イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】地域の緑をつくる原動力~多主体連携による「みどりのルート1」のこれまでとこれから~

Green Tokyo研究会 有識者懇談会 第9回 2023年10月25日(水)開催

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都市環境の評価ツールやデータベースを集約し、都市緑地の総合的な評価システムの構築を目指すGreen Tokyo 研究会。NPO法人や民間企業など幅広いメンバーにより設立され、定期的に有識者懇談会を開催しています。「緑」「GIS」「都市気象」「グリーンインフラ」にとらわれず、「地域コミュニティ」「ESG投資」など様々なテーマを題材に、各分野で活躍する方をゲストに迎えて意見交換を行ってきました。

第9回目の有識者懇談会では、「一般社団法人 鶴見みどりのルート1をつくる会」代表の髙田房枝氏をお招きし、オンライン配信と合わせて開催しました。髙田氏は、2012年から横浜市鶴見区北寺尾地区の国道1号沿線に集まる事業者・地域の住民とともに緑化工事や緑化維持の活動をスタートしました。横浜市の助成金を活用しながら、2019年には法人化。現在も地域に関わる人々が一体となり、緑豊かで生物多様性に配慮した持続可能な「現代の里山」を維持しながら、すべての人が憩い楽しめるまちづくりに取り組んでいます。
Green Tokyo 研究会会長の横張真氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は「現在は民間の力無くしては何もできないという時代。これから経済が変わるなかで参考となるところも多いと思います」と講演についての期待を述べられ、前半では髙田氏からこれまでの活動をお話いただき、後半では研究会会員とのディスカッションが行われました。

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企業と市民と行政をつないで緑化をすすめる

企業と市民と行政をつないで緑化をすすめる

image_event_231025.002.jpeg一般社団法人 鶴見みどりのルート1をつくる会代表の高田房枝氏

国道1号線を起点に地域が一体となった緑化活動を行っている髙田氏。現在の活動を行うまでにはいくつかのきっかけがありました。

まず、髙田氏自身のルーツがまさに国道1号線沿いにあり、国道開発による近隣沿道店舗の看板の拡大化・まちの汚れを実感するようになったのが大きな理由でした。髙田氏が生まれ育ち、今も緑化維持に携わる横浜市鶴見区国道1 号北寺尾交差点付近はかつて緑豊かな里山でした。髙田氏の自宅裏を撮影した1937年当時の写真には松林に囲まれた緑豊かな土地の風景が映されています。この里山は、東海道における東京-横浜間の交通量増加に対応するため、新京浜国道(現在の国道1号)を造る計画により開削対象となりました。1940年に予定されていた東京オリンピックのマラソンコースにもなるほどの一大事業でした。1938年から工事が始まり、1941年には横浜市認定歴史的建造物にもなっている「響橋」を設置するなどまちの景色が変わります。このエリアは、国道1号の開通により、賑やかで便利なまちへと発展を遂げました。その後1982年には沿道が次々と開発され、2011年には多数の飲食店が並ぶようになる一方で、ゴミの散乱などの目に余る点も増えていました。もともと歩道が狭く街路樹も無い周辺環境でしたが、高田氏はこの状況を見て何かできないかと考えるようになっていきました。

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2006年のスターバックスコーヒー横浜鶴見店の出店も、緑化環境を作る上での大きな転機です。20年ほど続いた店舗の立ち退きが決まり、新規店舗に名乗りを上げた飲食店の一つがこの店舗でした。緑と共存する取り組みは幅広く評価され、日本国内だけではなくシアトル本社でも評判となり、店舗の営業実績にも反映されました。これまでの店舗では緑化をしたあとに数年経つと木が刈り取られたり埋められたりすることがあったという髙田氏。緑の維持を必要条件として交渉し、出店店舗から断られるかもしれないという思いもありましたが、結果として、地域の緑化を後押しする上でも、近隣の事業者やお客様にもプラスの影響を及ぼし、まち全体が活気づくきっかけにもなりました。

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このような様々な活動を行うなかで、髙田氏は2000年代後半頃に国道開通前の里山の写真からインスパイアを受けました。自然環境と人が共存する里山は郊外にあるものと思っていましたが、過去の写真を見ながらこのエリアを「現代の里山」としてよみがえらせることができるのではないかと考えたのです。国道ができたことで作物の収穫は難しくなりましたが、必要なものが手に入る便利なまちとして発達を遂げました。土地利用を行いながら「ゴミが散乱する国道をみどりの国道にしたい」と考えた髙田氏は、2010年から知識を取得するために早稲田大学小島隆矢研究室へも通います。

