イベントエネルギーエリアビジョン・レポート

【レポート】「脱炭素」を都市計画の王道へ カーボンニュートラルが再定義するこれからのまちづくり

「カーボンニュートラルなまちづくり」出版記念 大丸有ゼロカーボンスクール特別セミナー 2025年12月22日(月)開催

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2050年カーボンマイナスの実現を掲げ、「大丸有エネルギーエリアビジョン」を策定した大丸有エリア。この度、「大丸有ゼロカーボンスクール」の一環として、「カーボンニュートラルなまちづくり」(2025年刊・学芸出版社)の出版セミナーを開催しました。
テーマは「都市計画の進化と脱炭素のための役割」。第1部では、日本の都市計画界を牽引してきた一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(以下「エコッツェリア協会」)理事長の伊藤滋氏と東大まちづくり大学院コース長の小泉秀樹氏が対談。脱炭素が都市計画の本丸となる未来を展望しました。第2部では、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授の村山顕人氏のファシリテーションのもと、東京大学先端科学技術研究センター研究顧問の小林光氏、エコッツェリア協会副理事長の井上俊幸氏を交え、「まちの脱炭素化、これから何に取り組むべきか」をテーマに議論を重ねました。

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執筆者の知見が詰まった「カーボンニュートラルの教科書」

執筆者の知見が詰まった「カーボンニュートラルの教科書」

event_zero_publish_.002.jpeg 写真左:エコッツェリア協会専務理事 竹内和也
写真右:東京大学先端科学技術研究センター研究顧問 小林光氏

イベントに先立ち、エコッツェリア協会専務理事の竹内和也が登壇。「ゼロカーボンにエリア全体で取り組む必要があり、先進事例も含めて今後の進展方法について新たな視点を持ち帰っていただければ」と参加者に向けて挨拶をしました。

report-zcs251222book.JPG 書籍「カーボンニュートラルなまちづくり」

続いて、編著者でもある東京大学先端科学技術研究センター研究顧問の小林光氏が「カーボンニュートラルなまちづくり」(2025年刊・学芸出版社)を紹介。
本書籍は東大まちづくり大学院で新設された「脱炭素論」をきっかけに企画されたといいます。2010年に刊行された「低炭素都市」(2010年刊・学芸出版社)から情勢も変わり、総勢42名の執筆陣による、エネルギー、交通、廃棄物からソフトウェアまでの知見を網羅した「今得られる情報の集大成」と紹介しました。

第1部 特別対談「計画の進化と脱炭素の役割」

エコッツェリア協会理事長の伊藤滋氏と、東大まちづくり大学院コース長の小泉秀樹氏による特別対談から、第一部はスタート。はじめに、小泉氏は現在直面する課題として気候変動に言及しました。実際に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が都市に特化したレポートを作成するなど、国際的な注目も高まりつつあります。これらの解決策としての都市デザインについて海外の事例を紹介しました。

event_zero_publish_.004.jpeg 海外事例を学ぶ

アメリカ・シアトルでは、州と郡と市が連携し、気候変動の緩和と適応に関連した包括的な都市計画対応を運用しています。キング郡では線引き制度が導入され、徒歩圏内で生活が完結する「アーバンビレッジ」が形成されています。さらに、森林・緑地保全を目的とした都市圏単位での開発権の移転も導入され、炭素排出量の予測・検討も行われています。伊藤氏は、都市計画は知事や市長から任命される都市計画局長の方針による影響が大きいとし、ミネソタ州のミネアポリス、セントポールで見られるビルをガラス張りの通路で結んだ立体歩道網の事例を紹介しました。

フランス・パリの「15分圏都市」は、徒歩15分圏内に医療機関やオフィスなどを配置し、エリア内では民間の敷地や工場空間での緑化が行われている事例です。伊藤氏は緑地・生態系・気候への配慮が法制度に組み込まれ、厳格に体系化されたドイツの「ベーバウングスプラン」についても補足しました。

スペイン・バルセロナの「スーパーブロック」は、歩行者・自転車を中心に交通政策を考え通過車両を制限し、市民が使える緑のあるエリアとしています。「世界中の都市計画から支持されている事例」と伊藤氏。地元の人材によるまちづくりを、先行的に行っていると付け加えました。

