3,14,15
コミュニティやコミュニティマネジャー(コミュマネ)の育成を通じ、社会のアップデートを目指す「丸の内コミュマネ大学」。その第3回講座が10月3日、東京・大手町の3×3Lab Futureで開催されました。今回のテーマは「壁を越えてつながる社内コミュニティ」。株式会社ディー・サイン代表取締役社長の長尾成浩氏をゲストにお迎えし、ワークスタイルやワークプレイスの変化に伴う企業内での組織づくりやコミュニティ作りについてお話を伺いました。まずはshokujiiのお弁当を前に、参加者は恒例の「いただきます」を大合唱して始まりました。
参加者は食事でつながる場を提供する「shokujii」でお弁当を注文し、食事をとりながら聴講
長尾氏はこれまで大手家具メーカーや組織コンサル会社などで、組織づくりとオフィス空間設計の融合に取り組んできました。そして現在はワークプレイスの空間デザインを手掛ける株式会社ディー・サインの代表とコミュニティマネジャーなどの人材派遣・紹介などを行う株式会社andONE(DE-SIGNグループ)の代表取締役社長を務めています。
株式会社ディー・サイン・株式会社andONE代表取締役社長の長尾氏
今回のテーマ「壁を越えてつながる社内コミュニティ」について、長尾氏は「よく『社内の人をつなげ』『斜めの関係が重要』と言われるが、実現は難しい。総務部が社内イベントや研修などで繋がりを生み出そうとするが、あまり会話しなかったり、関係性が後に続かなかったりする。それはベースの関係性がないためで、そこにどんなにイベントを差し込んでもネットワークにまで達しない」と課題を指摘します。
このような課題に対してディー・サインは、働く環境(場や物理的な環境、ICT環境、運用環境)のデザインから変えていくことで、社員の行動や意識を変える環境づくりに取り組んでいます。一方andONEでは人に着目して、組織と働く人のエンゲージメントを高めるサービスを提供しています。長尾氏は「組織を作ったり変えたりする時に、理屈がどうあれ最後は人だと思っている。人がつないで、人が作る組織が一番強い」と言い、環境を整えるだけでなく、それを戦略的に活用できる人の支援に力を入れているそうです。
次に同氏は、自社で取り組む、壁を越えて社員同士をつなげる「アソシエーション活動」を紹介しました。DE-SIGNグループでは、業務の合間に社員が簡易食堂をオープンしたり、チェスや怪談イベントを企画したりと、部門や所属を超えて交流できる場が生まれています。長尾氏はその効用について「部門や所属を超えた『斜めの関係性』を育み、社内コミュニティの活性化ができる」と言います。
参加者は熱心に長尾氏の話に聞き入っていた
長尾氏は、これからのワークプレイスが、企業人としての業績や目的達成だけではなく、企業文化やイノベーションを起こす場となり「経営資源となるべき存在」であると語ります。同氏はまず前提としてコロナ禍でワークプレイスが大きな変化を迎えたと語りました。
「コロナ禍前は、企業人としてのチームが1つの目標に向かっていればワークプレイスは成立していました。しかしコロナ禍以降は、ワークスタイルの変化やICT環境によって、従来の組織では対応しきれなくなってきています。例えばゼネコンでは現場チームと設計チームでは意識も働き方もまったく違います。それを一つの組織としてまとめなければならないときに、全社共通の画一的なルールやワークプレイスでは限界があるんです」(長尾氏)
そして、このような時代の変化に対応するためにも、ワークプレイスの物理的環境、ICT環境、運用ルール/ガイドラインの3要素を最適化するべきであり、それが社員の行動や意識の変化、さらには企業文化の醸成やイノベーションにつながるのだと語りました。
また、3要素の環境整備に加え、「オフィスキュレーター」というワークプレイスの使い方を伝える存在が必要だとも話します。
「これまでの経験では、企業がワークプレイスに投資してさまざまな仕掛けをしても、ほとんどの社員はそれを知らず、活用しきれていません。伝わっていないことが問題であり、ワークプレイスの使い方を説明し、コミュニケーションやコミュニティを促進する存在、つまりオフィス環境を編集する存在が求められているんです」(長尾氏)
「オフィスキュレーター」について語る長尾氏
「オフィスキュレーター」は、まさに企業内のコミュニティマネジャーと言えます。長尾氏は、これからの企業は業績達成などを目指すチーム的側面に加えて、共有や共感、文化形成を目的とするコミュニティの側面を育てていくことが肝要だとして次のように話し、講演を締めくくりました。
「業績だけを目的にしているとそれを達成した時に、自身をより高めるため転職する場合があります。その企業に勤め続けるかどうかは、共感や文化によって水平につながるコミュニティがあるかどうかです。『オフィスキュレーター』を通じて、チームとコミュニティの両軸をバランスよくマネジメントしていくことが、とても重要な時代になってきています」(長尾氏)
