2014年度第4回環境経営サロンが3月2日(月)に開催され、73名(34社・団体)が参加しました。
今回は5人のゲストスピーカーを迎え、企業や地域で女性の活躍を支援する先進的な取り組みについて理解を深めました。
『女性が輝く社会の実現に向けて』
酒井香世子氏(内閣府 男女共同参画局 総務課政策企画調査官)
『女性社員に対する仕事と育児の両立支援制度/取組について』
田口京子氏(アサヒビール株式会社 人事部課長補佐)
『ヤフーの女性活躍推進~一人ひとりの才能と情熱を解き放つ~』
斎藤由希子氏(ヤフー株式会社 人材開発本部本部長)
『多様性を認めチームワークを高める人事制度と企業風土』
松川 隆氏(サイボウズ株式会社 人事部マネジャー)
『「丸の内イクメン部」の活動について』
永島英器氏(明治安田生命保険相互会社 企画部長)
内閣府男女共同参画局の酒井氏からは、女性が活躍できる社会の実現へ向けての政府の取り組みが紹介されました。男女共同参画社会基本法に基づき2010年に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」では、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上にすることを目標に掲げています。酒井氏は現在の状況を次のように説明しました。「2014年版男女共同参画白書によると、業種ごとに指導的地位に女性が占める割合を調査した結果、国会議員(衆議院)が8.1%、社員100人以上の民間企業で8.5%にとどまっていることがわかりました。世界経済フォーラムが公表する男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数でも日本は142ヵ国中104位と低水準にあります。指導的地位に占める女性の割合同様に経済参画と政治参画の分野の格差が大きくなっています」。
一方で安倍内閣は女性の活躍を推進する「ウィメノミクス」をアベノミクスの中核に据えています。ウィメノミクスとは1999年にゴールドマンサックス証券が提唱した考え方で、日本における男女間格差を解消することでGDPの水準を13%押し上げる効果が期待できるというものです。安部首相は国連総会やダボス会議で「女性の力を積極的に活用する」と発言。「首相自らが発信をしたことで流れは大きく変わりました」(酒井氏)。政府の積極的な取り組みにより目にみえる成果が出始めています。安部首相が経済界に女性登用を要請した結果、女性管理職の比率は6.9%(2012年6月)から7.5%(13年6月)に増加しました(その後8.5%まで増加)。女性の就業を支援するための保育施設の整備も進んでいます。13年から17年の5年間で約40万人分の保育の受け皿を確保する目標に対し、14年度末までの2年間で約20万人分の確保が見込まれています。育児休業給付も充実を図り、14年4月から給付額を休業開始前賃金の50%から67%に引き上げられました。
14年6月24日には、「日本再興戦略 改訂2014 ―未来への挑戦―」が閣議決定され、①育児・家事支援環境の拡充、②企業等における女性登用を促進するための環境整備、③働き方に中立的な税制・社会保障制度等への見直し――を柱とする施策が打ち出されました。10月3日には「すべての女性が輝く社内づくり本部」が設置されるなど、具体的な取り組みが動き出しています。
酒井氏は「14年12月の解散総選挙の影響で廃案になった『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律』を今国会で再提出し成立を目指しています。今後も加速度的にさまざまな取り組みを進めていきます」とまとめました。
田口氏からは、アサヒビールの女性社員に対する仕事と育児の両立支援制度について紹介がありました。同社は女性社員比率が17%と男性社員が多い職場環境にあるものの、少ない女性社員の中に多くの『ママ社員』が活躍しています。田口氏は「子どもがいる女性は全女性社員の30%で、育児休業からの復職率は13年の時点では100%。それを支えているのがアサヒビールの"制度"と"風土"です」と話しました。
