2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。1年にわたって展開されるこのシリーズの基調講演として地球大学アドバンス・モデレーターの竹村真一氏に「3.11から未来へ」と題してお話いただきました。
「サステナビリティ/持続可能性という概念そのものが3.11以降がらっと変わりました。これまでは数十年というスパンの話だったのが、もっと緊急性を要する話になり、特にライフラインの問題や、エネルギーの供給可能性の持続可能性の緊急度が急激にあがりました。
しかし、今度出版される地球大学についてまとめた書籍の序文にも書いたんですが、3.11以降見てきた風景というのは決して新しいことではなく、以前から言う人は言っていたし、地球大学でも取り上げてきました。ドラッガーが「新しい現実」の書きだして使ったブレンナー峠の比喩のように、文化の分水嶺、歴史の分水嶺というのは気づかないうちにいつのまにか通り過ぎていて、はっと気づいたときに何年か前に通り過ぎていたことがわかるものなのかもしれません。
3.11で露呈したいろいろな問題も実はそれ以前からあり、3.11はそれに気づくきっかけであったと。そして、セキュリティという形でリスクの課題を引き受けることで、私たちはクリエイティブに色々なものを作っていくことができる。そういうわくわくするような道行がこれから始まっていくんだろうと思います。」(竹村氏)
3.11を受けて、私たちには3つの"応答責任"があると竹村氏はいいます。1つは「"変動帯"日本の地球感」、もう1つは「日本の国家のあり方」、そして最後に「原子力について」です。原子力については今回は踏み込まず、今後どこかで専門家を呼んで検討することになるとのことです。
「阪神大震災以前には阪神地域に大きな地震は起こらないと考えていた人が多かったように、従来は地球は「不動の大地」と考えられていたわけですが、むしろ日本は浮動する列島であり、日本は安定した大陸とは異なり、いつでもどこでも地震が起こりうる"変動帯"であるという認識をまず内部化する必要があります。そして、これまでの"地球環境"や"エコ"という概念は木や水という表層的なものにばかり注目し、それらを育む大地のメカニズムを忘却してきました。われわれには変動帯に生きる民だからこそ出せる地球感があるはずですが、それを十分深層化できていないし、世界に向けて発信も出来ていません。」と地球に対する認識を内部化し世界に発信することの必要性を竹村氏は説きます。
そしてさらに、それが日本の国家デザイン再考の必要性にもつながると言います。
「今回の震災ではライフラインだけでなく、例えば東北の港が被害を受けたことで、飼料の輸入がストップし、内陸の畜産農家にも影響が出ました。これは日本の国家システムの脆弱性を示しています。
特に輸入される化石燃料依存は大きな問題で、日本のエネルギー自給率は4%、化石エネルギー輸入額がGDPに占める割合4.6%で23兆円にものぼります。以前は化石燃料が安かったので、それに依存する経済が成り立っていたわけですが、今は環境面でサステナブルじゃないだけではなく、経済面でもサステナブルではないことは明らかになっています。でもそれが放ったらかしにされてきていて、震災で国民に共有されるトリガーになったのではないでしょうか。
今回の震災は自然災害としては未曾有とか想定外ではないということが分かってきましたが、一国の災害に対して寄せられた共感としては未曾有だったかもしれません。だから私たちはそれに応答する責任があり、その応答というのは、今の非常にリスキーな社会のあり方をリセットするための一つのソリューションを示すことだと思います。」
「今回の震災は、被災地の復興と並行して、東京や大阪の未然の震災についても考えていかなければならないことも明らかにした」と竹村氏は言います。震災にとどまらず様々なリスクから東京首都圏を守るためにそのリスクをどうマネジメントしてゆけば良いのでしょうか。
首都圏については特にエネルギーについてのリスクとコストが問題になるのだそうです。
