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出勤前の朝時間を活用して、ビジネスパーソンに新たな学びや体験を提供する「丸の内朝大学」。2009年にスタートし、大手町・丸の内・有楽町エリアをキャンパスに、まちの中に新しい「朝」の文化を創ってきました。そんな丸の内朝大学がこれからの時代の働き方や暮らし方を追求するためにスタートさせた企画が「丸の内朝大学リレートーク2021~2021年から始める新しい働き方、そして暮らし方~」。以前から何となく気になっていたり、多くの人が興味を持ちそうなテーマで、各分野を開拓するトップランナーをゲストにお招きし、丸の内朝大学のプロデューサー古田秘馬氏が深堀りしていきます。
3月30日(火)に開催された第1回のテーマは、「暮らし方~全国住み放題・二拠点の時代へ〜」です。ゲストは、株式会社LIFULLで新規事業開発を担当し、定額多拠点サービス「LivingAnywhere Commons」の事業責任者を務める小池克典氏。場所の制約に縛られないライフスタイルの実現と地域の関係人口創出を通じて、地域活性、行政連携、テクノロジー開発、スタートアップ支援などを行っています。
どこに住み、どう生きるか。暮らしは、私たちの人生そのものと言っても過言ではありません。そんな暮らしのトレンドが今後どのように変化していくのか。朝7時という早い時間にもかかわらず集まった60名の視聴者と共に、古田氏・小池氏が考えていきます。
冒頭、古田氏はリレートークを始めようと思った理由について、「コロナを通して働き方や暮らし方が大きく変わり始めています。私たちは、明治維新に次ぐ時代の大きな岐路にいる。繋がりが希薄になりがちな今だからこそ、色々な分野で活躍している人達と話をし、今後時代がどう変わっていくのか、その中で生きていくためのヒントをみんなで探したい。」と話しました。
その後小池氏からは、「LivingAnywhere Commons」についての紹介がありました。
「『LivingAnywhere Commons』は、2017年に非営利の一般社団法人としてスタートしたプロジェクトです。全国には、廃校や使われなくなった旅館や保養所などの有休不動産が多数あります。こういった場所を働ける環境、寝泊まりできる環境にし、月定額25,000円でいつでもどこでも使えるようにすることで、暮らし方の選択肢を増やすチャレンジをしています。ビジターという形で合宿などのスポットでも使えるようなサービス設計にしていまして、現在、北は岩手の遠野から、南は沖縄まで、全国に13拠点あります。9月末までに25箇所まで増やす計画です」
当日小池氏は、13拠点のうちの一つ、八ヶ岳からオンラインで参加。「八ヶ岳の様子はどうですか?」と興味深々の古田氏に対し、小池氏が八ヶ岳オフィスについて説明します。
「ここはコワーキングエリアで、窓の外には富士山がドーンと見えるようなところです。元々はとある建材商社の保養所だったことから、『新しい建築』を拠点のテーマにしています。昨日もあるエネルギー系の会社さんが新しいオフグリッドの暮らしを作りたいということで、この場所を使って企画会議を行ってくださいました。個人の方はもちろん法人のご利用も増えてきています」(小池氏)
企業にとって、社員の働き方や働く場所をどこまで管理するかというのは悩みどころ。LIFULLも以前まではフルリモートが認められていなかったところ、コロナ禍を経て体制変更。「LivingAnywhere Commons」を勤務地とすることを認め、今では社員が日常的にワーケーションをするようになったそうです。
「社外の多様な価値観に触れて、それを会社に還元することが価値になるという考え方から、職種や雇用関係に関係なく、全社員が対象になっています。特に20・30代の人たちにとっては、ワーケーションなどの自由な働き方が会社の魅力の1つになっているんですよね。逆にリモートワークをやっていないと採用が難しくなってくる。優秀な人材を取りたいと思ったら、自由で多様な働き方を認めざるを得ない時代になってきていると思います」(小池氏)
2020年の1年間で急速に広まった印象のあるワーケーション。今や全国のホテルや商業施設、コワーキングスペースなど、さまざまな場所でワーケーション利用が可能になってきています。
「『LivingAnywhere Commons』が拠点を作る際に、ワーケーションが可能な別の場所と差別化している部分、心掛けていることはありますか?」と古田氏。
「普段は会えない地域の方とコミュニケーションを取れることが、『LivingAnywhere Commons』の魅力だと思います。場所作りという観点で言うと、仕事で生まれたアイデアをすぐ実行に移せるよう、イベントスペースやラウンジなど、コミュニティが増幅されるような物理的スペースを作るように意識しています」(小池氏)
個人の利用者は、8割が20・30代。せっかく地方で仕事していても、閉鎖的な環境で黙々と仕事をこなすだけではつまらない。その地域の人と交流して、新たな発見をしたい。そんな意欲に溢れた人が集まるそう。
「LivingAnywhere Commons」の拠点がある香川県三豊市は、さぬきうどんを学びながら地域を楽しむプログラム「UDON HOUSE」や、地域に根ざした絶景宿「URASHIMA VILLAGE」など、古田氏が手掛ける事業の活動拠点でもあります。そのため定期的に顔を出しているという古田氏は、利用者が地域の人と交流するだけでなく、一歩進んで仕事に関わっている点に感心したと話します。
