識してもらえるよう、社内にフューチャーセッションに積極的に参加するように声がけをするとともに、参加者にはどういう気づきを得たのか、自らの業務にどう生かせるか、今後どのようにセッションを運営すればいいのかなどをヒアリングしています。

もう一つ、CSR担当者にとって気になるのは、アサヒグループがこのセッションをどのように生かしているのかでしょう。この点については、参加者に何か得るものがあればいいという2回目までのスタンスから、3回目からは小さくてもとにかくアクションを起こしてみようと転換したそうです。

その一つが『アサヒの朝会』です。第3回のテーマ「食と身体づくり」で、個人の生活を改善するのに加えて、社会の仕組みとして個人の身体づくりができるアクションを考えようという中で、明らかになった「朝食を食べていない」人が多い状況を変えようとする取り組みです。「一人暮らしで、どうしても朝ご飯を抜いてしまう」「個食で楽しめない」という意見を汲んで実現されました。
「アサヒの社員同士、一緒に朝ご飯を食べましょう、という緩い企画」(松香氏)ですが、朝食をしっかりとることで、仕事がはかどったという声や、みんなで一緒に食べるご飯ってすごくおいしい、精神的にも身体的にもパワーの源になったと好評だったようです。

今後は、アクションに加えて、培ってきたネットワークを大事にしていきたいという。SNSの活用もその一つ。「Facebookで参加者のネットワークをつくり、フューチャーセッションの案内やそれによる気づきを共有しています」(松香氏)。

社内で"キワモノ"にならないために

CSR推進に当たっての課題について松香氏は、「社内で"キワモノ"にならないようにすること」としています。CSRの取り組みは当然、グループの公式な活動として実施されているものの、社内の一部から『業務とあまり関わりのない、勝手なことをやっている』と見られる可能性もあるため、「一部の人間が面白がってやっているということではなく、アサヒグループが目指すものに向けた取り組みだということを社内外に発信していことが大事です」(松香氏)。
たとえば、アサヒグループのCSRレポートでは、HDの泉谷社長のトップメッセージでフューチャーセッションの事例に触れてもらったり、毎月全社員を集めて社長が語る『経営報告会』でCSR部門の取り組みを紹介してもらうなど、機会をとらえて取り組みを発信することで社内の理解と共感を深めるよう努めています。
社外に向けては、アサヒグループHDのウェブサイトを活用して、セッションの内容などを発信しています。

「大切なのは、仲間をつくること。一部の人間の行動から、その輪を広げるために、社内の参加者と振り返りの会を開いたり、共感してくれる新しいメンバーを引き込んでいく工夫を行っています」(松香氏)。

社内への感度を高め仲間をつくる、
ビジョンに沿った活動だと繰り返し発信する

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アサヒグループHDのお二方のプレゼンテーションを受けて、グループごとに参加者が互いに感想や意見を共有しました。

その後の質疑応答では、「朝が苦手な人も多い中で、どのようにして朝会参加へのモチベーションを引き出したのか」や「キワモノ扱いされないために、どのようにしてトップや社内の理解を得たのか」などの質問が出されました。

参加へのモチベーションについては、「自主的な取り組みがないか目を凝らし、それを見つけたらCSR部門が乗っかっていくという手法と、感度を高めることが第一歩ではないか」(松沼氏)との回答がありました。
キワモノ扱いに対しては、「CSRの取り組みが特別な仕事に見えないように工夫したり、イントラネットを使って時系列で報告するなどグループ内への浸透を高める」(松沼氏)ことや、「社会の役に立ちたいと思っている社員たちを仲間にすること、またCSRの取り組みはグループのビジョンに基づいたものであることを繰り返し発信していくことが大事」(松香氏)だと考えているとのことでした。

また、「フューチャーセッションへの不安を感じながら、なぜ実施できたのか」との問い対しては、「"0回"で得た成功体験」(松沼氏)とともに、「フードロスについてはグループ内の根回しに気を遣ったが、意外にも『いいんじゃない』と好意的な反応が多かった」(松香氏)ことが大きかったようです。これについては「対話すること自体に大きな抵抗がない、自由で身構えたところがない社風のおかげ」(松香氏)としています。
さらには、アサヒグループ対参加者という構図にならないようにセッションを設計していることも寄与していそうです。たとえばフードロスについては「自分たちから話題提供をすれば、アサヒ対参加者という形になりがちなので、中立的な他の団体を加えてそこから話題提供をしてもらう」(松沼氏)などの工夫が明らかになりました。

その後の懇親会では、提供されたアサヒビールを飲みながら、さらに深い情報交換が行われました。

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エコッツェリア会員企業を中心に、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)について学びあいます。さらには、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)をめざし、学びから実践に向けたアクションづくりを行います。

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