名峰・筑波山や、日本で2番目に大きな湖沼である霞ケ浦などの豊かな自然に囲まれる茨城県土浦市。東京から電車で最短およそ50分というアクセスの良さも魅力です。また、土浦市には霞ケ浦湖岸や筑波山周辺を走る全長約180kmの「つくば霞ヶ浦りんりんロード」があり、自転車好きなら一度は訪れるほどの有名なナショナルサイクルルートで、全体的に高低差が少なく初心者でも楽しめるコースとなっています。
そんな土浦市では、地場の魅力をより多くの人に伝えるため、サイクリングや地元の産業を体験する地域密着型の「サイクリングウェルネス研修ツアー」を企画しています。今回のツアーは、首都圏ワーカーの視点から土浦市の魅力やプログラムへのフィードバックを行うモニターツアーとして土浦市主催により開催されました。
土浦サイクリングウェルネス研修ツアーは2日間に渡って行われ、初日は体を動かすフィールドワーク、2日目はワークショップという構成。初日のプログラムでは「つくば霞ヶ浦りんりんロード」でのサイクリングとれんこん掘り体験が行われます。
参加者は、JR土浦駅直結の『PLAYatré TSUCHIURA(プレイアトレ土浦)』に集合しました。この施設は官民が連携してつくった施設で、自転車の持ち込みが可能なほか、自転車のセルフメンテナンスができるスペースや更衣室、シャワー室などが完備されたサイクリングに特化した施設です。
土浦市市長公室政策企画課サイクルシティ推進室室長の山口公嗣氏から「つくば霞ヶ浦りんりんロードや、生産量日本一のれんこんをはじめとする土浦ならではの魅力を伝えたいと思っています。多くの方に知っていただくための意見をいただければ」とのご挨拶を頂き、施設内で自転車をレンタルし、初心者にも分かりやすい手厚い説明を受けた後、サイクリングがスタートしました。
モニター参加者は6名で、普段から自転車に乗り慣れているサイクリストと初心者の2グループに分かれて土浦駅を出発します。「つくば霞ヶ浦りんりんロード」を進みながられんこん畑を通過し、れんこん掘り体験を経て、「りんりんポート土浦」を経由して土浦駅に戻るという特別なルートを楽しみます。
サイクリングでは土浦市のサイクリングガイドの皆さんにツアーガイドとして併走していただきました。サイクリストで構成される経験者グループは先にスタート。初心者グループは、全員のペースを見ながら霞ケ浦を一望できる地点まで走ります。高架橋の下をくぐって湖岸のサイクリングロードに進みました。
途中の休憩地点では、体験プログラムに先駆けて土浦市特産のれんこんに関する説明が行われました。土浦市は、れんこんの生産量が日本一で、琵琶湖に次ぐ日本第2位の広さを誇る霞ケ浦周辺の豊かな土壌と水温の高さなどの恵まれた自然条件がその理由です。2023年11月からは土浦市により、エリアのPRも兼ねたれんこん焼酎「土浦恋婚(つちうられんこん)」が企画・販売されるなど、れんこん関連のお土産品にも力を入れています。
「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の特徴は、車道とは分離された自転車用道路が整備されていて、初心者でも安心して楽しめる点にあります。目的地のれんこん畑まではおよそ30分。参加者たちはあっという間にサイクリングに慣れた様子でした。
2つのグループが目的地のれんこん畑で合流し、れんこん掘り体験を楽しみました。指導してくれたのは市川蓮根の市川誉庸氏とそのご家族です。
市川蓮根は40年続くれんこん農家で、「れんこんグランプリ」で2年連続最優秀賞を受賞した実績があります。オリジナル設計の有機肥料を使用し、甘みがたっぷり含まれているのが特徴です。
「れんこんは芽に近い節ほど柔らかく、遠い節ほど固く感じます。サラダなどで使う場合は柔らかい部分を、揚げ物やきんぴらにする場合は遠い節を使うことで、れんこんのおいしさを最大限に引き出せます」と、市川氏はれんこん料理のコツも教えてくれました。
れんこんは土の中で育ちます。葉から土の下に向けて空気を送り、約4か月かけて成長します。夏には青々とした蓮の葉が水田に広がり、その後蓮の葉が枯れた頃が収穫の時期です。
今回れんこん掘りを体験したのは霞ケ浦から少し離れ、お子さんでも体験しやすい浅い水田での作業でしたが、霞ケ浦に近い場所ほどおいしいれんこんが育つそうです。
れんこん掘りは2人1組で行いました。水田に入るため、参加者はウェットスーツに着替え、入念に準備を整えます。水田の中に入って、泥の中に手を入れてれんこんを探し、根の部分にホースで水圧を当てて泥を取り除きながら収穫します。
1本のれんこんにはいくつかの節が連なっていますが、水圧の当て方によっては節から折れてしまうこともあります。「ホースの操作には思った以上に体力を使う」との参加者の声も。「機械で収穫すると良いのでは、と言われることもありますが、人の手で収穫することで品質を保っています」と生産者ならではのお話を市川氏から頂きました。
掘り出したれんこんを、泥を落としてプラスチック製の収穫用船「れん楽船」に積んでいきます。参加者にとっては初めての経験で、「慣れるまで難しい」「体力を使いますね」といった感想が聞こえましたが、少しずつコツをつかんでいき、あっという間に山盛りのれんこんが収穫できました。
帰路では「りんりんポート土浦」で休憩をとりました。「りんりんポート土浦」では、サイクリングコースマップや観光情報をチェックできます。休憩スペースやシャワー室も設置され、関東近郊から車で訪れサイクリングを楽しむ観光客も多いようです。この日も多くのサイクリストの姿が見られました。一休みしたあと、土浦駅に向かい、自転車を返却しました。
