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【レポート】日本の常識は、シリコンバレーの非常識?

BFL地方創生セッション vol.9「シリコンバレーのインフラを活用した地方創生」2018年3月6日開催

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AppleやFacebook、Googleなど、世界の名だたるIT企業が本拠地を構えるアメリカ西海岸のシリコンバレー。現在ではIT産業にとどまらず、あらゆる新規事業に世界中から人材や資金、情報が集まるイノベーションの中心地として発展を続けています。もっとも、知名度の高さやハイテクなイメージとは裏腹に、シリコンバレーの大部分は緑が目立つ、いわゆる「辺鄙」な地域。日本で言えば「地方」に相当するこのエリアに、なぜ新興ベンチャーが次々と誕生するのでしょうか。その秘密を解き明かせば、この地を活用した地方創生のヒントが得られるに違いありません。
3月6日に開催された、NTT データが運営するオープンイノベーションラボラトリー「BeSTA FinTech Lab」(BFL)と3×3Lab Futureの共催イベント「BFL地方創生セッション」の第9回のテーマはずばり「シリコンバレーのインフラを活用した地方創生」。ゲストは、桝本博之氏(B-Bridge International 代表取締役兼CEO)です。

桝本氏はシリコンバレーで起業し、日本企業を対象に進出支援を手掛ける一方で、昨年、富山県南砺市福光の生家を改装したゲストハウスをオープンさせ、地方と東京ではなく、地方とシリコンバレーを繋いだ地方創生モデルをリードされています。今回、活用すべきシリコンバレーの本質的な強みと地方創生課題解決の手がかりについて講演していただきました。

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シリコンバレーとはどんなところなのか

シリコンバレーとはどんなところなのか

「シリコンバレーを活用して地方創生につなげるためには、この地の本質や風土をあらかじめ把握しておく必要があります。皆さんは、シリコンバレーに対してどのようなイメージを持っていますか?」
セッションは、参加者に対する問いかけからスタートしました。

シリコンバレーは、アメリカ西海岸のカリフォルニア州北部に位置する一帯の通称で、面積は東京都と神奈川県を合わせた程度。人口は約300万人で、そのうちアメリカ人が占める割合は約4割と、様々な国籍、人種の人々が集まっていることが特徴です。ちなみに、東京都と神奈川県の合計人口は約2300万人。「シリコンバレーは、クルマがなければ買い物も食事もできない、一言で言えば田舎です」と桝本氏は解説。にもかかわらず、シリコンバレーでは年間約1万8000~2万社のスタートアップ企業が生まれ、一方で、約1万6000社が倒産や廃業の憂き目を見るといいます。

こうしたシリコンバレーの様相を、桝本氏は「多産多死」と表現、「ウミガメの産卵のように子どもがたくさん産まれて、中には大きく成長する子どももいますが、育たない子どもも少なくありません。では、子どもがたくさん生まれて成長するために、何が必要でしょうか?」と問いかけます。

「ひとつは子どもを育てる人、すなわち支援に関する知見やネットワークを提供する"インキュベーター"の存在です。シリコンバレーには、このインキュベーターがたくさんいます。もうひとつは、VCやエンジェル投資家からの豊富な"資金"です。実際、1年間にアメリカ全土に投資されるVC資金の50%近くが、シリコンバレーに投資されます。これは驚くべき数字と言えるでしょう」

さらに桝本氏は、「前提として、起業家とインキュベーターやVCが出会うための"Meetup(ミートアップ)"と呼ばれる交流会が頻繁に開催されていることが特徴です」と強調します。Meetupとは、特定のテーマに関心を持つ人が集まり、知見を深めてネットワーキングを行なうイベントの総称で、シリコンバレーでは、さまざまなテーマのMeetupが毎日のように開催され、起業志望者などに新たなビジネスを立ち上げるきっかけを提供していると言います。

