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2022年のゴールデンウィーク、たくさんの親子が東京の中心・丸の内に集まりました。
大手町の「3×3Lab Future」を拠点に、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区のサステイナブルなまちづくりを推進するエコッツェリア協会。3×3Lab Futureではゴールデンウィークの4月29日~5月1日の3日間、NHKアニメ「忍たま乱太郎」と一緒にSDGsを学ぶパネル展示と、親子で参加する体験イベントが同時開催されました。
今回はエコッツェリア協会とNHKエンタープライズの特別共催。1日目は「其の一『お濠(ほり)の水の巻』」と題し、3×3Lab Future周辺の施設見学を交え、SDGsへの理解を深めるプログラム内容が企画されました。
本プログラムでは、エコッツェリア協会が取り組んでいる環境に関する活動や、皇居のお濠の生態系、浄水施設などの見学を通して、SDGsに取り組むまちづくりを学んでいきます。 今回のプログラムで学んだことを、帰宅後に家族で話し合えるような親子イベントを目指しました。
まずは、『忍たまと一緒にSDGsパネル展』を主催する、NHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー堅達京子(げんだつきょうこ)氏より、参加者に向けてSDGsの解説がありました。
今回のイベントを企画したのは、「子どもたちに、SDGsのことを知ってもらうため」と堅達氏は言います。
「世界中にはさまざまな国があり、そこに住んでいる人々がいます。その世界中の人々を誰一人取り残さず、みんなで幸せになることを目指してSDGsは掲げられました。SDGsの17の目標の中には『地球の環境を守ろう』や、『素敵なまちづくりをしよう』など、さまざまなテーマがありますが、今日は"皇居のお濠"を通して、水とまちづくりについて学んでいきます。今からSDGsを学んで、より良い地球になるように、そしてみんなが幸せになるように、できることから取り組んでいきましょう」
続いて、エコッツェリア協会の松井から『親子で学ぶ体験イベント』についての説明を行いました。
「皇居の周りにあるお濠は大手町では見慣れた風景となっていますが、一時期水環境が悪化していました。お濠の水が汚れてしまうと、そこに生息する魚などの生きものが住めなくなってしまいます」
「水環境の悪化に対して、私たちは何ができるかな?」と、松井が問いかけると、子どもたちからは「水をきれいにする!」という答えが返ってきました。
「水をきれいにすることは、とても重要な取り組みのひとつです。ですが、生きものたちが住めるくらいきれいにするまでには、どうしても時間がかかってしまいます。そこで私たちは、お濠の水がきれいになるまで、いったん生きものたちを安全な場所に非難させる、という取り組みを行っています」
続くプログラムでは、「水をきれいにする取り組み」と「生きものを守ること」の2つの観点に分けて、お濠の環境を守る取り組みについて学んでいきました。
「水をきれいにする取り組み」の案内人は、エコッツェリア協会の松井。
松井が案内したのは、3×3Lab Futureの地下にある浄化施設。ここは貯水施設としての機能も備えており、お濠の水位が下がった際に水を戻すことで、より多くの水を浄化することに貢献しています。
貯水設備は浄化施設があるフロアよりさらに下、深さ35mの位置に存在します。35mという深さにピンときていない参加者へ、「9階立てのビルの高さと同じ」と具体的な例を挙げながら説明しました。
さらに、この浄化施設は1日に約3,000m3、25mプール約6杯分の水を浄化する能力があり、約1年間作動させると500,000m3の水を浄化できます。お濠の水は全部で450,000m3ほどあるため、1年間でお濠の水を全て浄化するくらいのスピードだとか。想像以上の規模に子どもたちだけでなく、大人たちからも驚きの声があがりました。
水の浄化の仕組みについて、松井からの説明は続きます。濁った水を一度かき混ぜて静置しておくと、ゴミや汚れが下に沈殿していきます。ここでは、きれいになった上澄みの水をお濠に戻す、下水処理場と似たような仕組みで水の浄化を行っています。
しかし、ただ静置しておくだけでは取り除けないゴミもあります。そのため、凝集剤などを混ぜて、汚れが沈殿しやすくなるようしているといいます。
