イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】移り変わる季節を体感

シゼンノコパン「秋冬の“生”を観る ~自然が紡ぐ色・形~」2021年12月12日開催

奇二さんによる秋の大丸有シゼンノコパンは、秋から冬へと移り変わるまちの自然をまるごと感じ取るプログラムとなりました。「秋から冬にかけて生き物は鳴りを潜めていくように見えますが、実は春に向けて生命を蓄えようとしていることもある」と解説するのはエコッツェリア協会の松井。自然のスペシャリスト・奇二さんから、そんな自然の見方を教えてもらいます。前半は観察をしながらも街歩き、後半は室内で"落ち葉のステンドクラス"を工作するプログラムです。「見る・知る」だけでなく、「体験」「体感」するシゼンノコパンとなりました。

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「何をしているんだろう?」という視線

「何をしているんだろう?」という視線

まち歩きに出かけるまえに、奇二さんから今日の"見方"のレクチャーがありました。奇二さんは、下見で撮影したという鳥の映像を見せて次のように話します。 「これは大手町の森で撮影したメジロの動画です。目の周りが白いからメジロ。今日はメジロを見つけて『あ、メジロいた!』じゃなくて、このメジロが何をしているんだろう?というところを観察してほしいんです。キンちゃんもそう考えてこの映像を撮影しました」(※キンちゃん=奇二さんのこと)

映像の中でメジロは何かをついばむようにせわしなく動き回っています。「このメジロは何をしていると思いますか?」という質問に、参加者(主に子どもたち)からは、「食べ物を探している」「餌を食べている」という回答が上がります。

「素晴らしい、どちらも正解です。こうやってメジロが動いて葉っぱを落とすので、その葉を観察したら、裏側に小さな虫がついています。これはアブラムシや葉につくダニの仲間。メジロはこの虫を探して食べていたんですね」

このほかに行水するカラス、餌を探すジョウビタキやヒヨドリの姿、シジュウカラとメジロがカマキリの卵を食べようとする姿を映像で紹介。シジュウカラはカマキリの卵を壊して食べることができますが、メジロはくちばしが細いためにうまく壊せずに、食べることができないでいることを奇二さんは映像から読み解きます。このように「何をしているんだろう?」と考えながら見ると、いろいろなことが見えてくると奇二さん。

「まちに出たら、何か動いているものはないか、全体を見るともなく見てみましょう。今日も野鳥がいっぱいいると思います。鳥たちを探して、何をしているのかを一緒に考えていきましょう」

考えるな、感じろ

3×3 Lab Futureから一歩外に出ると、いきなり耳をすまして「鳥が鳴いています」と奇二さん。街の中は車の走る音、空調が動く音など人工的ないろいろな音が低く響き合い、鳥の声なんて聞こえるのかと思うほどですが、言われて耳をすませば、たしかに鳥の声がします。「シジュウカラとメジロ......ともう1種類、3種類の鳥がいますね」と奇二さん。さすがに初心者にはそこまで聞き分けられませんが、なんとなく、自然の姿の捉え方が分かってきたような気がした瞬間です。

まち歩きに出発し、最初に足を止めたのがカツラの木。ホトリア広場の裏側、日比谷通り沿いにカツラの木が街路樹として数本並んでいます。ここでは「匂いをかいでみて」と奇二さん。不思議なことに、カツラの葉は木についている間は匂いがしないのに、黄葉して落ちると甘い匂いを放つようになります。キャラメルのような綿菓子のような、郷愁を誘う(大人にとっては)甘い香り。

大手町の森へと移動する途中、カラスにも出会いました。「ハシブトガラスっていう、くちばしが太くてしゃがれた声で鳴くカラス」と奇二さん。何をしているのか、観察する暇もなく飛び立ってしまって皆残念そうに見送ります。

大手町の森では、まず観察のやり方を教えてもらいました。

「両手を大きく広げて指を動かすと、前を向いていても指が動いているのが分かると思います。足元も見えるし周辺全体がなんとなく見える。そして何かが動けばそれも分かる。これを『ワイドビュー』と言います。自然の中に入ったらワイドビューで全体を見て、何かが動いたらそこにフォーカスする。そうやって観察してみましょう」

