松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。
今月のテーマは「宇宙入門」。
・松丸本舗売場長 宮野 源太郎さん(以下 宮野)
・松丸本舗ブックショップ・エディター 立岩 希世衣さん(以下 立岩)にお話を伺い、こちらの8冊+1をご紹介いただきました。
平尾: 今回は丸の内地球環境新聞編集部の平尾と石村がお話を伺います。
5月21日に24年ぶりという金環日食もあり、話題の漫画「宇宙兄弟」も映画化されるなど、最近何かと話題の宇宙ですが、物理学とかはっきり言ってわからな事だらけなので、まずは「宇宙入門」ということでこんなところから宇宙を考えてみようという本を選んで頂きました。さっそく紹介をお願いします。
宮野: 入門ということなのでまずこちらの子供向けの絵本から。かなりのロングセラーで翻訳版の初版が1969年でいま81刷です。
一堂: すごい!
宮野: 著者は『おさるのジョージ』のレイさんで、子供向けにいろいろな季節の星図や星の話、そのバックにある神話の話、クイズなどが載っています。加えて光年とは何かとか、惑星ってなんだろうっていうコラムが掲載されています。私も星が好きだった時期があって、そのきっかけがこの本でした。
平尾: 出会いはいつ頃ですか?
宮野: 小学校低学年くらいの時ですかね。訳者も草下英明さんという僕らの世代にとっては星の先生のような一般向けに星の本をたくさん書かれている方で、光年っていう言葉をこれで初めて知って「なんて遠いんだろう」と衝撃を受けました。でも同時に石器時代に光った星のとなりに戦国時代に光った星があってその隣には1.3秒前に太陽に照らされた月があって、今という同じときに見えるっていう不思議に魅せられて未だにそれを引きずっているという感じです。それで今回思い出してみたら「本屋の棚も(別の時代のものが同じ棚に並んでいて)同じだなぁ」と思ったりもしました。
平尾: いいですね。でも、なかなかここから先に進めないんですよね。
宮野: そうですね。今でもこれ読むと満足してしまう。読みやすいしいま読んでも違和感がないので、そういう意味ではすごい本だと思います。
もう少し大人向けというと、この『星三百六十五夜 夏』。ご存知の方も多いと思いますが、春夏秋冬と出ている星の物語についての本です。それぞれの星座にどういう伝説があるのかということが中心で、昔の人たちは光をどう結んでどんな物語を創造したのか、そんなことを想像していただきたいです。
宮野: ここから完全に文化系に走ります(笑)。北沢さんは記号論や構造論の研究者で、音楽論やインディアンの話についても書いたり、かと思えばミシェル・フーコーを論じていたりという非常に幅広い方です。古事記についても記号論的に分析した著書(『日本人の神話的思考』/講談社現代新書)があるんですが、その後に書かれたのがこの本です。星座というとギリシャ神話を思い浮かべますが、古事記の中にも星の話はあって、例えばオリオン座の中心の3つの星を和名でからすきっていうんですが、それは天照大御神がスサノオの剣を噛み砕いて吹き出した時に生まれた三女神であるという話があります。
北沢さんは古事記という神話を、われわれの風土や生活を相対化するためにものや動物に仮託しながら作り上げた物語ととらえ、天地創造から海幸彦山幸彦の物語まで記号論的に読み解いています。
そこでは星の話だけではなく、島が生まれたり、農業のような人の営みが始まったりという物語もあるんですが、これは当時の人達にとっては星や気象が生活と一体のものであり、星を見て明日の農作業を決めるというように、宇宙も何も全部ひっくるめて生活を考えていくことが当たり前だったということを示唆しています。そう考えると星を私たちの暮らしの身近にあるものとして読めるんじゃないかと思うんです。