「多少のフィーももらいながら、オリーブ農園での摘み取り作業をしたり、地域の企業のIT周りのサポートをしたり。僕が「LivingAnywhere Commons」が良いなと思ったのは、行った先でもちゃんと役割があることです。リラックスするだけの別荘とは、そこが違いますよね」(古田氏)
ビーチ沿いのホテルで仕事をすれば、いわゆるインスタ映えはする。しかし今は、地域の人と話したり、美味しいものを一緒に食べたり、今まで交流のなかった人と関わっていくところに多幸感や満足感を感じる人が増えていると小池氏は話します。
「昨日も「LivingAnywhere Commons」に来ていた若い方が、『コロナでずっと在宅で、人に会えない話せない。自分のインプットや成長がないことに対してものすごい危機感があって、交流がありそうなこの場所に飛び出してきました』と話してくれました」(小池氏)
ここで重要なのは、自らの成長のために外に交流を求める人たちにとって、いわゆる旅行のような非日常やハレの日は求められていないということ。日常の地域のコミュニティとして自然と受け入れてもらえるところに、魅力を感じる人が多いそうです。
「いい日常という言葉を使うのですが、地域のごく普通の日常に触れることが彼らにとって重要なポイント。お世話をする必要はなくて、逆に接待なんてしたら引かれてしまう。そこら辺が若者の気持ちを捕まえるポイントなのかなと思います」(小池氏)
「地域で役割を担うということは、利用者側にもそれなりにスキルが必要になるのでしょうか?」と古田氏は質問を投げかけます。
「いわゆる何かスペシャリティなものを持っている必要はないと感じています。実はネットを使って仕事ができるというだけでも、十分地域に貢献できることがあるんです。わかりやすいところだとフェイスブックやインスタの使い方を教えてあげるとか。些細なことでも、地域ではものすごい大きな力になったりする。なのでスキルは問題なくて、それよりもできることはなんでもやってみようという姿勢が重要だと感じています」と小池氏が話しました。
ここで話は、小池氏が「LivingAnywhere Commons」の他にもう一つ手がける事業「Instant House」へと移ります。
「LIFULLではホームズという不動産の情報サイトも運営しており都会の相場感を常にウォッチしているんですが、都心中心部の家賃はどんどん上がっています。暮らすために仕事をする割合がどんどん増えている。そうなったときに、もし住宅が不動産でなく可動産で、簡単に作れてどこにでも置けるものだったら、都会に住むというリビングコストを減らせるし、いろんなチャレンジができるのではないか。そんな考えから、新しくインスタントハウスというものを開発しております」(小池氏)
名古屋工業大学の北川啓介教授と共に研究開発しているというこの家は、小池氏によると「ドラゴンボールのポイポイカプセルみたいに、どこでもポンと置いてすぐに住める」というところから着想したそう。たった5時間で建設可能で、断熱材を使っているので夏は涼しく冬は暖かい。
「こういう技術によって、超絶景で自分がお気に入りの場所を、仕事や生活の場にできる可能性が出てくる。暮らし方の選択肢は広がっていくと思います」(小池氏)
近年はシェアリングの時代。「1人で持つよりも20人で持って、みんなの第2の拠点にすることもできますね」と古田氏が話します。
「暮らし方がどんどん分散型になってくると、ローカルは資源だらけですね。都心にいると便利なマーケットがあって、料理をしなくても、車の運転ができなくても生きていけますが、逆に自分で何かをやれる余地が少ない。地方はやろうと思えば自分たちでできるものがゴロゴロ転がっています。家を建てる、食べ物を育てる、そういったことから『自分でもできる』と自信をつける人が増えていけばと思っています」(小池氏)
他にもLIFULLでは、"LivingAnywhere"の実現につながるようなテクノロジーへの出資を推進。一例では、水の再生循環に注力し、水道がないような砂漠や絶景での生活も可能にするプロダクトを開発するスタートアップの経営支援なども行っているそうです。
最後に小池氏は、「都会が、基本はお金のやりとりとマーケットで成り立っているのに対して、ローカルはその土地の文化やコミュニティなど持続可能なもので成り立っていて、どちらにも一長一短があります。だからこそ、どちらにも拠点を持ってそれぞれの良いところを取り入れながら生きることが豊かさにつながっていく。ローカルは体験しないとわからないことも多いので、興味のある方はいい意味で巻き込まれてほしいですね」と話し、会を締めくくりました。
暮らし方という誰にとっても切実な問いに対し、新たな選択肢が提案された今回のリレートーク。集まったメンバーからも「多拠点生活」への興味や高い関心が伺えました。これをきっかけに新しい生き方にシフトする人も出てくるかもしれないと思わせる、朝から熱量の高いリレートーク第1回でした。
「丸の内朝大学」は、就業前の時間に自分磨きや楽しい時間を過ごすことで、環境負荷の少ない朝型ライフスタイルの実践者を増やす目的でスタートした企画。これまでのべ2万人以上が受講し、学びを通じたコミュニティや数多くの地域との連携企画が生まれるなど、朝時間の可能性を広げてきました。古田氏は「通勤が減ったことによって、これまで以上に朝時間を活用しやすくなった面もある。このスタイルが丸の内朝大学の新しい1つの形になればいいと思う」と語りました。
朝の時間、大手町・丸の内・有楽町をキャンパスとして活用し、生き方、働き方、遊び方を自分なりにデザインすることを目的に開講する市民大学。 受講者数はのべ2万人を超え、共感や共創から生まれるつながりを大切に、チャレンジのきっかけと新たな価値を生む場を提供しています。