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8月12日、今年で9回目となる「丸の内サマーカレッジ2026」が、東京・大手町の3×3Lab Futureにて幕を開けました。この日から3日間、高校生、大学生、大学院生の約60名が、「未来の社会へのアイデアを仲間とともに作り上げる」というテーマのもと集いました。司会を務めたエコッツェリア協会の田口真司は、「3日間でいろいろな人の考え方やものの見方、出会いを届けたい」とこの講座に込められた想いを伝え、ここでの貴重な出会いを大切にして、いろいろな人と対話を重ねてほしいと呼びかけました。
続いて、最初の講演の講師、法政大学経営学部で組織論を教える長岡健氏は学生たちにこう告げました。
「メモは禁止!この講演で必要なのはスマホだけ」
一体どういうことなのか。学生たちの驚きとワクワクとともに、「学び」を「実践」へと発展させる3日間が始まりました。
【DAY1スケジュール】
講演1「『学び』を『実践』へ発展させる3日間のはじまり」
長岡 健 氏(法政大学経営学部教授)
講演2「社会課題を自分ごとに」
東野 唯史 氏(株式会社ReBuilding Center JAPAN 代表取締役 /株式会社すわエリアリノベーション社 代表取締役 )
久松 達央 氏(株式会社 久松農園 代表)
フィールドワーク 「大丸有まち歩きツアー」
長岡氏による講演は、これまでの日本の教育現場の常識を覆すような、こんな呼びかけから始まりました。
「まずは、スマホをつけてください。スマホをずっと見ながら、Xでつぶやきながら話を聞く。これが重要です」
そして、続けて「メモは禁止!」「黙って座っていなくていい」と。Xでつぶやきながら話を聞くことがなぜ重要なのか。それは、登壇者の言葉を必死にメモするよりも、話を聞く中で感じたこと、閃いたこと、その時生まれた自分の中にしかないことこそが大事。だからこそ、その重要なアイデアは消えないように、みんなで共有した方がいいという理由から呟くようにと言っているのだといいます。さらに長岡氏はこう続けます。「学習は知識を得ることではなく、昨日できなかったことができるようになるとか、昨日の考え方と今日の考え方、つまり自分が変わっていくことが学習なのです」。だからこそ、学びの後の自分自身の変化を楽しみに、3日間を過ごしてほしいと。
参加者である学生たちは、最終日のグループワークの発表に向けてグループを作り、これから対話を重ねていきます。長岡氏はその方法について考えるきっかけとして、こう問いかけました。
「今日はなぜ、ここに集まっているのか」
AIもあるし、インターネットもある時代に、なぜ、わざわざ同じ時間・同じ場所に集まるのか、というのです。
その答えとして長岡氏は、「場」を2つの概念で対比させました。
一つは、特定の目的のために集まる「井戸的空間」です。井戸には、洗濯や炊事といった目的があって行きます。同じ目的の人々が集まり、文字通り井戸端会議が繰り広げられるのですが、そこで交わされるのは、予定調和なコミュニケーション。そこからは革新的なアイデアは生まれないといいます。創造性、クリエイティブを求めるならば、「焚き火的空間」がよいというのです。焚き火を囲む人々に明確な目的はありません。なんとなく面白そう、温かいといった理由で集まり、そこでは目的のない対話が生まれる。すると、思いがけない会話の中から新しいアイデアが出てきたり、今までの自分とはまったく違う視点と出会ったり、「セレンディピティ(偶然の幸運)」が生まれる。長岡氏は、年齢も学校も住んでいる場所も異なる、初対面の人々が集まるこのサマーカレッジこそ、焚き火的空間になり得るといいます。
この3日間を創造性が宿る焚き火的空間の場とし、コミュニケーションを通じセレンディピティを生み出して欲しい、わざわざ集まる理由はここにあると語りました。
スマホを手に講演を聞く学生たち
では、クリエイティブ、創造的なグループワークとは、どんなものでしょうか。
