イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】ステークホルダーが楽しめる仕掛けと経済合理性を目指して

環境と共生する持続可能なまち 循環型都市の実現に向けて 2024年6月5日(水)開催

世界環境デーである6月5日、エコッツェリア協会は、廃棄物削減や資源循環を推進するため先進的な取り組みを学ぶシンポジウム「環境と共生する持続可能なまち 循環型都市の実現に向けて」を開催しました。シンポジウムでは大手町・丸の内・有楽町(以下「大丸有」)地区における廃棄物の現状が示されたほか、各地で資源循環や廃棄物の削減に取り組む企業・団体の紹介や意見交換が行われました。

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山積する廃棄物問題に最先端企業はどのように立ち向かっているか

山積する廃棄物問題に最先端企業はどのように立ち向かっているか

まずは、公益財団法人東京都環境公社東京サーキュラーエコノミー推進センター事業管理チームリーダーの小山由美氏が登壇し、大丸有地区の廃棄物の現状が示されました。

image_event_20240605.002.jpeg公益財団法人東京都環境公社・小山氏

2023年度廃棄物調査に基づいた推計値によれば、大丸有地区では年間50,160トンの廃棄物が排出されています。この数字について小山氏は、10年前に比べて2023年度は約2割廃棄物量が減少したと考えられ、各企業で廃棄物削減の取り組みとコロナ禍によりオフィスへ出勤する社員が減ったことが要因ではないか、と考察しています。リサイクル率は74%と高い数値で、段ボールや生ごみなどのリサイクル率は90%以上のものがある一方、紙ごみや雑ごみなどの「その他可燃ごみ」は最多量にも関わらずリサイクル率4%と「低いリサイクル率」(小山氏)となり、全体を押し下げる結果となりました。

その他可燃ごみとは「再資源化が難しいティッシュペーパーや汚れた容器など、焼却するしかないものが多く含まれている可能性がある」(同氏)として今後リサイクルにおいては課題となりそうです。調査では97%という高いリサイクル率を示していた廃プラスチック(以下、廃プラ)ですが、小山氏は「都は2030年までに家庭と大規模オフィスビルから排出される廃プラ焼却量の40%削減を目標に掲げている」と都が注力していくことを語りました。このような目標を達成するために東京都環境公社では3R(リデュース、リユース、リサイクル)の実施について企業へのアドバイザー事業を行っているほか、サーキュラーエコノミーに向けた補助金の活用も相談できます。小山氏は「廃棄物削減に関してのお悩みがある場合は、東京都環境公社もご協力できることがあるので、ぜひ相談窓口などを活用してください」と締めくくりました。

続いて、環境カウンセリング事業を営むカムフル株式会社の代表取締役関根久仁子氏が現在の地球環境や私たちができることについて語りました。

image_event_20240605.003.jpegカムフル株式会社・関根氏

関根氏は「地球温暖化による不作や柑橘系の病気の蔓延が生じ、そして大雨被害でオレンジが取れなくなっています。もしかしたら私たちの子どもや孫の時代にはオレンジジュースが飲めないかもしれない。また、プラスチックは軽くて機能的でとても便利で生活に欠かせないものですが、大量のプラスチックが海に流出してしまい2050年には海の魚よりもプラスチックのほうが多くなるかもしれません」と現在の地球環境が大きく変わりつつあることに警鐘を鳴らしました。世界各国は今の危機的状況を打開するため、プラスチック汚染を食い止める国際条約や生物多様性を回復させるネイチャーポジティブの対策に積極的に取り組む体制を整えつつあります。特に廃棄物問題について、「2017年のデータによると、最終処分場の残余年数は17年。私たちができることはごみをなるべく出さないようにしていくこと。日本でも3Rをどんどん推進していかなければならないが、一番大事なのはまずリデュース、そしてリユース、最後にリサイクルの順で取り組みを進めてほしいです」(同氏)と語りました。最後に関根氏は「この後の数千年の地球環境がどのように変化するかは私たちがライフスタイルや行動をどのように変えていけるかにかかっています。しかし何かを我慢するということでは長く続きません。ウェルビーイングを実現できるグッドライフスタイルのなかで、環境問題への対策を取り入れることが大切です。そして子どもたちに素晴らしい自然環境を残していきましょう」と呼びかけました。