海外ではコンパクトに整理され、緑化に取り組むまちづくりが見られます。改めて大丸有エリアに目を向けると明治時代から積み重ねた歴史があり、海外の専門家からも「真面目で質の高い計画」として受け止められています。これは、「良いまちづくり」として世界に誇れると伊藤氏。小泉氏も丸の内仲通りの歩行者優先の取り組みは高い環境意識が見られると賛同しました。

event_zero_publish_.005.jpeg 写真左:エコッツェリア協会理事長 伊藤滋氏
写真右:東大まちづくり大学院コース長 小泉秀樹氏

最後に、未来を見据えた都市計画と危機管理の話題となりました。伊藤氏は、2100年に日本の人口が6,000万人に半減し、高齢化も進み、頼りとなるのは東京エリアのみと予想。さらに海面上昇を問題として挙げ、ニューヨークやベネチアなどの陸地の再編などの事例を参照しつつ、東京の低地で海面が1.5メートル上昇した場合の対応を考える必要があると提案しました。 さらに、富士山の噴火・火山灰リスクにも触れ、30cmの火山灰が積もり、交通機能が停止した場合の都市機能の維持を考える必要があると提起。これらの問題に対する都市計画の対応こそ、大学や専門家が真剣に取り組むテーマであるという意見に小泉氏も頷き、「まさに研究テーマとなっており、今後は脱炭素とリスク対策をセットで考えたい」と話しました。

第2部 クロストーク「まちの脱炭素化、これから何に取り組むべきか」

第2部は「カーボンニュートラルなまちづくり」編著者の一人である東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授の村山顕人氏をファシリテーターに、エコッツェリア協会理事で東京大学先端科学技術研究センター研究顧問の小林光氏、エコッツェリア協会副理事長の井上俊幸氏が登壇。引き続き伊藤滋氏、小泉秀樹氏を交え、5つのテーマで議論を深めました。

event_zero_publish_.006.jpeg 写真左:エコッツェリア協会副理事長 井上俊幸氏
写真右:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授 村山顕人氏

村山氏は、IPCCでも都市の重要性が指摘されていることに触れ、「個別の建物やインフラを越えて、面的なまち、広い都市圏として取り組む意義とは何か」を問いかけました。
小林氏は、「都市の多様性」に着目。自身が暮らす長野県と比較して「規模の経済があり、エネルギー需要をエリア全体で融通・最適化できることは武器」と話し、環境への投資が都市の在り方を変えた、フランス・ダンケルクの公共交通無料化の例を挙げました。
これに対し井上氏は、昼間人口が35万人の大丸有エリアは物量と密度が高く、「1人あたりのエネルギー負荷を最小化し、需要と供給のズレを合わせるエネルギーマネジメントは果たすべき責任であり、挑戦」と強く語りました。
「脱炭素・暑熱対策・防災などの要素を統合しパッケージとしてデザインすることで相乗効果が生まれるのでは」という小泉氏。全体を俯瞰して環境への取り組みと都市の魅力向上を図れるのではと話しました。

「環境対策は、エリアの価値の向上につながるのか」という村山氏の問いに、小林氏は大手町の森やグラングリーン大阪を例に、「緑や環境性能は不動産価値の評価対象になる」とし、健康・住環境の向上や働きやすさなどの付加価値により、Win-Winのプロセスを確立できるのではと意見を述べました。
井上氏は、従来の賑わい創出に加えて「社会的課題に対応するマネジメント」が求められているのではと回答。今後はエリア全体で効率的にエネルギーを供給する地域冷暖房を進化させ、再生可能エネルギーとの連携を行い、エリア全体の環境負荷を下げたいと話しました。
小泉氏は、エリア全体の質を高める「総合的なアプローチ」が必要とし、丸の内仲通りのイベントで水素車や電気自動車による排気ガスや騒音のない「クリーンな賑わい」が実現した例を挙げ、環境的にも社会的にもポジティブな活動がエリアマネジメントの本質ではと回答。
これを受け、村山氏はCASBEEやLEEDなどの環境認証制度と金融・不動産評価との結びつきを補足しました。

