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出勤前の朝時間を活用して、ビジネスパーソンに新たな学びや体験を提供する丸の内朝大学リレートーク。4月6日(火)に開催された第2回のテーマは、「働き方 兼業・副業本格時代に」です。
ゲストはオンライン・リモート中心でできる地方企業の副業・兼業に特化した人材シェアリングサービスJOINS代表の猪尾愛隆氏。都市圏の人材と地方の中小企業のマッチングを通して、副業・兼業文化や、地域の関係人口創出を行っています。
コロナ禍で働き方が多様化する中で、注目を集めるようになって久しい副業・兼業。働き方の一つの選択肢として、自分自身がよりよく生きるために知っておくべきことは何か、また、働き方はこれからどのように変化していくのか。第一回に続いて朝7時に集まった約60名の視聴者と共に、猪尾氏と古田秘馬氏(丸の内朝大学プロデューサー)が考えていきます。
冒頭、古田氏は前回の朝大学リレートークに寄せられた視聴者の感想を紹介。「『朝の準備をしながらラジオ番組を聞くみたい』といった、嬉しいお声をいただいています。本日のリレートークも、少しでもみなさんの朝を楽しくできる時間にできれば」と話しました。
その後猪尾氏からは、「JOINS」についての紹介がありました。
「『JOINS』は2017年に創業したオンラインマッチングサービスです。地方の中小企業には、素晴らしい計画を持っている経営者がいても、現場にその計画を遂行するチームがないなど、人材不足で悩んでいる企業が多数あります。そういった企業に対して、首都圏を中心に『JOINS』に登録している人材の紹介・マッチングを手がけています。現在は、登録人材が約6,000人に対して成約実績約250件で、登録企業もどんどん増えてきている状況です」(猪尾氏)
そんなJOINSは、「働くことをもっとしなやかにし、好きな土地で暮らす豊かな人を増やす」というミッションを掲げています。
「いきなり地方への移住はハードルが高い。ですので、まずは、首都圏と地方の2拠点に仕事を持ち、働く経験を通じて、段階的にその土地の人や会社との関係を作っていき、その先に、好きな土地と繋がって暮らすことの豊かさを実感する人が増えたらいいなと考えています。実際に当社では、約40名のメンバー全員が、他の仕事を掛け持つ副業・兼業で働いています。自分たちが副業・兼業の人材を採用していないのに、クライアントに対して副業・兼業の人材を勧めることはできないですよね。まずは自分たちが首都圏と地方での副業・兼業を実践して、しなやかな働き方を体現するようにしています」(猪尾氏)
現在は猪尾氏自身も、JOINSの代表を務める傍ら、長野県白馬村のスキー場会社に勤め、グランピング事業の立ち上げ・運営に携わっているそう。
「仕事は週に5〜10時間程度、基本はリモートで進め、月に数回現地へ行く働き方を3年ほど続けています。実際に企業の中に入ってみて驚いたのは、地域との繋がりがとても強いこと。スキー場は山があっての事業で、地元の地権者の土地を借りているということも関係していると思いますが、社員の方ひとりひとりに、地元と根っこで繋がっている感覚があるんです。そういった、仕事自体が生きる豊かさに直結するつながりを、ひとりでも多くの方に感じてもらいたいなと考えています」(猪尾氏)
自身もさまざまな企業のプロジェクトに携わり、多拠点を飛び回って仕事をする機会の多い古田氏は、副業・兼業のトレンドに興味深々。
「コロナ禍で働き方が多様化したこともあり、副業・兼業は働き方の一つの選択肢として非常に注目され始めてきていると思います。実際に、副業・兼業を認めることがリクルーティングにおけるプラスにもなるということで、多くの企業で解禁されていますよね。改めて副業・兼業を取り巻く大きな流れを教えていただけますか」(古田氏)
猪尾氏は、昨今の副業・兼業に関するデータや、副業・兼業の違いなどについて説明します。
「日本の労働人口は、現在約6500万人と言われていますが、そのうちの約1000万人、6人に1人が、複数の仕事をかけもっていると言われています。これまでは、周りが解禁しているからという消極的な理由で副業を認める企業が多かったのですが、この1年で一部の大企業を筆頭に、社内の副業人材を増やし、さらに外部からの副業人材も積極的に受け入れる動きが加速しました。副業と兼業の違いは法的な定義はなくて、世の中一般的な使われ方としては、1社は業務委託契約で働きながら、もう1社とは正社員の雇用契約を結んでいるのが副業。両方とも業務委託契約で働くのが兼業とされています」(猪尾氏)
