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【レポート】CSV経営サロン 第1回

創発を生み出すワークショップに“充実感”

一歩先行くCSVを

7月29日、エコッツェリア協会で「CSV経営サロン」第1回が開催されました。
これは、昨年度まで行われてきた2つのプロジェクト「環境経営サロン」「CSRイノベーションワーキンググループ」が発展的に統合されたもので、セミナー(座学)とフィールドワーク(現地視察)、交流を行いながら、CSR、CSVのコンセプトを下敷きにしたプロジェクト・ビジネス創発を目指そうというものです。
これまでの2つのプロジェクトは、参加企業のラインも雰囲気もまったく異なるうえ、それぞれ「環境」「CSR」とキーワードも異っていました。しかし、「社会貢献」と「ビジネス創発」という目指すゴールは同じところ。性格の異なるプロジェクトが双方の長所を認め活用し合うことで、より明確なビジネス創発への道筋が描かれることが期待されます。

冒頭、CSV環境経営サロンの企画運営を行うエコッツェリア協会の平本真樹氏は、今年度中にセミナーとフィールドワークをそれぞれ4回開催する中で「参加企業のニーズとシーズを整理し、エコッツェリア協会が媒介となってマッチングを行い、ビジネス創発へつなげたい」と意気込みを語りました。また、「CSVのビジネス創発は、自社内から創発する型、他社間またはセクターを超えた連携から生まれるソーシャル型、企業間連携による共創型の3つの類型があるが、ここではさらにプラスアルファとして『創発を促すプロデューサー人材の育成』も進めたい」と多角的なCSV開発に取り組む意向も示しています。

環境経営サロンから引き続き「道場主」を務める小林光氏(慶應義塾大学大学院特任教授/元環境省環境事務次官)も、これまでとは異なった様相へと展開してきたことに「いよいよ"道場"らしくなってきた」と話し、「日本に100年以上残る企業が多いのは、もともと企業利益と社会のプロフィットを一体化させてきたから。CSVとは本来日本人の生き方そのもののはず。新しい一歩につなげてほしい」と参加企業の面々に呼びかけました。

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選ばれる会社になるために

選ばれる会社になるために

イトーキのCSV事例「Econifa」。当日のプレゼン資料より抜粋

フィールドワークは現場を実地に見ながら担当者と直接コミュニケーションを図ることを目的としますが、セミナーは経営者、マネージャーのレイヤーから演者を招いて講演を行います。

平井社長第1回目のセミナーでは、株式会社イトーキの代表取締役社長、平井嘉朗氏が登壇。平井氏は54歳の若さで現職に就任し、内外から経営体制の刷新と強化に期待が掛けられています。イトーキが取り組むCSVはまさにその主眼とも言えるもので、「ともにつくるワークプレイスのみらい――イトーキのCSV経営と新規事業創出」と題し、森林活用を目指す「Econifa(エコニファ)」、CSV事業創発拠点「SYNQA(シンカ)」の成立の背景、実績を講演しました。

平井氏によると、イトーキの創業は明治23年(1890年)、ホッチキスや魔法瓶といった発明品、特許品など、世の中に役立つさまざまな物を通して新しい価値を広めることに尽力してきたそう。戦後からはスチール製のオフィス家具の販売に乗り出し、戦後の復興から高度成長期に乗って、オフィス空間のほか、学校、病院、美術館、博物館等の公共空間、工場、家庭用家具などを舞台にしたビジネスを拡大してきています。そして、近年の時代の変化を捉え、CSV新事業創出へと踏み出すことになったのですが、その背景として平井氏は「内的背景」「外的背景」を説明。

外的背景のひとつはワークプレイスを取り巻く背景の変化です。戦後の「島型対向の"事務処理"の場」から、ITの発達もあって「より高い創造性が発揮される場として期待されるように」なり、昭和61年(1986年)には通産省(当時)の肝いりで発足した「ニューオフィス推進委員会」が設立、これも追い風となりました。「オフィスは"コスト"ではなく、"投資の対象"とならなければならない。機能だけではなく、社会貢献できる新しい提供価値をどう生み出すか?ということを考えるようになった」と平井氏。
内的背景には、イトーキの事業ドメインの問題があります。オフィス家具の同業他社は文具等の異なる事業を持っていますが、イトーキはほぼ「オフィス専科」。「オフィス以外の新たな事業の柱を立てなければならなかったが、一社では限界があった。さまざまな外部の企業、パートナーとともに新たな価値を創造する必要が出てきた」。

こうした背景を受けて発足したのが2011年の「ソリューション開発統括部」でした。同部は「営業だけでは難しい顧客満足獲得のための支援部隊」として機能し「経営の課題にもっと踏み込み、多様化するニーズを吸収」し、新たなソリューション開発につなげることを目的にします。続いて、同部が得た知見を元に顧客に新たな価値提供を行う「ソリューション営業部」が発足、共創の場として2012年に「イトーキ東京イノベーションセンターSYNQA」が設立されます。

