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大丸有エリアの熱エネルギー利用を支える丸の内熱供給株式会社開発事業部の森村平氏を迎えた「大丸有ゼロカーボンスクール」第4クール。「ゼロから学ぶ熱供給と脱炭素 ~面的エネルギーを核とした 大丸有ZERO CARBONへのSTORY~」をテーマとし、第2回となる3月16日は、初回のプラント見学の振り返りつつ基調講演が開催されました。丸の内熱供給の取り組みを深く学ぶとともに、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた課題について考えます。
丸の内熱供給株式会社 開発事業部 森村平氏
講師は、前回の施設見学に引き続き丸の内熱供給株式会社開発事業部の森村平氏。前回の振り返りを行った上で、改めて大丸有エリアでの熱供給への取り組みを確認します。1973年の設立から大丸有エリアではプラントの竣工・更新が行われてきました。2000年代前半までは大手町・内幸町が中心でしたが、2010年以降、需要増加に伴いエリアを拡大し、販売熱量を伸ばしてきました。2028年竣工予定のTorch Towerほか、2030年以降も竣工を予定し、今後も冷暖房需要は増加すると考えています。丸の内エリアで23か所ものプラントを抱えるのが特徴ですが、これは民間主導で、業務が集積する大手町から事業を開始したためです。
設立当初は新規開発地を対象に地域冷暖房の導入が進められることが一般的でしたが再開発の度に、熱需要不足を補うためサブプラントの新設が行われました。大丸有エリアの地下にはケーブルや管路を敷設するための洞道が張り巡らされ、日々、熱を供給しています。一方、行政主導の事例として挙げられたみなとみらい21熱供給株式会社は、横浜市で新規開発エリアを対象に地域冷暖房を導入し、巨大なセンタープラントと洞道、行政主導の共同溝を設置。再開発を見越した設計で需要に対応しており、第3プラントの竣工も予定されています。
左:熱供給状況について説明 右:写真や動画を交えて解説
丸の内熱供給の特徴はエネルギーの面的利用です。トラブル時に他のプラントからバックアップ可能な「供給の強靭化」、「予備機の共有」による全体容量の抑制、エリア内の負荷の増減に対してプラントの容量を最適化する「負荷増減対応」、コージェネレーションシステム(CGS)の排熱や熱の融通ができる「業務継続地区(BCD)対応」、プラントの増設やリニューアルによる効果を地域全体に波及させる「面的なエネルギー効果の向上」を実現。
2009~2021年にUR都市機構が主導した大手町再開発では、業務活動を続けながら老朽化した建物を建て替え、グローバルビジネスの戦略拠点として再構築しました。
プラントの冷水連携による効果としては、主要7プラントを連携させ、最新の設備を優先稼働させる「スパイラルアップ効果」により、エリア全体の効率は2008年度のCOP 1.05から着実に向上を続けています。しかし、直近は猛暑のため販売熱量が増え、効率がダウンしています。
また、蒸気の連携については「ビル開発に合わせて地下通路を整備した際にスペースを分けていただいて蒸気配管を接続しました」と森村氏。2008年に丸の内一丁目と丸の内二丁目、2020年に有楽町と丸の内二丁目、二重橋ビルで蒸気ネットワークを構築し、広域での蒸気ネットワークが確立されました。
CGS導入状況については、丸の内熱供給として、大手町パークビルに370 kWのCGS1台、二重橋ビルに1,000 kWのCGS2台を所有しています。このほか、3拠点でビル所有のCGSが導入され、排熱利用と日々の運転も行っています。蒸気ネットワーク網で、排熱を使えない時間は他のホテルやオフィスに売る仕組みを構築することで、単体の運用で捨てていた排熱を利用できるようになりました。
都市の未利用エネルギー熱の活用では、雨水や雑排水を再利用して水温を20度程度に保つ中水熱を利用しての温水製造や、年間を通して温度が安定する地中熱により効率よく熱を利用できる方法を紹介。地中熱は導入コストが高く大規模な展開はできませんが、Torch Towerでの導入が予定されています。ほかにも、河川水熱、下水熱などを利用するケース、ごみ焼却場の排熱利用などの事例があります。
