企業・団体のCSRとその広報活動の現場を訪ねる【環境コミュニケーションの現場】。第13回は、環境との共生をテーマにしたパソナグループの「アーバンファーム」で開催された『パソナグループ eco博』にお邪魔しました。
『パソナグループ eco博』は、パソナグループが働く人びとに向けて「環境」を取り巻くさまざまな情報を提供するイベント。『"環境"と"仕事"を考える 〜「職」から「触」から「食」まで〜』をテーマに、講演会やワークショップ、ファッションショーなど多彩な企画が展開され、2日間でのべ2,245名の参加がありました。今回はその中から、初日に行われた講演「環境に優しい街づくり」の様子をレポートします。
最初の登壇者は、横浜市に4月から設立された「温暖化対策統括本部」で統括本部長を務めている信時氏。政令指定都市であり、環境モデル都市にも選定されている横浜市の環境への取り組みについて、「横浜スマートシティ構想」と題したプレゼンテーションを行いました。
まず冒頭で語られたのは、産官学に市民を加えた「四民一体」となった温暖化対策について。技術に寄りがちな環境対策に対して、横浜市では「市民が楽しくよりよく暮らすことが第一」と考え、チャレンジ精神に溢れた「市民力」を活かした取り組みを実践しているとのこと。ゴミ削減への取り組み、環境家計簿、子ども省エネ大作戦など、年月をかけて取り組んできた市民参加による温暖化対策は、一定の成果となって現れてきており、今では横浜市の大きな特徴となっているようです。
そして話題は、スマートシティ化に向けた企業や他自治体と連携した取り組みへ。日産自動車との連携で"世界で一番電気自動車の走りやすい都市"を目指す「Project ZERO」、山梨県道志村との連携で低炭素社会の構築を目指す「都市と農村の連携モデル」、横浜市がコーディネーターとなって低炭素都市推進を目指す「グリーン・エコノミーWG」など、さまざまな連携事例が披露される中、最も特徴的な取り組みとして語られたのが、「横浜グリーンバレー(YGV)構想」です。これは、"シリコンバレーの環境・エネルギー版"とも言える再生可能エネルギー技術のパイオニアエリアをつくる取り組みで、横浜市が企業や大学、研究機関との連携で進めているものです。金沢区に広がる緑豊かなエリアを拠点に、専門家による中小事業者への再生可能エネルギー導入、ベンチャー企業の育成、エネルギーモニタリング事業などのほか、大学と連携した環境教育事業も計画されています。すでに、風力発電や太陽光発電の実証実験、バイオディーゼル燃料事業などが始まっており、2011年度には、海域における温室効果ガス吸収・固定化の効果を検証する「ブルーカーボン」に着手する予定。信時氏は、「資源も食料もエネルギーも、これからは海である」と、海に開いた街ならではと言えるこの構想への思いを強調しました。
さらに、これらを踏まえた今後の「横浜版成長戦略」におけるメインの取り組みとして紹介されたのが、経済産業省によって選定された4都市(横浜、豊田、京都、北九州)が5年間の実証実験を行う「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」の展開です。横浜市で構築し、世界へもそのノウハウを広げていくというYSCPは、「横浜グリーンバレーエリア」を含む3つの地域を対象に、地域エネルギーマネージメントシステムの構築を行うもの。信時氏は、「これは横浜市が152年前の開港時に行ったことそのものであり、その役割を我々が担っているという自負のもと、進めている」とし、強い使命感を持って取り組む意志を示しました。
講演の最後には、『我々の目的は、CO2を下げることではなく、快適な都市をつくって市民に選ばれること』というコペンハーゲン市長の言葉を紹介し、「産業や雇用を確保しながら、新しい技術型の産業に変えた形でCO2を削減していく都市を追い求めていきたい」と改めて市民への思いを語り、講演を締めくくりました。
企業側からの登壇は、日本IBM株式会社の川井氏。横浜市の事例でも語られたスマートシティについて、企業が参入するにあたり考えられる懸念点や解決策について、先行企業の立場から語りました。
「まずはビジネスを始める前に課題から考えることが大事」とした川井氏は、交通渋滞、食物廃棄量などさまざまな地球規模の社会問題について触れ、これらの「非効率」を解決していく必要があること、さらには、都市人口が増加する中、今後、都市と都市の競争が始まることに言及。「住みやすい都市、働きやすい地域をつくっていかないと競争に負けてしまう」と、IBMがスマートシティに着目してビジネスを進めている理由についても説明しました。
