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【丸の内プラチナ大学】日本型CSVを補強する「協創力」

CSV実践コース第2回(DAY 4)レポート 11月20日

「新グローバル時代」において求められる「協創力」

11月20日、丸の内プラチナ大学の「CSV実践コース」第2回目の講義が3×3Laboで行われました。このコースは、さまざまな分野でのCSVの実践事例を学びながら、講師やほかの参加者との出会いを通し、自分自身が持つ経験の可能性に気づくこともテーマとしているものです。

第2回目は、伊藤園 常務執行役員 CSR推進部長の笹谷秀光氏が講師を務め、「これなら分かる日本型共有価値創造(CSV)戦略」と題し、連携と協働で新たな価値やイノベーションを生む企業事例や地方創生を行う企業や地域のケーススタディについて講義を行いました。今回は、講義とワークショップを分けるのではなく、講義の合間合間に参加者同士でのワークショップを行いながら進めていきました。

「感動なきことは覚えることにつながらない。今日は、私の話を聞いた皆さんに、"面白い"と感じてもらい、次に誰かに話したくなるようにしたい」と、講義をはじめた笹谷氏。まず、「新グローバル時代」について、ウェビングという、キーワードから次々とイメージを広げていく手法を用いながらさまざまな事例を紹介していきました。2015年5月〜10月まで行われたミラノ国際博覧会の話題に始まり、ミラノ万博にも出展し、日本遺産第一弾に認定された福井県小浜市、2014年にグッドデザイン賞に選ばれた丸の内仲通りの事例、パリ市が運営するレンタルサイクルの事例‥etc。

次々と紹介する事例を通して、笹谷氏は「東京はもちろん、小浜市も世界とつながっている。一昔前は、いいものが世界に届くまで時間が掛かるような時代だったが、いまはすごいスピードで世界に届き、普及していく」とし、価値観が変化し続けていく現在の社会は「グローバルに"新"をつけ、新グローバル時代と言わないと成り立たない時代となっている」と話しました。

これは、2020年の東京五輪・パラリンピックの招致成功をきっかけに、さまざまな企業や自治体で行われているインバウンド、アウトバウンドの施策や、SNSや動画サイトに代表されるICTの発展などによってもたらされるもので、これらが地方創生や国際都市としての東京の発展につながり、ひいては日本の創生につながっていくものといえるでしょう。

そして今、新グローバル時代において求められているのは、色々な分野の人々が集まり、連携し、協働で新しい価値を創造する「協創力」であると、笹谷氏は提唱しました。

第2回の講師を務めた、伊藤園 常務執行役員 CSR推進部長の笹谷氏

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「発信型三方よし」が「日本型CSV」を作り上げる

「発信型三方よし」が「日本型CSV」を作り上げる

続いて笹谷氏は、協創力を発揮してCSVを実現するためのフレームワークを紹介しました。まず話をしたのは、「CSR」という言葉の見直しについてでした。

一般的に、「CSR(Corporate Social Responsibility)」は「企業の社会的責任」といわれます。しかし笹谷氏は「"Response(反応する)"+"ability(能力)"であり、CSRとは"企業の社会的対応力"」と考えるべきであると言います。

社会的対応を行うために、笹谷氏は「産官学金労言(産=産業界/官=行政/学=教育/金=金融/労=労働/言=メディア)」と連携し、「協創力」を発揮していくことが必要だと訴えます。その背景にあるのは、社会課題の複雑化です。「日本は、ほかの先進国が経験したことのないような課題に直面している。我々は"課題先進国"に暮らしているのだ」とし、だからこそ「皆で知恵を出し合って、課題の解決に向かって行かなくてはならない」と説きました。

協創力を持って「産官学金労言」と連携をする。ではそれによって何をすべきか。それは、「環境にやさしい」「人にやさしい」「社会にやさしい」という3つのことであると笹谷氏。この3つに対し、課題間の相互依存性を踏まえながら、組織が自分たちの得意分野(本業)を通じて、全体的にアプローチしていくことが必要になるのです。

