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大都市にヒト・モノ・カネが集中し、地方の衰退が懸念されている現在、地方の発展を考え、都市と地方の新しい関係を模索するエコッツェリア協会の地方創生ビジョン研究会は2025年11月21日、22日、23日の3日間、香川県の小豆島を訪問し、同島で進むガストロノミーやサステナブルツーリズムの現状を視察しました。コーディネーターを務めたのは関東学園大学教授/東京農業大学客員教授で丸の内プラチナ大学の講師でもある中村正明氏、エコッツェリア協会からは竹内和也、田口真司、宮村駿、株式会社未来舎の高内章氏、KANYO DESIGN Lab.から岡本克彦氏が参加しました。
今回のフィールドツアーのコーディネーター中村氏
晴天に恵まれた秋空の下、フェリーで土庄港に到着した一行はまず土庄町役場で商工観光課の課長蓮池幹生氏にお会いし小豆島での取り組みについてレクチャーを受けました。
高松港から土庄港に到着したフェリー
蓮池氏が「日々変化のある面白い島」と評する小豆島は日本国内で19番目に大きい島です。1585年(大正13年)に豊臣秀吉の蔵入地となったのち江戸幕府直轄の天領となった経緯もあり、古くから多くの人や物が行きかう中心地として機能してきました。現在では映画や芸術祭などの影響もあり観光が主産業であり、年間100万人ほどの人が訪れています。そんな背景を持つ小豆島ですが、他の地方と同様に人口減少と少子高齢化に苦しんでいます。1955年から島民は半減しており、10年後にはさらに少なくなると予想されています。また高齢化率も県内で最も高い数値を示しており、「島の持続可能性が死活問題」(蓮池氏)になっています。
小豆島のサステナブルツーリズムについてレクチャーする蓮池氏
この人口問題にコロナ禍が追い打ちをかけます。2019年に115万人いた観光客が翌年には68万人まで激減。2023年には91万人まで回復するものの、島へのアクセスの良さが裏目にでて、日帰り客を招きます。蓮池氏は「日帰り客と宿泊客では島に落ちる金額に4倍以上違い、経済的損失が大きい」と言い、「人口が減少する島に、島民の40倍の観光客が押し寄せる。廃棄物や住民とのトラブルなど、島の未来を考えると持続可能な観光業でないと島が生き残れないと考えた」と心境を明かしてくれました。
この現状を変えるため小豆島はサステナブルツーリズムへと舵を切ります。蓮池氏は「観光により消費される島ではなく、観光により持続できる島へ。これまでは観光客を呼び寄せ消費されるだけだったが、これからは観光客も事業者も一緒になって観光で持続できる島を作っていこうということだ」と語ります。観光産業は裾野が広く、宿泊業、飲食業、運送業、娯楽産業など幅広い業種が関連します。「観光産業が持続可能な形になれば、関連する業界でも雇用や消費が生まれ、地域経済の好循環が生まれる。島民のシビックプライドも充足される」(蓮池氏)。
蓮池氏のレクチャーを聞く研究会メンバー(手前から田口、竹内、宮村、高内氏)
その第一歩としたのが認証の取得です。土庄町は2023年に日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)の認定を受け、2024年には小豆島町が同認定を受けるとともに、小豆島全体が国際認証「Green Destinations」のシルバーアワードを受賞、2025年に国連の世界観光機関が選ぶベストツーリズムビレッジに選出されました。認証の効果を蓮池氏は「島が一体となること」と語ります。例えば、2023年以前には小豆島には4つの観光団体がありましたが、両町がJSTS-Dのモデル事業になったことを契機として1つの小豆島観光協会に統合することができるなど「島全体で連携しやすくなった」そうです。
