イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】博物館がやってきた!生き物の不思議から地球環境を考えよう

「博物館から自然を見る〜イルカ・クジラ編/ハチ編〜」 2022年8月8日(月)開催

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アザラシの剥製に、クジラの歯、そしてハチの標本・・・。さながら小さな博物館のようになった3×3Lab Futureに、夏休み中の小中学生と保護者が集まりました。
エコッツェリア協会はトリプター、DRIMON合同会社と共催の夏休み特別プログラムとして国立科学博物館の研究員の2人によるスペシャルトークイベントを開催しました。クジラ先生として知られている海棲哺乳類スペシャリストの国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹  田島木綿子(たじまゆうこ)さんと、国内では珍しいハチの研究をしているハチ博士の同博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員  井手竜也(いでたつや)さんをお迎えして、博物館研究員から見た生き物の生態のおもしろさや、自然環境について理解を深めていきます。

身近にいる小さな虫から、海の中の巨大生物まで、自然の生き物たちの世界は壮大です。実際に見て触れることで、生き物や自然環境に対して自分に何ができるかを考える時間になれば、との司会からのメッセージでプログラムははじまりました。

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見て、触って、海の哺乳類の不思議を体験!

見て、触って、海の哺乳類の不思議を体験!

image_event_220808.002.jpegクジラの歯を手に取り、海の哺乳類の特徴について説明する田島さん。

第1部は、田島さんによる「大きなクジラのひみつのお話し」。田島さんは、海の生き物の中でも哺乳類を専門とした研究を行っています。冒頭、参加者たちに向けて、哺乳類とはどんな特徴を持つ生き物か考えてみましょう、と呼びかけました。

「哺乳類の"哺乳"とは、わかりやすく言うと、お母さんのおっぱいを飲んで育つということです。みんなお母さんのおっぱいを飲んで育ったのと同じように、海で生活するイルカやクジラもお母さんのおっぱいで育ちます。もうひとつ、お母さんはおっぱいを出すため、体を準備するんですが、赤ちゃんの方もある準備をしています。それは、"表情筋"。表情筋は、顔の表情をつくるための筋肉というだけでなく、口をすぼめておっぱいを吸う動きを行うための重要な筋肉なんです。哺乳類以外の、ワニやヘビ、昆虫には、この表情筋がありません。実は、私たち哺乳類だけが持っているすごい特徴なんです」

続いて、海に住んでいる哺乳類だけが持つ特徴について話は進みます。まずは、ヒレ状の手足。爪もありますが、団扇のように指が離れていません。魚のヒレと同じ構造なのかと思いきや、私たちの腕と同じく、肩甲骨や上腕骨、手首の骨、指の骨がきちんと揃っていると田島さんは解説します。
また、哺乳類は体毛で覆われているのが一般的ですが、クジラやイルカたちには体毛がありません。代わりに、厚い脂肪層を彼らは持っており、海の中でも体温を一手に保つことができるといいます。
これらの特徴は、すべて海で生きるために適応した結果。同じ哺乳類でも、比較するとさまざまな発見があると田島さんは語ります。

image_event_220808.003.jpeg2種類のアザラシの剥製に触れながら体の特徴を探す参加者たち。人と同じ部分はどこにあるかな?

アザラシの剥製や、クジラの歯、ひげ板など、海の哺乳類たちの貴重な資料に間近で見て触れる場面では、参加者からたくさんの発見や感想の声が上がりました。
先ほどの田島さんの解説を確かめるように、アザラシの爪や体毛に触れると「すごい!本当だ!」と驚きの反応が。「しっぽが短いね」との子どもたちの感想や疑問に「短い方がいいんだよ。長いと泳ぐのに邪魔だからね」と、海の哺乳類たちの環境への適応の話を交えて田島さんが答えていきました。

展示の中には、海岸に打ち上げられたクジラの胃の中から発見された"ごみ"もありました。「海に住んでいる哺乳類は、自ら海岸に打ち上がって死んでしまうことがあって、日本では年間300件ほど起きています」と話す田島さん。
田島さんは、ストランディング(座礁)調査を通して、海の哺乳類たちの死因を究明する研究を行っています。近年、クジラの胃の中からプラスチックごみが見つかった、とのニュースを目にすることが多くなりましたが、田島さんは30年前の調査でもプラスチックごみは見つかっていたと指摘します。

「海洋ごみは海で捨てられたものがすべてではありません。実は、その7割が川から流れてきたごみだと言われています。人が生活する中で捨てられたごみが、川へ流され海へ行き着くんです。まずいのは、海のゴミは流れていくうちにどんどん小さくなって、マイクロプラスチックと呼ばれる回収できないサイズのごみになってしまうこと。そうすると、海の生き物がエサと間違えて食べてしまいます。日本の海の現状は、あまりにも綺麗とは言えません。30年前から起こっていることですが、未来に向けて1人1人に何ができるか、ぜひこの機会に考えてもらえたらうれしいです」

身近な場所で大きな発見!?小さなハチの多彩な世界

image_event_220808.004.jpeg昆虫のイラストが得意な井手さん。ほかの昆虫の特徴も交えながら、ハチの驚きの生態を解説していただきました。

第2部は、ハチのスペシャリストの井手さんによる「小さなハチのひみつの生活」のお話です。
「ハチは昆虫の仲間ですが、世界に昆虫は何種類いると思いますか?例えば、哺乳類は6,000種、鳥類は9,000種もの数が世界で発見されています」
冒頭で井手さんから出されたクイズの答えは・・・なんと100万種!その多さに参加者たちから「おー!」という驚きの声が上がります。

