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【レポート】ネイチャーポジティブの追求と持続可能な連携を考える

企業向け生物多様性セミナー第1回「ネイチャーポジティブ」とは?企業の果たすべき役割 2023年11月9日(木)開催

生物多様性の損失は、国内外で関心を集めている問題です。そして今、その問題解決に向け、企業の関心が高まっています。そこで今回は、日本自然保護協会主催、エコッツェリア協会共催「企業向け生物多様性セミナー(全4回)」として、国際的な生物多様性の動向や企業が求められる役割、そして、企業とNGOが連携・協働することで実現するネイチャーポジティブに関する事例などを紹介するセミナーが実施されることとなりました。第1回目となる「『ネイチャーポジティブ』とは?企業の果たすべき役割」が11月9日に開催されました。道家哲平氏(日本自然保護協会)、藤田香氏(日経ESGシニアエディター 兼 東北大学グリーン未来創造機構/大学院生命科学研究科教授)、鎌田恭幸氏(鎌倉投信代表取締役)の3名が登壇し、企業活動と自然資源・生物多様性との関わりや「ネイチャーポジティブ」に取り組む意義を解説。企業の生物多様性保全への取り組みや今後注目すべき動きが紹介されました。

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今世界で求められている「ネイチャーポジティブ」とは?

今世界で求められている「ネイチャーポジティブ」とは?

最初に登壇した道家氏からは、ネイチャーポジティブとは何なのか、また、なぜネイチャーポジティブの実現が大切なのかをテーマにお話しいただきました。

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2022年12月に、生物多様性条約締約国会議(COP15)が開かれ、そこで世界の目標と定められたのが「ネイチャーポジティブ」です。具体的には、2030年までのミッションとして、「(略)人々と地球のために自然を回復する道筋に乗せる(put nature on path to recovery)ために、生物多様性の損失を喰い止めるとともに反転させるための緊急の行動をとる」と述べられています。

ではなぜ、ネイチャーポジティブの実現が大切なのでしょうか。
「生物多様性版のIPCC」とも呼ばれるIPBES(イプベス)という国際機関のレポートによると、75%の陸地、66%の海洋環境が改変されている、つまり、ネイチャーネガティブな状況にあると言われ、それは今なお失われつつあるというのです。
私たちが子どものころから、森林伐採が問題だ、熱帯雨林の森林が破壊されている、という話題は耳にしてきました。しかし、それから何十年たった今でも、同じように問題と言われているのです。森を育てるという活動もありますが、同時に今も森を失っているのが現状です。森林減少(損失速度)は緩和しているものの、減少は止まっていないのです。
さらに想像しなければならないのが、実は、目に見える森林破壊の10倍が失われているということ。陸上部の草本や樹木のバイオマスを1とすると、土壌部分(深さ20~50cm)には10倍以上のバイオマスの土壌動物が存在し、土壌微生物はさらにその10倍(=100倍)が存在しているのです。
つまり、木の重さを1とした場合、森林伐採をすることでその10倍の生き物を失っているということにつながるのです。

昨今、気候変動についても多くの企業が対策をしていますが、ここにも自然との関係があります。2010年から2019年の平均で、私たちは、毎年、50ギガトンのCO2を排出していました。そのうち、32ギガトンのCO2を森林や土壌、海洋が吸収しています。自然の破壊が進むことで気候変動を加速させているとも言えるのです。省エネや再生可能エネルギーの利用と並んで、森林の保護・再生が重要と分かります。

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また、大気中のCO2上昇が海中のCO2上昇につながり、海の酸性化を引き起こし、生態系に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。
生物多様性条約では、「損なわれた自然の30%を回復させる」や「陸・水・海の30%を人と自然の共生する地域として守り、管理する」など、ネイチャーポジティブを実現するために23のアクションがあるとしています。その全てが必要不可欠なのです。

企業の生物多様性への関与とネイチャーポジティブの流れ

続いて、藤田香氏が登壇。ネイチャーポジティブ実現に向けて企業に求められる役割についてお話しいただきました。

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昨今、多くの企業が「生物多様性方針」を掲げていますが、世界中の投資家と企業の間でも生物多様性やネイチャーが大きなテーマとなっています。どんな業種であっても、企業であっても、サプライチェーンで生物多様性に依存し、影響を与えています。例えば原材料の調達の金属資源の採掘で生態系に負荷をかけて調達をしているということもあれば、輸送の部分で、バラスト水を通して生態系に影響を与える外来種を運んでしまうということもあります。どんな企業にとっても関係があるということです。

保全や再生だけではなく、気候変動対策、資源循環の取り組み、持続可能な生産と消費、それら全てを組み合わせてネイチャーポジティブを進めようというのが世の中の流れです。ネイチャーポジティブ、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ウェルビーイングなど、企業が今、重要なテーマとして取り組んでいることを、一緒に行っていこうというのが、ネイチャーポジティブの動きなのではないでしょうか。

