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レポート】デマンドサイド視点で再設計する都市と地方の「関係性」 丸の内プラチナファームが提示する食農ビジネスの未来

【丸の内プラチナ大学】アグリ・フードビジネスコースDAY5 2026年1月26日(月)開催

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1月26日、東京・大手町の3×3Lab Futureにて、丸の内プラチナ大学アグリ・フードビジネスコースの最終回となるDay5の講座が開催されました。今年は「都市と地域を食と農でつなぐ」をテーマに、茨城県常陸大宮市、群馬県太田市、千葉県香取市にスポットを当て、日本の食と農の現状や課題を学ぶとともに、3地域でのフィールドワークを行うなど体験・交流型のプログラムをおよそ半年間かけて実施してきました。最終回では、その振り返りとともに、この講座だけで終わらない持続可能な実装案へと落とし込む有意義なグループワークが行われ、参加者たちの深い探求とそれぞれの学びが共有されました。

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「商品(モノ)+体験+関係作り」と「デマンドサイド」視点とは

「商品(モノ)+体験+関係作り」と「デマンドサイド」視点とは

講座は、本コースの講師である中村正明氏(6次産業化プロデューサー、関東学園大学教授、東京農業大学客員教授)による今年の振り返りからスタートしました。今年のアグリ・フードビジネスコースのキーワードは、「都市農村連携」「6次産業化」そして「フードプラットフォーム」の3つ。これらを紐づけながら「デマンドサイド視点」で繋がりを成果に変えるということを目標に、座学とフィールドワークを重ねてきました。

260126image1.JPG アグリ・フードビジネスコース講師の中村正明氏

地方には土地の宝ともいえる素晴らしい農産物が溢れているものの、農家では「質が良いのになぜか売れない」「商品化したけれども売れない」といったように、「6次産業化」がなかなか進まないといった課題の多い状況にあります。ではそんな状況をどう解決すればいいのか、という問いに中村氏は、作り手側の論理(プロダクトアウトの思考)から、都市側の潜在的なニーズを起点に地域資源を再編集する「デマンドサイド視点」に転換することが必要だと答えました。デマンドサイドとは、需要側の視点ということ。都市と地方の中でいえば「都市側のニーズを捉えた視点」ということになります。さらに、ものづくりや新しいサービスを作ることが一つ醍醐味となっていたこれまでの6次産業化に、これからはもう一つ「関係づくり」を加えて価値を拡張することが大事だといいます。そして、中村氏は「商品(モノ)+体験+関係づくり」の3点セットによる価値の拡張、その実践例が今回の講座で取り上げた3つの地域で見られたとし、デマンドサイド視点を具現化する異なるアプローチとともに振り返りました。

「デマンドサイド視点」を具現化する異なる3地域のアプローチ

1つ目の地域は、全国に誇るナンバーワンの農産物を多く持つ群馬県太田市です。
中村氏は、太田市で農業に新しい価値を付加するためのプラットフォームを4年かけてコーディネートしてきました。そして、太田6次産業化Labというそのプラットフォームの土俵上で、プラチナ大学のプログラムや体験・交流型の農場である「丸の内プラチナファーム」もスタートさせました。産学官民が連携し、都市と地方(生産者)をつなぐこのプラットフォームは、地元の新聞である上毛新聞の一面トップに大きく掲載されるなど、一大産地ならではの関係人口づくりとして非常に大きな期待が寄せられています。
そんな太田市の強みは、安定供給ができること。
プラチナファームに期待を寄せる生産者の一人、木村園芸の木村氏が紹介されました。同氏は35ヘクタールという広大な畑を運営し、大量に生産して大量に卸すというビジネスモデルによって安定供給を可能にしています。しかしその裏側には農業の厳しい現実もありました。多額の人件費や大型機械などの維持費がかかるため、粗利益は決して高くはない経営状況にあるというのです。気候変動による影響、資材高騰、労働力確保の困難、担い手不足と日本の農業全体が抱える課題は決して少なくありません。日本人が次々と離農していく現状を憂い、木村氏は外国人労働者を雇用・育成しています。しかし彼らが技術を習得した後、日本人が手放した土地を買い取って農業を続けていく光景に、これで良いのかという葛藤も抱えているようです。