「世界中から集まってきた起業志望者はこのMeetupの場で、自分たちのアイデアや技術、サービスをインキュベーターや投資家に対しPRして事業資金の獲得につなげています。ポイントは、誰も失敗や破談を恐れていないこと。至るところで連日のようにMeetupが実施されているため、"話し続けていれば、いずれ自分のプランに関心を示してくれる理解者と出会えるだろう"という気楽な考えのもと、多くの人が積極的に参加しています」

「つまらないものですが...」はNG

Meetupの場では、自己主張に基づいたプレゼンテーション能力がものを言うようです。 「万事において謙虚で控えめな日本人は、例えば贈り物などを"つまらないものですが"と謙遜しながら手渡すことが多いですが、シリコンバレーでそのスタイルはNGです。自分が何をやりたいか、自分に何ができるのか、自分のコンテンツのどこに魅力があるのかを堂々と主張することが求められます。自分の意図や決意を明確に伝えるコミュニケーション能力が不可欠で、流ちょうな英語は特に必要とされていません」と桝本氏。

多様性に富むシリコンバレーには、アメリカ人だけでなくインド人や中国人、メキシコ人などあらゆる国から起業志望者が集まってきています。桝本氏によると、「彼らは自信満々で自分の意見や考えを披露します。そもそも話をする相手は投資を考えている人たちですから、謙遜は逆効果を招きます」とのこと。一見すると、お粗末に見えるビジネスプランやアイデアも少なくないそうですが、「誰もそれを気にしていない」と言います。
「他人が何か自分の気に入ったことをしていたら積極的に褒める風習がある一方、ダメなものはダメと即断していく文化が根付いていますから、話がその場でどんどん成立していきます。とにかくスピード感に満ちています」

ここで再び、桝本氏は「なぜスピード感があるかわかりますか?」と参加者に質問します。

「このスピード感をもたらしているのは、"とりあえず、やってみようか"という、良い意味での"いい加減さ"です。もちろん失敗する可能性はあるのですが、"失敗は当たり前""ミスはつきもの"という前提で話が進んでいきます。このように、失敗する環境を認めてくれるのがシリコンバレーなのです。そんな場所で、端から"つまらないものですが"という言葉を発しても、誰の心にも響きません」

スタートアップには資金が必要です。日本では失敗による損失やリスクを警戒するあまり投資に消極的になるケースが散見されますが、シリコンバレーは対照的で、桝本氏によれば「"自分にはすごいアイデアや技術がある。絶対に成功するから投資してください。お金は、会社が大きくなったら返済します。失敗したらごめんなさい"というスタンスが許容されている」と言います。

「FacebookにしてもUberにしても、そのときの常識を覆すサービスで勃興しました。日本では常識を破ると"非常識"と非難されたり叩かれたりしますが、シリコンバレーではそれを"イノベーション"と呼んで歓迎し、投資対象として人気が集まります。失敗する可能性が少なからずあったとしても、常識を打ち破るようなアイデアや発想が求められているようなところがあります。それこそが、シリコンバレーの活力の源と言えるかもしれません」

「日本の常識は世界の非常識」を利用する

これまでの話をまとめると、シリコンバレーは多様性に富み、多くの投資資金が集まり、失敗に寛容で、常識を覆すアイデアが歓迎され、新しい技術やサービスが次々に生まれている場所、ということになります。ここから桝本氏の講演は、いよいよ本題に入ります。ずばり「このシリコンバレーをいかに利用して地方創生に結びつけるか」です。

「富山県でも沖縄県でもどこでもいいのですが、日本では、当該地域で何かがヒットすると、例えば物産展を催したりアンテナショップを開いたりするなど、その商品やサービスを東京で展開しようとします。一定の成果は得られるかもしれませんが、本当の意味での地方創生にはつながりません」

桝本氏は、「日本の常識を理解してくれる日本人を相手にモノを売り続けても、突破口は開けない」と断言します。

「私がお勧めしたいのは、東京をはじめとする大都市圏をターゲットに"第2の成功"を目指すのではなく、いきなりシリコンバレーに撃って出ること。なぜなら、前述したようにシリコンバレーでは"非常識"が歓迎されるからです。単に東京に進出するだけでは、常識を打ち破ったことにはなりません」

