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【環境コミュニケーションWG】実践講座4.「共通価値の創造」CSV 水上武彦氏

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エコッツェリアの会員企業のCSR担当者が集まって、よりよい「環境コミュニケーション」のあり方とは何か、そしてそれをどう伝えていけば良いのかをワーキングショップ形式で考える環境コミュニケーションワーキング。 今年度最終回のゲストは、株式会社クレアンのCSRコンサルタントである、水上武彦氏。『「共通価値の創造」CSV(Creating Shared Value)』と題し、これからのCSRとして注目の高まる「CSV」について、解説いただきました。最近よく耳にするこの「CSV」という言葉。実はわかっているようでわかっていない人も多いのでは?(はい...間違いなく私もそのうちの一人です)今回のレポートでは、水上氏の講義をもとに、なぜ今「CSV」が注目されているのか、そして「CSV」の具体的事例にはどんなものがあるのかにポイントを絞り、まとめてみました。

なぜ今「CSV」が注目されるのか?

社会課題↑×政府の課題解決力↓×企業の課題解決力↑
=企業に対する社会課題解決の期待

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「CSV」とは、企業の事業を通じた社会課題解決を可能とする、「社会にとっての価値」と「企業にとっての価値」を両立させようとする新しい経営コンセプト。企業の社会的責任として、従来のようにネガティブインパクトを軽減することに重きをおいたCSRだけではなく、もう一歩踏み込んで、事業を通じて社会課題を解決する、ポジティブなインパクトを拡大させようという考え方です。昨年(2011年)のはじめにマイケル・ポーターがビジネス論文誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』(2011年1月号)で提議し、日本では春頃から注目されるようになりました。

背景には、まず増え続ける社会課題が挙げられます。最近200年で人口は6倍、経済規模は50倍と急激な成長を遂げましたが、当然サステナブルではなく、ゆがみとして、地球温暖化 水・食料不足、経済格差など社会課題が増大しました。ところが、この増大する社会課題への十分な対応能力が、政府にはありません。

一方で、企業の影響力は拡大、世界の経済主体上位100位51組織が企業であり、多国籍企業300社の資産は世界の総資産の25%を占めるまでになり、もはや問題解決能力を有するのは企業しかないという機運が高まることに。

この社会の大きな流れを、インターネットをはじめとする情報普及の容易化や、若者を中心とした倫理・社会意識の向上が促進し、昨年「CSV」が脚光を浴びる後押しとなりました。

「CSV」=社会と企業の両方に価値を生み出す取り組みには、どんな具体例がある?

方向性1.社会課題を解決する製品・サービスを開発する事例
(社会課題を解決する製品・サービスの提供)

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社会課題を事業機会と捉え、新規事業を創発、推進するパターンで、例としては、GEエコマジネーション、トヨタのプリウス、各種BOPビジネスが挙げられます。
GEは他社に先駆けて、環境問題、健康問題に対応したビジネスを2005年より、積極的に展開しました。当時、環境ビジネスはもうからないという固定概念がありましたが、そのリスクを取って大々的に投資した点で、先進的な事例として評価されています。

住友化学の「オリセットネット」(マラリアを媒介する蚊から身を守るための防虫剤を練り込まれた蚊帳)は、研究者からのボトムアップベースで創発されたイノベーション。現在では独立事業部として収益を確保しながら、アフリカでの被害を軽減させ、企業の広告塔にもなるようなビジネスに。 この場合、既に市場が立ち上がったものに対応するのみでは、従来の事業とは変わらなくなってしまうので、より積極的に社会課題解決をビジネスにしようと探索し、ある程度のリスクを取るイノベーティブな取り組みが期待されます。

方向性2. 付加価値を生み出す過程における社会課題を解決し、競争力につなげる事例
(バリューチェーンの競争力強化と社会への貢献の両立)

バリューチェーンとは、企業が付加価値を生み出す一連の流れ、活動のこと。メーカーでいえば、製造・物流・販売のサプライチェーンとほぼ同義です。このバリューチェーンにかかわる社会課題を解決しつつ、自社の競争力を強化します。
ウォールマートはサプライチェーンにおける物流を見直すことで、CO2の削減とともに、物流コスト削減に成功、ユニリーバは、途上国の女性にマイクロファイナンスや衛生教育を実施し、途上国女性の生活向上を支援しつつ、自社の新しい市場を開拓しました。

