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【環境コミュニケーションの現場】 知恵のインタラクションが先進的な環境配慮アイデアを生む--竹中工務店が社内外に発信する「竹中環境シンポジウム」

kcom_takenaka_01.jpg企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第23回は、竹中工務店による「竹中環境シンポジウム」をご紹介します。「竹中環境シンポジウム」は、先進的な環境配慮建築を実現する取り組みの一環として、竹中工務店が毎年開催している社内コンペ。テーマに沿った提案を社員から募集し、優秀作品を社内外に発信しています。

9月19日(水)、『これからの都市における木造・木質建築』をテーマに、第4回目となる「竹中環境シンポジウム2012」が開催されました。この取り組みにかける想いと今後の展望について、地球環境室長の川原田稔さんにお話を聞きました。

チーム一丸となって取り組むアイデア発信の場

― 今回で4回目となった「竹中環境シンポジウム」ですが、開催に至った経緯をお聞かせください。

数年前に、「環境コンセプトブック」(2010年発行)の検討を始めたことがきっかけでした。これは、弊社の環境への取り組みの長期的なビジョンを発信する冊子で、その中で"カーボンニュートラルな都市の実現"をコンセプトに掲げ、2050年に向けた長期のロードマップを作成しました。この長期目標を実現するためには、ベストプラクティスの創出や日常の取り組みが大事です。研究開発や技術開発も必要となってきます。設計の担当者が「2050年の建築のあるべき姿」を描き、研究・技術開発の担当者と共創することによって、研究要素が見えてくるのではないか、という発想もあり、コンペ形式のシンポジウムを始めました。

― 実際にコンペはどのように運用されているのでしょうか?

設計担当者を中心に、有志でプロジェクトチームを組んで企画をつくりあげます。ゴールデンウィーク前からテーマ等のアナウンスをして、6月に提案書提出、7月に最終審査、というタイトなスケジュールで進めます。業務もある中で、高いモチベーションを保てるのは、ベストプラクティスを生み出し続けたいという強い想いと、シンポジウムで発表すると審査員である有識者の方々と直接ディスカッションできることもあると思っています。

― 1、2回目は社内向けのコンペだったそうですね。公開することになったのは何かきっかけがあったのですか?
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公開シンポジウムとしたきっかけは「東日本大震災」だったと話す川原田さん。

以前から「社外にも公開すべき」という声はあったのですが、実際に公開に踏み切ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。当初はイベントを自粛すべきという声もあり、開催の見送りも検討しましたが、コンペの頃には状況も徐々に落ち着いてきました。それならば、私たちにできることを、という思いでテーマを"東日本大震災を受けて、今、私たちが提案・提言できること"と定め、社外にも公開することにしたのです。

― 昨年はどのようなアイデアが出ましたか? また、公開してみて、いかがでしたでしょうか?

「新しい防潮堤」や「災害に強い都市インフラ」などが提案される中で、異色だったのは、被災地で子どもに「ものづくりを教えるプログラム」でした。営業の担当者が発表したものでしたが、ソフト面の提案は珍しく、その後ユニセフからも関心をもっていただき、10月に石巻の子供たちを対象にした取り組みが実現しました。社外の方からは、その他のアイデアに関しても、「実現してほしい」という意見を多くいただいています。まだ実建築物として具現化したものはありませんが、提案者は自分の中にコンセプトを持って、それを活かす努力をしています。シンポジウムが、「竹中がおもしろいことをやっている」ということを感じてもらい、発信していける場になればいいですね。

子どもたちを主役にした職業体験イベント「子どものまち・いしのまき」に協力(竹中工務店)

より実現性の高いアイデアに

― 今年のシンポジウムを終えて、率直な感想をお聞かせください。

今年はテーマを"これからの都市における木造・木質建築"としました。地球温暖化防止や循環型社会の実現のため、国は国産木材の活用を奨励していますし、弊社としても積極的に取り組んでいるテーマでもあります。最終的には59の提案が集まり、7つが最終審査に残りました。