「当時、横浜市の助成金の存在を知ったことで緑化計画に前のめりになりました。国道1号沿いの緑化活動をはじめたのはやはりこれまで住んでいた自分のまちだからということが大きかったです。行動し、知識をつけるなかで諦めようと思っていたことが諦めなくて良いと思えましたし、なにより昔の写真にインスパイアされました」(髙田氏)

今後の活動の目標として、緑に囲まれた憩いの場所として、持続可能で生物多様性の高い植栽ゾーンを民有地につくり、「沿道里山」としたいと話しました。「みどりの沿道の国道」として、まちづくりを行う計画を立てて次のステップへと視野を広げます。

地域・事業者・行政を巻き込み緑化計画を推進

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続いて、横浜市「地域緑のまちづくり事業」のこれまでの経緯について説明がありました。緑化計画のラフプランを提言したのは、2011年9月。国道と民有地の道が分かれることが当たり前だった時代に「みどり」の存在が分断された地域を繋ぐことができるのではと訴えました。行政のみならず、事業者本社でも勧誘を行い、「緑化まちづくり」を呼びかけて会を設立。事業者と住民の合意のもとで計画を立案し、横浜市と協定を締結して計画を進めました。緑化前・緑化後の地域住民の意識調査や事業者へのアンケート調査も行い、計画調査から5年をかけて緑化させていきました。

この活動では、個人でできる範囲の完成予想図をリアルに作成することで予算化をしやすいように心がけていたと髙田氏。沿道の緑化には事業者の参画が欠かせないため、説得力・イメージ化にこだわり、緑化の成功事例を見せつつ、拠点ごとの完成予定図を提出しました。

「行政・事業者・住民との協働の『地域みどりのまちづくり事業』の助成があると伝えると反響もあり、手応えを感じました。地域の現状把握と事業者参画のため、キャプション評価法に準じた調査を行った結果、みどりのさみしい場所やポスターとのバランスの取り方などさまざまな意見が出てきたほか、実際の緑化計画への反映もできました」(髙田氏)

緑化計画のテーマとしては「みどりの拠点をつくる」「みどりを楽しむ」点を重視しました。2013~2017年には事業者の協力を得て大看板と一部の駐車場、自販機を廃止し、ケヤキやクスノキを植えて木陰をつくります。道沿いの広告幕やフェンスを撤去し、壁面にみどりを植えました。活動の継続には、周囲の協力も欠かせません。近隣の学校や野球部、事業者によるクリーンアップ活動が定期的に行われ、もともと年に3回の目標で始まったものが、地域の参加者から自然と声が上がり、月1回の活動となりました。参加時間も各自に任せるほか、自店舗以外の清掃も行う協力体制も出来ました。

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このほか、定期的に専門家を招いて「みどりと鳥野観察会」や「トンボはどこまで飛ぶかフォーラム」といった童心に返ることができるようなトンボ調査、「みどりのセンスアップバスツアー」「枝サンタづくりイベント」といったイベントを数年に渡り開催していきました。さらに、外部のイベントにも積極的に参加し、地域が一体となって盛り上がるようになりました。「継続できた要因としては、事業者・店舗スタッフ・地域住民との連携により、全員が一体になって運営ができたこと。イベント開催なども通してみどりを楽しみながら安心・安全のまちづくりができたから」と髙田氏。

さらに、アンケート調査から地域住民の意見を聞き、合意形成を行いながらそれを緑化計画に反映させていきました。また、生態系・生物多様性・景観に配慮することで、行政や研究機関、学校との繋がりができ、企業や地域住民にとっても緑化の効果も得られました。

「働く人がみどりに癒やされていること、防犯面での懸念が改善されたことなど、行き交う人・働く人・住む人みなさんにとって環境が改善されたと思います。行政の力もあってできたことなので、しっかりと活動記録を提出し、結果として賞をいただくこともありました。活動の励みとなりますし、賛同していただいた企業へのご理解をいただく点でも心強い後押しとなりました」(髙田氏)

今後は、国際的な潮流を踏まえた活動にも取り組み、学際的な学びや情報を踏まえた活動の維持拡大や、調査も継続していきたいとお話いただきました。また、横浜市での木材を有効活用した「都市林業」への活動への意欲についても語りました。

リアルな体験への質問が飛び交う

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講演につづき、参加者とのディスカッションが設けられました。

