松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。
今月のテーマは「身を守る」。東日本大震災から間もなく1年を迎える今、私たちが心得ておくべき、身を守る術とは? 様々な角度から考えてみたいと思います。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップエディター 大音 美弥子さん(以下 大音)
・松丸本舗ブックショップエディター 山本 佳子さん(以下 山本)
ご紹介いただいたのはこちらの7冊です。
池田:今回は丸の内地球環境新聞編集部の池田がお話を伺います。最近は首都圏直下型地震の報道もあり、再び防災グッズが売れ行きを伸ばしているとのこと。東日本大震災から1年を迎えようとしている今、再び「身を守る」ということについて考えてみたいと思います。では、さっそく書籍のご紹介をお願いします。
大音:こちらの本、実は誕生日に2人からプレゼントしていただいたんです。誕生日に「呪い」っていうのもどうかと思いますが(笑)。
池田:確かに、何か意味があり気ですね(笑)。どんな内容の本なのですか?
大音:この本は11章からなっているのですが、最後の2章は震災後に書き足されたものです。前半9章は「呪いって何だろう」といった話題から始まり、「草食系男子」など、現代社会についても論じていたりするのですが、「荒ぶる神を鎮める」などをテーマにした最後の2章が足されたことで、私は、全体として「腑に落ちた」という感じを抱きました。
池田:なるほど。「身を守る」という観点ではどのようなことが書かれているのでしょうか。
大音:やはり、本当の非常時に大事なのは、判断力なんですね。判断力にも、身体的な判断力と脳の判断力があるのですが、その「身体」の部分に関して、内田さんは「アラームが鳴る」とおっしゃるんです。武道の世界では、ある姿勢でアラームが鳴り、またそこから体勢を動かしていくとそれが小さくなっていく、と。私たちは日頃、身体の声に耳を澄ます訓練をしていないのですが、こういうことが大事なんだな、と思います。
さらにこの本には、敗戦の体験についても書かれています。価値観もひっくり返り、国土も焼けてしまったという敗戦の経験を辿れば、どう立ち直るか、ということがわかるのではないか、と。最終章には、敗戦に立ち会ったときに人は何を考えたか、ということが書かれていますが、そこで出て来るのが「科学と身体」という言葉です。科学的判断と身体的判断の両輪に頼ることが大事だ、と。それ以外にも政治的判断、社会的判断などがあると思いますが、それらを全部振り落としてしまった方が生き残れるよ、と言っています。
池田:なるほど。先代の経験から生き残る術を学んで行くことができそうですね。ところで、タイトルの「呪い」というのは、この本ではどのようなものとして表現されているのでしょうか。
大音:前半部分で、90年代から2010年までの間が、呪いの時代だったよね、ということが書いてあります。例えば、ウェブ上での無署名投稿で人のブログを炎上させたりするようなことが呪いである、と。それを受けて後半では、「呪いは相手とともに発した人をも縛るので、自分が何かを発信するにはそれが贈与になることをめざすべきだ」という論調になります。
源氏物語の冒頭に、六条御息所が生き霊となって出て来るシーンがあるのですが、これも同じですよね。言いたいことがあるけど、取り乱したりするとみっともないので、感情を抑える。そうすると負の感情だけが、わっと出てしまう。震災後は、「自分も怖いけど、もっと大変な人がいるので、そんなこと言えない」という抑えた感情が、呪いとなって飛び交っているのではないか、と感じることもありますね。
山本:私からはこちら、南アフリカのノーベル賞作家の長編小説『遅い男』をご紹介します。主人公は60代の独身男性で、ストーリーは、彼が交通事故で片足を切断し、介護が必要な身体になってしまうところから始まります。その後、自宅で介護士を雇うのですが、ある30代の若い介護士に恋をしてしまうのです。
結末は読んでからのお楽しみですが、私は交通事故を、ある種の「天災」として考えて読みました。天災と同じように偶然降り掛かってきたことに対して、この男性は恥辱とすら感じてしまうんですね。病院で自分の了解も無いまま足を切断されて、介護士には赤ちゃん言葉で話しかけられて、そういう状況に屈辱感いっぱいになります。そんな中、それまで気ままに生きてきた男がどう生きていくか、というところが見所ですね。