「東海地震のリスクがある浜岡原発で事故が起きれば、風向きによっては一夜にして首都圏が壊滅するおそれもあります。そのリスクをほったらかしているのは国家運営とは言えない。その浜岡を止めるということについては菅さんには拍手を送るべきではないかと思います。
また、自然エネルギーのブレンダー峠はもう過ぎていて、5年もあれば自然エネルギーで原発分をまかなえるとも言われています。例えば、サハラ砂漠の太陽熱集光発電では、柏崎と同程度の700万キロワットの発電が可能で、しかも3年でできるとのこと。柏崎はつくるのに30年かかりました。いまから作っても早くても20年かかる原発に投資するのか、少しずつでもすぐに稼動できる自然エネルギーに投資するのか?今問われているのはそういう事なのです。」
そして、そのリスクマネジメントのためには、まずリスクを見える化することが必要なのです。
「2004年の中央防災会議では、首都直下型地震で死者1万3000人、交通死者300人と想定しましたが、ラッシュ時に200万の乗客がおり、地下鉄や地下街の火災や浸水を考えると、この被害想定は甘すぎるのではないでしょうか?また、台風や洪水についても、戦後すぐにあったカスリーン台風が今あったら被害は34兆円に上ると言われますし、今世紀中に起こると言われる59センチの海面上昇で、ゼロメートル地帯が5割増大すると予想されています。
このようなリスクのもとでは、災害が起こることを前提に都市設計を考える必要があります。利根川流域には生命や財産を洪水から守るための知恵として水塚というものがありました。これは、氾濫が発生することを前提に、土盛りをして母屋よりも高い場所に蔵を建築し、非常時の食糧や移動手段としての船などを備蓄するものです。この水塚のパラダイムを現代によみがえらせる必要があるのではないでしょうか?
今回の震災で大津波警報が出ても逃げなかった人がいたように、最後は人間力がものを言います。情報を共有し、参加型の災害情報ネットワークを作るなどしてセンシティヴな都市を構築すること、それが最大の予防減災なのです。」
中央防災会議
そして、もう一つのポイントは分散化です。
「ライフラインの問題については、分散型システムの普及拡大が鍵になります。今回の震災で有名になった六本木ヒルズやJRのように自立電源を持っている事業所は意外と多く、すべて合わせると原発の総量よりも多い6000万kwになると言われます。これと節電によるネガワット節電所をあわせれば、電力の不安定さは解消できる見通しが立ちます。
水も同じで、遠くの水源に頼っている東京のあり方というのは脆弱だという話をしてきました。自立水源をもつことが重要で、スカイツリーには2000tの水を貯めることができますが、墨田区では区内のビルに雨水を貯め、区民全員の3日分の水が貯められるようにしています。
エネルギーにしても水の問題にしても、都市のビルや家の屋根が何もしていないのは実にモッタイナイです。すべての屋根や窓が太陽エネルギーを捕獲し、雨水をスローに蓄えるインターフェイスになれば、年は「自然の一器官」として進化できるのです。」
墨田区区の防災対策
そして最後に、今年の地球大学で何を実現しようとしているのか、それを宣言してくださいました。
「地球大学では、東京を本当にサステナブルな都市にし、東京を起点に新しい持続可能性なセキュリティのパラダイムを探っていくということを月一回やって行くつもりです。
企業の防災などの最前線の担当者やまちづくりの担い手をどんどん巻き込んで、東京のセキュリティや正しい国のあり方をどんどん打ち出していきたい。5年を経て成熟し、震災が引き金となって、そういう行動するサロンにエコッツェリアはなれる段階に来ていると思います。
このいつ首都圏が大震災に襲われてもおかしくないという危機意識の中でも何とかやっていけるロバスト(強靭)な東京になれたなら、この時代に生きた意味があると思います。そうなれるようにチャレンジしていこうということです。それを実現するサロンにこれからはなっていこうということなのです。」
日時:2011年7月25日(月) 18:30~20:30
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