長尾氏の講演の後、参加者らはグループに分かれて感想を共有しました。多くのグループがアソシエーション活動に興味を持ったようで、「どうやって活性化させればいいのか」「部活動を働きかけても、実際はなかなか立ち上がらなさそう」といった声があがりました。長尾氏は「立ち上がらないのであれば無理に立ち上げないほうがいい。下地がないのに、無理に立ち上げると距離が遠のくばかりだ。ケースバイケースだが、例えばビジネススキル向上の研修を入れて、その中で少し関係性が深まる下地を作りながら、非日常的なイベントを差し込んでいくという繰り返しが本質的には必要だと思う。かなり時間がかかる話で、短期間で成果を出そうとするとひずみが生まれる」とアドバイスしていました。
長尾氏の講演を受け、感想を共有する参加者
休憩を挟んだ後、長尾氏のほか、ファシリテーターとして株式会社ファイアープレイスCEOの渡邉知氏、3×3Lab Future館長の神田主税、同 ネットワークコーディネーター田邊智哉子が加わりクロストークが開催されました。まずは渡邉氏、神田、田邊が感想を述べた後、オフィスキュレーターに話題が及びました。
クロストークの登壇者(左から神田、長尾氏、渡邉氏、田邊)
(以下、敬称略)
渡邉:ワークプレイスを再定義した後、その編集者としてオフィスキュレーターの必要性が語られていたと思います。ワークプレイスの再定義とオフィスキュレーターの役割について改めて教えてください。
長尾:コロナ禍以降、リモートワークやオンラインツールの出現で出社の必要がなくなり、ワークプレイスの意味合いは変わりました。また、業務のためだけに会社に所属するという状況に、意味を見出せない人も増えています。チームとして目的の達成や、新しいものを生み出すために踏ん張らなければならない時は来るもので、その踏ん張りのためにはコミュニティの側面が重要だと思うんです。従来の出社が当たり前だった時のワークプレイスから、みんなが集まり、集まったことを活かせるようなワークプレイスを再定義し、コミュニティを醸成し、チームを強くしていくための装置と捉えないと、経営戦略としては拙いのではないかと考えるようになりました。そして、そこから生まれたのがワークプレイスを編集し、伝えていくオフィスキュレーターでした。
渡邉:オフィスキュレーターがワークプレイスやワークスタイルを再定義・編集できて、それを発信していくと、何がよくなるのでしょうか。
長尾:エンゲージメントしやすくなると思います。会社と社員との関係性、あるいは社員同士、上司と部下など、組織の課題は『間』に起きるもので、その間をつなぐことをオフィスキュレーターが担えればエンゲージメントが向上すると思っています。
クロストークではオフィスキュレーターで盛り上がった
神田:オフィスキュレーターは、すごく求められている役割だと思います。私の経験でもオフィス移転の直後はイベントなどで注目を集めるものの、時間が経つとトーンダウンしてしまうケースもあると思っています。オフィスのハード的な効果を活用するためにも継続的に専門性を持った人が関与していく必要があると感じています。
長尾:多くの会社では、オフィスを移転した時がピークになってしまいますが、そうではない会社もあります。成功している会社には、専任のファシリティー担当がいます。オフィスを巡回し、日常の課題を拾い、仕掛けを行っている人がいることで、価値が目減りしないのではないかと考えます。
続いて田邊から「良さや可能性はとてもわかるのですが、仕事の場で、社員が事業活動を一旦横において社員同士の横の繋がりを行うのは今のオフィス空間では難易度が高いと感じる。」との感想が寄せられ、それを受けて渡邉氏が「これからのオフィスは、どうあるべきだと考えますか」と長尾氏に質問しました。
長尾:これからのオフィスは、チームを前に進めるためのベースとなる、人間関係を構築する装置であるべきだと思います。目標に対してくじけそうになったときに『この人がいるから頑張ろう』と思えるような人間関係が、今は弱まってきている。だからこそコミュニティの側面があるワークプレイスで、みんなとつながって励まされて、また頑張れると思っています。
渡邉:ワークプレイスの価値を再定義し、発信する役割のオフィスキュレーターにも、人と人をつなぐ、つながりを育むようなことが求められるのでしょうか。
長尾:求められますね。だからこそテックツールではなく、人が担うべき役割なのです。企業内でも、コミュニケーションラインをたくさん持つ結節点となる人がいるだけで状況は変わりますし、社内の結節点が増えていくことは、とても重要なことだと思います。
最後は50年後のオフィスについての議論が話題に
このような対話を経て、会場からの質疑応答へと移りました。参加者からの「一昔前は、オフィスは管理するもので、今はイノベーションと言われている。50年後はどうなっていると思うか」との質問に対して、長尾氏は「ICT環境の進歩によって、50年後のオフィスはほとんど社員同士が会うことは無いかもしれない。しかしベースの人間関係を作る機能は必要だろう」と回答しました。
50年後のオフィスについて、田邊も「組織、本業・副業の区別、地方と都市という枠組みがアメーバ状に入り組む可能性もありつつ、繋ぎ役のコミュニケーターは重要性を増すのではないか」と述べ、神田も「50年後は、オフィス・家・バーチャル空間という概念が混在する世界を想像する」と語り、活発な議論のうちに講座は終了しました。
今回の講座を通して、オフィスやコミュニティの在り方を改めて見つめ直すきっかけを得ました。人と人とのつながりが組織を育み、文化をつくる――その原点に立ち返る大切さを実感する時間となりました。