池田:う〜ん、これは奥が深そうですね。
山本:私はこれを読んで、さらに大音さんが選ばれた『免疫・「自己」と「非自己」の科学』にもつながっていくように感じました。これは、一昨年亡くなられた多田富雄さんが書かれた本ですが、「免疫は自己である」とおっしゃっているんですよね。「非自己」が襲ってきたときに発動するのが免疫なので、自己よりも非自己が先にある、と。「偶然に起こる事故のようなものを受けて、初めて発動されるものがある」というところが、この『遅い男』のストーリーの中にもあるのではないかと思いました。
大音:それは、松岡正剛さんもおっしゃっているのですが、平時と有事の過ごし方は違うので、そこでスイッチを切り替えなくてはいけないということだと思います。「身を守る」というのは平時の考え方なのですが、今、私たちは有事の状態にいます。すでにあったことを無かったようにはできないので、その後どうするのか、と。
日本の戦後の経済成長などは、それを無かったことにしちゃったんですよね。だから、そこで様々な歪みもあったと思います。今の状況は、「原発事故がありました」というところから出発しないと、絶対に身を守れない。守るどころか、今実際に危険にさらされているのだから、それを前提に免疫を発動させたり、貨幣について考えていったり(『貨幣とは何だろうか』)しないと力が出てきませんよ(『癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか』)、絶滅しちゃうよ(『これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』)、ということですよね。
池田:おぉ。この視点で、いろいろな本がつながっていきそうですね。1冊ずつ紹介をお願いします。
大音:こちらは、絶滅危惧種ばかりを見に行ったストーリーなのですが、著者はイギリスのSF作家で、別の書籍では、銀河の都合で地球が立ち退かなくてはいけない、というようなストーリーを書いている方です。この本も、ただ「動物がかわいそうだ」というメッセージではなく、「人間が平気でやっていることを地球規模でやられたらどうなんだろう?」ということを示しているんです。他の環境論者とは違う目線で、「動物と人間が平等というのもおこがましい。彼らは彼らの目線がある」というところから話を進めています。
池田:動物の目線で考えよう、ということでしょうか?
大音:「動物の目線には絶対に立てない」ということを常に考えているんです。例えば、ワニが何かを食べるときに、人間がそれを見るショーがありますよね。人間はその残虐さを楽しんでいる訳ですが、彼らにしたら私たちがハンバーガーを食べているのと同じこと。そのくらい、分かり合えない関係なんです。それを「見られるのは嫌なのではないか」などと、安易に擬人化をして考えること自体が間違っている、というような考え方です。
池田:絶滅危惧種の写真もたくさん掲載されているんですね。
大音:はい。例えばこちらに「カカボ」という鳥がいますが、この本で有名になり、現在、絶滅危惧種のキャンペーンでツイッターをこの鳥がやっているということになっているらしいです。島の生物なので天敵を知らず、敏捷になる必要も無く、生殖も熱心じゃなく暮らしていたところに、いろいろな人が島に来るようになって、外来種が入ってきて、絶滅しそうになった動物です。他にもたくさんの動物が紹介されています。
池田:今度は経済的視点からお話を聞かせてください。先ほど、ちらっと『貨幣とは何だろうか』をご紹介いただきましたが......。
大音:身体も大事ですが、やはりお金がなくてはご飯がいただけません。ではそもそも「貨幣とは何か?」ということについて誰にでも分かるように書かれたのがこちらの『貨幣とは何だろうか』です。特徴的なのは、ゲーテやジッドなど、古い小説が出て来ることです。その中で、貨幣がいつ頃から力を持ち初めて、そこから何がどのように変わってきたのか、ということが書かれています。
池田:貨幣自体はすごく昔からあるものですよね。
大音:はい。あったことはあったのですが、株式など、貨幣が貨幣を生むシステムが生まれ、本来貨幣に代えられなかった土地や労働、貨幣そのものも貨幣で動かすようになってから、「貨幣の変質」が始まったということが書かれています。
池田:現代は貨幣によって支配されているという実感がありますね。その中で私たちが身を守るにはどうすればよいのでしょうか?