続いては株式会社ごみの学校運営代表の寺井正幸氏が実態調査に基づいたごみの分別ソリューションについて取り組みを紹介しました。

image_event_20240605.004.jpeg株式会社ごみの学校・寺井氏

寺井氏は現在のリサイクルの課題について「再資源化やリサイクル技術が注目される一方で、その手前のごみの分別やルート作りができていない」と指摘しました。ごみ問題を学び、考え、行動するコミュニティを目指すごみの学校は、まずは何がどれだけ捨てられているのかを把握するために、音楽イベントなどで実態調査と対策を行ってきました。例えば、秋田キャラバンミュージックフェスではコップなど飲料容器が大量に廃棄されていました。寺井氏らはリユースカップの持参を呼びかけ、応じてくれた参加者はフェスのオリジナルグッズをプレゼントするという仕掛けを設けたところ、容器の廃棄量は前年の半分以下に減らすことができました。寺井氏は「ごみを深く知っていくことで誰がいつどんな理由で何をしているのかという行動が見えてきます。その行動を変えていくためには、環境に良いとか悪いとかを伝えるだけではなくて、単純にフェスを楽しむという導線とうまく絡めることが重要でした」と振り返りました。「分別や回収の設備を置けば、誰もがリサイクルに協力してくれるわけではありません。その手前でやり方を知らない、やりたいと思わないというケースも中にはあります。設備投資や技術開発に目を向けがちですが、その手前で丁寧にコミュニケーションをしていくことも重要です」(同氏)と語り、リサイクル率を上げていくためにはソフトとハードの両面を整えていく必要性を強調しました。寺井氏は今後行動経済学などの知見を活用し、誰もが捨てやすい、捨てたくなる仕掛けを施したごみ箱を開発していきたいと意気込みを語りました。

続いてのトピックは食品ロス問題です。アーケードトーキョー株式会社取締役の佐々木晋氏は、ONE POT WONDERというブランドを立ち上げ、レトルトフードを通じた廃棄食材の削減に取り組んでいます。

image_event_20240605.005.jpegアーケードトーキョー株式会社・佐々木氏

レトルトフードは圧力を使って沸点を上げ通常よりも高温で調理されます。その結果、殺菌だけではなく食材が柔らかくなり、味もしみ込みやすくなります。佐々木氏は「レトルト処理によって保存料を使わなくても消費期限を延ばせます。廃棄される食材をレトルトフードにすれば寿命を伸ばすことと美味しさが両立できるのです」と、レトルト処理の魅力を語ります。その一方、「レトルトフードは低価格でないと価格妥当性を感じてもらえず、味にこだわっていても高ければ買ってもらえない」(同氏)と課題もあります。レトルト処理と廃棄予定の食材をうまく組み合わせることによって、本当に美味しいレトルトフードを目指していく中で、佐々木氏らが目を付けたのは、長期保存が可能で水やお湯に浸すだけで食べられるアルファ化米です。例えば東京都では災害用食品としてアルファ化米を備蓄しています。都はローリングストックのため備蓄しているアルファ化米を定期的に無料配布していますが「アルファ化米は災害時以外に食べても、とても美味しいとはいえず、それを平時に受け取っても、実は困ってしまう方もいらっしゃる」(同氏)のが現状です。そこで佐々木氏はアルファ化米とレトルト処理を組み合わせ、鶏白湯雑炊を開発しました。調味料は塩だけだそうですが、「本当に美味しいものができた」(同氏)と誇らしげに語りました。最後に「レトルト処理技術、美味しいという心理的ベネフィット、そして市場認知や拡販による価格妥当性の3つが得られれば、レトルトフードはフードロス削減の新しい選択肢になる」(同氏)と締めくくりました。

続いて、花王株式会社 研究戦略・企画部(リサイクリエーション担当)部長の瀬戸啓二氏からは、自社で取り組む洗剤などのつめかえパックリサイクル「リサイクリエーション」についてです。