認証の一方で、小豆島はサステナビリティによって「裾野の広い」関連産業を活性化していきます。例えば島の伝統産業そうめん製造業と醤油醸造業です。どちらも400年の歴史をもつ地場産業ですが食文化の変遷や担い手不足により、産業としては低迷していました。しかし手延べそうめんでは地元小麦を使用した新商品「島の夢」を開発、醤油は伝統的な木桶仕込みの技術を無形民俗文化財に登録を果たします。
小豆島の伝統産業、手延べそうめん、醤油、ごま油
和牛や鱧といった新しい特産品でもサステナビリティがブランド化に寄与します。オリーブ栽培発祥の地という特色を活かしてオリーブ油の搾りかすを牛の飼料として使い、その牛の排泄物はたい肥として再びオリーブ栽培に活用した「小豆島オリーブ牛」というブランド化に成功しました。また、地元漁師から忌避されていた鱧も曳網時間や重量など資源保全の基準を独自に策定することで「小豆島 島鱧」としてブランド化。近年では小豆島の鱧は関西圏で高い評価を得て、高値での取引が可能になっています。
大坂城残石記念公園では昔ながらのクサビと金槌で石割体験もできます
小豆島ならではの観光資源の活用にも力を入れており、「石の島」と言われる小豆島の岸壁を利用したロッククライミングイベントや小豆島特産の花崗岩の物語や石割の技術を伝えるイベントによって観光誘致も行われています。さらには障がい者も観光やアクティビティを楽しめるインクルーシブ観光や東京農業大学との産官学の連携など、新たな連携も模索されています。さらに近年、小豆島はアニメの聖地としても有名で、国内外から「聖地巡礼」や「聖地移住」が増えています。地元もこのアニメブームの波に乗って商品の開発や公共交通機関へのラッピングを行うなど、活用に余念がありません。
写真左:フェリーの中にも小豆島を舞台としたアニメのラッピングがありました
写真右:アニメとコラボしたお土産品コーナー
このような観光業での盛り上がりは雇用の創出や民間投資の増加へと波及しています。島での雇用を促進する「島ワークプロジェクト」では165人の雇用につながり、官民連携で進める「20年先の小豆島をつくるプロジェクト」では、最新の技術を使った交通インフラ整備やホテル建設、誘客の仕組みづくりなどが進んでいます。
蓮池氏は「これまでは観光は観光、福祉は福祉など縦割りだったが、サステナブルツーリズムはすべてをつなげることができる。これからも新たな繋がりを模索していきたい」と話を締めくくりました。
写真左上:岡本氏は今回もグラフィックレコーディングを披露してくれました
写真右上・下:土庄町役場でのレクチャーに関するグラフィックレコーディング
役場の後、一行はフィールドワークの宿泊場所でもあるオリビアン小豆島夕陽ヶ丘ホテルへ向かいました。同ホテルでは中村氏などが主導して小豆島の農産物の6次産業化や産官学連携の実証実験アグリ・フードビジネスラボラトリー(アグラボ)が展開されています。アグラボでは、地元食材を地元ホテルで提供するローカルガストロノミーをはじめ、東京農業大学の研究者等が監修してホテル内に果樹園やバラ園が新設しています。さらに同ホテルを運営するカサイホールディングの飲食店でメニュー開発をして、この取り組みを地域外に波及させる取り組みも進んでいるとのことでした。
写真左:オリビアン小豆島夕陽ヶ丘ホテルでアグラボの取り組みについて解説を受ける一行
写真右:夕陽ヶ丘ホテルの名にふさわしく、瀬戸内海に沈んでいく綺麗な夕日が望めました
解説の後、中村氏はホテルでの取り組みを実際に案内してくれました。バラ園では「ミスター・ローズ」とも呼ばれたバラの育種家鈴木省三氏のコーナーやバラの歴史を学べるようなエリアもあり、世界のバラ愛好家を呼び寄せるクオリティを目指しています。また別のエリアには果樹園、いちごハウス、ワイン用のぶどうを育てる農園などもありホテルの食材や宿泊客の収穫体験の場として使われています。中村氏は「これらの農園は体験交流型の6次産業化モデル。見る、収穫もできる、そしてその場で食べられるということを来場者に楽しんでもらい、リピーターを増やしていければ」と期待を込めて語っていました。
