松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。
今月のテーマは「怪談」。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 池澤 祐子さん(以下 池澤)
・松丸本舗ブックショップ・エディター 山本 佳子さん(以下 山本)
にお話を伺い、こちらの7冊をご紹介いただきました。
そして今月はプラス2冊
平尾: 今回は丸の内地球環境新聞編集部の平尾と石村がお話を伺います。
池澤: 今回、「怪談」というお題をいただいたので、東西の「怪談」「妖怪」本を集めて棚を創りました。ご覧いただけましたか?実は私は、「怪談」が苦手で、「わざわざ怖いものを読むなんて」と子供のころからずっと避けて通ってきたんですが、山本さんにうかがったら、彼女も同じで、ふたりとも怪談音痴ということがわかったんです。そこで、松丸本舗の他の人に助けを求めたら、でるわでるわ。ざくざくと推薦本。ここの松丸の棚ににたくさんあることがよーくわかりました。
平尾: わざわざ棚までつくっていただき、ありがとうございます!今日はその棚の中から紹介いただけるわけですね。
1:『日本人はなぜ妖怪を畏れるのか』 三宅 節夫
2:『妖怪萬画』
山本: そんなわけで、まずは入門編というか、「まずは妖怪とはなんぞや」ということを知りたいと思って、井上円了さんという妖怪の名付け親の方にまつわる本を選びました。2ヶ月前にこの円了さんについてギャラリーで展覧会をしたんですが、それも人気がありました。内容は、円了さんは江戸の末期に生まれた人なんですが、日本が近代化していく中で、妖怪や魑魅魍魎(ちみもうりょう)といった非科学的なものは否定していこうとした人です。それに対して柳田國男はそんなことはない。遠野物語とかは素晴らしいじゃないかといったんですね。
それで、その江戸時代以前の妖怪というのがどういうものかを見ることができるのがこの『妖怪萬画』です。これが面白くて、例えば、百鬼夜行は有名ですが、鬼が器になった百器夜行っていうのもあって、台所にあるお釜の妖怪とか変な妖怪がたくさん登場するんです。身近なものが妖怪になるというところに面白さを感じました。
平尾: お釜の妖怪!妖精みたいなものですかねぇ?ちょっといたずらしたりとか。そんなに怖いもんじゃないんでしょうか?
山本: そんなにおどろおどろいしいものではないと思います。お釜が妖怪になってしまうという、その想像力が面白いですよね。
池澤: 北斎漫画にも妖怪だけ集めたものがあったり、歌舞伎とかお能の世界にもありますよね。落語にもありますし。昔の人にはかなり馴染みがあったものなんでしょうね。
平尾: でも、怖さってなんでしょうね。どうして妖怪を怖いと思うのか。
山本: 何だかわからないからじゃないでしょうか。
池澤: 妖怪って2文字とも怪しいっていう字ですよね。怪しいものは怖いし、さらに読みとくとオンナと心、それが怖いんじゃないでしょうか(笑)
3:『時間の古代史―霊鬼の夜、秩序の昼』 三宅 和朗
山本: これはそのもっと前、平安時代の今昔物語などを題材にしたものです。妖怪のことが直接書いてあるわけではないんですが、「霊鬼の夜、秩序の昼」と副題にあるように、古代の人たちにとって昼と夜というのはまったく違う世界で、いまとはまったく捉え方が違ったわけです。今昔物語にも幽霊などが出てきますが、そんな古代の人たちにとっての夜を知ることで今昔物語などを読む場合にも広がりが出てくるのではないかと思って選びました。
平尾: もののけとか幽霊というのは妖怪より前からあったんですよね。
山本: そうですね、もののけという言葉はかなり前からあると思います。
池澤: 鬼もそうですが、非常に神秘的なために恐れられていんでしょうね。禍々しいものが見えてしまう人というのがいて、そこからそのようなもののけが生まれてきたんですかね。結構深いテーマですよね。
4:『フランケンシュタイン』 メアリ・シェリー
5:『吸血鬼ドラキュラ』 ブラム・ストーカー
6:『嵐が丘』 エミリー・ブロンテ
池澤: 私が選んだのは欧米のもので、表現してるのは冬、暗い戦慄の物語たちです。映画の題材として有名ですあ、フランケンシュタインやドラキュラというのは意外と本では読まれていないんじゃないかと。フランケンシュタインは実は作者のメアリ・シェリーが19歳くらいで書いた作品なんです。
一同: へー
池澤: フランケンシュタインのメッセージっていうのはタブーへの挑戦です。人が人を作るなんてことがキリスト教世界ではタブー。そのタブーを犯して作られた人造人間の話を19歳の少女が書く。それが戦慄ですよね。
そこにはバックグランドがあって、メアリのお父さんはウィリアム・ゴドウィンという無政府主義者で、そこに出入りしていた人の一人とメアリは駆け落ち状態で結婚します。そのふたりが詩人のバイロン卿の別荘に集まった人たちと怪奇小説を書こうということになり、そこでマリーが書いたのがフランケンシュタインだったんです。そして、その時のバイロン卿の着想がヒントになって生まれたのがドラキュラなんです。