― シンポジウムで発表されたのは、どれもユニークなアイデアでしたね。

提案するだけではなく実現に近づけたいという想いをもあり、今年からは最終審査から発表まで約1ヶ月半以上、ブラッシュアップ期間を設けました。このため、どの提案もアイデアだけでは終わらず、より実現性の高いものになったと思います。ディベロッパー、林業関係者、国・自治体、NGO・NPOなど、社外からも多くの方にご来場いただき、興味関心を持っていただくことができました。

― 今年は『燃エンウッド』という具体的な商品を用いた提案も多かったですね。

kcom_takenaka_03.jpg『燃エンウッド』は、弊社が開発した日本初の大断面耐火集成材で、都市における大規模耐火木造建築を実現する技術です。今回のように、コンペのテーマと技術がセットになれば、より具体性も出てきます。このことは、今後、社外に広げていくためのポイントとなってくるのではないでしょうか。


「竹中環境シンポジウム2012」受賞作品

kcom_takenaka_04s.jpg 【最優秀作品】「屋上木化―地上31mの木造住宅地」
大阪府と大阪市が検討を進めている御堂筋の大改造に関する提案。従来のスクラップアンドビルドのまちづくりではなく、既存のオフィスビルを基盤とし、ビル屋上に木造住宅地を創造するもの。

kcom_takenaka_05.jpg 【優秀作品】「木層建築」
日本の木造建築に、新たな質を持った空間を作り出す提案。これまでは湿気、通気、断熱など様々な問題に対し、ひとつずつ機能を持った層を加えた高性能スキンによって解決してきたが、これらを用途に合わせて調整して用いる。

kcom_takenaka_06.jpg 【優秀作品】「ウダツ」
木密地域の災害対策として、耐火建築物「ウダツ」を挿入する提案。「いつも」は都市施設、「もしも」のときは防火帯や避難所となる「ウダツ」によって、木密地域の良さを失わずに災害対策が可能となる。

「竹中環境シンポジウム2012」開催

建物を建てた後も続くコミュニケーション

― 「竹中環境シンポジウム」の今後の展望をお聞かせください。

当面は現在の形で開催していくことになると思いますが、先々は新しい方法も考えていきたいですね。来年は5回目。次のステップとして、今までの蓄積を活かして、より研ぎ澄ましたり、統合化して魅力付けするような、もっと提案を具体化していくようなことも視野に入れて考えています。

― 「竹中環境シンポジウム」のようなステークホルダーとのコミュニケーションは、とても重要ですよね。シンポジウム以外に関して、御社の戦略を教えてください。
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地域の皆さまをはじめ、ステークホルダーとの対話は重要と話す川原田さん。

ステークホルダーのみなさまは、多様です。直接お客さまの満足度を聞かせていただくこと以外にいくつかの方法でコミュニケーションを取っています。まず一つは、全国に数百ヵ所以上ある事業所すなわち本支店と作業所における取り組みです。各地で見学会などを開催し、工事担当者と職人が、建物ができるまでのプロセスを説明したり、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えたりしています。地域や社会との接点でもありますし、地域のみなさまには何らかの負荷をおかけしているわけですので、良好な関係を維持・発展していきたいと考えています。

さらに、「ステークホルダー・ダイアログ」。環境をテーマに、毎年、NPO、行政、大学、企業の有識者の方々と議論を重ねています。それぞれの分野で活躍されている方々と議論することで、多面的な視点と知見を得ることができます。

― 建物を建てた後に関してはいかがですか? ものができあがると、施工者はお客さまと離れてしまうのでしょうか。

建物は、お客さまに長く、丁寧に使っていただくことで次第に町並みにとけ込み、地域に愛され、社会的資産に変化していきます。そのため、お客さまに「最良の品質」を提供するとともに、建物のライフサイクルを通してサポートしていきます。そして、建物をお届けした後も時代の変化に応じた建物用途の変更や機能の向上・更新提案を行うなど、建物のライフサイクルにおいて、お客さまの保有資産価値向上を総合的にサポートしています。

建物のライフサイクルで見ると、CO2の排出は、6割近くが運用段階で発生しているという調査があります。どれだけ環境性能が高い建物でも、その運用段階で能力が発揮されていなければ意味がありません。そこで、お客さまにお願いし、運用段階でデータを取らせていただき、より良いプラクティスにするためフィードバックしています。建物を建てるだけではなく、今後はこのような視点がますます重要になってくると思います。

竹中工務店

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