説明を聞いた後は、「浄化施設・沈殿ユニット部分」の見学です。設備の下部に窓が設置されており、底の方にゴミや汚れが沈殿していく様子が観察できるようになっています。その窓から、子どもたちは順番に中を覗いていきます。見学を終えた子どもたちからは、「味噌汁が回っている」という感想があがり、大人たちも「なかなかいい表現だ」と感心する一コマもありました。
見学中、浄化設備についてだけでなく、周辺設備や水の浄化の仕組みについてもたくさんの質問が飛び交いました。子ども・大人双方から質問があり、参加者の多くが普段見ることができない施設に興味津々の様子でした。
続いて浄化施設、および貯水設備の建設工事についての解説です。
「施設の建設工事は、困難を極めました。もともと地下鉄や下水道など、さまざまな施設がこのまちにある中、その境目を縫って工事をしなければならず、一番狭い場所だと1mもないような細い場所に管を通している箇所もあり、工事の際にはどうしてもお濠の石垣の一部を解体する必要がありました」
本来、歴史を研究している大学教授などでも、お濠の石垣は研究したくてもできる場所ではありません。特別に許可を得て、慎重に解体を進めていきました。工事の際に、石垣の石(築石)からさまざまな刻印が見つかっており、石材を調達した藩を推測することができたといいます。
例えば、「九」とい刻印がされている石材は摂津三田藩九鬼家、「轡」という刻印は安芸広島藩浅野家などです。また、石材だけではなく、お濠の中からお椀や銭貨など、さまざまなものが出土しました。このような観点から、工事自体は非常に重要な調査でもあったそうです。
一通り施設を見学した後、改めて浄化施設の存在意義について語られました。
浄化・貯水施設はあくまでも水の汚れを取り除いてお濠に返すことだけを行っており、基本的には浄化した水を生活用水などに使うことはありません。ただし、災害時だけは例外として、マンホールトイレの洗浄水に使えるようにしています。トイレの水の確保は都市の衛生面からみて、非常に重要な問題です。お濠で暮らす生きものだけでなく、大手町で暮らす人間にとっても快適なまちを作ることがこの施設の一番重要な目的です。
「皇居とは、日本でも海外の方がたくさん来られる玄関口のようなもの。私たちは大手町を良いまちにする活動の一環で、お濠をきれいにする取り組みをしています。災害時でも、ちゃんとみんなを守れるまちにしていきたいと考え、このプロジェクトに取り組んでいます」
「生きものを守る取り組み」の案内人は、三菱地所サステナビリティ推進部の見立坂(みたてざか)が担当します。「生きものを守る取り組み」は2部構成で進められていきました。
まず1つ目のトピックは「濠プロジェクト」です。
皇居は東京の都心にありますが、自然豊かな環境で貴重な生きものが豊富。皇居の中にしか生息しない生きものも多くいます。
それらの貴重な生きものがいる環境を活かし、まち開発をしていこうと始められたのが「濠プロジェクト」です。プロジェクトは5年ほど前から始まり、環境省から貴重な水草をもらいうけ、その水草を守り育てています。三菱地所の社員も、実際に年に1回程度お濠に入り、水草や水草の種を採取しています。通常、無許可でお濠に入ることはできないため、非常に貴重な体験を毎年しているのだと、見立坂は語ります。
「皇居のお濠は、昔はとてもきれいだったため、さまざまな水草が生息していました。しかしながら、この50年でどんどん汚れていき、水草が絶滅していっています。環境省から譲り受けた水草は6種類ですが、今現在、お濠の中で実際に生きているのは、エビモとホザキノフサモの2種類のみ。残りの4種類は確認されていません。しかし、お濠の底に積もっている泥の中に、これらの水草の種が眠っているのだそうです。それでは、休眠している種はどれほどの期間眠っていられるのでしょうか?」
見立坂が会場に問いかけると、1年、20年、5ヵ月など、子どもたちからさまざまな意見があがりました。
正解は、どの解答よりも長い"50年から60年"。種が発芽する可能性は、50年、60年経ってしまうと大幅に低くなるとされています。
「お濠の水は、過去50年で汚れが進んでしまったので、ここ数年がお濠の水草を復活させることができるラストチャンス。なんとか水草の復活が間に合うように、今、協力して頑張っているところです」
5年ほどプロジェクトを継続する中で、着実に成果は上がってきているといいます。
