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【環境コミュニケーションの現場】 環境を切り口にお客さまと建築へプラス循環を生みだす-三菱地所設計のコミュニケーション冊子

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三菱地所設計
環境共生への取り組み Vol.10

企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第14回は、地球環境にやさしい建築を提案する株式会社三菱地所設計のプロジェクトをまとめた冊子「環境共生への取り組み」に焦点をあて、同社の常務執行役員の原田仁さんと、技術情報部の永田敬雄さんに、同誌の発行のねらいや反響、さらには同社の環境共生への考え方等についてお話しをうかがいました。

三菱地所設計 環境共生への取り組み

環境に配慮した建物やまちづくりに向けた一年間の成果を発信

― 「環境共生への取り組み」を会社設立以来10年にわたって発行されています。そもそもの発刊の目的についてお話しください

永田: 「環境共生への取り組み」の第1号を発行した2002年は、三菱地所の監理設計部門が独立して当社が設立された年です。同時にISO14001の環境マネジメントシステム(EMS)の認証を取得しましたが、EMSはさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションを重視していることもあり、当社の環境への取り組みを積極的に発信して社外の方とのコミュニケーションを促進していくことを目的にしています。環境という切り口で当社の代表的なプロジェクトを紹介していますので、営業ツールとして活用しようという狙いもあります。

原田: EMSの要請は事業活動の中でいかに環境に配慮しているか--当社の主業務の設計・監理は形としてはオフィス活動ですから、節電や紙のリサイクルなどへの取り組みとなるのですが、本誌にはそういうものは掲載されていません。そのような取り組みをアピールする企業もたくさんありますが、当社は本業でどれだけ持続可能な建築やまちづくりに努力しているのかを、しっかりと整理して発信していく必要があると考えているからです。

CO2の排出量をみると、輸送や製造業の削減幅に比べ、オフィス部門はまだまだ努力が足りないと指摘されています。このような中で、当社は環境方針の第一に『お客様と協働して魅力あふれ、持続可能な建築及びまちづくりの創出を通じて、真に価値ある社会の実現を目指す』と掲げているわけですから、より環境に配慮した建物やまちづくりに向けた一年間の成果を紹介することのほうが、社会貢献につながるだろうということですね。

― 創業以来、20ページの冊子を毎年、発行し続けることができた理由は何ですか
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設備設計部長、技術情報部長、環境技術推進室長を兼任する常務執行役員の原田仁さん

原田: 当社は「環境・文化・未来のグランドデザイナー」を、カンパニースローガンにしており、会社全体として優先順位のトップに環境問題がある。小田川和男社長は「環境に対してしっかりと提案できない設計会社は、これからはやっていけない」と、日頃より社内外に明言しています。そういう経営方針が本誌にもフィードバックされているわけです。

そもそも、環境対応のプロジェクトは大変、手間のかかるものです。まず、初期段階で環境負荷低減はどのレベルを目指すのか、目標設定をしっかりした上で設計する必要があります。建物の形が決まってからでは、つけ加えるのが難しい。初期段階で徹底して検討を重ねていかなければなりません。それから、最先端の環境技術を採り入れた建物をつくったところで、性能が十分に発揮されるか否かは実際に使っていただくお客さまの運用・管理次第なわけです。つまりいい設計意図を反映しない使い方をしてしまえば、環境負荷の低減につながらない。

ですから、私たちは「設計しました」「竣工しました」で終わりではなく、その後もフォローして設計意図が達成できるようにお客さまとコミュニケーションをとり、場合によってはデータ等をモニタリングしながら、お客さまと一緒に最適な運用を追求していくこともあるわけです。当社のコストの大半は人件費です。少々乱暴に言えば、人手をかける時間を半分にすれば経費が半分になる。利益の追求を第一にするなら、環境対応には力を入れることができません。それでもやるというのは、会社として方向性が共有されているからです。

お客さまの安心・納得へ向け、環境技術の価値をビジュアル化

― 構成等、この冊子の特長をご紹介ください

永田: ボリュームは10年間、20ページで変わっていません。表紙には収載期間の1年の中で一番、紹介したいプロジェクトの写真を掲載しています。プロジェクトの紹介に入る前に、「ロングライフ」「自然共生・環境保全・景観形成」「省エネルギー」「省資源」「廃棄物削減」という、当社の環境方針に掲げている重点方策の5項目にそって、当社の環境技術はどのようなものかをわかりやすく見開きで紹介しています。