制度に関しては「中学校就学前まで取得可能な時短勤務制度」、「看護以外でも取得可能な子育て休暇制度」、「最長で2年間取得できる育児休業制度」など、法定以上に充実したものとなっています。 一方、風土については育児に対する上司や同僚の理解とサポート意識が高いことが特長です。これは「働く母親が多い職場環境の中で育まれてきたものです」。出産する女性も早期復職への意欲が高いのも特長の一つです。田口氏はそれを「多くの先輩女性社員の姿をみてきているため」と説明。早期復職のためのプログラムも充実しています。人事部では産休前の女性と面談をし、産後から復職までのスケジュールを一緒に確認することでスムースな復職を支援しています。「復職前に面談、相談を行う企業は多いですが、産休前に行う企業は少ないと思います。これによって女性は安心して出産準備に入ることができます」。
最後に田口氏は、「育児と仕事の両立支援の対象は女性だけではなく、男性社員への支援が今後の課題だと考えています。男女を問わず柔軟な働き方ができることで、たとえ労働時間が短くなったとしても、それ以上の成果が生まれる企業を目指しています」とまとめました。
斎藤氏からはヤフーの女性活躍推進策が紹介されました。ヤフーでは30歳から39歳の子育て世代が男女とも4割を超えるボリュームゾーンになっており、女性の育児支援・活躍支援のため次のような制度を設けています。
・月1回開催のパパママカフェ、年2回開催の復職者座談会、年1回開催の育児休業者座談会、などにより育児者同士のコミュニケーションを促進
・メールや社内SNSを活用し育児や仕事に関する相談ができる仕組み
・20人の女性健康相談員による女子社員の健康相談
・管理職に対する多様性を尊重するマネジメント研修
斎藤氏は「育児支援制度の活用により、女性社員の育児休業からの復職率は93.5%と高い水準になっています」と説明しました。
男女を問わず多様な働き方を支援する取り組みも積極的に導入。「IT企業らしいテクノロジーを活用した『どこでもオフィス』は、モバイルやタブレット端末がVPNで社内ネットワークと接続することで、自宅だけでなく海でも山でも仕事ができるものです」(斎藤氏)。また、長時間におよぶ会議をなくすために導入された『会議チャージ制』は、①会議ごとに人数、役職、時間によって課金する、②会議室の使用は30分以内に制限、③半年ごとに全予約を強制的にリセット――という制度で、これにより会議時間が30%削減されたそうです。
育児と多様な働き方を支援する制度の効果もあり、現在の女性管理職比率は2011年比で15.3%と3%増加しています。部長職以上では10.3%、女性管理職・女性事業マネジャーが合計で197人に上っています。最後に斎藤氏は「社会を幸せにする会社、働く人が幸せな会社を目指す」という宮坂代表取締役CEOの言葉で、プレゼンを締めくくりました。
松川氏からは、サイボウズの人事制度と企業風土の紹介がありました。サイボウズは2000年代の前半、離職率が高いことに悩んでいました。2005年には25%を超えていたそうです。これを改善するためにさまざまな制度を導入し、現在の離職率は3.9%まで下がったといいます。
注目すべきは選択型人事制度。これは勤務時間を、①ワーク重視型(裁量労働)、②ワークライフバランス型(残業は最小限)、③ライフ重視型(残業なしあるいは短時間勤務)――の3つから選択でき、加えて勤務場所もオフィスとオフィス以外から選択できるという制度です。これにより社員が希望するライフスタイルに応じた多様な働き方ができるようになりました。このほかにも「最大6年間の育児制度」、「退社しても再入社できる育自分休暇」、「一人あたり年間に1万円の補助が出る部活動」、「副業の自由化」など、他社ではあまり見られない制度を設けています。
しかし、制度だけでうまくいくものではありません。それを活かす企業風土が基盤になる、と松川氏は言います。「サイボウズには公明正大の文化が根づいています。公の場で明るみに出ても正しいと大きな声で言えること。つまり嘘や隠しごとのない(臭いものに蓋をしない)風土をつくることが、多様な人材が同じチームで働くための最も重要な行動規範であると定義しています」。
一般的に人事制度は人事部が中心になり会社側が決定するものですが、サイボウズでは社員が協力してつくりあげているのが特長です。社員からの意見や提案をもとに、社内のワークショプで繰り返し議論をし、本部長会議で社長が最終的な意思決定するという、社員自らの手による人事制度となっています。
松川氏は「100人いれば100通りの働き方があり、その働き方を支援するには100通りの人事制度が必要になります。人事制度とは、変えるものではなく増やすものだと考えています」とまとめられました。