CSVは能動的な貢献

イトーキのCSV事例「SYNQA」。当日のプレゼン資料より抜粋

イトーキのCSV事業創出は同社の企業コンセプトと密接に関係しています。1999~2008年の「Ud&Eco style――人と地球にやさしい」(Ud=Universal designe)から、2009年に「新Ud&Eco style――人も活き活き、地球も生き生き」へとバージョンアップされましたが、これは「エコの問題はともすれば受け身、消極的な姿勢になりがち。例えば3Rのように"減らす""再利用する"だけではなく、例えば"使う"ことで快適になるようなもっと積極的なユニバーサルデザインはできないか。何かを"する"ことが、人も森もいきいきとさせるような取り組みはできないか」と考えるようになったそうです。

そんな背景から誕生したのが「Econifa」でした。Econifaは、「Eco」と「conifer(針葉樹)」からなる造語。国土面積の70%が森林である"森林大国"でありながら、林業が衰退し、国産材利用が低下、山野の荒廃が進む日本の課題への取り組みとして発足しました。これは林業において"商品化"以降の流通が途絶えていることに原因があるとし、「製材加工を促すように、商品化、流通販路を作ること、つまりサプライチェーンのを構築することが課題だった」と平井氏。具体的には、著名デザイナーとタッグを組んで家具や内装材のデザインテンプレートを多数用意し、全国各地の地域材を都市に合う耐久消費財として「まち」へ提供する仕組みを構築。また、「都市は水や空気を使って好き勝手振る舞い、自ら首を絞めてしまっている」と都市側の問題を指摘、「木製家具による炭素固定によって『やま』と『まち』をつなぐ取り組みも行っていく」と、1つの事例として「やまなし水源地ブランド」で展開する産官民の取り組みを紹介しました。

SYNQAについては「イトーキの新しい価値を創造拠点」という位置付けですが、「1階を実験的コ・ワーキングスペース、2階をコラボレーションスペース『Team Lab』とし、ファシリティやBCPをテーマに外部とのコラボを進めている」とのこと。最近は「口コミで広まって外部からの問い合わせも増えている」そうです。SYNQAの具体的な内容は次回のフィールドワークでつぶさに見ることになります。

最後に、今後の日本においてワークプレイスが果たす役割は、「非常に大きくなるのではないか」と平井氏。「ワークプレイスは、今後各企業がグローバル戦略を展開していく可能性を引き出す場所になる。日本がリスペクトされる国になるべく、ワークプレイスを進化させていきたい」。そして「これまではワークプレイスは景気が悪ければ投資しない場所だったが、景気が悪い時こそ投資してビジネスを好転させる、そんな世界をともに作っていきたい」と参加者に呼びかけました。

対決?のようなワークショップ

後半は、企業間フューチャーセンターの臼井清氏、塚本恭之氏をファシリテーターに迎え、各テーブルでのワークショップを行いました。このワークショップが昨年までの環境経営サロンともっとも異なる点。これまでは大きなラウンドテーブルを囲むように着席し講演を聞く、どちらかと言えばワンウェイなスタイルで、参加者同士が密に話し合うシチュエーションはありませんでした。

臼井氏、塚本氏は「みなさん1人1人が『書いて』『話して』ください」と、参加者全員が発言するよう呼びかけます。各テーブルには必ず1人、イトーキの社員も加わり、「ぜひ"対談""対決"してみて」と臼井氏。「まさに道場めいている」と参加者からも好評でした。テーマは、講演の感想シェアを行ったうえで、「あなたの会社で新規事業を起こすときの"あるある話"」。こうしたワークショップは初めてという参加者もいましたが、各テーブルでは熱心に言葉が交わされました。ワーク後のシェアでは、感想のシェアに終始してしまったところ、脱線して「CSV経営のあり方、進め方」について熱く語りあった人々、「まじめに」"あるある"を話し合ったテーブルとさまざまで、肩肘張らない、肩書きをはずした対話の楽しさを思い出したようでした。

初めてワークショップを体験したというある参加者は、「これまでと違って緊張しなくて良かった。また、"必ず話をする"というのも、参加したという満足感にもつながっていい。セミナーだけでは1回聞いて終わりだが、対話することで、社内に持ち帰るものがたくさん得られたように思える」と満足げに話していました。

ワークショップの後は道場主の小林氏と平井氏の対談風パネルディスカッションも行われ、CSV経営における人材育成や、顧客ニーズの集約など、具体的な内容も語られました。最後に小林氏は、「机の配置が見事で、ワークショップでは頭を使って疲れてしまった(笑)。しかし、これで"道場主"を名乗るのも悪くないとも思えた」と新しいスタイルのサロンに創発のタネを感じた様子。また、「CSV経営には、生物学の知識が使えるように思った。生物の世界では大きい生き物だけに価値があるわけではないように、さまざまな価値を見出して、見識を深めていきたい」と今後の展望を語りました。

今後、「SYNQA」でフィールドワークを行い、さらに知見と理解を深め、CSV経営とプロジェクト・ビジネス創発へのステップアップを図っていきます。

終了後の懇親会も、昨年以上に和気藹々とした雰囲気に


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