とはいえまだまだ、『副業・兼業と言われても何から始めたら良いのかわからない』という人も多いはず。
「実際にJOINSに登録している人はどのような働き方をされているのでしょうか?」と古田氏は質問を投げ掛けます。
「副業・兼業先で業務委託契約原則リモート、月に1回ほど現地に行って働くスタイルが多いですね。得られる報酬は月に11万程度が平均値で、大体週8時間、月30時間ほど副業・兼業されている方が多いです。ほとんどが首都圏在住の30〜50代の方で、大手企業に正社員として勤めている方も多くいらっしゃいます。業務内容としてはEC強化やWeb集客などのデジタル系のニーズが高まっています」(猪尾氏)
世界各地で進行するグローバル化は、地方企業にとっても只事ではなく、英語ができる人材のニーズも高まっているといいます。
「ある中小企業で、商品を海外展開するにあたって、社内に英語のできる人がおらず募集をかけたところ、メーカー勤務で駐在経験もあるマーケターの方が応募されて。現地のバイヤーと英語でやりとりするなどして、初の成約に貢献されたそうです」(猪尾氏)
古田氏はもう一つの視点として、「あえて一つの企業だけでなく他の企業で副業・兼業することで、その人自身の視座を広げたり、転機になったりするケースはありますか」と質問。
「実際に大手の精密機器メーカーでエンジニアとして勤めていた方で、副業先で社内業務を効率化するツールを開発したところものすごく喜ばれて、自信がついて57歳で転職、結果的に生涯年収を増やされた方がいらっしゃいます。副業・兼業は、自分の市場価値を改めて発見できる良い機会にもなると思います」(猪尾氏)
「副業・兼業がきっかけで、地域の関係人口になる可能性があるという点では、副業・兼業人材にいかに継続してコミットしてもらえるかも大事ですよね」と古田氏。
これを受けて、猪尾氏は、企業が副業・兼業人材に継続してもらう秘訣について話します。
「成果を出している企業の共通パターンは3つ。1つ目は、すでに社内にある『やりたいこと』をお願いするということ。切り出す業務を一から整理したり、戦略を作成したりしていると、スタートが遅くなり、成果が出るのも遅くなってしまいますよね。2つ目は、『小さなことから』始めるということ。3ヶ月くらいで一旦成果が出るような業務からお願いするようにしています。3つ目は、『既存の社員を巻き込む』ということ。副業・兼業人材との交流が内部人材の成長にも繋がると分かれば、社内における早期の信頼関係構築が期待できます」(猪尾氏)
人材側が副業・兼業先で成果を出すコツについては、このように話します。
「1つ目は、企業側と同じで、まずはわかりやすく『小さな成果』を出すということ。副業・兼業で求められるのは、目の前のことをきっちり、手足を動かしてできる人材かどうかです。3ヶ月以内でわかりやすい成果を出すことを意識することが重要です。2つ目は、『経営者より現場』をしっかり見ていること。現場に合わせて、あえて専門用語を使わずに、平易な言葉でコミュニケーションしている方はやはり好かれます。3つ目は、『頭より手足を多め』に動かせるかどうか。アドバイスやアイデアは世の中に腐るほど溢れていて、それができないから困っているケースが大半なんですよね。アドバイスだけして何も動かない人よりも、一緒に汗をかける人が好かれ、結果的に継続します」(猪尾氏)
さらに猪尾氏は、「副業・兼業を通じて地域の関係人口を増やすという意味では、仕事はもちろん、その地域でのライフスタイルも含めて楽しめるかどうかが重要ですよね」という古田氏の投げ掛けに対して、関係人口になるまでの3ステップを紹介します。
ステップ1は仕事と同じで、小さな成果を創出すること。