image_event_20240605.006.jpeg花王株式会社・瀬戸氏

現在、シャンプーや洗剤などの製品は8割以上がつめかえパックで販売されています。そもそもつめかえパックも環境に優しい製品であり、ボトル製品に比べプラスチック使用量を4分の1に削減できる「優れたリデュースパッケージ」(同氏)です。しかし花王はさらに一歩踏み込み、2040年までに使用するプラスチック量と同量のプラスチックを再資源化するという野心的な目標を掲げ、リサイクリエーションに取り組んでいます。リサイクリエーションはrecycle(再資源化)とcreation(創造)を合わせた造語で「リサイクルというモノの流れだけではなく、新しい価値を創り出す」(同氏)という思いが込められています。2016年から上勝町、鎌倉市や北見市などで始まったリサイクリエーションは、2023年には年間10トンのつめかえパックを回収できましたが、流通量はその1,000倍以上で途上段階とのこと。効率よく回収量を増やすために、2024年3月に花王は経産省及び環境省から「製造・販売事業者等による自主回収認定」を取得し、自社で回収・運搬するルートを構築しました。リサイクル品も当初は再生樹脂ブロックを作り、回収地域で啓発などに活用されていましたが、2023年には使用済みつめかえパックを再びつめかえパックの原材料として使う水平リサイクルも実現し、さらなる普及に向けて挑戦しています。このような資源循環の輪は、今や花王だけではなく多くの企業の賛同を得ています。例えば神戸市では小売店、ドラッグストア、競合他社なども加わり、回収や再資源化の実証実験を展開しています。瀬戸氏は最後に「水平リサイクルの技術で製品コストを下げ、競争力ある商品を作っていくことが今後の課題です。経済合理性があれば他にも広がっていき、社会を変えていくことができます」と今後の展望を語りました。

最後の事例紹介として、三菱地所株式会社 丸の内運営事業部の持田隼氏とTokyo Torch事業部主事の成瀬隆彦氏から資源循環の取り組み「サーキュラーシティ丸の内」の紹介がありました。

image_event_20240605.007.jpeg三菱地所株式会社・持田氏

三菱地所グループは丸の内エリアで2030年までに廃棄物のリサイクル率100%を目指しており、サーキュラーシティ丸の内もその一環です。サーキュラーシティ丸の内では、飲食店で食べきれなかった料理を持ち帰る「MARUNOUCHI TO GOプロジェクト」や、ペットボトルの水平リサイクル「Bottle to Bottle リサイクルサーキュレーション」などが実施されています。続いて成瀬氏から、日本一高いビルとして2028年竣工予定のTokyo Torch Towerで実施される新たな取り組みが紹介されました。日本で初めてゼロウェイスト宣言をした徳島県上勝町とコラボレーションし、Tokyo Torch街区の常盤橋タワー内飲食施設から出た生ごみを液肥化し、その液肥を使用して育てた農作物をクラフトビールに加工するというものです。

image_event_20240605.008.jpeg三菱地所株式会社・成瀬氏

成瀬氏は「今後は環境への取り組みを積極的にしているビルが、テナント様からより選んで頂けるのではないかと考えました。このビールの提供を通じてごみの分別の重要性、三菱地所グループの取り組みにご協力をいただける雰囲気を醸成していければと思います」とこの施策の意義を語りました。

廃棄物対策は設備や技術とともに、楽しくやろうという雰囲気づくりが大切

これらの事例紹介の後に意見交換が行われました。このセッションでは、環境啓発として全国で行われているごみ拾い活動を、SNSなどで共有しごみ拾いの輪をつなげる活動をしているNPO法人維新隊ユネスコクラブ理事の福田慎也氏も加わりました。

image_event_20240605.009.jpeg維新隊ユネスコクラブ・福田氏

意見交換では、社内のごみ分別の周知徹底に悩んでいるという参加者から「サーキュラーシティ丸の内でのリサイクル率を上げるにあたってハード面(施設や設備)だけではなく、ソフト面(認知度や理解度)の対策は」という質問が挙がりました。持田氏は「実証実験から見えてきたのは、分別のルールが良く分からないから可燃ごみに入れているという人が多いということです。今後はゲーム感覚で廃棄物や分別について楽しく学べるeラーニングの開発も考えています」と答えると、関根氏からも「やらされているというのではなく、どうせやるならみんなで楽しくやろうという雰囲気を作っていくのはとても大事です」とコメントし、他の登壇者も共感するなど和気藹々とした雰囲気でした。

image_event_20240605.010.jpeg意見交換は和気藹々とした雰囲気

意見交換の後の懇親会では、登壇者参加者共に活発な議論が交わされ、またONE POT WONDERの鶏白湯雑炊の試食と三菱地所常盤橋タワーの資源を循環させて作ったクラフトビールの試飲も行われました

image_event_20240605.011.jpeg左:ONE POT WONDERのアルファ化米を利用した鶏白湯雑炊
右:常盤橋タワーの廃棄物を資源循環させたビールTown Craft

今回のシンポジウムで登壇した企業は、様々なステークホルダーと連携しながら廃棄物対策を講じていることが印象的でした。1社だけでは解決が難しい問題も、様々な企業・団体と連携していくことで解決の糸口が見えてくるのかもしれません。廃棄物に限らず、環境問題への取り組み全般に広げても、今回のようなシンポジウムや懇親会での意見交換から、問題解決のヒントが生まれていくのでしょう。

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