企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第15回は、グローバルにビジネス展開するバイエルグループ内で素材科学事業の日本における開発拠点である、イノベーション・センターを紹介します。バイエル マテリアルサイエンス(株)執行役員でイノベーション・センター長の桐原さんと、同センターのサイトマネジメントマネージャーの中谷さんに、環境に配慮したサイトマネジメントへの取り組みを中心にお話をうかがいました。
桐原: イノベーション・センターは、素材科学事業グループの開発体制を強化し、ここから生み出されるイノベーティブな応用開発の成果をビジネスに結実させるため、2009年4月にリニューアルオープンしました。センター設立の一つの目的は、事業部の垣根を越えた部門横断的な製品、技術、ソリューションをお客さまに迅速に提供することです。"One Business - One Team"をスローガンに、部門間の連携をとりながら、お客さまに"One Face"で対応しています。
中谷: 約7500㎡の敷地には3500㎡のラボと180㎡のショールームがあります。ショールームには多くのお客さまにおいでいただいていますが、お客さまは商品に当社の素材をどう応用できるのか、また問題点を解決できる何かいい改良方法がないかといったことを求めていらっしゃいます。ですから、事業部ごとに素材や技術を展示するのではなく、お客さまのニーズに直接結びつくような展示方法を工夫しています。たとえば、耐熱性のある素材を探しているとしたら、ポリカーボネートを勧めますし、最近注目されている遮熱性のウレタン塗料による省エネ対策もあります。お客さまの問題解決に繋がるショールームで、「非常にわかりやすい」と、おほめをいただいています。また、お客さまとお話しをしていて「他の分野に興味があるんだ」ということになれば、そちらの担当者を呼んでくることもでき、お客さまとの技術交流の場にもなっています。お客さまの施設を訪問して技術展示会を行う機会も大幅に増えています。
中谷: 環境に配慮したサイトマネジメントはイノベーション・センターのリニューアルを機に本格的に取り組み始めたものです。サイトマネジメントにあたっては電力とガス、水の使用量の削減にフォーカスし、CO2の排出量を年間100t削減することができました。
電力については、各部屋にデジタル計器を設置し、温度や湿度の見える化をしています。そして、温めすぎ冷やしすぎがあれば、集中管理装置で速やかに空調をコントロールしています。また、人間は湿度を10%高めると体感温度が2度上がるとされていますので、冬期は加湿器を置いて室温を低めに設定しています。空調ではさらに、ガスヒートポンプエアコンから省エネタイプの電気に一本化することで熱効率を高めることができました。照明には人感センサーをつけて廊下やトイレなどの不要な照明を消しています。それから、給茶器の台数を減らしプログラムを書き替えることによって、平日の7時から22時の間だけ自動的に電源が入るようにしています。また、会議室使用ルールを変更して、会議終了後は部屋のドアを開けたままにしておくことにしました。ドアが閉まっていれば、照明やエアコンの消し忘れに気づかないことがありますが、ドアを開けておけば一目瞭然ですね。これらの取り組みによって、電力使用量を約10%減らすことができました。
ガスについては、大型ボイラーによる消費量が多いため、一番よく使うボイラーをよく調べてみたところ、ボイラーにはたくさんのバルブがついているのですが、通常は日常点検のためにバルブを覆っていないことが原因だとわかりました。それを脱着式の保温カバーで被覆したことで、エネルギー効率を高めることができました。このような取り組みによって、全体のガス使用量は12%減っています。
水については、雨水を積極的に活用しています。地下ピットに貯まった雨水をセンター内の緑地に散布しています。また、ボイラーの燃焼効率を高めることが節水にもつながり、全体で約5%の削減ができています。
中谷: はい。従来は廃棄物の9割近くを焼却や埋立てなど一般的な方法で処理していましたが、リニューアルを機に積極的にリサイクルに取り組みました。センターの廃棄物の約7割は液体廃棄物なのですが、これらを細かく分類することによって再燃料化に成功しました。また、固体廃棄物の廃プラスチックも分別を徹底することによってRPF(Recycle Plastic Fuel)化することができ、現在ではイノベーション・センターが排出する産業廃棄物の約93%、重量にして83t分がリサイクルされています。