「僕も実際に白馬村のスキー場の会社で働いていますが、2018年に入った当初、最初に対応したのはZoomとSlackの導入でした。社内のWi-Fiの整備に始まり、ウェブカメラやモニター、スピーカーなど機材の調達、Zoomのアカウント作成、会議方法の周知、Slackもチャンネルの分け方から使い方も一緒に業務をしながら浸透を図りました。業務開始して2年後くらいに「僕がやったことで役立ったことは何ですか?」と聞いたら、このSlackとZoomで社内の人の仕事のやり方を変えてくれたことだと言われました。大きなことでなかなか変化が出ないことより、こうした小さくても確実な変化を生む仕事がまずは大事なんだと気付きました。こうした積み重ねで、忘年会など社内イベントにも声がかかるようになります。」(猪尾氏)
ステップ2は、現地のローカルな暮らしを体験するということ。
「ここが肝で、ステップ1だけだと、『なぜこの事業をしているのか』『なぜこの仕事が大切か』ということがいまいち理解できないんですよね。でもその先に、地元の人との交流を深めると、『地域のこういう繋がりを大事にしているからこの事業がある』というようなことがわかってきます。僕も実際に白馬で開催されたトレイルランニングの大会に出てみたら、社員もボランティアで参加していて、地元の地権者との関係性などを理解するきっかけになりました」(猪尾氏)
この経験を経た上で、ステップ3では、自分のやりたいことや地域のためにすべきことを問われるようになるといいます。
「信頼関係ができてくると、『猪尾さんとしては何がしたいの』と問われるようになります。お金のために言われたことができるところから、主観も踏まえた提案や実行ができるようになると、もう少し大きな仕事を任されて、より継続的な関係性に変わっていきます。継続的な関係性ができてはじめて、2拠点居住なども現実的になってくるのではないでしょうか。僕もこのステップまで来てから、白馬にもシェアですが住む場所と車を用意した2拠点生活が始まりました。」(猪尾氏)
「地域に自分の役割があるというのは、単純に別荘があるのとは異なって、面白く地域に入っていけますよね」と、古田氏は多拠点で活動する自身の経験も重ねた感想を述べます。
コロナ禍で働き方の選択肢が広がり、どんな生き方も正解があるわけではない時代。
「これからの働き方はどう変わっていくと思いますか?」という古田氏の投げ掛けに対し、猪尾氏は、グラフを見せながら、「大きく分けて4つの働き方を、個人が自由に組み合わせて働ける時代がくると思います」と話します。
「グラフの横軸が契約形態で、いわゆる正社員が左側、業務委託契約が右側です。縦軸の下側がいわゆる単発・外注で、上側が継続・メンバー。これまでは業務委託契約になった瞬間、単発・外注の仕事しかできないケースが散見されましたが、これからは必ずしも正社員でなくても、継続・メンバーとして認められる時代が来るというのが、僕の仮説です。またこの時ポイントになるのは、4つのうちの1つだけを選ばないといけないわけではないということ。実際に当社に登録している方の中には、働いている時間の5分の4は正社員、5分の1は専門社員として働いている方が多くいらっしゃいます。さまざまな働き方を、ポートフォリオとして組み合わせていけるようになる時代がくるのではないかと思います」(猪尾氏)
自身に就職経験はなくとも、さまざまな場所で活躍してきた古田氏は、「正社員じゃないといけないなんてことはない」と一言。
「僕自身、例えばこの朝大学の取り組みは、三菱地所のメンバーだと思って取り組んでいますし、いろんな会社の顧問や役員も務めていますが、全て自分の会社だという気持ちで向き合っています。必ずしも会社に自分の机があるからメンバーというわけではなくて、むしろ『どんなビジョンを描き、そこに向かって一緒に考えているか』の方が重要なのではないでしょうか」(古田氏)
猪尾氏も、「正社員で、毎日会社に行って話していても、心理的安全性が高まらない関係性も中にはあります。リモートでも前向きなコミュニケーションをはかることができれば、正社員かどうかにかかわらず、継続的なメンバーとしての働き方は十分可能になるでしょう」と話しました。
コロナ禍が訪れる前までは、誰も想像していなかった働き方が広がり、定着したこの1年。朝の時間、大手町・丸の内・有楽町をキャンパスとして活用し、生き方、働き方、遊び方を自分なりにデザインすることを目的に開講する市民大学。 受講者数はのべ2万人を超え、共感や共創から生まれるつながりを大切に、チャレンジのきっかけと新たな価値を生む場を提供しています。