写真左上:イングリッシュローズの一つガブリエル・オークがバラ園をにぎわせていました
写真右上:果樹園の現状をカローレ小豆島の樽井忠氏から聞く中村氏
写真左下:いちご園では農研機構との共同研究により、ハウス内の湿度を調整する機械が設置されているそうです
写真右下:ホテルの近くには夕陽ヶ丘みかん園もあり瀬戸内海の絶景を望みながらみかん狩りが楽しめます
その後一行は同ホテルの総料理長髙橋哲治郎氏が自ら厳選した小豆島の食材を使った小豆島フレンチフルコースを頂きました。髙橋氏はホテルオークラの料理長を務めた方でもあります。当日のメニューには自社農園で収穫した小豆島のオリーブオイルや魚介類はもちろん、小豆島の醤油蔵の麹菌を使って熟成させた生ハムやオリーブ牛のサーロインなど旬の食材にこだわりながらも、調理法や盛り付け方など隅々にまでこだわりを感じられる小豆島の食をガストロノミーの域まで高めたともいえるフルコースでした。
写真左上:オードブルでは小豆島産のアオリイカとオリーブオイル、そして香川県の高瀬茶を使った料理が提供されました
写真右上:小豆島産安納芋を熟成させたポタージュスープ。小豆島の醤油蔵の麹菌を使って熟成させた生ハムが添えてあります
写真左下:小豆島オリーブ牛のサーロインのウェリントン(パイ生地包み)。パイの間には自社農園の椎茸も使われています
写真右下:食事後に参加者と談笑する髙橋総料理長
翌日は四海漁協を訪れ、四海漁業協同組合須浪宏太氏から島鱧のブランド化について伺いました。
小豆島 島鱧は300g以上2㎏未満のものだけが対象
須浪氏によれば、「小豆島の鱧は餌が豊富なため、筋肉質で甘みがしっかりしており、皮が薄いことも特徴」だそうです。そんな島鱧のブランド化は漁獲基準だけではなく、電解水を使ったヌメリ取りや急速冷凍など手間暇をかけた処理や厳しい選別の結果だと言います。「かつては50~100円/㎏だった取引価格が、ブランド化以降1000~1500円/㎏で取引されるようになった」と明かしていました。
写真左:四海漁業協同組合須浪氏から島鱧の特徴などを聞く研究会メンバー
写真右:島鱧の処理方法についても須浪氏から詳しい話を聞きました
漁港を後にした一行は島で100年以上続く老舗の醤油屋を訪れ、伝統的な木桶仕込みで醸造する醤油蔵を見学させてもらいました。江戸時代に海上交通の要所として栄えた小豆島は全国各地から大豆や小麦が運び込まれており、醤油醸造業が発達しました。小豆島の醤油は「こが」とも呼ばれる木桶で熟成するのが特徴で、現在でも全国最多1000本以上の木桶を使っています。また島には醤油蔵が20軒ほどありますが、蔵ごとに菌の生態系が異なるために、各蔵で醤油の味や香りが異なるのだといいます。研究会メンバーからも「ツンとした匂いがしない」という感想や「100年以上使っているのにすごく綺麗」という感想が聞かれました。
写真左:100年以上続く醤油蔵で実際の木桶仕込みの様子を見学させてもらいました
写真右:醤油蔵の前で集合写真
その後は大坂城残石記念公園を訪れました。小豆島の花崗岩が有名で、皇居の眼鏡橋など古くから日本の建築物に使われてきました。この公園には大阪夏の陣と冬の陣で落城した大坂城を修理するために切り出されたものの、使われることなく放置された花崗岩(通称:残念石)が並べられていると蓮池氏が解説してくれました。
写真左:大坂城で使われなかった残念石について蓮池氏から説明を受ける一行
写真右:昼食には農村歌舞伎の上演の際に提供される郷土料理「わりご弁当」を頂きました