1990年代までは、一人のカリスマによる「独創」を、他のメンバーが「分業」で形にするといったモデルが主流でしたが2010年代以降、その主役は「グループ・ジーニアス(集団的天才)」へ移り変わりました。これは、グループ全員で考えるがゆえに生まれる天才的発想を追求するということ。ただし、この状態を実現するには、心理的な「フロー理論」の応用が不可欠だといいます。スポーツで言うところの「ゾーンに入る」というもので、ゾーンに入ると自分でも信じられないプレーができているように、グループトークでもそういう状態をグループとして作れるかどうかが重要になります。高度な集中と没入が、普段では到達できないクリエイティブな解を導き出してくれるのです。
フロー理論について語る長岡氏
次に必要なのは、リスクを受け入れる覚悟と、先へ先へと進める姿勢。
クリエイティブの研究の中で分かってきたのは、計画に時間をかけすぎると、クリエイティブにはならないということ。アイデアや計画は簡単に作り、やりながらどんどん修正していくのがクリエイティブになる道なのだといいます。締め切り直前であっても、「やっぱり面白くないから全部変えない?」と提案できる空気。この土壇場のちゃぶ台返しを歓迎できるチームこそが、最高のアウトプットに到達できるのです。「限界まで試行錯誤を繰り返す。修正回数が多ければ多いほど、創造性は高まる。失敗したもん勝ち」。長岡氏はチャレンジすること、失敗することが学びにつながると学生たちの背中を押しました。
そして3つ目が、不断のコミュニケーション。誰かがとにかく喋り続けることで、場の雰囲気を作る方がアイデアは出てくるのだといいます。途切れることなく対話を続け、そしてその時、グループフローを起こすために、真剣に楽しい雰囲気を自分たちで作っていく。
「思いっきり楽しめば楽しむほど創造的になれるのだということを考えながら、ぜひ頑張ってください」
そう、学生たちにエールを送り、長岡氏は講演を終えました。
長岡氏の講演の後は、サマーカレッジワークショップのグループ決めです。
3つの問いが出され、問いごとに出した答えで4~5名のグループを作ることで、対話の練習をしていきました。長岡氏の講演の後だったこともあり、学生たちは、積極的に声を出し、多くの人と対話をするよう努めていました。最後の質問は「あなたが叶えたい夢、考えてください」。この回答をもとに作られたチームで、最終日のグループワーク発表を行います。グループができたところから昼食に入り、リラックスした中、親睦が深められていました。
午後は2人の講師を招き、「社会課題を自分ごとに」と言うテーマで講演が行われました。
最初に登壇したのは、株式会社ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)の代表である東野唯史氏。東野氏は、解体される建物から古材を救い出す「レスキュー」という活動を通じ、資源の再利用と新たな文化構築を両立させる事業を行なっています。
講師の東野唯史氏
そんな東野氏のキャリアの原点は、大学での恩師から授けられた「デザインで世界を良くしろ」という言葉。1年生で、デザインのことなど全然わからなかった中、「ここでデザインをちゃんと勉強すれば、社会の役に立てるんだ」というのが、最初の気づきであり、その言葉が現在でも仕事をする上での根幹となっていると言います。しかし東野氏は、世界一周の旅でこんな経験をします。「PCもネットもないアフリカやインドの現場で、CADでしか図面が書けない自分は無力でした。ギター一本で人を喜ばせることもできない。自分はデザイナーとしても人間としても弱かったんです」。依存しないスキルの重要性を痛感した東野氏は、大工たちと共に汗を流し、自ら手を動かしていきました。
そして2016年、長野県諏訪市にリビセンを設立。「リビルドニューカルチャー」をスローガンに掲げ、単なる古材販売を超えた独自の事業モデルを展開しています。その核心は「レスキュー」という概念の再定義にありました。解体される空き家から古材や古道具を回収する行為について東野氏は「世の中で見捨てられたものに価値を見出し、次世代に繋ぐ文化の再構築」と語ります。
