松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。
2012年最初のテーマは「絆」。2011年の世相を最も良く表す漢字にも選ばれたこの言葉を、改めて様々な本を通して考え直してみたいと思います。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗マーチャンダイザー 在岡 正人さん(以下 在岡)
・松丸本舗ブックショップエディター 鈴木 郁恵さん(以下 鈴木)
平尾:今回も丸の内地球環境新聞編集部の平尾・池田の2名でお話を伺います。年初めに、改めて「絆」について考えてみたいと思います。まずは在岡さん、よろしくお願いします。
在岡:私からは2冊ご紹介させていただきます。こちらはクリスマスの定番とも言える絵本なんですが、著者の遺族の方が震災後に「1年間印税を寄付する」と申し出たことでも昨年話題となりました。
ストーリーは簡単で、まず、森の中の道を歩いていた小動物が、おじさんの落とした手袋を見つけて中に入るんです。そこを通りかかった動物が次から次へと「入れて」と言って入って来るのですが、次第に大きな動物になっていく。手袋はいっぱいになってしまうはずですが、とにかくみんな中に入っちゃうんですよ。
最後は落としたおじさんがやって来て、みんなぱーっと逃げていく。話としてはそれだけなんです。でも、これが本当に絵本らしいファンタジーで、そんなにたくさんの動物が一つの手袋に入るわけもないのに、全く違和感が無いんですよね。何とも言えないあたたかさというのでしょうか...今回「絆」というテーマを考えたとき、咄嗟に浮かび、ぜひ紹介したいと思ったのがこの一冊でした。
平尾:これはウクライナの民話なんですね。
在岡:古い民話を絵本にしたものです。最初に日本で出たのが1965年で、150回も重版を繰り返しています。絵本はこういう名作が売れ続けているんですよね。この夢のような話に、温かい「絆」のようなものを私は感じました。絵本ならではのマジックでしょうね。
在岡:こちらは松丸本舗をプロデュースしている松岡正剛さんが監修している、未来の子どもたちにも読んでほしい本です。松岡さんは普段難しい本を書かれているんですが、子ども向けが前提となると、また違う側面を見せてくれるんですよね。
池田:どんな内容なのでしょうか?
在岡:『日本のもと 海』というタイトルではわからないと思いますが、簡単に言うと、日本史の中の、日本と海の関わりを描いた本です。文中に「遠く離れた人と人を、文化と文化をつなげてきたのは海です」とある通り、日本の歴史にはいつも海との関わりがありました。例えば、海産物を与えてくれる自然の恵みとしての海もありますし、遣唐使など海外の技術や文化を伝えてくれたものでもありますよね。最近では天然ガスなどのエネルギーも海から与えられたものです。
ただ、私たちは与えてもらっているばかりで、人間が中心の考え方なんですよね。最後には公害の話も出てくるのですが、あまり自覚することのない海の役割にもっと気付いてほしい、という松岡さんからのメッセージも込められていると思います。要は、自然との「絆」ですよね。
「絆」というと震災後「人の助け合い」がクローズアップされていますが、「人と自然の絆」は忘れがちだと思うんです。例えば、枯山水や銅鐸に波が描かれていることが紹介してあるんですが、そんなところにも、日本人の心の中に海が深く入り込んでいることが表れているんですよね。そういう自覚し難い海との「絆」について、読んで納得する部分もあると思います。
池田:海は「時」もつないでくれますよね。前の時代の人が汚してしまった海が次の世代にも影響するように、自然はつながっているものですから。
在岡:はい。海の底に沈むゴミがたくさんあって、それはほとんど取り除くのが難しい、ということも書いてあります。人間の道具として、与えてくれるだけの「海」とは違うよ、と。
平尾:お話を聞いていて、「絆」という言葉はどちらか一方が恩恵を被ったりできないものだと感じました。人と人の「絆」も、辛い時は「一緒にがんばろう」というものになりますが、それが「しがらみ」みたいになっちゃうこともありますよね。海との「絆」もきっとそうで、恩恵を受けるだけじゃなく、今回のように被害を受けることも起こり得るという。両方あるんでしょうね。
在岡:そうですね。僕がこの本で気に入っているのが、「人がコントロールできない大きな力に対して敬意を持ちましょう」と書いてあるところです。津波など怖いこともありますけど、敬意を持つことがとても大事、とあるんです。
平尾:この本は特に子ども向けというものでもないような気がしますね。
在岡:そうですね。『日本のもと』はシリーズになっていて、小学校、中学校くらいの子に読んでほしい、というのが前提にあるので、絵も多くて、ナビゲーター役がキャラクターだったりもします。「海」では松岡さんは先生役で出てくるんですが、似顔絵がとても似ているんです(笑)。でも、内容的には大人が読んでも充分面白いと思いますよ。
実は絆創膏の「絆」も同じ。つまり、傷ができたときに止血してくれるものが「絆」です。簡単な読み解きですが、これを踏まえて3冊の本をご紹介したいと思います。
鈴木:まずは、絆創膏にちなみ、お医者さんが主題の童話を選びました。文字数も多くて少し読み応えのある本です。