大音:貨幣は人間の道具なのに、それに仕えるのはちょっとオカシイ。なので、そこを変えていこうということが、こちらの『小商いのすすめ』に書かれています。私もこれから読もうと思っているのですが、きっと面白いと思います。
山本:資本主義経済が破綻すると、津波などの天災と同じような壊滅的な状況になるのではないかと想像するのですが、おそらく『小商いのすすめ』はこの経済成長一辺倒の風潮に疑問を投げかける内容だと思います。今もユーロが暴落していますが、破綻する可能性を秘めているのに、経済成長だけを追ってきたということに対する危うさを問題にしているのでしょうね。
池田:未だに日本は経済成長を前提とした政策が取られていますが、その概念を柔軟に考えていくことが、今の日本の最大の課題なのかもしれませんね。でも、自分自身も今はお金がなくなったらどうやって生きていくのか、術がない気がします。
大音:社会も変わってきていて、例えば5歳の子どもが1万円札を持っていても、今はコンビニの店員さんは売ってしまいます。でも、20年前はそうではなかったですよね。「何でそんなの持っているの?」と必ず聞かれるし、それは使えない状況だったんです。でも今は記号として受け入れてしまい、5歳児が1万円札出しても「ありがとうございました」と言ってしまう状況。それを変えていかないといけないのだと思います。今は地域通貨や「おむすび通貨」など、用途が限定された通貨が出てきましたが、そのあたりにこれからの希望が見いだせる気がします。
池田:では最後に、こちらの本のご紹介をお願いします。こちらも免疫に関する内容でしょうか。
大音:はい、まさに「免疫」や「自然治癒」がテーマの本で、代替医学のバイブルのような本です。「ホメオスタシス」という言葉は生物で習ったと思いますが、人間の身体には均衡があって、それが破綻した状態が病気です。そこに移行していく間にあるのが、漢方で言う「未病」であり、今で言う「生活習慣病」だったりします。では、それを予防するにはどうしたらいいのか、と。
池田:どうしたらいいのでしょうか?
大音:何よりも「気力」ですね。「気」は昔の漢字では「米」という字が入り、「氣」と書きますが、米を食べる民族はみんな「気」という概念を持っているらしいのです。去年のお米から今年のお米が穫れて、その前のお米から去年のお米が穫れるので、米は過去の記憶を全部持っています。しかもつぶさない状態で食べるので、過去の記憶も全部私たちは食べている。そう言われるとなんだか身体にいい気がしませんか?
池田:はい。なんだか一粒一粒にパワーがこもっていそうです。
大音:すりつぶした米粉なんかも、科学的には成分が同じと言いますが、身体は絶対違うものだと分かるのです。そういうことを、自分で納得するために考えさせてくれるのがこの本です。
池田:免疫と言えば、インフルエンザの予防になるという乳酸菌が話題になっていますね。
大音:あれも実験で効くという結果が出たようですね。でも乳酸菌だけじゃだめですよね。たとえば笑うと免疫力が高まるらしいです。笑いヨガなんていうのもありますよね。
池田:ありますね。あれは見た目は滑稽ですが、実は気持ちよかったりしますよね。そうやって、医学も、先ほどのお話の貨幣経済も、絶対的なものと信じ込まず、自分できちんと考えることが大事なのかもしれませんね。
大音:一度根源のところまで辿るといいと思います。お医者さんに行ったとき、今自分がされているのは、呪いなのか、まじないなのか、癒しなのか、と考えてみる。例えば初期のガンは、身体の老廃物の有毒なものを「おでき」のようにためているもので、悪いものが入ってこなければ勝手に消えていくと言われています。でも、切除したり過激な投薬をしてしまうことで逆に悪化してしまう、ということが最近問題になっているそうです。ガンの種類によるらしいですが。
山本:でもお医者さんの言うことは信じちゃいますよね。お金も本当はただの紙切れなのに、「1万円の価値」と信じてしまっている。
池田:完全なる信仰ですね。原発も「絶対的に安全」というものが崩れ去りました。何でも身近なモノに対して「本当にそうなの?」と問いかけてみたいですね。
大音:そうやって「肝の太い人間になる」ことですね。まずはパンよりもお米を食べることから始めましょう。(笑)
池田:そうですね!今日はすべての本がつながっていて、世界が広がった気がします。そして、この時代に地に足を着けて生きるヒントをいただきました。ありがとうございました。
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