現在、日本の空き家は全国で900万戸に達し、諏訪市においても空き家率は20%を超えるといいます。倒壊や火災のリスクといった深刻な課題に対し、東野氏はこれらを「ゴミ」として解体・廃棄するのではなく、地域の「資源」として見立て直したのです。
そして現在、リビセンの活動は、一店舗の運営から諏訪市というエリア全体の変革へと拡大。採用されているのは、特定の範囲(徒歩5分圏内)に集中して出店を促す、極めて密度の高いエリアリノベーション戦略です。コーヒーロースター、パン屋、花屋、ガレット店など、多様な個店を近接したエリアに集中的に誘致・支援し、この点の集積は、単なる店舗の増加ではなく、エリア全体の回遊性と体験価値を高める面の魅力へと変貌を遂げました。その特徴は、地域貢献と自社利益の双方向フィードバックループ、東野氏の言う健やかな循環の構築にあります。エリアが魅力的になることで、リビセン自体の来客数が3倍に増加。個別の課題解決を積み重ねた結果、まち全体がレスキューされていったのです。
こうしたエリアの変革を加速させているのが、4年前に設立したすわエリアリノベーション社。同社は、新規創業者が直面する不動産確保と資金調達という2大ボトルネックを解消する組織的な解決策まで提供しています。10年にわたる活動で築かれた、リビセンが関わる事業なら融資できるという地域金融機関からの信頼は、新規プレイヤーの参入障壁を下げ、持続可能なまちづくりのエコシステムを機能させています。
質疑応答の様子
講演の最後に、東野氏はこう述べました。
「空き家のレスキューが重なることで、まち全体がレスキューできるという風につながると思います。こういった健やかな循環ができていって、地域が楽しくなる。特別なものもお金をかける必要もなくて、身の回りのあるもので工夫すればきっと楽しくなる。こういった諏訪みたいなまちが全国に増えていけば、きっと日本全体が良くなり、暮らしが楽しくなっていく、豊かになっていくのではないかと思っています」
身の回りにあるものを工夫して活かすことで再構築される豊かな暮らし。学生たちもレスキューによって再構築される暮らしや文化、東野氏がいう豊かな循環に大きな興味を寄せ、質疑応答では、レスキューという発想の原点やエリアリノベーションのその先、移住者としての地域貢献の在り方についても語られました。
講師の久松達央氏
2人目の登壇者は、茨城県土浦市で農園を営む株式会社久松農園の久松達央氏です。
非農家出身である久松氏が、大手繊維メーカーを退職し農家に転身したのは、28歳の時でした。仕事に不満はなかったものの、「全体重を傾けて取り組める仕事」が見つかるといいなと、ぼんやり考えていたと言います。そうした久松氏が選んだのが農業でした。
1年間茨城県の農業法人で勉強し、親戚のツテをたどってたどり着いたのが土浦市。そこで野菜づくりを始めました。「有機という手法で、いろんな種類の旬の野菜を作って、それを個人のお客さんに直接販売して生計を立てていきたい」、そういうと近所の農家に「そういうやり方って『食ってはうまい』よな」と言われたといいます。しかし久松氏はその言葉で気づくのです。
「そうか、世の中の多くの農家はうまいものを作っていないのか」
そもそも久松氏が有機農業に関心を持った理由の一つは資源の循環でした。日本の農業は、肥料や動物の餌のほとんどを海外から購入、トウモロコシにいたっては、ほぼ 100パーセント輸入なのだといいます。久松氏はそんな現状を憂いていたのです。
「もう少し小さな輪で、地域にあるものを使ってものが作れたら素敵なのに」
しかし、地域にあるもので作りたい、という思いから始めた野菜作りの道はあまりにも過酷でした。こうして、久松氏は、全体重どころか一生をかけて自らの農業の理想を追い求めることになったのです。