蒸気を生かしたブロック温水ネットワークのエネルギー効率については、負荷持続曲線の分析により、「ピーク時の30%以下の負荷が年間の約85%」であることを把握。効率よく温熱を製造できるヒートポンプを使ったブロック温水ネットワークを街区ごとに利用し、不足分はボイラーの蒸気で補うことで温熱側のエネルギー効率を上げています。CGS排熱、中水熱も利用し、複数熱源を利用した脱炭素化と安定供給を目指します。
カーボンオフセット都市ガス導入について
また、蒸気製造の燃料となる都市ガスの環境負荷低減の取組も重要です。丸の内熱供給では、2019年に東京ガスのカーボンオフセット都市ガス(当時はカーボンニュートラル都市ガス)を導入しました。天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生するCO2がシェルグループの保有するCO2クレジットで相殺されるものです。バリューチェーン全体で排出されるCO2と森林保全などの吸収量で排出を相殺し、カーボンニュートラルを実現しました。近年は自社で「カーボンオフセット熱(CO熱)」を供給する体制を整えました。非化石証書やクレジットを購入し、環境価値を調達して希望する企業へ供給することで、企業のCO2排出量報告をゼロにできる仕組みを整えています。
続いて、テーマは「丸の内熱供給が今抱えている課題」へ移ります。
当社およびグループ会社全体ではCO2の削減目標として、2030年度までにScope1・2を70%以上削減、2025年度までに再生可能電力比率について、グループ全体で100%達成を目指しています。実際のCO2排出量は都市ガスが約60%、電力が約40%となりトータル約10万t。一般家庭の世帯当たりの年間CO2排出量2.47tと比較するとかなりのボリュームです。
現在の排出量を確認
排出量の削減に向け、丸の内熱供給では5つの削減手法を考えています。これまで以上のエネルギー量の削減が必要となるため、高効率機器への更新・運用方法の見直しを検討する「更なる省エネ」、都市ガスの機器を電力のみで使用する機器への切り替えを行う「電化」、CO2を排出しない「代替エネルギー」として、e-methane(合成メタン)や水素使用の検討、CO2回収装置などの「新技術」の導入、「CO2排出権購入」です。
今回は、「電化」を中心に解説します。電力の再エネ化は達成見込みですが、ガス機器の電化には3つの高い壁があります。まずは、今ある蒸気配管ネットワークでの温水配管への交換の難しさです。大手町から有楽町、青山まで総延長で20㎞を超えるため、交換にかかるコストと時間を要します。また、蒸気を供給しながらの交換が現実的に考えづらく、お客様側の受入設備の更新も必要です。
「現在の配管は、下部に冷水配管、上部に蒸気配管用のスペースが割り当てられています。温水は蒸気よりエネルギー密度が低く、同じ量の熱を送るためにはより多くの温水が必要なので、蒸気配管より大きい口径の温水配管を設置しなければなりません。現状はそのためのスペースがないことが課題です」と森村氏。物質1kgが保持する熱エネルギー量を示す比エンタルピーによると、温水と蒸気のエネルギー密度の違いは蒸気が2,680kJ/kg、温水が419kJ/kgと温水のエネルギー密度はかなり低い状況であることを合わせて説明しました。
また、都市ガス使用機器の電化も難しいのが現状です。現在はガス式の炉筒煙管ボイラーと電気式のヒートポンプを使っています。24t/hの蒸気を製造できるボイラーが42㎡程度、10万㎡ぐらいの建物3台分ほどの規模とすると、ヒートポンプで同様のエネルギーを賄うには、7倍の面積が必要となるため、都市部では現実的ではありません。
ヒートポンプとボイラーの面積の違いを確認