Q. 事業者が持続的に関われる工夫として、どのように関係性を築いていくべきでしょうか。
A. 店長により方向性が異なるケースは多々ありますし、個人により温度差もあります。そのうえで、本社への連絡は必ず押さえるようにしています。本部と現場で向き合う姿勢が異なることもあります。1回だめだと思っても、何度か話をするとうまくいくこともあるのでケースバイケースで対応しています。

Q. 既存の店舗へのアプローチはどのように行っていましたか。また、完成予想図をどのように制作していたのですか。
A. スターバックス社は家主だったので交渉し継続的に状況の質問をするようにしていました。チェーン店の場合は、他店舗でもやってみたいという思いを持っていることも多く、交渉しやすいケースもあります。
完成予想図は、意向を毎回伝えて形にしてくださる先生を選んでお願いしていました。小さい場所なのでまとまりがなく、一体感が欲しいとテーマを設定してお話をしました。可能な範囲でケヤキとクスノキを植栽していただきながら、トータルに設計していきました。

Q. どのようなチームの組み方・体制で本取組みをされていますか。取り進める上で地域の概念としてガイドラインのようなものを作られたのでしょうか。
A. 会社としては3名。役員理事は各企業の担当者で、店舗に関わっているエリアマネージャー等で構成し、転勤がある場合は次の担当者を選定して対応していただいています。横浜市が関わっていることが心強いバックアップとなっています。
活動に参加いただいている各企業には、参加当初に、横浜市の助成制度では管理費に対する助成はないことをお伝えしておりますが、高木の剪定等は各企業や地主で自主的に行われるようになりました。
ガイドラインに関しては今後整備の必要もあるかと思われますが、会員の気づきや造園会社のアドバイスによって活動を変遷させつつ、緩やかに会を運営しているのが実情です。

Q. なぜ国道を背にして住環境を良くしようとしたのではなく、国道そのものを良くしようという取り組みになったのでしょうか。
A. 横浜市から国有・私有という説明を受けたときに「みどりでその境界線をつなぎたい」と思ったことを伝えました。おっしゃる通り国道に関しては「分断されたもの」というイメージが強かったので、そこをつなぎたいという思いがありました。

Q. 横展開が今後の課題ですが、鶴見区から始まった活動が沿道として今後どのように広がるのか、芽や可能性をどのように感じていますか。
A. 質問やお電話を受けることもあり、様々な場面で少しずつ伝わっていると感じることがあります。

Q. 賛同が難しかった企業の傾向などはありましたか。
A. 横浜市と協定を結ぶ際には1㎞以上との依頼がありました。人通りがある場所と考えていましたが、賛同していただいた方だけということでまず進めました。
個人事業主も含めて訪問しましたが、関心が無い方もいらっしゃいましたし、地主から許可が出ないこともありました。当初は興味が薄い事業者でも、何度か訪問していく上で協力していただけることもあります。現在、賛助会員になっていない企業であっても道を綺麗にしていただいています。
1社だけではなく、複数社で連携していただいているのが重要と考えています。全体で集まって設計を確認する場に来ていただき、共創していく。地域住民に参加していただくことも大事ですね。

Q. 横浜市の「地域緑のまちづくり事業」について、キャッチコピーの「地域やまちの課題を「緑」で解決しませんか?」で緑を手段として考えて、目的を明示している点に感銘を受けました。横浜市は20年前の再編において部局横断で環境を扱っていますが、もともと課題解決の視点があったのでしょうか。
A. 横浜市では、1971年に各部局に分散して置かれていた公園行政と農業農地行政を統合して日本初の緑政局を誕生させました。また1973年の「横浜市緑の環境をつくり育てる条例」の制定など、50年以上前から緑政に関する先駆的な取り組みを行っています。
2009年には「横浜みどり税」による財源確保と市民の理解を経て、当会が助成を受けた「横浜みどりアップ計画」が開始されました。

Q. 早稲田大学・小島隆矢先生と一緒に研究されているとのことですが、2011年の提言の時点で学ばれていたのでしょうか。まちづくり・まちの景観を学ぶことは、これまでの取り組みとどのように関連していますか。
A. 体系的に最新の知識を学べると思い、環境保全でオンデマンド授業を行っていた大学に通うことにしました。横断した知識が必要なことに気づき、研究室で学べる環境を活かし、先生からも提言を受けておりました。

2時間以上に渡り開催された第9回有識者懇談会。地域・企業・行政が一体となり、長期的に取り組みを続けてきた経緯から学ぶことも多かったのではないでしょうか。Green Tokyo研究会では今後も有識者懇談会を開催していく予定です。

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