平尾: 今よりも宇宙と人の距離が近かったんですね
宮野: 近いと言うよりは星も何もかも一体という感じじゃないかと思います。そういうふうに宇宙を捉えていた人がこの同じ土地に暮らしていたというところから宇宙を考える入門もあっていいんじゃないかと思って選びました。
宮野: 今度は、NASAで客員研究員をされていた先生が、宇宙についてと言うよりも、なんで宇宙を研究しているのかとか宇宙と関わる中で自分が何を感じたかというようなことを書いた本です。宇宙への入門書としてはどうかと思ったんですが、宇宙との関係という話の延長で選びました。
そして、宇宙の研究から教わったこととして「全てはたったひとつのところから生まれてきた」「全ては互いに関わり合っている」「全てのものはバランスがとれている」という3つをあげています。つまり私たちは宇宙のバランスなかで全てが関わりあう中で生きているんだということです。
星の話なども非常にわかりやすく書かれていて、そこから宇宙の研究にさいして感じたことが私たちが生きていることに無関係ではないということを、エッセイ風に書いています。月が女性の身体的なものに関わってくるように、宇宙や星というのは私たちと無関係ではないということを身体感覚で読みなおしてみるのもいいかなということで以上の3冊を選んでみました。
平尾: なるほどー
宮野: じゃあ今日のメインイベントのほうを(笑)
立岩: メインイベントって(笑)。私が選んだ本とすごいかぶっているのでなるほどと思って聞いていました。
平尾: では、立岩さんお願いします。
立岩: 宇宙ってものすごく広いのでどこから入ろうかなと考えて、英語で「Space」と「Universe」と「Cosmos」とあるそれぞれの言葉からイメージする宇宙についての本ということで選んでみました。それで、最初は「Space」ということで、空間的な意味での宇宙あるいは物理学とか現象としての宇宙を扱ったこの本にしてみました。
「宇宙と人間を語る」というタイトルのように宇宙の話だけでなく、それにつて思いを馳せる人間の話でもあります。最新の物理学を踏まえつつ、それを考える科学者が必ずぶつかる「何故この宇宙があるんだろう」とか「存在ってなんだろう」という根源的な問いについてまでも考えていて、それについて哲学の分野の研究がもっと豊かになっていって欲しいというようなことを書かれています。
平尾: 確かに科学者が哲学を語ることはあっても哲学者が宇宙を語ることはあまり無いですよね。
立岩: 考えられていないわけじゃないんでしょうけど、踏み込んで行けないみたいなのがあるんでしょうね。
宮野: 物理学者の人にこういう話に託して語られるとどこか腑に落ちるところがありますよね。
立岩: でもホーキングさんは、理屈はどうでもいいということも言っていて、まわりで起きている現象について何の齟齬もなく説明できていれば、それが自分の唱えている説でなくてももちろんいいし、昔の人が言ったことでもいい、とすら書いています。
立岩: 次の湯川先生の本も素朴な「宇宙ってなんだろう」とか「存在ってなんだろう」という問いを考える本ということで、今度は「Universe」という意味での宇宙です。大学をユニバーシティというようにジャンルをまたいだ教養になるような本ということで選びました。
短いエッセイや随筆を集めたもので、日食などについても書いています。未開人が日食があると地上にも凶事があると恐れたことを現代人は滑稽だと思うんだけれど、一瞬先に自分の身に何が起こるかわからないというのは現代でも変わりないことで、わからない、ということが希望だと書いています。
平尾: わからないことが希望?
