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「都心のオフィス街で、ホタルの輝きが見られる」というと、驚かれる方もいるかもしれません。大手町エコミュージアムは、高層ビルが立ち並ぶ一角に整備された、自然あふれる遊歩道です。ここには、清浄な水を循環させ、湿生植物が生育している「湿生花園」、ホタルの飼育をしている「ほたるのせせらぎ」があります。
ホタル幼虫の餌となる巻貝の一種カワニナは、綺麗な清流にしか生息できません。そのため、ホタルも自然豊かな川辺に生息する生き物として知られていますが、「ほたるのせせらぎ」は、ビルの中から出た中水や排水を濾過する技術により、ホタルや植物が成長できる水環境が整えられています。
エコッツェリア協会はここで、3月23日に、ホタルの幼虫とカワニナを放流するプログラムを開催しました。参加したのは、大丸有エリア近郊の保育園の子どもたち。ホタルを放流するだけでなく、ホタルに関するクイズなども交えながら、自然との親しみや体験を楽しみました。
今回のホタルの放流プログラムには、千代田せいが保育園、マミーズエンジェル神田駅前保育園、マミーズエンジェル千代田保育園の3園から、総勢37名の子どもたちが参加。それぞれ、30分ずつ時間を区切ってプログラムを体験しました。
ホタルの放流について子どもたちに説明するのは、大手町エコミュージアムの管理を担当する小岩井農牧株式会社の佐野亘哉さんと、ネイチャーインタープリターの小谷海斗さんと福倉大輔さん(日本獣医生命科学大学の学生)です。
小岩井農牧の佐野さんからは、はじめに大手町エコミュージアムにあるさまざまな施設の紹介がありました。花壇に植えられた花や、水槽の中にいるユーグレナ(ミドリムシ)が、食べられることを紹介すると、子どもたちは「食べてみたい!」と興味津々の様子。これから放流するホタルがちゃんと大人になれるよう、水を綺麗にすることや環境を整備することが佐野さんの仕事だとわかると、みんな感心したようでした。
続いて、ネイチャーインタープリターの小谷さん、福倉さんからは子どもたちに、ホタルに関するクイズが出されました。3つの虫の絵を見せながら、「ホタルはどれかな?」と問いかけると、一斉に子どもたちから声が上がります。イラストを見せながら、翅(はね)の場所や発光部位を説明したり、種類による大きさや模様の違いをクイズで問いかけたりすることで、ホタルへの理解をより深められたようでした。
「日本には、50種類くらいのホタルがいると言われています。じゃあ、この中で光るホタルはどれだかわかるかな?」
小谷さんが、ムネクリイロボタル、ホタルガ、クメジマボタルの写真を見せながら、子どもたちに問いかけます。実は、50種類いるホタルが全て光るわけではなく、むしろ光るホタルの方が少数派だそう。
「実は、この3種類のうち、光るのはクメジマボタルだけです。ムネクリイロボタルも発光器はあるんだけど、とても光が弱いホタル。ホタルガは、この辺りでもよく見られる蛾の仲間です。次に、日本で特に有名なゲンジボタルとヘイケボタルについてお話しします」
ゲンジボタルとヘイケボタルの2種類のイラストを見ながら、それぞれの違いを見ていきます。
「模様が違う!」「大きさも違うよ!」子どもたちは、見た目の違いを口々に言い合いました。
「模様が違う、大きさが違うのもそうだけど、飛び方も違うんだよ。ゲンジボタルは、光る時にゆらゆら飛んで光る。一方で、ヘイケボタルは真っ直ぐ飛ぶんだ。あとは、ヘイケボタルの方が光るテンポが少し早かったりもするよ」(小谷さん)
続いて、ホタルが光る期間は、わずかに5日から10日間だと小谷さんは説明します。成虫になってからの寿命は、1週間から2週間。成虫になるまでは、幼虫の姿で1年間のほとんどを水の中で過ごします。
「今は、みんな寒いでしょ?この寒い間、ずっと水の中にいて、これから夏までに大人になるんだよ」
クイズでホタルのことをたくさん知ったところで、ホタルの幼虫が1匹ずつ子どもたちに配られました。
「ホタルは、どこに口や鼻に代わるものがあるかな?幼虫を観察してみようね」と促すと、積極的に触ろうとする子や、恐る恐る顔を近づける子など、思い思いに観察を試みます。
「ぷにぷにしてる!なんかかわいい」「動いていて、気持ち悪い!」
子どもたちの反応はさまざまでしたが、観察を通して生き物に対する愛着が湧いたようでした。
「ホタルの幼虫をみんな一緒に放流するよ。せーの!」
観察が終わると、いよいよ放流です。幼虫に触れない子は、触れる子が代わりに放流する場面や、水の中に手を振り、ホタルの成長を願う様子も見られました。
放流されたホタルは、しばらくの間水中で過ごし、やがて地上に出てきて土に潜ります。そうして、2ヶ月後の5月頃にホタルは成虫の時期を迎え、早ければ、5月にはホタルの光を鑑賞することができるようになります。
ホタルの光が見られることを楽しみに、子どもたちは大手町エコミュージアムを後にしました。
「ホタルはなかなか触る機会がない生き物なので、子どもたちにとっては、良い機会になったと思います。このような機会に参加できて感謝しています」(髙島先生)
そう話すのは、マミーズエンジェル神田駅前保育園の髙島早哉香(たかしまさやか)先生。大手町エコミュージアムは保育園からも近く、普段からも通り道として利用しています。
園では、自然との共生をテーマに、1年間を通して図鑑を作りながら、子どもたちの生き物への親しみを育んできたそうです。そのため、今回のホタルの放流でも、興味を持って触れ合うことができたのではないか、と先生は言います。
「保育園では、カブトムシの幼虫を育てているので、今回のホタルの幼虫も割と抵抗なく楽しめた子が多かったのではないでしょうか。私たちは小さい保育園なので、異年齢児の交流が盛んです。小さい子をお世話する延長で、虫を触れない子がいたら代わりにお世話する、そんな姿が見られてよかったと思います」(髙島先生)
「当日は寒かったので子どもたちと身体を動かす軽い運動をしながら取り組みました(髙島先生と子どもたち)
子どもの成長にとって、社会や自然との触れ合いは生きる力を育む大切な経験。そこで、エコッツェリア協会では、大丸有エリアの子どもたちに遊びを通してさまざまな経験をしてもらおうと、自然体験プログラムを開催しています。
大丸有のまちづくりでは、「多様な人々が集まるまち」を一つの方向性としていますが、「子どもを含めた、子どもをめぐる人々」も重要な大丸有の関係人口として捉えています。そこで、「子ども」に焦点をあてた、まちの快適性の向上を目的としてエコッツェリア協会が発足したのが、「大丸有エリアまち育プロジェクト」です。まちに関わる多様な視点からまちを見つめなおすことで、まちを育み、まちの人々が心地よく育まれることを目指した活動です。
「大丸有エリアまち育プロジェクト」では、大丸有や周辺エリアの保育施設と連携した現地調査やヒアリングを重ね、都心の特性を活かした、子どもと大人にとって心地よいまちづくりを進めています。エコッツェリア協会では、その活動の一環として、今後も「ホタルの飼育体験プログラム」のように、自然と触れ合える体験型プログラムを開催していく予定です。
エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。