物語は、魔女が怪我をして「お医者さんを呼んで」と言うところからスタートします。お医者さんは、患者がどんなに悪い人でも、どんな状況下でも「人を助けるのが仕事」という使命感の元にある、という考えで、東洋医学的というのでしょうか、全体を診て治療するという思想がベースにあるんです。
例えば、ある王国ではお姫様が原因不明の病気にかかって外に出られず、鬱々としているんですね。そこで間違いから抜擢されたのが、医療の知識のなにもない、木こりだったんですよ。「お姫様を直さなかったら首をはねられてしまう」なんて状況で、木こりは、どうして良いかわからず、とにかく自分ができることをと、お城の周りの木を切ります。そうすると薄暗かったお城に太陽が燦々と入ってきて、お姫様も自然と戯れることで体調を戻していく。そういう自然の循環の中でこそ人間の健全性が保たれるというお話なんです。
最初の魔女も、自分のためだけに使っていた魔法を社会のために使い始めることで変わっていく。「何かあったときにそれを止めるもの」は、自然や社会との調和=「絆」なんだという、そんな物語です。
在岡:これ、タイトル通り、子どもが読むには文字数も多く、ちょっと長いですね。
鈴木:そうですね。でも、妖怪や河童など、空想上の生き物が出てきたりと、子どもでも楽しめると思いますよ。
鈴木:次はこちらです。
池田:あ、この本、私の実家にありました。
鈴木:『モチモチの木』『八郎』など、「ものがたり絵本」というシリーズものなので、絵に見覚えがある方も多いかもしれません。久しぶりに私も読んでみて、懐かしさもあり、うるうるしちゃいました。
短い絵本なのですが、主人公の女の子が山に行って迷子になって、山姥(やまんば)に会います。山姥はこの子に、お花が咲く理由を「人間が優しいことをするとひとつ咲くんだよ」と、教えるんです。そして、その中のひとつの赤い花は「おまえが昨日、咲かせた花だ」と。
この子は、その前の日、「お姉ちゃんだから」と、ほしいものを我慢して妹に譲ってあげたんですよね。「そういうときに花が咲くんだよ」って山姥が教えてくれるんです。
平尾:何だか、いいですね~
鈴木:さらに、山についても、誰かが高波や火事から「命をかけて守ったときに山ができる」と教えてくれます。女の子が山から戻ってみんなに話しても、誰も信じてくれないし、もう一度山に行っても山姥には二度と会うこともできない。でも女の子のなかに「優しいことをすれば花が咲く」ということはしっかりと残るんですよね。
池田:怖さもあって優しさもある。絵も、黒地の本なので、一段と花の色の美しさが引き立ちますね。
鈴木:そうですね。色もそうですが、怖さと優しさが対極することで、ぐっと心に迫ってくるものがありますよね。ワガママになる人がいて、一方でそれを我慢する人がいて、それで成り立っているんだ、という話。「絆」って、「誰かが苦しんでいるときに、その対極にいる人がどうやって手を差し伸べるか」が問われると思うんです。
鈴木:最後は、1軒の家の100年を描いた絵本です。絵だけ見ても分かる本なのですが、1900年から始まって、100年間、人や周りの環境が変わっていく様子を描いています。
平尾:ページをめくるたびに、何が変わったのかを探すだけでも楽しめそうですね。
鈴木:そうですね。畑もあって、季節や天気の変化も細かく描かれているんです。途中、第一次世界大戦と第二次世界大戦が起こり、歴史もリアルに感じられますね。
在岡:あ、これ、家が語り部なんですね。
鈴木:そうなんです。家の目線から語られています。100年後、家が朽ちていって、誰も住まなくなって、最後はこうなるんです。(ここではナイショ!)
在岡、平尾、池田:おお?!
在岡:100年といったら激動なのかと思ったら、意外に静かな絵本ですね。
平尾:ビルが建ったりするのかと思いました。100年なんてあっという間、意外に変わっていないんじゃないか、と思ってしまいます。
池田:人間の営みはすごく変化しているけど、家は変わらずそこにいて、時をつないで、人をつないでいっているんだな、と感じました。
平尾:また、人間以外の目線というのがいいですよね。
在岡:建築と言う視点で見ても面白いですね。日本では、昔の人は家を頑丈につくろうという意識はあまりなかったという話を聞いたことがありますよ。関東大震災なども経験して、100年も経てば家は壊れてしまうものという考えから、そういう発想になったのかもしれません。
平尾:家をどう建てるかという考え方も、国によって違うんでしょうね。
鈴木:でも、津波のようなものが来るとわかっていても海側に家を建てたり、都市をつくったりするところに、日本人の海とのつながりの心を感じますよね。海側のエリアは不動産物件でも人気ですしね。
在岡:僕は「核」だと思いました。
鈴木:2012年を明るく迎えるためにと「絆」になったのかもしれませんね。
平尾:一方で「絆」には脆さのようなものも感じます。2011年は、震災のインパクトがあまりにも大きかったので「傷」をみんなが認識し「絆」が強くなった。でも、その後様々な問題が出てきているなか、気持ちがバラバラになっていってしまうかもしれない。そのときに改めて「絆」を考えるきっかけになればな、と思います。
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