3つ目が現在27台を所有する吸収式冷凍機からターボ冷凍機への交換です。現在は更新時期を迎えたものから更新していますが、全ての更新には莫大なコストと長期間の工事が必要です。また、ターボ冷凍機は消費電力が大きく、現在の受電設備では容量が足りないため、受電設備でも大幅な増量が必要です。さらに、使用量も多く電気料金が上がります。
質疑応答では、都市インフラの脱炭素化という課題に対し、多角的な視点から議論が交わされました。
一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)の三上はボイラーとヒートポンプの比較について着目し、「設置から撤去までのライフサイクルコスト比較について、環境負荷の側面からお聞かせいただきたいです。ヒートポンプの立地、人的なコストも含めたメンテナンスを考えるとボイラーで集中的に行うのが良いのでは」と質問。
森村氏は、「ヒートポンプのライフサイクルコストは15年ほど。ボイラーは30~40年と部品を変え長く稼働できます。ボイラーの方が長く使え、取り替えるコストも少ないです」と回答。また、保守点検のため、社員は入社後必ず資格を取得しています。
「地域冷暖房方式と個別空調方式でテナントへのお支払いの違いはありますか」という質問に対し、丸の内熱供給の岡本氏から「テナントごとに電気代のメーターがあり、ビルオーナーからの請求で支払いする仕組みです。また、賃料と共益費がまとまって請求されるためテナント側の詳細が分からないケースが多いです」と回答。「大規模ビルほど省スペースや省メンテナンスの利点は大きいものの、テナントへの還元方法はビルオーナーの方針や構造に依存するため、個別空調との単純比較は難しい」という現状が示されました。
「みなとみらいが地域冷暖房という手法を行政として取られた経緯を教えていただけますか」という質問に対し、岡本氏はご自身もまちづくりに関わっていた経験も踏まえて「みなとみらい21のような埋め立て地は都市計画上、保守計画のなかで効率化のため電気・ガス・水道・通信・熱エネルギーを一体として策定しています。1960~70年代で構想され、1980年代でまちづくりを行った当時は、全てを地下の中で納めるのが都市計画の考え方でした。
近年は再開発やビルの建築計画が進み、将来的な需要をまかなうための第3プラントを建設しています。このエリアは特に地域冷暖房を導入しないと建設ができない協定になっており、行政主導と民間での大きな違いです」と回答しました。
「広いエリアが配管で面的に繋がっているからこそ、ガスの部分のロスが出てしまうことはありますか」という質問に対しては、森村氏が「175度の蒸気を送った場合、距離が長いと放熱してしまいます。放熱ロスを無くすために保温を徹底的に行って放熱ロスを削減する手法を取り、仲通りに整備されたものは倍の保温材を巻くなど工夫しています」と答えました。
また、参加者からは年間10万トンの排出量という規模の大きさに驚きと懸念の声が上がりました。「今後20年などの長いスパンで考えた際に達成し続けることが難しいのでは」「CO2排出量年間10万トンが衝撃。数年でクレジット価格が倍になり、今後の需要増を予測すると、少ない熱で効率よく快適に過ごす技術も必要と考えられる。一社のみで解決できる問題ではないのでは」といった感想も上がりました。
森村氏は「単価も上がる可能性も想定したうえで、グループの目標に向け調達を進めたい」とし、「次回は代替エネルギーや新技術もご紹介しますが、ご提案もあれば大変ありがたい。皆さんと共創し、この場を実証の場として使えたら」と応え講演を締めくくりました。
最後に、三上からは今後ぜひSUPERTUBEの見学の機会も設けられればと森村氏に声掛けを行いました。巨大なインフラを抱える丸の内熱供給の脱炭素化は、大きな意味を持ちます。一企業の努力を超え、技術と知恵を持ち寄る「共創」が、高い目標を達成する鍵を握ります。

大丸有エリアでは、2022年に「大丸有エネルギーエリアビジョン」を公開、2050年カーボンマイナスを目指す姿勢が示されました。我が国を代表、世界と競争する大丸有エリアで、「丸の内で考える地球と未来のこと」をテーマとして様々に学び、実践する活動を行っています。