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日本各地で設立が相次ぐ地域新電力の本質は、単なる電気の小売業に留まりません。地域資源を活用したエネルギー事業の収益を公共交通や福祉へ還元し、地域課題を解決する「地域主体の経営」に期待が寄せられています。地域新電力は地産地消を超え、都市と地方が共創する持続可能な未来を切り拓く鍵を握っています。
「大丸有エネルギーエリアビジョン」に基づく取り組みの一環として開講される「大丸有ゼロカーボンスクール」の第3クールでは、脱炭素社会の実現に向けた地域新電力の可能性について考えます。鳥取県米子市で電力事業・エネルギーに関するコンサルティングを行うローカルエナジー株式会社COOの上保裕典氏を迎え、その現在地と未来についてお話しいただきました。
ローカルエナジー株式会社 COOの上保裕典氏は、現在鳥取県米子市に居を構え、地方と都市を結ぶ活動に尽力されています。建設コンサルタントの業務を通して産業振興や地域づくりに興味を持ち、民間シンクタンクで環境・エネルギー問題や地域の経済成長に従事。鳥取県の経済成長戦略にも関与し、2020年よりローカルエナジーに参画。2022年からは中海テレビ放送のChukaiトライセクター・ラボで地域密着型のシンクタンクも展開しています。
ローカルエナジー株式会社の上保裕典氏
ローカルエナジーは2016年4月の電力小売全面自由化に先駆け、2015年に設立。小売電気事業のほか、地域熱供給事業、電源・熱源開発、省エネ改修、次世代エネルギー実証、視察受入・コンサルティングまで多岐にわたる事業を通じ、地域内での資金循環を生み、地方創生を目指すとともに再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を牽引しています。
上保氏は本スクールの趣旨を「脱炭素社会の実現に向けた我が国の動向を踏まえ、これからの地域の可能性についてディスカッションすること」と語りました。地方ではドイツ発祥の自治体が出資する公社「シュタットベルケ」をモデルに、地域特性を活かした再生可能エネルギー導入やレジリエンスの向上による地域課題の解決を目的とした脱炭素の取り組みが推進されています。こうした知見を持つ地域新電力は、今後、都市部の民間企業が地方から再エネを調達する際の「ハブ」になると予測されます。
環境省によれば、地域新電力とは「地方自治体の戦略的な関与・参画の下で小売電気事業を営み、得られる収益などを活用して地域の課題解決に取組む事業者」を指します。
その設立パターンは、「自治体出資の有無」と「関与する企業の地域性」を軸に、地元のインフラ企業など地場企業が主導するケース、自治体と都市部の大手企業が連携するケース、民間のみで推進するケースなど、実情に応じた4タイプに分けられます。
小売電気事業のビジネスモデルも様々です。ローカルエナジーは自らライセンスを取得し、需要側に供給を行う標準的なモデルですが、近年はライセンス取得のハードルも上がり、小売電気事業者の名で契約を締結する「代理」、事業者と需要家の間に立つ「媒介」などの取り組みが行われています。なかでも小売電気事業者の料金メニューを活用する「取次」は、すでにライセンスを持つ事業者のプランを販売するもので、販売者はライセンス不要で販売・管理等のノウハウを蓄積できるため、将来的に自らライセンスを取得する独立への一歩として活用されるケースもあります。また、複数の事業者が託送供給契約を結び、代表契約者が計画提出や電気の調達などを行う「バランシンググループ(代表契約者制度)」もあります。
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構の2024年10月のリリースによると、自治体が関与する地域新電力は103社ありますが、小売電気事業を主力事業として設立した地域新電力のうち約半数が従業員ゼロであり、実務を外部企業に委託しています。ローカルエナジーでは電力の需要と供給を一致させる需給管理を自社で行うスタッフを雇用し、ノウハウの蓄積に重きを置いています。
地域新電力の歩みは平坦ではありませんでした。2021年1月の卸電力市場の高騰は、業界に大きな影響を与えました。寒波による需要増や供給トラブルにより、市場価格が0.01円/kWhから250円/kWhまで上昇し、多くの事業者が撤退・廃業を余儀なくされました。帝国データバンクの調査によると、2024年3月時点で累計119社の新電力が倒産・廃業しており、これは2021年当時の約2割に相当します。これからの地域新電力にはコスト競争ではなく、変動リスクを管理する知見と、地域内に電源を確保する自立的な経営能力が求められています。現在は、事業間での課題・知見を共有し、協議会を通じて国と対話しながら、継続的な発展を目指すステージにあります。
地域新電力への期待が高まる背景には、二つの大きな潮流があります。
一つ目は、「エネルギー政策の推進」です。一方向の「大規模集中型」から、太陽光などを活用した「小規模分散型」へのシフトが進むほか、地域課題解決などのストーリー性を付加価値とした電力小売が期待されています。また、デジタルを活用した高度なマネジメントも不可欠です。分散型のエネルギーリソースを統合・管理するVPP(バーチャルパワープラント)や消費者が電力使用量を調整するデマンドレスポンス、蓄電池制御による系統安定化が重要な役割を担います。
2025年2月には、地球温暖化対策計画や第7次エネルギー基本計画、GX2040ビジョンなどが閣議決定され、地域脱炭素は国策の中核となりました。脱炭素先行地域の選定も進み、現在では採択数の半分に地域新電力が関わっています。