ここで、1枚ずつ紙が参加者に配られました。「みなさん、ハチってどんな姿形をしているか知っていますか?ぜひ、ほかの昆虫との違いを考えながら、紙にハチの絵を描いてみてください」と井手さんは呼びかけました。
それぞれ、記憶をたどりながらハチの絵を描いていく参加者たち。井手さんも、ホワイトボードにカブトムシやチョウの絵を描いていきます。

参加者たちが描き終えると、答え合わせがはじまりました。
「昆虫の仲間は、体が頭・胸・腹の3つの部分に分かれていて、胸の部分に6本の足があり、4枚の羽根があることが特徴です。ハチも昆虫ですが、ハチにしかない特徴があります。これらを今日知ったら一気にハチ博士になれると思います。まず、ハチには必ず大顎と呼ばれる顎がついています。そして、代表的な特徴として、メスには毒針があります。みなさん描けていましたか?」

「描けた!」と元気よく答える子どもたちに井手さんからも笑みが溢れます。
さらに、ハチの秘密の話は続きます。世界で一番大きな昆虫は、ナナフシという昆虫で、60センチ以上にもなる個体が確認されているといいます。では、逆に世界で一番小さい昆虫はというと・・・実は、ハチの仲間だそうです。
「世界で一番小さなハチは、なんと0.139mmの大きさしかりません。髪の毛の細さよりも小さいんです。では、世界にはハチの仲間は何種類いるでしょうか?・・・答えは、15万種です。名前がついているものが15万種で、実際にはもっと多くの種類のハチがいると言われています。では、その中から僕が専門的に研究している"タマバチ"について紹介したいと思います」

image_event_220808.005.jpegさまざまな種類のハチと虫こぶの標本を前に興味津々な子どもたち。井手さんが一つ一つの質問に答えます。

タマバチは、大きな種類でも6mmほどで、小さいものだと1mmくらいしかない小さなハチの仲間。ですが、ほかのハチにはないおもしろい生態をもっていると井手さんは話します。

「タマバチは、植物に卵を産んで寄生するハチです。タマバチが植物に卵を産みつけると、実のように見える"虫こぶ"ができます。この中には、栄養価の高い組織が幼虫を取り囲んでおり、この部分を食べて幼虫は育ちます。虫こぶは、タマバチにとって食べられるお菓子の家のようなものですね。タマバチの仲間は世界で1,400種、日本だけでも80種が生息しています。おもしろいことに、タマバチの種類ごとに特徴的な形の虫こぶを作ります。タマバチは小さくて見つけにくいし、形の違いもなかなか判別することが難しいんですが、虫こぶを見れば、どのタマバチが近くに生息しているかわかるんです」

例えば、クヌギの木には20種類以上のタマバチの虫こぶができるといいます。実際の標本やスライドをスクリーンに映し出し、多種多様な形の虫こぶを紹介する井手さん。中には、トゲトゲした虫こぶもあれば、赤くて丸い木の実にしか見えないもの、ピンポン玉ほどの大きなのものなど、それぞれまったく異なる姿形に驚きの声が上がりました。

「皇居の緑地には、ハチは何種類いると思いますか?アリなども含めたハチの仲間は、なんと547種類も見つかっています。さらに、港区にある国立科学博物館附属の自然教育園では212種類。こんな都心でも、小さな緑地環境があればハチが暮らしています。ハチの秘密はまだまだあるのですが、この先はみなさんで探してもらえたらうれしいです」

なぜ?から興味へ。博物館の世界から大きなフィールドに出てみよう!

image_event_220808.006.jpeg参加者たちの質問に答える井手さんと田島さん。アットホームな雰囲気でなんでも答えてくれました!

最後に、2人のゲストへの質問コーナーが設けられました。一部を抜粋してご紹介します。

Q.どんなきっかけがあって研究者になったのですか?
井手さん:子どもの頃から生き物が好きで、高校生のときに生物部に所属してから昆虫に興味を持ちました。昆虫は、そこら辺の公園でもたくさんの種類が見られて、行動も1つ1つおもしろい。そういったところから徐々にはまっていきましたね。

田島さん:私も小さい頃の話を家族から聞くと、よく犬の近くにいたとか、牛舎にいたとか、いつも動物のそばにいたそうです。手に職をつけようと思った時に、生き物が好きだったので、獣医になろうと考えました。周りの研究者を見ても、もとから研究者になりたいと思っていた人はいなくて、好きなことをやっていた先に研究者という職業があった、という人が多い気がします。

Q.子どもたちが虫をよく捕まえてくるので、親として子どもの世界が広がるように、家では図鑑を眺めたり、国立科学博物館によく連れて行ったりしています。子どもたちの探求の芽を育てるために、具体的な博物館の活用方法はありますか?

井手さん:昆虫は、住む場所や食べるもので体の形を最適化させているので、体の形に注目して『なぜこんな形をしているのか?』と考えながら見るとおもしろいかもしれません。答えはわからないかもしれないけど、なんでだろうと考えてみることが大事だと思います。

田島さん:博物館の職員なのにこんなことを言ったら怒られるかもしれないですけど、森や海、川など現場の自然に足を運んでみることがいいかなと思います。私の周りの研究者の方々は、いつも河原に行っていたり、海に行っていたり、森に行っていたり・・・。ある特定の生き物だけじゃなくて、森に住んでいる生き物や川辺にすんでいる生き物たちとかに触れる、体験型の方が興味の世界が広がるのではと思います。

子どもだけでなく、保護者からもたくさんの質問が飛び交いました。参加した子どもたちの中には、ゲストの書籍を読んで楽しみにしてきたという子も。博物館では経験できない、生き物たちの魅力を知るきっかけになったとの感想も聞かれました。

それぞれの生き物の多様性や不思議な生態を知ることで、地球環境への見方も広がります。3×3Lab Futureでは、今後もさまざまな環境プログラムを通して、生物多様性や環境問題への取り組みを続けていきます。

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