伊藤園レポート2015さらに笹谷氏は、より具体的に、企業はどう対応するべきかを語ります。そのキーワードになるのが、近江商人の経営哲学である「三方よし」という考え方です。これは、売り手と買い手の双方が満足し、さらに社会にも貢献して利益をもたらすというもの。日本企業の経営観にも根付いているこの考え方とともに「陰徳善事(人知れず善い行いをすること)」として発信を押さえる心得があります。しかし、発信しないでいると連携につながらないので、効果的に発信していく「発信型三方よし」で対応していくべきであると語りました。

この「発信型三方よし」は、マイケル・ポーター氏が提唱する「CSV」の三類型(製品と市場の見直し/バリューチェーンの見直し/産業集積の形成)とを組み合わせることで、「日本型CSV」が作り上げられると笹谷氏は提唱しています。
また、その事例として、伊藤園の最新の統合報告書「伊藤園レポート2015」も配布説明がありました。

「産官学金労言」の協創により成功した富山市の地方創生事例

ワークショップでは、各テーブルごとに活発な議論が行われた

ここまでの講義を踏まえ、「地方創生」についての事例を紹介しながら、そこに潜むビジネスチャンスについて語りました。

笹谷氏が挙げたのは、富山県富山市の「コンパクトシティ」の事例でした。2012年6月、OECD(経済協力開発機構)によって、コンパクトシティの先進モデル都市に選出された富山市では、公共交通機関を活性化させることで、拠点集中型の都市づくりを目指しました。そのために行われたのは、日本初のLTR(ライトレール)の導入や市電の環状線などのハード整備に加え、市内在住の65歳以上の人が安価に市内電車を利用できる仕組みや「孫とおでかけ」すると美術館などの利用料が無料になる事業の実施です。高齢者が街中に出たくなるための仕組みを構築した富山市の事例は、企業にとっては乗客の増加などによって本業への好影響が、住民にとっては安価な外出と外出機会増加による健康効果への期待、自治体にとっては中心市街地の活性化や医療費の負担軽減への期待がある、複合的な共有価値創造政策であると解説しました。

こうした地方創生に取り組む際に忘れてはならないのが、「センス・オブ・プレイス(その場所を特別と感じさせる何かという、街の個性)」と「シビックプライド(その街に対する愛着や誇り)」という2つの考え方であると、笹谷氏は言います。この2つをアピールする政策をとることで好循環が生まれていくというのです。そして、ここに企業が入り込み、本業を活かして「さすが」と思われるような支援を行うことが、政策をさらなる成功に導くとともに、ビジネスチャンスにもつながるという考え方を示しました。

『協創力が稼ぐ時代』この事例を踏まえ、富山市のコンパクトシティには、どのような企業や団体が参加していたのかを想像し、議論する場に移りました。参加者からは、メディアや金融関係、交通業界など、さまざまなジャンルの企業が挙げられました。それを受けて笹谷氏からは「まさに、この富山市の事例は"産官学金労言"が結束することで行われたもの。日本には、"産官学金労言"が協創して行われた優良事例は数多くある。ぜひそうした事例を見て、学び、皆さんの経営戦略につなげてもらいたい」とコメントしました。なお、このような企業事例や自治体と企業の協働事例と「発信型三方よし」(日本型CSV)の提言は、笹谷氏の新著『協創力が稼ぐ時代』(10月刊、ウイズワークス社)で詳しく紹介・分析されています。

今回の講座のキーワードでもあった「協創力」。この言葉は、参加者にどのような影響を与えていくことになるのでしょうか。さまざまな分野の人々が参加しているだけに、この講座をきっかけに協創力が発揮され、新たなビジネスや取り組みが生まれることがあるのかも。そんな期待を抱かずにはいられません。


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