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2025年11月17日、一般社団法人宮崎オープンシティ推進協議会(MOC)を会場に、ひなたMBAと丸の内プラチナ大学が連携する特別講座の最終回が開催されました。
テーマは「共感を生むクリエイティブ戦略 〜地域の思いを届ける力〜」。生活者研究やコンセプト開発の分野で長く第一線を歩んできたツノダ フミコ氏を講師に迎え、生活者の心を深く読み取り、価値を「伝わる形」へ翻訳するプロセスを学びました。
一般的にクリエイティブというと、デザインやコピーといったアウトプットに焦点を当てがちです。しかしツノダ氏は「クリエイティブとは、相手の感情に橋をかける行為」と語ります。この言葉が象徴するように、本講座では機能や情報の説明では動かない現代の生活者に、どのように寄り添い、どのように選ばれる理由をつくるのかが丁寧に解き明かされました。
地域の発信にも、企業のブランドづくりにも、そして受講者一人ひとりの仕事にも直結する学びが凝縮された2時間でした。
株式会社ウエーブプラネット代表取締役 ツノダ フミコ氏
講義は、「クリエイティブとは、感情に橋をかける行為です」という言葉から始まりました。膨大な情報があふれ、生活者が無数の選択肢を持つ今、理屈や説明だけでは人は動きません。商品やサービスに触れた瞬間、その人がどんな状況で、どんな気持ちで情報を受け取るのか。その情景をどれだけ細やかに想像できるかが、価値づくりの出発点になるとツノダ氏は強調します。
同氏のキャリアは、まさに生活者の気持ちと向き合い続けた軌跡そのものです。学生時代のアルバイト生活、商業施設の現場で培った観察力、独立後に手がけた数多くのプロジェクト。どれも「暮らしの中にある小さな気持ち」に寄り添うことで磨かれてきました。
印象的だったのは、「感情の設計」という考え方です。
人がものを選ぶ時、スペックや価格といった理性的な判断だけで意思決定をしているわけではありません。気持ち、疲労の度合、周囲の環境、その日の天気でさえ、選択に影響を及ぼします。だからこそ、生活者の行動を動かすのは「使った先にどんな気持ちが生まれるか」という感情の流れだと語られました。
その一例として紹介されたのが、高機能ミラーの開発が失敗したエピソードです。最新技術を搭載し、価格もハイエンド。開発者は「これほど高品質なものはない」と胸を張っていました。しかし生活者が実際に手に取ると、眩しすぎる光、指紋の目立つ外装、持ち歩くには重すぎるといった生活の違和感が噴出。
「いいものを作ったつもりでも、使う場面が想像されていなければ、価値にはならない」
この言葉に、参加者は深く頷いていました。
一方、生活者の気持ちに向き合うことで成功した事例も紹介されました。たとえば、同じヘアケアでも「自分を励ましたい」「穏やかに過ごしたい」「自信をつけたい」など、使う時の気分は人によってまったく違います。この気分の違いに寄り添い、香り・デザイン・体験を再構築することで、ブランドは生活者の心へまっすぐ届くようになります。
生活者理解を深めるということは、他者の感情の地図を読み解くこと。その積み重ねが、地域でも企業でも「共感される発信」「選ばれる体験」を生み出すのだと、参加者も実感したようでした。
後半では、AI時代におけるクリエイティブの役割が語られました。AIは膨大な情報を整理し、最適な選択肢を提示します。しかし最終的に「どれを選ぶか」「何に価値を置くか」を判断するのは人間であり、その責任をAIには委ねられません。
情報の解像度だけが上がり、気持ちの解像度が上がらなければ、どれだけ便利な世の中になっても、本質的な価値づくりはできない。ツノダ氏の言葉は、技術の進化を前提としながらも、人間の感性の必要性を改めて教えてくれました。
2024年にツノダ氏が出版した書籍「いちばんわかりやすい問題発見の授業」の紹介。AIとの付き合い方の指南書となる。
講座では、ツノダ氏の高齢の親族がスマートウォッチを使いこなし、新しいスポーツを始めたエピソードも紹介されました。年齢や経験に関係なく、新しい刺激を取り入れることで人の感性は磨かれ続けるという事実に、会場は温かな笑いに包まれました。
変化の激しい時代だからこそ、外の世界に触れ、小さな違和感に気づき、生活者の心を想像する。その積み重ねが、これからのクリエイティブを支える「人間らしい力」になると語られました。
講義の後半では、受講者同士の感想共有と質疑が交わされ、会場は一気に実践的な空気が広がります。現場で向き合う課題や疑問が次々に投げかけられ、生活者理解の重要性がより深く掘り下げられていきました。
最初の質問は「価値観の多様化に対して、メーカーはどう向き合うべきか」というもの。利便性や時短が求められる一方で、手間暇かける行為そのものを大切にする層も確実に存在します。これに対しツノダ氏は、「マスではなくスモールマス、マイクロマスの時代に入った」と述べ、万人向けではなく、ある価値観に深く寄り添うものづくりが必要だと語りました。
その象徴的な事例が、ホットクック3台並べて生活を最適化しているワーキングマザーの話です。味噌汁・主菜・副菜を同時に調理し、放っておける時間を生み出すために家電を使いこなす。その結果家電を置ける広いキッチンが必要という新しい消費行動が生まれ、キッチンメーカー側がそのような利用を前提にした空間デザインを始めるという現象まで起きています。生活者の価値観の変化は、商品だけでなく住環境までをも動かしていく、そんなリアルな気づきを与える事例でした。
もう一つの質問は「行政・福祉サービスの価値はどう伝えたらよいのか」。形がないサービスは価値が見えにくいという前提に対し、ツノダ氏は千葉県流山市の「母になるなら、流山。」という成功事例を紹介しました。子育て世帯への一点集中の戦略が、結果としてまち全体の魅力向上につながり、住みやすさが全ての世代へ広がっていった事例です。
行政には平等原則という制約があるものの、打ち出し方の工夫には大きな可能性がある。自分たちのまちの固有価値を言語化し、他の自治体名に置き換えても成立してしまう汎用的な言葉ではない、 そのまちにしかない物語をどう描けるかが、行政サービスの価値を高める鍵になると語られました。
写真左:質疑応答では、エコッツェリア協会の田口真司(左)がファシリテーターを務めた
写真右:参加者からは、実践につなげるための質問が数多く投げかけられた
ひなたMBA×丸の内プラチナ大学連携企画による3回の講座が終了し、会場には確かな手応えが残ったようです。各回の学びから芽生えた気づきや視点は、受講生一人ひとりの新しい行動となり、地域のプロジェクトや事業、まちづくりへとつながっていくはずです。
そして、その動きは宮崎だけにとどまらず、ローカルで生まれる挑戦や創造性は、日本全体を支える大きな力になっていくことでしょう。都市では拾いきれない気づき、地方だからこその感度、暮らしのひだから立ち上がるストーリー。それらが、この国の新しい豊かさを創る礎になっていくはずです。
ここからはじまる挑戦の続きに出会えることを期待しています。
(取材・執筆:東郷あすか)

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。
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