260126image2.JPG 太田市の農における学びのポイントを振り返る中村氏

さらに木村氏からは、農業の持続可能性に関する深刻な課題として、耕作放棄地とその開墾についても知らされました。耕作放棄地の開墾には補助金がなく、ネズミや害虫の被害により3年ほど十分に収穫できないといった生産者が背負う負担が非常に大きいのです。それでも、木村氏が耕作放棄地を自らリスクを負って開墾し続けるのは、「地域の景観が失われるのは耐えられない」「日本の国土を守る」という使命感からだといいます。

では、こうした耕作放棄地を単純に負の資産で終わらせないためにはどうすれば良いのでしょうか。

新しい視点として提示されたのが「ガストロノミー化」でした。 素材の良さを生かした「食体験(ガストロノミー)」を取り入れることで、耕作放棄地を景観や学びの価値を生む地域資源として再定義することができるというのです。そして地域の人々には気づけない当たり前を、価値あるものとして「翻訳」することも重要だと中村氏は述べました。都市側の人たちとの連携の中で、農業や食の価値を、都市生活者に伝わる言葉に変換(翻訳)し、より深い関係人口(共創の担い手)を増やしていくことが大切なのだと。まさにこれこそ、「デマンドサイド視点」で農を考えるということです。土地の現状を知り、生産者の情熱と都市側のニーズを掛け合わせることで、持続可能な農業モデルの再構築を可能にできるのです。

260126image3.JPG 常陸大宮市のフィールドワークを振り返る中村氏と熱心に耳を傾ける参加者たち

2つ目の都市は、「オーガニックタウン」として有機栽培や有機農業に力を入れている茨城県常陸大宮市です。こちらでは太田市とは対照的な小規模農家が紹介されました。元自治体職員から転職し、自営農業を営む橋本氏は、自身の畑で収穫体験を受け入れるなど、都市部の人々との交流を行い始めています。そんな中、今期のフィールドワークを通じて新たな取り組みがありました。橋本氏のもとで農業体験をする中で、2月のほうれん草の収穫が大変なのだという話を聞いた参加者から「手伝いたい」という声があがったのです。そこから急遽、収穫の手伝いと水戸の梅を見るツアーが実施されることになりました。これは常陸大宮市でも初の試みであり、新たな切り口として都市と地方のつながりができた瞬間でもありました。現地へ行ったからこそ見える価値の創造、そして共創という新たな支援の形の実装でした。

そして3つ目の地域となる千葉県香取市では、デマンドサイドの農業を実践する並木自然農園の並木氏が紹介されました。同氏は、自ら都心の高級飲食店を1軒ずつ回って販路を開拓、ファンを作る「マーケットイン(需要起点)」の仕組みを構築しています。1〜2ヘクタールという規模を一人で管理し、オーガニックに近い状態で農作物を栽培。特定(都市)のニーズに応えるデマンドサイドの考え方を実践しているのです。
そうした生産者のいる香取市は、歴史ある佐原のまち並みと広大な農業地帯を併せ持つ「食の目的地」としてのポテンシャルが高い地域としても知られています。しかし今期の講座を通じ、意外にも佐原のまちと周辺農家との接点がない、地元農家が佐原の進化・変化を知らないという状況を知ることになりました。一大産地でありながら、産地と観光資源(まち並み)の連携にはまだ改善の余地があったのです。

香取市では佐原を中心に、歴史的背景を活かした独自のまちづくりが進められています。江戸時代、伊能忠敬の時代にはまちの中心を流れる川沿いに35軒もの酒蔵があったと言われるほど、発酵文化が根付いた地域で、この豊かな発酵文化を観光と結びつけ、「発酵と観光のまちづくり」に注力しています。そして、飲食店や加工品を含め、歴史的なまち並みそのものを「ブランドの器」として信頼を担保していく戦略が検討されていますが、そこにさらに地元農家と佐原のまちがパートナーとして連携した商品開発や体験プログラムの開発が行われることで「まちぐるみの6次産業化」が見えてくると中村氏は語りました。その事例として、もう一人のゲスト生産者である800年続くお米農家(太郎左衛門)の小堀氏は、佐原の発行をテーマとした飲食店の醸し処和ぎと連携し、米麹の開発に関わり、甘酒の商品化や料理に利用されるなど新たなコラボが始まっています。そして振り返りの最後に、都市と地域の繋がりを一時的なイベントで終わらせないためには「関係人口の段階的モデル」が必要だと呼びかけました。「知る・買う」という入り口から、「訪れる・手伝う」を経て、最終的には「共創する・担い手になる」というステップを一段ずつ進めることが重要であり、人、情報、物流、決済、学びを機能させる「フードプラットフォーム(地域商社的機能)」が、これらのステップを支える装置となるのだと。
そして、こうした機能を担う協議会の検討が、群馬県太田市では既に始まっているようで、受講生は新たな展開に期待を膨らませました。