サイクリングの後は、茨城県産の食材を使ったメニューが豊富なレストラン「NANAIRO Eat at Home!」で懇親会が開催されました。今回は収穫したばかりのれんこん料理も卓上に。れんこんの果肉は白く、サクサクと歯切れの良い食感とみずみずしさが特徴です。今日のアクティビティの思い出として、一層印象に残る食事となりました。
2日目は、一般社団法人社会的健康戦略研究所代表理事の浅野健一郎氏によるワークショップが行われました。「日本の社会課題解決とウェルビーイング重視社会実現に貢献するサイクリングのパワーを考える」をテーマに、サイクリングが持つ可能性について学びながら、参加者同士で意見交換していきます。
まず、参加者はサイクリングの体験を振り返り、自転車の良い点や課題点を書き出し、共有しました。良い点としては、自然を体で感じられ、運動能力の差があっても楽しめる、全員が自身の力で目的地に向かって進み一体感が生まれる、車の移動では気づかない周囲の景色に気づくことができる、手軽に楽しめる、などの意見が挙げられました。
これを受けて浅野氏は、「自転車の移動効率は生物界のなかで最も優れていると言われています」とコメントし、環境やエコの観点、さらに五感を感じられるといったメリットに共感を示しました。
一方で課題としては、深いコミュニケーションが取りづらい点や、観光資源などソフト面の魅力が不足している点、自転車を目的とするだけでなく前後の楽しむ手段も必要である点、初心者にとってハードルが高い点などが挙げられました。また、主催者側のマネジメントの難しさや、障害のある方への対応の難しさ、さらに活動が土浦市内に限定されてしまうという点も挙げられました。
「今日は自転車を使ってどのように日本を良くできるかを一緒に考えていきたい」と浅野氏。世界的にも経済のシステムについてウェルビーイングを中心に考え直すべきという声が高まっています。健康状態や生活の楽しさ、社会とのつながりなど、さまざまな要素がありますが、日本の都道府県別幸福度ランキングから興味深い結果が見られました。「宮崎県は個人の悩みが大きい一方で、幸福度ランキングが1位。不登校や家庭内の問題、孤独を感じる場面がほとんどないためです」(浅野氏)こうした背景から、人間関係のつながりをいかに持つかが今後の課題だとしています。
また、日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入しており、健康に活動できる健康年齢を高める必要があります。2040年には健康寿命75歳を目指しており、加齢により筋力や心身の働きが衰える「フレイル」状態を防ぐため、若年層からの運動を継続することが重要視されています。フレイル状態や生活習慣病を予防するうえでも、自転車の活用は効果的な手段の一つとなり得るでしょう。
WHO(世界保健機関)は健康を「肉体的にも精神的にも社会的にも全て満たされた状態」と定義していますが、これまで社会的な満足度についてはあまり重要視されてきませんでした。「幸福学」を提唱する前野隆司教授の研究によれば、自分を幸福だと感じる社員は、仕事の創造性が3倍、生産性が31%も高いというデータがあります。企業が社員の健康をサポートする取り組みを行う重要性も指摘されています。
続いて「自転車をどのように活用して社会に良い影響を与えるか」というテーマで活発な意見交換が行われました。株式会社フジクラで健康経営に携わった浅野氏が取り組んだ自転車通勤プロジェクトでは、自転車通勤により血流が全身を巡り、脳内のメモリーが解放され、活性度(やる気)や生産性が向上する傾向が見られました。社員の自主性に任せ、長期的な視点で進めたことで、参加者が増え、社内の全体の活性化にも繋がりました。
今後、ウェルビーイングの向上という目標においてはサイクリングも一つの有効な手段として、ワークショップでは体験を踏まえたさまざまなアイデアが飛び交いました。例えば、企業の自転車通勤者へのポイント優遇制度や、自治体による実証実験を通じたエビデンス作り、土浦での企業研修やチームビルディングイベントの開催、さらには観光とサイクリングを組み合わせた新たなツアープログラムの提案などが挙げられました。
また、デンマークやフィンランド、オランダなど、自転車で移動しやすい環境が整備されている国々の事例にも触れました。インフラ整備が必要という意見や、地方自治体を中心にまずは事例作りから取り組むべきだとの意見が共有されました。こうした議論を通じ、参加者同士の自主的な意見交換が活発に行われ、白熱した時間を過ごし、ツアーは終了を迎えました。
2日間の研修は天候に恵まれ、プログラムを終えた参加者からは、「自社で研修を行う際には、サイクリング経験の有無による差を埋めながら楽しく実施できそう」、「土浦ならではの体験をプラスできると良いのでは」、「サイクリングにエンタメ性があると感じた。立ち寄りスポットがもっと増え、土浦の魅力を知る機会が増えれば、さらに楽しめそう」、「土浦と都心の距離感も良かった」などの感想が寄せられました。これを受け、土浦市の山口氏は「モニターツアーを通じて土浦の新たな可能性も見えてきました」と今後に期待を寄せました。
豊かな自然に囲まれて食べ、遊び、体を動かす楽しさが土浦市にはあります。今回のモニターツアーで再発見された土浦の魅力が、さらに多くの人に伝わることを期待しています。
「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。
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