6月3日(月)、丸の内朝大学が5周年を迎えたことを記念して公開シンポジウム「学びのコミュニティが新しい時代を創造できるのか」が開催されました。
朝大学は、都市の朝型ライフスタイル提案を目的に、朝時間の有効活用の場として2009年にスタート。それまで見過ごされてきた自由な時間としての「朝」を利用する新しい学びの場として定着し、「朝活」の代名詞ともなりました。3カ月を1学期とし、春・夏・秋の3期開講する講座には、4年間でのべ約7700人以上が参加し、自分磨きにとどまらず、環境問題や健康問題、地域振興などの社会的課題解決に向けた取り組みも盛んになってきています。
今回のシンポジウムは、これまでの朝大学の足跡を振り返るととともに、その実践の場から見えきた「学びのコミュニティ」の力の可能性と将来性について、第1部ゲスト講演、第2部パネルディスカッションの構成で、多彩なパナリストたちが意見を交わし合い、未来に向けた熱い討議が展開されました。
第1部の登壇者は、教育、地域行政、ジャーナリズム、食などに関わる仕事の第一線に立ちながら、朝大学にもアグレッシブに関わっている、各界からの5氏です。
新潟市長の篠田昭氏は、日本でもっとも先進的な"公民館活動"を促進するなど、地域振興をコミュニティベースで展開する豊富な実績から「地域にとっての都市コミュニティの進化」について話しました。朝大学が2011年に開講した「地域プロデューサークラス 新潟編」の成果や手応えも交え、地域での意欲的な取り組みを紹介しました。
キリン株式会社の栗原邦夫さんは日本企業で初めて「CSV(Creating Shared Value)を掲げたセクションの長として東北復興のプログラムにも関わる立場から「復興と企業、コミュニティ」について話しました。企業は社会と共有できる価値を創出するべきだという「CSV」発想を軸に、キリンの先進的な考え方と取り組みを紹介しました。
井上成さんは朝大学の企画委員会を主導するエコッツェリア協会の専門理事です。その立場から「企業にとっての学びのコミュニティの位置づけとは」というテーマで話し、あわせて大手町・丸の内・有楽町地区が目指すまちづくりと朝大学の関係、企業経営の考えたについてもCSV発想を基に説明しました。
5氏に共通していたのは、経済的な拡大発展を目指す20世紀型資本主義社会が限界に達していることと、その現状を打破し、新しい社会を創造するためにコミュニティが果たすべき役割は大きいという見解です。それぞれのスタンスで、現在の日本の状況を分析し、朝大学の可能性と期待を語りました。
シンポジウムの後半は「2015年の課題解決のかたち」と題した、登壇者5氏によるパネルディスカッションです。これは学びのコミュニティ、朝大学の未来と可能性をさらに深く考えるためのものでした。
冒頭、モデレーターを務めた朝大学プロデューサーの古田秘馬さんから、「日本が世界に向けてブランディングできるものは何か」という質問が投げかけられました。
これに対して栗原さんが提言したのが「食の文化」です。「日本の食文化は健康の面で世界に広く知られ、生産者の技術も非常に高い。世界に誇れる文化と言える」と語りました。
篠田新潟市長は「日本の自然とともに生きる、皆と共に生きる、という"共に生きる"思想は世界に誇るべきもの」とし、特に「縄文時代のスタイルは、食文化、持続可能性ともに1万年続く世界に誇るべきものだ」と語りました。
「食」「食の地域化・差異化」いったキーワードに反応したエバレット・ブラウンさんも、「日本文化、特に食文化に対する世界的な注目度はとても高い」と賛同。特に「日本の発酵文化はフランスのシェフも熱心に取り入れています」と世界の状況を話しました。
鈴木寛さんは、そこまでのエピソードを総括的にまとめ、「例えばラーメンが、中華やフレンチも取り込みながら発達・多様化したように、日本の良いところは"仲取り持ち"、つまり異なるいろいろなものを混ぜて掛け合わせ、新結合をもたらす力」だと話しました。
「掛け合わせ」というキーワードから、今度は「何の、どういった組み合わせの掛け合わせに可能性があるか」と古田さんからの問いかけが出ます。
井上さんは「異質な矛盾するもの同士の組み合わせにこそ可能性がある」とし、「都市とアグリ(農業)」、「都市と生物多様性」の取り組みを紹介しました。
栗原さんは「CSVを巡って積極的に関わろうとする企業同士、担当者同士の交流や意見交換にヒントがたくさんあり、イノベーションのチャンスがある」。ステークホルダーそれぞれが、自分たちのメリットにこだわらずに活動するところにチャンスがあると話しました。
これに反応したのが篠田市長でした。「ご近所談義」という、新潟市の取り組みを紹介し、「ご近所同士のコミュニケーションがコミュニティを醸成し、強い力となるが、閉鎖的にならずに異人・変人を受け入れることが地域の力となっていく」と話しました。
「それを都市部で行っているのがまさに朝大学」と古田さんが指摘。さらに、鈴木さんは、これからの時代をリードするのは、学びの場のオープン・ネットワークであるとしながら、「大学という教育・研究機関ができるのはゼロから1を生むところ。1〜10を担うのはNPOが得意で、10〜50までをやるのが企業。51以上が政府の仕事になる」とし、「朝大学にはゼロから50までを担うパワーがある。ぜひとも時代を担う場になってほしい」と期待を語りました。
パネリストが指摘してきたように、朝大学は「掛け合わせ」「オープンなコミュニケーション」の場として機能していくとともに、コンセプトからコンテンツを生み出すだけでなく、それを持続可能なものとして継続的に取り組んでいくことが必要になっていくでしょう。
朝大学では、「研究成果をパブリックに対してプロジェクションしていく『パブリッシュ』の機能」(鈴木氏)、「ビジネスプロデューサーを育てる継続的な人材育成の場」(井上氏)としての可能性も探りながら、このシンポジウムをスタートラインに、新しい未来の朝大学を考えていきます。
朝の時間、大手町・丸の内・有楽町をキャンパスとして活用し、生き方、働き方、遊び方を自分なりにデザインすることを目的に開講する市民大学。 受講者数はのべ2万人を超え、共感や共創から生まれるつながりを大切に、チャレンジのきっかけと新たな価値を生む場を提供しています。