続いて、話題は世界のスマートシティへの取り組み事例へ。市内情報をオペレーション・センターで一元管理するリオデジャネイロの取り組みや、ドイツで、6つのモデル地域で同時に行われているエネルギー効率化を中心としたスマートシティ実証実験など、交通、エネルギー、水管理、金融サービス、医療など多岐にわたる先進的事例が紹介されました。一方、国内の取り組みとして紹介されたのは、日本IBMも幹事として参画している北九州市における次世代電力網の実証実験。この実験の特徴は、「スマートコミュニティ」をつくるという観点で、電力関連インフラの整備のみならず、電力価格など暮らしに有用なリアルタイム情報の提供や、オンデマンドバスをはじめとする交通インフラの整備など、「まちの見える化」に力を入れているという点。このようなスマートシティの実証事業は現在、世界約400都市で行われているとのことで、新しいビジネスチャンスが世界中に広がっていることが示されました。
では、企業として、このビジネスにどのように参加していくことができるのでしょうか。川井氏によると、商材によって市場参入時期が異なるとのこと。エネルギー系は、2011年内から参画しなければ遅れを取ってしまう一方、交通、建築、医療関連については2012年以降など、「時期の見極めが重要」と述べました。また、企業が考えるべきこととして「役割分担」について触れ、複数の業種が参入する中で自社のポジションを見極めるだけでなく、新しいサービスを付加するなど、自社の既存の役割を広げる必要性についても言及しました。
川井氏は、「スマートグリッド戦略においては、現在から未来を読むフォアキャスティングではなく、未来の姿を描き、現在に立ち戻って実行すべき施策を考えるバックキャスティングの手法が有効」と、参入企業へのアドバイスで講演をまとめました。企業にとって、スマートシティ・ビジネスは、未来を描く上で欠かせないものになる、そんなことを予感させる講演となりました。
自治体、企業と続いた講演の最後に登壇したのは、本イベントの主催であるパソナグループ代表の南部氏。「アーバンファーム」、さらには「チャレンジファーム」へと広がるその特徴的な取り組みと、考え方について大いに語りました。
「エコなまちづくりというのは、"ストレスフリーな社会をつくる"ということなのではないでしょうか」と、当日の講演の感想から語り始めた南部氏は、まず、「このビルそのものがストレスフリーの環境である」と、「アーバンファーム」についての話題から講演をスタート。この日の会場ともなったパソナグループ本部は「アーバンファーム」と称し、自然との共生をコンセプトとした植物あふれるビル。オフィス内の天井や壁には80種類以上の果樹や野菜が育ち、ベランダや外壁では200種類以上の植物が季節ごとに咲き誇る、パソナグループの象徴的存在となっています。
既存ビルの内外装を一新させて完成させたこの取り組みについて南部氏は、「新しい農業のあり方を考える」「ストレスのないオフィスビルづくり」「まちの環境を考える」という3つの狙いを説明。さらに、アーバンファームにおけるユニークなアイデアや、建築基準などをクリアしてきた苦労話などを語り、会場を沸かせました。
また、2012年春に大阪・御堂筋にオープン予定の10階建てのビルについても、「天井まで吹き抜けにして棚田をつくりたい」という思いを語り、職場環境づくりにとどまらず、ストレスフリーの社会づくりに向けた構想を示しました。
さらに、新たな取り組みとして淡路島で始めた「ここから村」が紹介されました。参加者を契約社員として雇い、午前中は農業、午後は音楽やアートなどに取り組み、芸術をビジネスにするスキルを養うというユニークなプログラムです。また、2008年に7名の若者でスタートした農業ベンチャー支援制度「パソナチャレンジファーム」にも、毎年応募者が殺到しており、現在では「ここから村」とあわせて約200名まで規模が拡大しているとのこと。南部氏は、「いま一番の問題はうつ病などを含めた健康である」として、地方で仕事と趣味、そして健康を組み合わせたストレスのない生活を送ることができる仕組みづくり、一連の農業活性化に向けた事業をパソナグループの新しいビジネスの柱にしていく構想を語りました。「パソナグループは、エコに人の角度から取り組んでいきたい」という言葉で講演を締めくくった南部氏に、満員の会場からは拍手が送られました。
この講演を皮切りにスタートした『パソナグループ eco博』では、2日間にわたり、多彩なゲストを迎えた講演やワークショップの他、エコファッションショーやチャリティコンサートなど、楽しみながら環境について考えることができるさまざまな企画が展開されました。会場の「アーバンファーム」を訪れた人びとは、イベントとともにその環境にも触れ、パソナグループの実践するエコ活動を大いに体感できたことでしょう。