双眼鏡の使い方も習って、しばらく各々で自然観察です。ドングリを探す人、鳥を探す人、いろいろです。しかし、ある参加者が落ち葉の裏に虫を見つけると、全員で落ち葉観察へ。

「動画で見たようなアブラムシです。ルーペでよく観察してみてください。人間は刺さないから大丈夫。葉が変色しているのは、人間が蚊に刺されると赤く腫れるようなものです。(黒いつぶつぶは何?)おそらく脱皮した皮だと思います。(枯れた葉っぱからも樹液が吸えるのか?)多少、まだ水分が残っていて、それを吸っているのでしょう。(この後アブラムシはどうなるの?)種類が同定できませんが、これは今幼虫で、このまま越冬するのだと思います。春になると羽が出て、飛べるようになると思います」

ある参加者は高倍率のミニ顕微鏡を持っており、アブラムシを超拡大で観察して人気を集めていました。人の「見たい」という気持ちは本当にすごいものがあります。

参加者には保存用の紙袋が渡されており、後半のステンドグラス工作用に落ち葉を集めることができます。子どもたちは落ち葉に限らず、ドングリなどの木の実や小枝なども熱心に集めます。20分ほど、自由に散策、観察して、ゆっくりと次の観察場所へ移動していきます。

大手町の森で。鳥がいるのが分かるでしょうか。

自由な心を取り戻す

次は落ち葉を集めるために、ホトリア広場に戻りますが、その途中でもユリノキで足を止めたり、またカラスに出会って観察したりもしています。「今日はすごくカラスが騒いでいるなあ。敵がいるのかもしれませんね」。『何をしているのだろう?』と考えるのが今日のテーマのひとつです。子どもの一人がてんとう虫を見つけて、奇二さんに見せに来てくれたりもしていました。「ナミテントウとシロホシテントウですね。どこにいたの?(地面!) いい目してますね~、調査に同行してほしい!(笑)」。いつのまにか子どもたちとすっかり仲良くなっているのが奇二さんのスゴイところです。

ホトリア広場では、クスノキの樟脳の香りをみんなで確認した後、周辺で思い思いに落ち葉を集めてもらいました。イロハモミジのように赤く染まる葉や、ユリノキのように黄色く染まる葉が特に人気。また、ホオノキのように大きな葉も大人気。つまり、何でも楽しく集めてもらいました。

3×3 Lab Futureに戻ってからはいよいよステンドグラスの工作です。透明な粘着シートに挟み込むだけの簡単工作で、練習用(くもりガラス的)と本番用(ガラスのように透明)の2つを用意しました。

子どもたちがのびのびとした自由な発想で、芸術的な創造性を発揮して作っていたのが印象的でした。大人になると「正しさ」を考えてしまって、自分の心に素直に従うことができなくなってしまいます。子どもたちはそんなものに縛られることなく、自分の心に素直に従っている。もしかすると、自然との対話はそんな人間本来の心や創造性をも刺激するものなのかもしれません。

ステンドグラスは、枝3本でつくる"イーゼル"で飾れるようにしてお持ち帰りいただきました。

終了後に参加者に聞くと、次のような感想を話してくれました。

「いろいろな虫を見れたし、枯れた後でもこんなに香る葉があるということも知ることができて面白かった。子どもはもともと虫が大好きで普段から幼虫を育てたりしているし、家の近くの木を観察することも多いですが、この観察会のおかげで、家の周りを見る楽しさが増すように思います」

別の参加者は「贅沢な楽しいひととき」と高い評価も。

「こんなアクセスの良い近場の都心で、しかもこんなに狭い範囲なのに、プロの方と見ると自然が豊かにあるということが分かりました。少人数で十分に堪能できる贅沢な時間でした。普段キリキリと働いていて、街を歩いても自然に気づくこともなかったですが、新しい目で見ることができそうです。今日は子どものために参加したのですが、自分もとても楽しく、また参加したくなりました」

観察するだけでなく、工作するという行為、実践によって、自然へのアプローチが少し深まるということもあったのかも。観察や知識を蓄積するだけでなく、体験や体感など、身体的な感覚のプログラムとなった今回。大丸有シゼンノコパンの新しい一面を体験していただくことができたようでした。

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