日本では、コマツは、リーマンショックなどでサプライヤーが苦しんでいるときに積極的に支援し、サプライヤーとの安定的な関係をコマツの強みとしています。サイゼリヤは、東日本大震災の被災地仙台の浸水田で自社出荷用のトマトの栽培を始めましたが、塩気に強い野菜を育てるノウハウが蓄積されれば、今後中東などでの展開する際のナレッジとして活用できる可能性があります。

方向性3.事業を展開する地域が抱える問題を解決し、競争力につなげる事例
(事業展開地域での競争基盤強化と地域への貢献の両立)

企業はそれ自体が独立して存在しているわけでなく、人材、社会インフラ、サプライヤー、規制や業界の慣習など、さまざまなものに支えられ、提供を受けています。そうした企業の活動を支える基盤を「競争基盤」と呼びます。企業が十分なパフォーマンスを発揮するためには、この「競争基盤」が抱える課題を解決することが重要です。 マイクロソフトは、コミュニティカレッジでのIT教育向上支援を通じ、IT人材の不足という米国が抱える課題を解決しつつ、優秀な人材の安定的確保を可能にしました。
ノボノルディスクは、中国市場への参入にさきがけて糖尿病に関する啓発活動を実施。糖尿病は治らない病気とされていましたが、この啓発活動を通じて、「糖尿病に関する知識」「顧客との関係」という競争基盤を強化しました。
エーザイは、勤務時間の1%を患者と過ごし生活支援を行うことを通じて、"こういうことに困っているんだ"との気づきを、将来へのイノベーションへつなげています。

CSV注目の背景、その具体例について、たくさんの事例とともに講演をすすめた水上氏。最後は、この日参加した多くの企業のCSR担当者の皆さんに向け、自社で「CSV」への一歩を踏み出すためのこんなアドバイスで締めくくりました。

「GEのエコマジネーションのように、トップダウンで踏み出すには、IBMがやっているような世界の潮流を理解しビジョンに落とし込むことなどが、参考になります。また、住友化学やノボノルディスクのように、社会貢献活動として、もしくはR&D(研究開発)活動の一部を社会課題解決型の事業開発にまわすという形でスタートするというのも進めやすいのではないでしょうか。ただ最終的にはやっぱり"人"です。社会的意識の高い人材が、戦略性を持って、粘り強く社内を説得し、CSVを実現していくことを期待します。そのためには、「CSV」という考え方がひろがれば、その分企業としてもやりやすくなる。それこそが私たちクレアンの役割で、これからも納得度の高まる理論、考え方を提示していきたいと思っています」

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講演後のワークショップでは、
「長期的な社会課題に対しても企業が積極的に入っていかないと。実務として「CSV」につなげていく意識が必要だと感じた」
「「自社にとっての価値」「社会にとっての価値」それぞれを整理するための視点が参考になった。両方を考えることで、社会に対しても、なぜこの会社がこの取り組みをするのか、説得感が増す」
「ヒントになったのは、ステークホルダーを通じた課題の棚卸し。近日ステークホルダーMTGがあるので、その意見を企業活動のなかでフィードバックして改善していきたい」

など、自分、自社に置き換えた積極的なコメント多数。最終回にふさわしく、CSRのその次を考えるうえで、充実した時間となりました。

今年度の集大成!「エコのまど」展示発表会 −3月14日より、エコッツェリアにて開催

このWGの参加者が、今年度の活動報告を兼ね、自社のCSRのポスターを実際に制作、冊子「エコのまど」としてまとめました。1 年にわたり学んできたことをいかし、各社で社内での環境意識向上や自社のCSR活動理解促進に役立ててもらうほか、社外のステークス ホルダーとのコミュニケーションツールとしても活用していただこうというのが目的です。

3月14日より、この「エコのまど」の発行を記念して、掲載ポスターをパネルにした展示発表会をエコッツェリアにて行います。
CSRのヒントを探しに、ぜひのぞきに来てください!

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