日本にはそれぞれの地域に誇るべき特産品や名物がありますし、全国的な知名度こそ獲得していないものの、画期的なアイデアや商品を具現化して提供している地方の企業も少なからず存在します。それぞれの商品やサービスは地元では一定の評価を獲得しているかもしれませんが、海外では浸透していないどころか、まったく知られていないと考えて間違いありません。逆に言えば、そういったコンテンツは、海外では"斬新なもの""奇抜なアイデア"として評価される可能性があるわけです。桝本氏は「その"非常識感"を利用すべき」と説きます。

「海外の人は、日本の地方のことなど何も知りません。とはいえ、地方で提供されている商品やコンテンツは、いまシリコンバレーに持っていけば"常識を打ち破るもの"として評価されるかもしれませんし、もしかすると、私たちが気付いていないだけで、すでに彼らの常識を打ち破っているかもしれません。日本人にしてみれば当たり前すぎて"こんなものが海外で通用するはずがない"と思い込んでいるものにも、海外の人の目には斬新に映る可能性があります。だからこそ、国内展開を考えるのではなく、いまあるものをシリコンバレーに持っていき、現地の人に評価してもらうべきなのです」

このときに重要なのは、「自分たちが持っているコンテンツの中から自信があるものを選ぶのではなく、持っているものをすべて提示し、その中から"いい""素晴らしい"と評価されたものに力を入れること、つまり"シーズありき"ではなく"ニーズありき"の発想で考えること」だと桝本氏は説明します。

「自分たちのコンテンツ、すなわちシーズを"これはすごい!"と日本から一生懸命アピールするのではなく、シリコンバレーに持っていって、現地の人に"これはすごい!""これは使える!"と言ってもらうのがベストです。TwitterやFacebookがあるこの時代には、企業としての知名度や商品の認知度の高さはあまり関係がありません。幸いにして、シリコンバレーには"世界のオピニオンリーダー"と言っても過言ではない成功者がたくさんいて、その中の誰かがコンテンツや商品を気に入っくれれば、その人は必ずSNSなどで"これはイノベイティブだ""すごいものに出会った"と取り上げてくれます。それをきっかけに、歌手のピコ太郎さんが歌う"PPAP"のように、自分たちのコンテンツがあっという間に世界中に広まっていく可能性があるのです」

人を呼び込むのではなく、人を送り込む

講演終了後、地方創生をテーマに参加者同士で意見交換が行なわれました。
石川県金沢市から参加した男性からは、「これまでは、どうやったら石川県に人を呼び込むことができるかということばかりを考えていましたが、それよりもシリコンバレーを含む様々な地域に、先に人を送り込むことが大事だと気づきました」という感想が寄せられました。これに対し桝本氏は、「よく"日本にシリコンバレーを作る"みたいな話を聞きますが、断言しましょう。無理です。シリコンバレーのような街を作ろうとするのではなく、こちらからシリコンバレーに出向いてチャレンジすることが大切です。失敗してもともと、というくらいの気概で臨みましょう。たとえ失敗しても、それを次の糧にすればいいだけ。シリコンバレーにはいろいろなバックグラウンドの人がいますから、"うちはこういうものを持っていますよ"と伝え続けていけば、必ず興味を示してくれる人が現れます」とエールを送ります。

そしてセッションは、桝本氏の次のような言葉で締めくくられました。
「今日お会いした方々とは、次の機会にはぜひシリコンバレーでお会いしたいですね。ぜひ一度シリコンバレーを訪れていただき、現地を体感してみてください。アグレッシブな雰囲気を感じ取れるはずです。いずれにしろ地方創生を目指すのであれば、東京進出を目標とするのはやめ、シリコンバレーやシンガポールなど場所はどこでも構わないので、現地へ出向いて、自分たちのコンテンツ、ひいては日本の素晴らしさを知ってもらうことが第一歩になります。それでは皆さん、シリコンバレーでお待ちしています!」


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