二つ目は「まちづくりの推進」です。人口減少で自治体財政がひっ迫するなか、公益サービスの質を維持するために「民の知見」を活かした事業性が求められています。ここで注目されるのが、ドイツの「シュタットベルケ」です。エネルギー事業の収益を公共交通や福祉に還元し、地域全体のインフラを維持する仕組みです。
上保氏は、日本のケーブルテレビ局が地域密着で事業を広げてきた事例を挙げ、その親和性の高さに言及しました。これまで地域外に流出していた人件費や税収などを地域内に留め、地域経済を循環させることは地方創生の有効な手段です。例えば、愛知県豊田市の株式会社三河の山里コミュニティパワー、通称「MYパワー」は病院発の地域新電力。契約地域の自治区の活動団体に売上げの一部を還元し、地域の草刈りや事務員の雇用を行う「おたがいさま電力」を運用、エネルギーが地域課題を解決するエンジンとなっています。
地域新電力は今後、どこに向かうのでしょうか。上保氏は「地域脱炭素2.0」を提示しました。これは、地方公共団体が中心となり官民連携を深化させ、地域エネルギー会社が地産地消と地域還元の拡大を主導する方針です。2026年度の予算案でも、地域金融機関や地域エネルギー会社との連携、専門人材の育成が掲げられています。
また、国の国土形成計画が掲げる人口10万人規模の「地域生活圏」形成においても、複数の自治体連携、官・民での地域経営主体の創出が急務であり、地域新電力がインフラを支える点に期待が寄せられています。自治体職員には定期的な人事異動がありますが、地域新電力には専門的な知見が継続的に蓄積されます。この「ローカルシンクタンク」の機能は、企業・地域に最適なエネルギー計画を実行できる強みとなります。ローカルエナジーが鳥取県西部の複数の自治体と連携、世帯普及率約15%に及ぶ広域供給を行った事例は、地域新電力が生活圏全体のインフラを支える主体となる可能性を証明しています。
事業環境は厳しいものの、上保氏は「地域には再エネ資源や地元の資金、人材という土壌は揃っています」と話します。決定的に不足しているのは「知見と技術」です。外部の力を借りつつ、いかに自社のノウハウとして蓄積し、自走できるかが重要です。その覚悟こそが地域の経済循環を強固にし、持続可能な地域づくりを可能にします。また、地域新電力は、都市の「需要地」と「供給地」を結ぶハブとしても期待されています。例えば、都市部の企業が地方で再エネの調達を行う場合、すでに官民連携の知見を持つ地域新電力との連携で、脱炭素への取組がスムーズになります。
上保氏は、この連携の成功には、単なるビジネス上の取引を超えた「信念と目的の共有」が必要だと言います。地域をリードする、地域課題を解決するといった志を共有し、地方と都市、官と民がともに歩むことがカーボンニュートラルの実現と双方が成長し続ける未来への最短ルートとなるのです。「全国から多くの相談が寄せられますが、共に歩む相手を信念で選ぶことが重要です」という言葉に、現場の最前線を走る実感がこもっていました。
質疑応答では、参加者から実務に即した具体的な問いが寄せられ上保氏は丁寧に回答していきました。
都市部のビル開発における再エネ調達についての質問に対し、大手電力会社等から「カーボンフリープラン」として購入するケースが主流であり、再エネ価値を証明する「非化石証書」が活用されていると回答しました。近年は証書価格も下がり、標準料金と同等価格での供給も増えています。産地指定、PPA(電力販売契約)も広がりつつあります。
ローカルエナジーが再エネ以外に取り組む次世代エネルギー実証についての問いには、既存資源をITで最適化するエネルギーマネジメントの仕組みに注力していると回答。代表例として、自治体の下水道処理からのメタンガス発電を公民館への供給を挙げました。蓄電池を使い、余剰電力を夜間に放電するVPPシステムの自動制御も構築。防災機能とも連動し、大雨警報等の発令時に自動で非常電源モードに切り替わり、強制的に満充電にする仕組みにより、停電時には避難所として機能します。さらに、安定供給に向けて、余剰電力の送電を止める「出力抑制」に対し、蓄電池や水素で保存する取り組みも行います。
地域では人材が限られる中、どのように人材を確保・育成すべきかとの質問には、知見が蓄積される「民間組織としての地域新電力」の重要性を述べました。欧米のエネルギーエージェンシーのように専門人材が活動できることを理想としつつ、専門知見の受け皿として人材不足を補う構造を目指します。また、民間による公益の維持については、シュタットベルケのような事業間連携により、交通網を守ることで住民が住み続け、エネルギー需要も維持される循環を作ります。現在、ローカルエナジーでも鳥取県西部の9市町村と連携し、経営モデルを検討しています。
こうしてゼロカーボンスクール第3クールの講演は終了しました。
地域新電力によって地域を活性化し、誰もが住み続けられる社会を作る成功の鍵は、地域内に「主体」がいるかどうかです。資源や技術、資金を束ねて動かす情熱を持った組織があってプロジェクトは持続します。「地域に根差しつつ、都市部に拠点を置く方とも、単なる契約関係を超えた共創のパートナーとして共に歩みたい」と話す上保氏。全3回のゼロカーボンスクールでは、事例の紹介やボードゲームを通して、エネルギー問題への取組を深めます。地域新電力を起点とした課題解決に、期待が膨らみます。

大丸有エリアでは、2022年に「大丸有エネルギーエリアビジョン」を公開、2050年カーボンマイナスを目指す姿勢が示されました。我が国を代表、世界と競争する大丸有エリアで、「丸の内で考える地球と未来のこと」をテーマとして様々に学び、実践する活動を行っています。