学びを実装するーデマンドサイドで考える丸の内プラチナファーム

260126image4.JPG グループワーク中の様子

3地域の振り返りを終えた後、グループワークに移ります。最初のお題は、大田市役所からの熱烈なコールから生まれた「丸の内プラチナファームをベースに考える太田市の新たなふるさと納税」についてでした。
これにテーブルごとのチームがディスカッションし、さまざまなアイデアを発表していきます。共通するのは、ふるさと納税を単なる買い物から体験やコミュニティへの参加権といった都市と地方を繋ぐ「関係性のプラットフォーム」へと転換させていたことでした。
例えば、個人向けには、自宅を農場の出張所化する「お育て相談」付き苗キットの販売や、現地へ行くまでのさまざまな煩わしさを無くした 東武鉄道連携のオールインクルーシヴ&オンデマンド・ツアー、ファームで取れた農作物を使用した商品の開発や、郷土料理の新メニュー開発権、さらには農業弟子入りプログラムや農業就活までといった様々なアイデアがあがりました。
また法人向けとしては、企業の技術や製品を農業現場で試す実証実験の場としての農地利用権や、農業体験とあわせた企業マルシェの開催権といったものまで。

260126image5.JPG グループワークの成果を発表する参加者たち

そして、参加者の熱気が充満するなか、2つめのグループワークが中村氏より発表されました。お題は「太田市の丸の内プラチナファームを継続していくには?」。これにも以下のような興味深い提案が発表されました。
① 丸の内プラチナファームの持続可能性を確保するための多角的な「巻き込み農業」
東武鉄道による格安チケットの提供や、地元企業スバルの従業員向け福利厚生施設としての活用を通じた農場への誘致。地元プロバスケットボール選手を招くことで取り込むファン層の労働力など、地域社会や企業を巻き込んだユニークな農場維持策が示された。
② 農業体験+独自のコミュニティを創出する新しい地域交流「丸の内プラチナスナック」
都市部で働く人々と現地の個性豊かな農家が深く繋がる仕組みとしてのスナックを提案。
参加者は農作業だけでなく、現地の人々と対話すること自体を目的として訪れ、お互いがホス トとゲストの役割を柔軟に入れ替わりながら関係を築くというもの。土地の魅力だけでは ない人の魅力にフォーカスを当てたアイデア。
③丸の内プラチナファームを起点にした「食の総合商社」
太田地域における農業のあり方をiPhoneの開発モデルになぞらえて提案。Appleが設計に特 化し生産を外部委託するように、丸の内プラチナファームを拠点とした分業体制の構築を目指すというもの。地域の強みである種苗会社や食品加工工場、そして農家を横断的に連携させること で総合商社のような機能を持たせることが核心となるアイデア。

こうして充実のグループワークを終えた参加者たちは、最後にフィールドワークで訪れた農場から送られた新鮮で滋味深い食材で作られた食事を楽しみながら、食と農の未来、都市と地方のつながりについて時を忘れるように語り合い、今期の講座を終えました。

260126image6.JPG 食事を楽しむ参加者たち

中村氏は講座内で次のように述べました。「丸の内プラチナ大学は終わってからが始まりである」----。
その言葉通り、丸の内プラチナファームは単なる一過性のワークショップではなく、社会実装のための「プラットフォーム」となっていく、そしてそこで都市と地方がつながり、共創していく確かな未来が創造されていく、そんな景色が見えた最終回でした。

(取材・執筆:鈴木留美)

 

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