久松氏は現在の日本農業を、産業化によるモジュール化、持続困難な個人事業の二極化が進む過渡期にあると定義しています。農家の数は激減、全農家の約1割が産出額の8割を占める一方で、半数は年間売上100万円以下の年金依存型経営なのだといいます。さらに、食料支出の8割が外食・中食へ移行し、農産物は調理用から加工・業務用原料としてのスペック(安定供給・標準化)が求められています。こうして、農業が熟練の経験則から、資本投下による計画生産へと変容していくなか、久松氏が選択したのはランチェスター戦略における弱者の戦略を極限まで先鋭化させたモデルでした。産業化する農業とは対極の道を選び、目指すは「小さくて強い農業」。コンセプトは巨大な家庭菜園です。起点となるのは市場ニーズではなく、作り手の嗜好。好きなもの、自分が美味しいと思う野菜を作る。久松氏のブレない哲学です。
現在久松氏は、70品目にも及ぶ多品目栽培を、特定の商社を介さず350軒の個人客へ直接販売しています。このモデルは、強者(大規模資本)が決して手を出さない手間のかかる領域。それを緻密なオペレーションによって成立させています。
多品目栽培という理想を、自前で構築したデジタルインフラ(スプレッドシートやデータベースを活用した物流・決済システム)で制御、年間200もの緻密な作型を管理し、月1,000件に及ぶ小口配送をミスなく完結させる「とてつもなく面倒なオペレーション」を、実行力で回し切っているのです。
緻密なオペレーションシステムについて話す久松氏と興味深く耳を傾ける学生たち
そんな久松氏の視座は現在、地球規模の資源循環にまで及んでいます。日本の農業は肥料、特にリンを海外に依存していますが、リン資源はモロッコや中国の独占状態にあり、安全保障上のリスクが極めて高いのだといいます。これに対し、久松氏はあるもので作るという有機農業の原点に立ち返り、地域循環型肥料の製造を可能にするプロジェクトを推進しています。自治体と連携し、これまで廃棄されていた牛糞や下水汚泥を活用。総額1,850万円を投じた肥料プラントを稼働させる計画だというのです。目指すのは、輸送コストを最小化し、地域内の未利用資源を農産物へ転換する半径10km圏内のエコシステム。化石燃料ベースの肥料が枯渇する300年後を見据えた超長期的投資です。「飯がまずい国」に住みたくないという個の美学が、国家的な資源戦略と地続きになっている事実に、学生たちもリアリティを感じ取ったようで、質疑応答では、多角的な目線、独自のルールの発想や思考についての質問が飛びました。これに対し久松氏は、物事を一度抽象化して俯瞰してみること、未来の目的から逆算して今を選択する柔軟性を持つことが大切だと語りました。
午後のプログラムで登壇した東野氏と久松氏のクロストークでは、お互いの共通点が、そこにあるもので作る、個人的情熱と欲求であることに触れました。楽しいからできる苦労の先には地域の豊かな暮らしがあるという二人からのメッセージに、学生たちは自らの未来に対する希望を感じ取ったようでした。
DAY1最後のプログラムは、大丸有まち歩きツアー。
まちへ出る前にインプットトークがあり、大名屋敷が立ち並んでいた江戸時代から、三菱に払い下げられ、西洋式オフィス街へとまちづくりがスタートした歴史が語られました。
そのまちづくりは、単なるビルの建て替えを超えたものであること。地権者や行政などと連携し、共通のガイドラインを運用することで、インフラ整備から公共空間の利活用までを面的にデザインしている点が特徴だと言います。
フィールドワークの様子
「面的にデザインされたまちづくり」とはどんなものなのか。学生たちは複数チームに分かれてまちを散策。その目と足で、大丸有エリアのまちづくりのリアルに触れ、感じ、自らの描く未来図に照らし、溶け込ませながら有意義な時間を過ごしていました。

高校生・大学生等が、他学校の仲間と交流し、様々な社会人の生き方をのぞきながら、これからのサステイナブルな社会に向けたアイデアを考えるプログラム。
丸の内サマーカレッジ2026 2026年8月12日(水)〜14日(金)開催
■オリエンテーション
2026年8月6日(木)16:00-17:30
■メインプログラム
2026年8月12日(水)~8月14日(金)各日10:00-17:30
(14日のみ~18:00)
エコッツェリア会員企業視察ツアー in 静岡県 2026年7月24日(金)開催
2026年10月30日(金)18:30~20:00