桐原: そうですね。素材科学事業に関しては、日本では新居浜と堺に工場をもっています。これらの生産拠点と丸の内などのオフィスでは環境に配慮した取り組みはかなり前から行っていますし、一般的にも広がりつつあります。一方、研究開発の拠点については環境対応商品の開発による貢献というのは当然あるわけですが、施設自体をエコフレンドリーに運営しているところは、まだまだ少ないのではないでしょうか。それは、エネルギー消費の総量が工場等に比べてそれほど大きくはないということと、開発活動はイノベーションを生み出すことがミッションですから、エネルギー消費については気が回らないこともあります。そんな中で、エネルギー消費を抑えながら成果を出す、このバランスをとるという点でイノベーション・センターはフロントランナーだと自負しています。
中谷: ドイツのバイエル本社からはサイトマネジメントが評価され、"チャンピオンズカップ"という賞をとることができました。2010年は市主催の尼崎エコオフィスコンテストで優秀賞を受賞し、昨年は市防火協会より優良防火設備として表彰されました。
桐原: ラボは研究開発の成果をシビアに評価されますが、そのマネジメントにおいても数値など具体的な目標をもたなければ、なかなか結果に結びつきません。ですから、とくに宣言をしたわけではありませんが、社内外のアワードをとるという目標は設定していました。
バイエルの素材科学事業グループは世界各地に研究所やイノベーション・センターがあります。当然、同じ事業グループの中で比べられるわけですが、エコフレンドリーな点においては他の施設に負けないという競争環境を意図的に自分たちで設定しました。環境に配慮した施設をつくろうという思い入れがあったことが、積極的な取り組みにつながったのだと思います。バイエルグループは"Science For A Better Life(よりよい暮らしのためのサイエンス)"をミッションステートメントに掲げているわけですから、環境対応商品をつくり出す過程においてもサステナブルであるべきだし、そういう企業が生み出す技術や商品は説得力をもつはずです。
中谷: 先ほども省エネの見える化についてお話ししましたが、自分たちの活動の成果を見える化することですね。社内外からの表彰もそうですし、たとえば面倒な分類やシール貼りでリサイクル率が2008年の1.3%から93%に一気に跳ね上がること、自分たちが少し手間をかけるだけで、廃棄物が燃料として生まれ変わることを目の当たりにする。このように見える化することで、人間の意識や行動は大きく変わっていくんだと実感しています。
中谷: 地域の皆さんとのコミュニケーションという点では、尼崎防火協会が実施している危険物取扱者養成講座の講師に社員を派遣して、化学や防災の要点を教えています。それから体験・質問型の理科実験教室「わくわく実験びっくり箱」などを開催して、地域の子どもたちに科学の楽しさを伝える活動も行っています。
「3.11」以降、関西地区も電力が逼迫しているわけですが、当社も大口需要家ということで、昨年12月に関西電力のエネルギー診断士がチェックに来ました。その結果、関電さんからは日頃から徹底した省エネを奨励していると高い評価をいただきました。先ほど紹介した会議終了時にはドアを開けたままにしておく取り組みが、誰でもすぐできるアイデアだということで関電さんも社内で採用されていますし、関西地区の他社にも紹介されて広がっています。
桐原: 地域との交流についてもイノベーション・センターをリニューアルしたときから、意図的に取り組んできました。センターは住宅街の真ん中にあるのですけれども、たとえば「AEDがありますから、何かあったらいつでも来てください」と言っています。AEDは駅などに用意されていることが多いですが、一刻を争うものですから。
中谷: センターには36tの受水槽があります。阪神淡路大震災を機に停電時でも給水ができるように改良しているので、緊急時には地域住民の方に開放して、飲料水にすることが可能です。500mlのペットボトルに換算すると72,000本になります。
環境といってもエコだけではありません。地域も一つの環境ですから、尼崎で事業をさせていただいているかぎりは、より快適で安全な地域社会を築いていくためにお役に立ちたいと思いますし、これからも積極的な交流を図っていきたいと考えています。