立岩: わからないところがあるから冒険心も生まれるし、冒険心から進歩するということです。この本は、湯川博士がどのような生い立ちを経て物理学を志したかということも書かれていたり、物理学とはそもそも何かという物理の入門的なものでもあり、宇宙と物理学の入門でもあります。タイトルの「目に見えないもの」というのは湯川先生が発見した中性子のような目に見えないものが世の中に満ちていて、それを知らなくても支障はないけれど、それがあることを広めていきたいと書いています。その目に見えないものを見ようという探究心が大きな功績の陰にあるんだなということに感心しました。
石村: それで宇宙もどんどん目に見えるようになって来ているわけですね。
立岩: そうですね、それで、その変化と言うのが、つまるところ人間の認識の変化だというのが面白いなと思います。太陽が地球の周りを回っていたと考えていたのが逆になったように、宇宙は昔から変わらないけれど人間の認識のほうが変わって、正しいか正しくないかじゃなくてそのプロセスの歴史が重要なわけです。
平尾: 宇宙についてもアインシュタインの相対性理論に反証が出てきたらがらっと変わるかもしれないわけですよね。現時点では答えだけど、それがずっと答えであるとは限らない。
立岩: そうですね、そのアインシュタインも宇宙の複雑やユニークさに驚きを覚えるよりも、むしろそういうことが人間に理解できることが驚きだといっています。宇宙が不思議と言うよりは、それについて考える人間のほうが謎だというスタンスなんです。
立岩: 宇宙から人間に話題がシフトしてきたところで「コスモス」の話を。人間が考えてきた宇宙観についての本で、同じく西洋編や『日本人の宇宙観』という本もあります。
これは古代から現在までどういうふうに宇宙っていうものを考えてきたかという人間の頭の中の歴史の本です。どの神話でも最初に混沌としたカオスの状態があってそこから世界が生まれたと始まるわけですが、これは物理学も直面している根源的な問いの答えを昔の人達も物語として作っていたということです。エリアーデがお祭りというのは宇宙創成のプロセスを再現する行為だと言いましたが、それはつまりそのような行事を通して宇宙の一部として自分たちがあるということを常に確認していたということでもあるわけです。暦もそうですよね。太陽と月との関わりの中で、人間が作り上げてきた習慣ですから。
それが実際行われていることを扱ったのがこの『月と農業』です。月齢をどう農業に取り入れてきたか、満月の夜に植えたほうがいいとか刈入れをしたほうがいいという知恵です。昔の人は宇宙だとか地球だとかということを分けずに生きていた方法なんだと思います。
平尾: 生物学ではそういう研究されている方多いんでしょうかねぇ。宇宙のことを考えている人間のほうが興味深いっていうのも一緒ですよね。私達も宇宙かも知れないですよね。
宮野: それはちょうど佐治さんが全てはビックバンから始まっているっていうのと同じ事かもしれません。
立岩: そうですよね、どこから宇宙かっていうのも、神話の世界で言えば地球の外が宇宙というわけじゃなくて私たちも含めて宇宙という考え方ですよね。昔の人達の暮らしはこういうものとつながっていたとすごく私は感じていて、例えば、何故かわからないけど床の間に上がっちゃいけないとか、そういう経験の積み重ねが、自分たちの存在以外の"目に見えないもの"に意識を向けることにつながっているんじゃないかと。
一瞬先のことは予測できないというのも、昔の人は大きな地震などにあっても今の私たちとはショックの受け方が違うのではないかと思うので。そういう、想定できない(=目に見えない)モノゴトは常に身の回りにあるのだということ、それを受け入れられるスペース(宇宙)が昔の人々の裡にはあったんじゃないかと。
平尾: 今の人は明日どうなるかわからないっていうのが昔の人ほどリアルじゃなくなったってことですかね。
宮野: 今の人は自分たちがコントロールしていると思い込むから、なんでも想定外といってしまうんじゃないでしょうか。
立岩: できると思い込んでいることが問題なんでしょうね。その点、最先端の研究者は、この理論も明日覆るかもしれないなと言うことを常に肌で感じているから、宇宙論と一緒に生きてきた人達と同じ目線で、説明出来れば理屈はどうでもいいというスタンスになるのではないかと思ったりもしました。深すぎますね、宇宙って。
石村: なんか理解できないものはみんな宇宙みたいな。
立岩: そうかもしれないですね。はみ出したものは全て宇宙にしちゃえということで最後にこれを。
番外:『二十億光年の孤独』谷川 俊太郎
宮野: きたか!
立岩: 詩や詠がまた新しく物語になって、それが宇宙を作っていくっていう結論でどうでしょうか。
平尾: すばらしい。宇宙、広かったですね、本当に。
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