なんと、三菱地所の社員が採取した泥の中に、眠っていた「ミゾハコベ」の種が発見されたそうです。ミゾハコベは、東京都内では絶滅したとされていた水草。取り組みの甲斐あり、発芽に成功させることができました。
しかし、ミゾハコベが復元できたのは、取り組みを始めてから3年後。毎年採取をし続けて、3年目でようやく初めて復元できた水草であり、根付いたのはたった1株だけでした。自然環境をもとに戻すことが、どれほど難しいことであるかがわかります。
続いて、もう1つのトピックは「ホトリア広場」。
「ホトリア」という言葉は、お濠の「ほとり」とイタリア語の接尾辞の「lia」を組合わせた造語です。広さは約3,000m2、上空から見るとT字の形をしています。
あるトンボの写真を示しながら「このトンボの名前、わかる人いますか?」と子どもたちに質問します。
赤色で細い糸のような見た目のトンボは「ベニイトトンボ」。ベニイトトンボは絶滅危惧種に指定されており、東京では皇居の中にしか生息していないと言われています。そのような貴重な昆虫をはじめとし、水鳥などの多くの生きものがホトリア広場には飛んできます。
本来であれば、お濠やホトリア広場で生きもの探しを行う予定でしたが、当日はあいにくの雨。参加者は、解説を聞きながらホトリア広場の散策を行いました。
ホトリア広場は、設置された石の間に隙間を作るなど、トンボ、ヤゴやトカゲなど、小さな生きものにとって住みやすいようにさまざまな工夫がなされています。雨の中にも関わらず、子どもたちはワクワクした様子で散策を進めていきました。
ホトリア広場の工夫は、石などの置き方だけではなく、水の消毒方法にも特徴があります。通常、塩素で消毒した水では、生きものはあまり長く生きることができません。一方で、ホトリア広場では水を紫外線で消毒しています。塩素による消毒より費用はかかりますが、生きものが快適に過ごすためには非常に重要なことです。
ホトリア広場の散策後、「濠プロジェクト」の様子を写した動画を見ながら、さらに詳しい活動内容が公開されました。
丸の内や大手町、有楽町周辺はもともと湿地でした。水草がたくさん生息していた、もとの土地環境を復元するという観点からも、意義があるプロジェクトだと見立坂はいいます。
「お濠の生きものを保全する活動は、もともと千葉県立中央博物館でしか行っていませんでした。現在、三菱地所が管理しているのは、理想のお濠を模した水槽、ホトリア広場、ビルの屋上の3か所です。もし1か所が事故などでダメージを受けても、ほかの場所が生き延びる可能性があるので、複数の場所で保全することは非常に重要な意味があります。
より水草が生きやすいようにホトリア広場の改修工事をした際には、ビルで働いている人たちに参加していただいて、採取した水草や生きものをホトリア広場に導入してもらうイベントを開催しました。また、お濠の生きものの採取を体験できる親子イベントなども、定期的に開催しています」
濠プロジェクトでは、お濠やホトリア広場での環境活動を広く知ってもらうため、参加型のイベントも併せて開催しています。「プロジェクトに興味を持っていただけたら嬉しいです。ぜひ今後の参加をお待ちしています」と、参加者たちに呼びかけました。
皇居のお濠は、なぜ汚れ始めてしまったのでしょうか?
もともと、お濠へは川が流入していましたが、現在その川は閉じられてしまっています。外からきれいな水が入ってこないため、雨水が貯まっているだけの「沼」と同じ状態です。
お濠の水を理想の状態にするには、2つの方法があります。
1つは外からきれいな水が入ってくるようにすること、もう1つは浄化装置をたくさん設置して、人工的にきれいにすること。しかし、現在の浄化施設だけで理想の状態にするには100年以上かかると言われています。
環境問題は一朝一夕で解決するものではありません。これからも引き続き、生きものや自然について学びながら、私たち一人ひとりができることを模索していく必要があります。
今回のプログラムでは、案内人の2人が答えきれないほど積極的に質問している子どもたちが多く、とても関心の高い内容だったようです。貯留浄化施設の見学では「普段見ることのできない浄化の仕組みが見られて面白かった」、「水をきれいにする機械が、迫力があってすごかった」などの感想が聞かれました。
自然が好きだったり、お濠を見てみたかったり、参加の理由はさまざまでしたが、どの参加者にとっても環境問題やSDGsについてさらなる知見が得られたイベントとなったようです。
エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。