・松丸本舗マーチャンダイザー 栢下 雅澄さん(以下 栢下)
・松丸本舗ブックショップ・エディター 中澤 健矢さん(以下 中澤)
にお話を伺い、こちらの8冊をご紹介いただきました。
平尾:今回は丸の内地球環境新聞編集部の平尾と池田がお話を伺います。
ソーシャルメディアが本格的に普及し、探そうとしていなくても情報が次々に入って来る状況の中、受け手側が混乱してしまうこともありますよね。情報を収集するだけでなく、発信することも含めた編集する力が必要となってくるのかなと思い、今回は「情報を編集する力」というテーマを選びました。では、さっそく書籍の紹介をお願いします。
栢下:まず、「本の編集」という観点から、変わり種として、辞書の編集部を舞台にした小説『舟を編む』をご紹介します。著者の三浦さんは、恋愛小説や青春小説など様々な作品をお持ちですが、仕事の世界を描いた「職業小説」も多く書かれている方です。編集力を必要とする人々、という意味でこちらを選びました。
平尾:タイトルの『舟を編む』というのはどういう意味なのでしょうか?
栢下:帯に「言葉の海に魅せられる人びと」とある通り、言葉の海に浮かぶ舟としての「辞書」を創りあげて行く、ということだと思います。
平尾:現代語事典などであれば、毎年新しい言葉を追加するのかなと思いますが、辞書を編集する現場って想像できません。でも毎年のように版が出ますよね。
栢下:改訂されるまでにどんな苦労があるのか、なんて普段は分からないものですよね。きっとものすごく細かい作業なのだと思います。辞書を編集する現場を描いた小説は今までなかったと思いますので、この小説は非常に読む価値があると思います。
栢下:こちらは「出版人に聞く」というシリーズの第1弾で、池袋にあるリブロの元店長で、業界では有名な「今泉棚」をつくった伝説の書店員・今泉正光さんの本です。インタヴュー形式で展開していて、今泉さんの書店員人生を振り返りながら、どのように今泉棚がつくられていったのか、ということが語られています。
平尾:伝説の「今泉棚」、いったいどんな棚だったのでしょうか?
栢下:人文書の棚を、豊富な知識を元に系統立てて並べるという、独創的な棚だったようです。それによって本がたくさん売れて、伝説化されていきました。他のジャンルでも棚をつくる前に、たくさん参考文献などを研究して、どういうものを勧めたらいいか、ということを把握して棚づくりをしたという、棚づくりのプロですね。書店員にとって、「棚づくりのお手本にしたい」と思う方ですね。
平尾:やっぱり、書店員さんは他の書店に行かれても、棚づくりが気になってしまうものですか!?
栢下:気になりますね。小さいお店でも、いろいろ置き方を工夫されていますし、大型書店に見られる「ジャンル分け」ではない棚になっているところも増えています。本自体も編集されたものなのですが、それを見せる棚を編集するという発想。その走りと言いますか、「編集された棚」として業界で一番有名になったのが、今泉さんの棚でした。松丸本舗も本棚を編集していますが、その元祖とも言える方ですので、この本をご紹介させていただきました。
栢下:今度は、本の世界からさらに広げて、「編集力をつけて生きる力に変えていこう」という内容の本をご紹介します。著者はクリエイティブディレクターの方で、その方が主宰するワークショップの講義録のようになっています。
池田:具体的な編集テクニックが書かれている訳ではないのでしょうか?
栢下:本の編集自体もカリキュラムとして入っていて、メディア論、インタビュー術、情報デザインという内容から、最後は「生活の編集へ」という流れになっています。
平尾:「イシス編集学校(※)」にも似た考え方でしょうか。一般的に「編集」というと、「どうまとめて打ち出すか」というところまでの意味で捉えられてしまいがちですが、それが「どのように人に伝わっていくか」、情報をデザインするという点を重視されているのかな、と想像します。
中澤:イシス編集学校では、オンライン上に共通の意志を持った人たちが集まり、発言を繰り返していくのですが、スポーツのように、最初は頭ではわかっていても身体が反応しない。カリキュラムの「型」に乗り、繰り返すことで、徐々に「編集」、情報のデザインが分かっていくのです。
平尾:それはまた、鍛えられそうですね。
栢下:この本も、松岡正剛さんの考え方にも似ていて、編集力をつけるためのポイントがまとめられている1冊だと思いますよ。
(※)「イシス編集学校」は、松丸本舗をプロデュースする松岡正剛氏によるオンライン上の編集学校。全国各地、海外からも集まった様々なバックグラウンドを持つ生徒が「教室」上で、発言やプレゼンによって自分を表現していく術を学んでいます。4月からは丸の内朝大学で『「編集力」めざましクラス』も開講!