COP15後の企業の取り組みと環境規制の変化

COP15において、企業の取り組みと環境規制に関する重要な変化が明らかになりました。これまでの国連での目標設定に加えて、情報開示と金融機関の投融資が新たに重要な役割を担うものとして登場し、企業の取り組みを支援する動きが目立っています。
企業はこれまで国連の目標に基づいて取り組んできましたが、情報開示によりその取り組みが客観的に評価され、金融機関がこれを見て投融資を行う際、ネイチャーポジティブな企業に対して支援を行う傾向が見られるようになりました。また、これまで以上に科学に基づいたデータや目標設定が求められ、アカデミアの役割も増しています。
企業の取り組みにおいても、サプライチェーンでのリスク管理や自然をポジティブにする取り組み、情報の収集と利活用、情報開示が重要視されています。サプライチェーンのリスク管理では、自然への依存度や影響を評価し、持続可能な調達方針やトレーサビリティを確保することが求められているのです。

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規制や影響力に関しても大きな変化が起きています。TCFD、ISSB、TNFDなどの整合性が大企業にとって重要視され、投資家のエンゲージメントも増えているのが現状です。また、EU規制のCSRDでは気候変動だけでなく自然の開示も求められ、義務化されています。TNFD開示もこうした流れで注目され始めています。これにより、企業はますます情報開示に動かされることが予測されているのです。

COP15後の企業の取り組みと環境規制の変化は、従来の取り組みに加えて情報開示と金融機関の関与が企業に大きな影響を与える可能性があり、ネイチャーポジティブ経営への移行を促す重要な要素となることが示唆されています。

しかし、企業はこうした枠組みに沿って、ただ開示すればよいというわけではありません。自然は地域に紐づき、地域ごとに自然は異なります。地域ごとに、自治体や市民、アカデミア、企業が共に対話し、自然を守るネイチャーポジティブのストーリー、ビジョンをつくることが大切です。各企業が自然のストーリーを考え、ネイチャーを「ポジティブ」にすることでどのようにその地域に幸せをもたらすのかを模索することが重要です。ネイチャーポジティブは、大企業だけでなく、地域の中小企業や商店、自治体とも大いに関係のある課題であることをぜひ心にとめていただきたいです。

金融界におけるネイチャーポジティブと課題

最後に登壇した鎌田恭幸氏からは、金融におけるネイチャーポジティブの今をテーマに、自然資本・社会資本・関係資本を増やす鎌倉投信の取り組みについてお話しいただきました。

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鎌倉投信は、独自の視点で公募型の投資信託の運用・販売とスタートアップ支援のファンドを運営しており、その取り組みは単なる収益追求だけではなく、ESGやSDGsにも通じる社会性評価に基づく投資を重視しています。今年の9月に、年に一度の受益者総会が開催され、投資信託のお客様である受益者と投資先企業が招待されたのですが、この年のテーマは「食と環境」。食に関わる企業や環境に関連する企業が集まり、それぞれの取り組みについて議論が交わされました。ネイチャーポジティブを直接的にテーマにはしていなかったものの、ウェルビーイングやフードロス削減、バイオジェット燃料などが議論されました。

このイベントでの印象的な点は、企業が行っている努力があるにも関わらず、消費者にほとんど伝わっていないということ。多くの企業や金融機関は、SDGsやESGに関連するファンドを作成していますが、その取り組みが最終的な顧客に伝わっていないという事実があります。それらは単なるテーマ性のあるファンドにとどまり、企業の努力が消費者に届いていない実態があるのです。
このような状況を考えると、企業が行う努力がマクロ的な経済的関係を形成する一方で、最終的な生活者にその情報が届く方法が重要だと感じられます。

多角的な視点からの考察と連携の必要性

ネイチャーポジティブを4つの視点から考えてみましょう。
まず一つ目は経済からの視点。資本主義の従来の動向では、大量生産・大量消費を前提として、自然資本や生態系サービスを無料で利用する傾向がありました。しかし、現在は地球環境や生態系の保全が経済活動や企業活動の制約条件となりつつあります。資本主義の枠組みが変わり、社会価値を創造する企業が生き残る必要があるのです。

次に金融からの視点から見ると、金融機関も多様性の評価やESG(Environmental, Social, Governance)指標を活用して投資先を考慮しています。しかし、世界経済の成長と株価の相関性、金融市場の拡大に伴う負荷など、グローバル経済と株式市場の同調性には課題があります。金融業界には環境に対する投融資への取り組みや、投資先に対するダブルスタンダードが生じており、解消が求められているのです。

企業経営からの視点で見ると、企業はESGやネイチャーポジティブを目指すべきですが、その目的が内発的でない場合もあり、企業の意図が社員やステークホルダーに十分に伝わっていないことが課題です。自社の商品やサービスを通じて世界をより良くする取り組みが求められており、企業の単独行動だけでなく連携や一般国民との関わりも重要視されています。

最後に思想からの視点を考えてみましょう。多様性の重要性を理解すること、さらに、命に対する謙虚さを持つことは非常に重要です。企業や金融機関、投資家が環境変革に挑む際、コンソーシアム的な取り組みや実証実験を通じて、環境へのポジティブな影響を持つファンドや取り組みを試行錯誤しているのです。

ネイチャーポジティブへの取り組みは、従来の経済や資本主義の枠組みから脱し、環境保全や社会的価値創造の観点から新たな方向性を模索しています。

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企業だけでなく地域や消費者、メディア、NGO、アカデミアなど、マルチステークホルダーでの連携が重要であり、今後ますます意見交換や協力が求められる時代です。このような共同の知識とパートナーシップを築き、ネイチャーポジティブに向けて行動することが大切なのではないでしょうか。

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