5項目に分類して紹介する各プロジェクトについては、1/2ページを最小単位として、写真や図などのビジュアルをたくさん掲載して、専門家でない方にもわかりやすく、かつ見るだけでも楽しめるように工夫しています。後ろの見開きは、個別の技術の中でも話題性の高いものやアピールしたいものなどを紹介しています。

原田: 先ほども申しあげたとおり、企画・設計の早い段階で、お客さまに対して「この環境技術を採り入れていくと、消費エネルギーはこうなります」「室内環境はこうなります」と、技術と機能・効果などを説明します。その際に本誌によって実際の形が見えてきますので、お客さまの理解を得やすく、安心・納得につながっていると感じています。

― お客さまの反応はいかがですか。また、この10年の間に変化はありましたか

原田: 当社のお客さまは環境に対する意識が非常に高く、新しい技術についても理解していただいている方が多いこともあるのでしょうが、年を追うごとに評価の高まりを実感しています。本誌に紹介できるものが多くなっているのは、本誌を含めて当社の取り組みが評価され、新しいプロジェクトにつながっているからと考えています。

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技術情報部部長付の永田敬雄さん

永田: 環境技術への関心が高まってきているのを感じます。これまでは、自社の建物の状況を一般に公開することをためらうお客さまもみえました。それが、いまでは本誌に掲載することを快くOKしていただけます。お客さまにとってもPRになりますし、これによって関係者とのコミュニケーションが深まる。当社では、そういう実績をもって次の提案につなげると。業績面への貢献も含めて、プラスの循環を生みだしています。

原田: お客さまにはすごく喜んでいただいて、新聞などのメディアに投稿できないかと相談を受けることもあります。いまはどこも環境貢献についてはアピールしたいと考えているのでしょう。環境技術についても、かつてはコストに換算して、たとえば電気代やガス代にすると、何年で回収できるから導入しようということでしたが、環境負荷の低減を企業が果たすべき社会的責任ととらえるお客さまが増えてきています。

永田: この10年の間に、大きなプロジェクトでは環境設計をするのは当たり前になりました。いまでは、さらに中小規模の建物でも前向きに取り組み、内外で評価されるようになった。そういう広がりを感じます。環境を切り口とした本誌なら、プロジェクトの大小にかかわらず特徴があれば載せられますので、小さいけれどもユニークなプロジェクトを拾い上げられるところが評価されているポイントの一つだと思います。

何十年も生きる建物の価値をトータルで高める思想にもとづく設計で、お客さまの要望に応え続ける

― 環境技術に対するお客さまの関心の高まりに伴い、要望も高度化してきますね

原田: 「環境に対応できない設計事務所は衰退していく」という認識は社内に共有されていますので、環境に関する研鑽は社内外でコンスタントに行っています。また、2011年4月に環境技術推進室を新設し、最新の環境技術や解析手法などをまとめ、全社員が活用できるようにシステムを構築しました。さらに、同室のメンバーによるプロジェクトのデザインレビューを行っています。各プロジェクトではフェイズごとに意匠、設備など関係する担当者が集まってミスのないようチェックしているわけですが、その中に環境技術推進室のメンバーが入り、環境面から「このレベルまでやるべき」「お客さまにはこれが向いている」「採用したほうがいい」といったことをデザインレビューの中で発言する機会を設けています。

永田: 環境技術は年々、アップしていきますが、こういった情報を社内で共有していくのは簡単ではありません。環境情報推進室のデータベースとデザインレビューは、環境情報やナレッジの共有化のみならず、環境をとっかかりにした社内コミュニケーションの活性化につながってきている。そういうムードを感じます。「プロジェクトの上流でコミュニケーションがとれていると、いいものができる」「上流での意見出しが重要だ」という意識が根づいてきています。意見をぶつけ合うことで新しいアイデアも生まれますし、これによってさらにレベルの高い要望にも応えていけるのではないかと思います。

原田: 繰り返しになりますが、私たちの仕事はつくって終わりではありません。その後、何十年も建物は生きていく。竣工したときが最適解ではなくて、寿命を終えるまでトータルとして最適解を追求するというのが三菱地所の思想で、そういうDNAが分社独立した当社にも受け継がれているわけです。2011年9月に『東京イニシアティブ&東京の低炭素ビルTOP30*』が選定されましたが、そのうち8件が当社の設計監理物件というのは、そういう思想、事業姿勢が一つの成果として現れたのだと思います。今後も努力を重ね、お客さまの環境共生への取り組みをサポートし、本誌の内容をさらに深めていければと考えています。
* 第24回世界建築会議(UIA2011東京大会)の開催に併せ、低炭素化に取り組む優れたビル30件を東京都が選定・発表した。

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