event_zero_publish_.007.jpeg それぞれの視点からまちづくりについての意見を述べた

続いて、村山氏から挙げられたテーマは「脱炭素化を実際に進める際の課題と突破のポイント」です。

小林氏は、地区レベルの障害を都市の「弱さ」と捉え、逆手に取った仕組みづくりを提言しました。例えば、資金の乏しい古いビルに脱炭素対策を強いるのではなく、地区全体で最も削減効率が高いところに投資し、削減量を分け合うことなどが考えられます。また、地方では地域の余剰電力販売だけでは削減のメリットが地域外に流出するため、エリアマネジメントを行うだけでも結果が異なるのではと話しました。
井上氏は民間事業者の視点から「厳しい規制よりも事業のサポートが得られるインセンティブが重要」と述べ、企業のESG活動を通じて脱炭素の取り組みを可視化し、働く一人ひとりの意識に働きかけエリア全体の活動の質を変えたいと話しました。
小泉氏はエリアマネジメントを「賑わい」から「統合的な環境管理」へと広げ、エネルギーマネジメントを行い、商業テナントの活動を公共・環境貢献として評価する必要があるのではと述べました。環境対策が資金調達に与える影響も重要とし、環境対応を行ったテナントの家賃を優遇し、炭素の排出削減を求め、再分配を行うことができればと提案しました。
ここで伊藤氏は議論の枠組みを広げ、人口が減少する局面で日本が独自の「価値」を持つ必要があると言及。若者は都市の区画整理だけでなく、中央アジアとの国際関係の構築や、漫画や能など芸術的要素も含めた新たな「国際的な影響力」を作り上げることが重要だとしました。

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改めて、村山氏は「環境政策は規制かインセンティブか」を問いかけます。
小林氏は環境を汚す安価なエネルギーとクリーンなエネルギーが同価格であることに疑問を呈し、あえて踏み込んだ規制が必要ではと回答。環境税・炭素価格の導入や、排出量の取引・太陽光の義務付けなどの規制は、事業者の努力に報いるものではと述べました。
小泉氏は、規制とインセンティブは合わせて機能するとした上で、先進エリアの知見を広げるために、マスタープランや用途地域などの「都市計画の王道」に脱炭素を組み込むべきと提言。フランスのPLU(地域都市計画)や米国のゾーニングのようにエネルギー効率を考慮した規制制度を都市計画に取り入れ、普通のまちをどう変えるか向き合うことが最も必要と話しました。
伊藤氏は、将来人口減が起こった場合に人口密度が維持できる都市にリソースを集中させる必要があるとし、都市計画の専門家には世界に貢献できる拠点を冷徹に見極めてほしいと期待しました。

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最後に村山氏は、「排出量と吸収量の均衡」をテーマに挙げ、脱炭素と森林などによる「吸収」、都市の関係について、これから取り組みたいことも含めてゲストに問いかけました。
小林氏は、再生可能エネルギーが地方へ還元・分配・配分される仕組みをつくり「都市と田舎のWin-Winの関係」を追求したいと回答。「環境の価値が分かる人を増やすことで環境の付加価値を高めてGDPにも寄与する社会づくりを行いたい。また、日本の都市環境政策を海外へ輸出し世界規模で削減に貢献できれば」と話しました。
井上氏は、供給するインフラ事業者とも深く連携し、つくる電気と使う電気のバランスを考えたいと回答。地域のエネルギーを都市で使って対価を戻す「日本全体がうまく回る形」を突き詰めたいと結びました。
「都市計画の根幹への環境的な側面のインプットを行いたい」と話したのは小泉氏。住宅地での脱炭素への取り組みのほか、人口減少と高齢化の課題を抱えるなかで今できる脱炭素施策を最大限に進めることがポイントとし、地方との連携も含めた社会経済的な見通しを探求したいと述べました。
伊藤氏は、一般財団法人森記念財団都市戦略研究所の「世界の都市総合力ランキング(GPCI)2025」で東京が第2位にランクインしたことを挙げ、魅力的な都市・東京を新しくし、良いまちづくりを続けることに尽きると締めくくりました。
続く、井上氏から中締めのあいさつでは「日本の中で先行するエリアが可能性を示して地域全体の活動に役立てていければ」と内容を振り返り、今後の方向性を示しました。

event_zero_publish_.010.jpeg 参加者同士の交流が盛り上がりました。
書籍にサインを求める姿も見られました

イベント後の懇親会は東京大学大学院工学系研究科准教授の瀬田史彦氏のファシリテーションのもとに進められ、国土交通省の藤岡啓太郎氏の乾杯の音頭で、参加者同士の活発な交流が行われました。

カーボンニュートラルは単なる技術論ではありません。気候変動や高齢化、人口減少などの課題を抱えつつも、都市計画のルールのなかに脱炭素を組み込み、全国の地域が協力しながら地域の魅力を高めて100年後も「誇れる都市」をつくること。今回のイベントは現在地と未来を共有し、新たな一歩を踏み出す場となりました。

エネルギーエリアビジョン

丸の内で考える地球と未来のこと

大丸有エリアでは、2022年に「大丸有エネルギーエリアビジョン」を公開、2050年カーボンマイナスを目指す姿勢が示されました。我が国を代表、世界と競争する大丸有エリアで、「丸の内で考える地球と未来のこと」をテーマとして様々に学び、実践する活動を行っています。

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