昼食の後、研究会メンバーは国の重要有形民俗文化財にも指定されている肥土山及び中山の農村歌舞伎の舞台を見学しました。小豆島の農村歌舞伎は江戸時代末期から明治時代にかけて盛んになったそうで、最盛期には30棟以上の常設舞台と600人以上の歌舞伎役者がいたといいます。しかし現在はこの肥土山と中山のみが現存しており、それぞれ毎年5月3日と10月第二日曜日に奉納歌舞伎が行われているそうです。
肥土山の農村歌舞伎の舞台。水不足に悩む農民たちが、水の恵みに感謝して歌舞伎が奉納されるようになったそうです
中山歌舞伎舞台の隣には、「日本の棚田百選」にも選ばれている中山千枚田が広がります。こちらは山肌に800枚もの棚田が広がり美しい農村風景を見せてくれます。しかし中村氏によれば、少子高齢化から担い手不足に陥っており、棚田の保全が課題になっているそうです。
写真左:約700年前の南北朝時代から江戸時代にかけて作られた中山の棚田
写真右:棚田は担い手不足などで今後の保全が懸念されています
その後一行は日本三大渓谷美の一つに数えられ、世界に誇る景勝地ともいえる寒霞渓に足を運びました。寒霞渓は日本書紀にも記述がある景勝地で、約1300万年前の火山活動や地殻変動、風化や浸食を受けながら形成された渓谷です。視察時は紅葉の季節と重なったこともあり、多くの観光客が訪れる人気観光地となっていました。
写真左:寒霞渓での集合写真最終日は土庄町にあるエンジェルロード(天使の散歩道)から始まりました。潮の満ち干きによって、中余島への道が出現したり消えたりします。このエンジェルロードは大切な人と手をつないで渡ると願いが叶うともいわれ恋人たちの聖地になっています。映画やドラマのロケ地としてメディアで取り上げられることも多く、当日も朝早くから多くの観光客が訪れていました。
写真左:恋人たちの聖地エンジェルロード。潮が満ちてきたため、奥側は道が寸断されています次の目的地は道の駅小豆島オリーブ公園です。ここでは小豆島の代名詞ともいえるオリーブの木が随所にみられるだけでなく、小豆島とオリーブの歴史が学べ、時期によってはオリーブの収穫体験もできるそうです。
オリーブ公園からは瀬戸内海の海が一望できました
資料によれば、小豆島のオリーブ栽培は明治41年に三重県や鹿児島県と並んで試験栽培から始まりました。そのうち小豆島のオリーブだけが順調に育成し、大正時代の始めには搾油ができるまで成長します。その後1959年に154トンの収穫ができるまで拡大しますが、輸入自由化によって国産オリーブは落潮期に入ります。しかし2000年前後から、規制改革や消費者の健康志向などの影響などもあり、小豆島のオリーブ産業が再び息を吹き返し、近年ではブランド力の強化や産地継承のための「小豆島オリーブトップワンプロジェクト」が官民一体で始まり、2019年には「全国オリーブサミット」も小豆島で開催されるほどの盛り上がりをみせています。
写真左:小豆島産のオリーブオリーブ公園を後にした一行はその後、地元の酒蔵や昔ながらの醤油工場や蔵がある醬の郷などを訪れ、視察は終了となりました。
写真左:小豆島で唯一の酒蔵MOEIKUNIではオリーブ酵母での酒造りも行われています
今回の視察では、観光を"消費"で終わらせないために、島全体でサステナビリティというブランド化への挑戦を垣間見ることができました。小豆島は伝統、自然、文化、それらが絡み合いながら、島全体で持続的に発展させる方法を模索しています。小豆島はまだ物語の途中ですが、現時点でも他の地域が学べるヒントがあるのではないかと感じました。

「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。
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