3.11の東日本大震災以降、高まる防災への意識。(震災から1年の昨年3月にはこんなイベントも)
丸の内エリアのビルの防災対策は、実際のところどうなっているのでしょうか。普段は立ち入り禁止のエリアを含む、防災の"現場"を巡るツアーに同行してきました。
2009年4月に竣工した三菱一号館。鹿鳴館を設計したことで知られる英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計した、1894年竣工当時の姿が可能な限り忠実に復元されています。この高さ約15mと低層の三菱一号館では、土台となる基礎と建物の間に緩衝器となる装置を設置して地震の揺れを減免する免震構造が採用されています。
地下には、揺れを低減する33台の積層ゴムアイソレータと、次第に揺れを小さく静める8台のオイルダンパーが、全体にバランスよく配置されています。水平方向に50cmの動きを許容する設計のため、建物全周囲に50cm以上のクリアランスを設け、配管にも揺れに追従できる"あそび"が施してありました。
3.11の際は数cm程度動いたとのことですが、上階の美術館ではシャンデリアの揺れで初めて地震に気付いたというほどの免震効果を発揮したそうです。
低層の古い建物に免震対策を施すことは効果的だと考えられていますが、地下を掘るなど大規模工事となるため費用がかさむのが難点。ちなみに復原された東京駅でも免震構造が採用されています。
2002年8月に竣工、昨年2012年に10周年を迎えた丸ビル。地上約180mと高層の丸ビルでは、地震に強い昔の塔建築をお手本に、芯柱効果により全体で揺れて持ちこたえる制震構造が採用されています。
芯柱として、200mの耐震シャフトが4本、文字通りの"大黒柱"としてビルを支えています。震度5強で初めて機能する設計で、3.11の際のデータでその効果が検証されています。
もちろん、防災は"揺れ"に対する対策だけではありません。今回のツアーでは、エネルギーや浸水に対する対策も実際に見せていただきました
丸ビルには、一種類のエネルギーから異なる二種類のエネルギーを造り出す、コージェネレーションシステムが導入されています。地下に同じ仕様のシステムが2台設置され、発電機でガスから電気をつくり、さらに排熱ボイラを通じて熱(蒸気)をつくります。通常時には、丸ビルにて消費される電気の13-15%を供給、同時に1時間に7t造り出される蒸気が冷暖房や手洗いなどの給湯に使われています。
非常時にガスの供給が止まった場合には、燃料を重油へと切り替えます。コージェネレーションシステム以外に設けた非常用発電機(2,000kwh)1台を加えた合計3台の発電機で4,200kWを出力。72時間は稼働できる重油がストックされており、非常用エレベーターを動かすなどビルの安全管理に必要な電気を賄える設計となっています。
コージェネレーションシステムは丸ビルができた2002年当時防災の観点に加え、当時安価だったガスを使って電気料金を抑えるという目的で導入されました。その後ガスが値上がりしたため、丸ビル以降のビルでの採用の実例はありませんが、現在防災の観点からコージェネレーションシステムが見直されているそうです。
この他、被災時に地下約100mの豊かな地下水をくみあげる井戸(中水の為、用途はトイレの洗浄水等限定的)、地下への水の侵入を防ぐ60cmの防潮板(高さの根拠は行政の想定値50cmより)も完備されています。
こうやって見てくるとビル単位で個々には対策が進められているのはわかりますが、例えば非常時などに、あるビルで発電した電気を他ビルに融通するには法律の規制があって難しかったり、浸水、津波対策を広域ではなく1エリアで考えることの限界があったりと、課題が残されていることもわかりました。
安心、安全なまちづくり、まだまだこれからが正念場となりそうですが、自分の生活圏の防災の"現場"についてまずは知ることの大切さを改めて実感したツアーとなりました。