明治安田生命保険の永島氏からは、丸の内イクメン部の活動について紹介がありました。丸の内イクメン部は、2014年5月に明治安田生命保険企画部内で発足した有志グループです。丸の内エリアの「女性活躍推進」の風土づくりと、会社の垣根を超えた"ワイガヤ"機会の創出を狙いとし、父親と子どもが一緒に参加できるイベントを定期的に開催するなどの活動を行っています。「参加することで父親は子どもとの絆を深めることができますし、また母親は家事・育児から開放された自由な一日を楽しむことができます」(永島氏)。
丸の内イクメン部誕生の背景には、明治安田生命保険の社風があったと永島氏は話します。「明治安田生命保険は『MoT(Moment of Truth)運動』と呼ばれる活動を行っています。お客さまにホスピタリティを感じてもらえる工夫を、小さな集団単位で考え実行するもので、この考え方が丸の内イクメン部を立ち上げる土壌になったと言えます」。また社員4万人のうち8割が女性で、ダイバーシティマネジメントを積極的に推進していたことも、女性の活躍を支援する活動に取り組みやすかった要因の一つでしょう。
丸の内イクメン部は14年には5回のイベントを実施。他社にも声をかけて、約30社からのべ450人(子どもを含む)が参加しています。この活動はテレビ、新聞、雑誌などのマスメディアでも取り上げられ、企業間イノベーションを促進する取り組みになるとの評価を得ています。
最後に永島氏は「丸の内ブランドを活かして、丸の内イクメン部の活動を全国に発信することを通じて、女性の活躍を推進する風土を醸成する」ことと、「丸の内イクメン部の活動をプラットフォームにして、さまざまな企業間連携を図っていく」ことが今後の目標と話されました。
プレゼンテーションをうけて、環境経営サロン道場主の小林光氏(慶応義塾大学大学院教授/元環境省環境事務次官)、師範の竹ケ原啓介氏(株式会社日本政策投資銀行環境・CSR部長)、師範代の水上武彦氏(株式会社クレアンCSRコンサルタント)のコメントのポイントは次のとおりです。
小林氏:企業の中での工夫でできることが多いと感じた。良い取り組みをしている企業に対する評価、インセンティブは難しいかもしれないが、結果的に生産性が向上することで評価されるという仕組みができていくのではないか。
竹ケ原氏:制度だけでなく風土が重要というところに感銘を受けた。小林先生の指摘のとおり、どうやってKPIに表していけるかが今後の課題だと思う。
水上氏:ワークライフバランスというより、ワークライフインテグレーションという表現が適切だと感じた。CSVの観点から女性の活躍は重要なファクターの一つであり、丸の内イクメン部のような活動が出てくることでマーケットも動きだすのではないかと思う。
最後に三菱地所の植原慶太氏から、丸の内における女性活躍支援に向けた取り組みについて紹介がありました。丸の内では、①働く女性の「量の拡大」、②働く女性の「質の向上」、③女性に優しいオフィス街を実現するための3つの取り組み方針、(ⅰ)仕事と家庭の両立を支援する、(ⅱ)働き方改革・キャリア意識の醸成、(ⅲ)働く女性をひきつけるサービス――を定めています。
丸の内ではメディアでも紹介されるさまざまな取り組みを行っていますが、その中から「丸の内東京ビルのキッズスクウェア」、「丸の内サマースクール」、「東京ビルTOKIAのイーク丸の内」、「丸の内保健室」、「リガーレママカフェ」が紹介されました。植原氏は「方針にもとづいて、これから必要な取り組みをさらに充実させていきます」とまとめました。
参加企業、団体(50音順)
旭化成ホームズ株式会社
旭硝子株式会社
アサヒビール株式会社
株式会社伊藤園
株式会社イトーキ
尾畑酒造株式会社
オムロンヘルスケア株式会社
株式会社環境新聞社
キャノンマーケティングジャパン株式会社
株式会社クレアン
慶応義塾大学
サイボウズ株式会社
佐川急便株式会社
清水建設株式会社
シャープ株式会社
スターバックスコーヒージャパン株式会社
ダイキン工業株式会社
東テク株式会社
内閣府
株式会社日本政策投資銀行
公益財団法人日本防災協会
日本郵政株式会社
株式会社博報堂
株式会社パソナ
株式会社パソナグループ
パナソニック株式会社
株式会社日比谷アメニス
前田建設工業株式会社
三菱地所株式会社
三菱地所プロパティマネジメント株式会社
三菱地所リアルエステートサービス株式会社
三菱UFJ信託銀行株式会社
明治安田生命保険相互会社
ヤフー株式会社
エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。