池澤: 松岡さんがこれを読んだ時に、ヨブ記を読んだ時と同じくらいの戦慄を覚えたと言ってるんですが、それは日本の怪奇とは違う深い恐ろしさだと思うんです。
平尾: 映画などでは「異形のものの悲哀」という形でフィーチャーされることが多いような気がしますが、そんな優しいものではないと。
池澤: そうです。その点はドラキュラも同じですね。映画やマンガの題材になっているフランケンシュタインやドラキュラをあえて本で読んでみたらもっと怖かった。ヨーロッパのお城の中とか、夜のフランス人形のぞっとする怖さを思い出しました。
『嵐が丘』もイギリスですが、イギリスには閉じこもった暗さというか、夜が長いということもあるし、怖い話とか猟奇的な話が多い気がしますね。
7:『レベッカ』 デュ・モーリア
池澤: もう一つはこれまた怖い『レベッカ』です。これは深夜に戦慄してしまうような物語で、とにかく恐ろしい真実が隠されているという話です。これはキリスト教社会とつながっていて、暗くて深い謎が恐怖を生み出しているんだと思います。
池澤: 女の怖さというのもあるし、伏せられたメッセージが明かされていくことの怖さというか、秘密の箱を開けたくないような開けたいような怖さというのが、続いたまま終わるという印象の物語です。
山本: ヒッチコックが映画化しましたが、『鳥』もこの人が書いたみたいですね。
平尾: 『レベッカ』も『鳥』も何だかわからない怖さがありますよね?何が怖さを醸しだすんでしょうか。
池澤: 閉じられた空間の中にある秘密でしょうか。あとは「血」、入り乱れた血統をどうとらえるかという。
平尾: 「人」の怖さですね。
池澤: 人間の本質のものの怖さというか、人が「化ける」ことで怖さが生まれているんじゃないでしょうか。そこにキリスト教の矛盾とか民族的な恨みとかが混ざってくる。
石村: 日本の妖怪みたいのは欧米にはいないんでしょうか?
山本: ケルトなんかにはいますよね。ムーミンとかもそうかもしれない。
池澤: 土着のものはあったんでしょうが、一神教と多神教の違いかもしれませんね。
8:『怪談 牡丹燈籠』 三遊亭 円朝
9:『百物語』 杉浦 日向子
石村: 「怪談」と言えばラフカディオ・ハーンですけど、ハーンはヨーロッパから来て日本の怪談を集めたわけですよね。彼はその違いをどう捉えていたんでしょう?
山本: この間たまたま「日本の面影」というハーンの芝居を書いている山田太一さんの話聞いたんですが、ハーンが来た出雲の国は当時でもものすごく僻地で、出雲神話のような神々の濃厚な世界が残っていて、それでそういうところにものすごく惹かれたんじゃないかとおっしゃってました。
池澤: 霊気を感じたんですかね。
石村: 日本のほうがそういう物語が豊富なような気がしますが、何故なんでしょう。
池澤: 本の話から外れますけど、貞子みたいな世界はアメリカにないのですごく受けましたよね。「恨んで出る」見たいな話が欧米にはないんでしょうかね。能はまさにその世界ですが、日本人は昔からそういう話が好きなのかもしれません。平家物語にも崇徳上皇が恨んで出てくるという話があったり。
石村: 死生観の違いですかね。日本では成仏しない人がいるわけじゃないですか。
山本: 欧米でもゴーストバスターズみたいにゴーストはいますよね。
平尾: 中国はどうでしょう?凄そうですが、なんとなく。
池澤: 聊斎志異のような有名なものもありますし、雨月物語なども中国の影響を受けてると言われてますしね。
平尾: 世界各地、カタチは違えど怪談はありますよね。なぜでしょう?
池澤: 人間の中にある恐れとか、どこかで常軌を逸したいというような根源的なものというのはあるような気がします。幽明さだかならぬところというか、はっきりしない世界に惹かれるというか。
しかし今月のテーマですが、怪談で本当に涼しくなるものなんでしょうかね。
石村: 円朝の噺は実際に寒さを感じたようで、岡本綺堂も円朝の牡丹灯籠を聞いて、顎に冷たさを感じたということを書いていました。
池澤: 昔の夜集まって聞く怪談というのもそんな感じでしたよね。なんかすーっと涼しい風が通るような。
山本: 一人が話しおわるたびにろうそく吹き消すとかありましたよね。みんな話し終わると真っ暗になって「きゃー」みたいな。
山本: 杉浦日向子さんに『百物語』っていうのもありましたね。百の話をするっていう。
石村: (手にとって)これは怖そう...。おどろおどろしいんじゃなくて、なにかヒヤッとする感じ。
池澤: 私なんかは耳なし芳一とかでももう怖いです。日本人が誰もが知っている怪談といえば、ほかにも番町皿屋敷とか、お岩さんとか、四谷怪談とか、結構いろいろありますね。
平尾: 苦手と言いつつ、やっぱりみんな好きですね、怪談話。今年の夏は、怪談持ち寄りキャンドルナイトなんて、よろしいんじゃないでしょうか!
営業時間: 9:00〜21:00
アクセス: 〒100-8203 千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾ4階
お問合わせ: Tel 03-5288-8881 /Fax 03-5288-8892
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