栢下:こちらは先ほどの本とつながるので、オマケとしてお持ちしました。小川洋子さんと、臨床心理学者の河合隼雄さんの対話集で、対話の中で自分の物語を発見していきます。人生の中で得た有用な情報や、様々な経験が自分の中に蓄積されて、それが生きる力をつけていくことにつながる、という内容になっています。
中澤:対話集って、ものすごい編集が入って、編集学のコアでもあるところなんですよね。情報が相互に入り合って、どんどん変わっていく。
栢下:人との会話というのは、自分から発信して、また人からの情報で知らないことを知って、「経験が編集されていく」ものです。小説家じゃなくても物語をつくることができるんですよね。「生きることとは、編集力をつけること」とも言い換えられると思います。
平尾:では次に、中澤さんからのご紹介をお願いします。
中澤:僕の持ってきた本は、栢下さんのものとかなりリンクしています。まずは、棚づくりにつながると思いますが、「アフォーダンス」という、情報に関する根本的な概念に関する本をご紹介します。
例えば、コップを持つ動作では、手が近付くときに、勝手にコップの形になっていますよね。そのとき、コップと手の間でものすごい数の情報の交換が発生して、「コップが、手がその形になるように、環境情報を誘発している」とする考え方。それが、「アフォーダンス」という理論です。
この『アフォーダンス入門』は、文章などの編集の前に、その観点を身体的なものとして捉えるために、オススメの本です。棚でも、パッと目につくものとそうでないものにはアフォードの差がある。「今泉棚」も、きっとそうなっていたんだと思うのです。
栢下:自分で棚をつくっていたつもりなのに、もしかしたら本に誘導されてそうなっていたのかもしれない、とも考えられます。
中澤:そうなんです。そう捉えると、自分のまわりの環境が全てが何かしらの形で誘導されている、身体との間に何らかの編集がある、という視点を持つことができます。
中澤:編集の基本は言葉なんですが、僕自身は言葉が苦手で、「言葉のバリエーションがない」と考えていたときに出会った本がこちらの類語辞典です。
辞書は通常、50音順に並んでいますが、この本では「自然」「天文」などのテーマに分かれて編集されています。松丸本舗の棚に似ている、とも言えるかもしれませんが、編集力のセンスが表れている辞書ですね。関連する言葉が近くに並べられているので、調べた言葉から他の言葉へ、どんどん頭の中でつながっていきます。
平尾:読みたくなる辞書ですね。
中澤:そうなんです。持っているだけでも格好いいし(笑)、僕自身、初めて辞書が面白いと思いました。今の時期は入社祝いなど、贈り物にも喜ばれると思います。
中澤:「アフォーダンス」の概念と、言い換えて編集していく「類語」を合体させたような本がこちらです。ひとつの文章を、フォーマットが決まった中で少し言い換えていくだけで、全く違うものになることを示す99バリエーションの文章が掲載されています。その変化は驚くべきものですし、装丁も素晴らしい。編集というものを表した見事な成果物だと思います。とても有名な本で、編集学校などでもよく使われています。
平尾:見ていて、「こういうものが編集なんだ」というのが分かる本ですね。アフォーダンスと言いますか、その微妙なニュアンスを多くの人に伝えられているということ自体、編集力のすごさですね。言葉だけでもデザインだけでもない、そこには何かわからない何かがあるような...
中澤:そうなんです。例えばパイロットは、空間を知覚するときに、点と線だけでは把握できず、離着陸時は床の面の表面のキメで捉えて把握しているそうです。このように、ものすごく小さなところに人間は誘導されていることもある。アフォーダンスは、何が原因か言い切れないものなんですよね。でもそれを知っているか知らないかで全然違うし、編集の中でも「分節化」していかに細かく配置を変えていけるか、という決断力が大事だったりもするんですよね。
中澤:僕も、最後のこちらはオマケというか真打の登場です。松岡正剛さんが10年間続けている「連塾」というイベントがあるのですが、それを書籍化したものです。日本の中から方法を読み取り、逆に「日本とは方法だ」ということを言っていて、日本の誇り、アートなどから、最終的には「日本の行方」という話へ展開していきます。
日本というものを、学校の教科書とは全く違う捉え方で見ることができる講義なので、日本史に興味がある人や、編集や方法に興味がある方にもぜひよんでいただきたい本です。
平尾:全8冊をご紹介いただきましたが、「編集」という言葉そのものの定義が、既に難しいということに気づいてしまいました...
中澤:すごく難しいです。文字通り「集めて編む」ということですから、何でも「編集」と捉えられてしまう。自分で情報のジャッジができない場合もありますが、時には「えいや」とやってしまう方法もあるのかな、と。その「えいや」を、いかに他のものと重ね合わせてできるかが、編集力にかかっている。どこまでいっても、自分から出す情報はひとつじゃないんです。
平尾:情報はひとつでは成立しないし、最終型もない..
中澤:そうなんです。松岡も「本は1冊ではいられない」「情報はひとつではいられない」と言いますが、何かしらくっついてしまうものなんですよね。編集学校も答えなんてなくて、でもどんどん仮で出していくことで、まわりに影響されて違うものになっていく。その過程で周りに後押しされていくというのが不思議なものだな、と思います。
平尾:TwitterやFacebookもそうなんでしょうか。
中澤:松岡さんは、「Twitterは型がない」と言います。役に立って機能的ではあるんですが、型がないから、合わさらないし、競い合わない。
平尾:なるほど。この型を学ぶことが、編集力を鍛えるということにもつながるのですね。
中澤:そうですね。体験から学ぶしかないのだと思います。
平尾:鍛錬あるのみ!やはり編集はスポーツですね。
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