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逆参勤交代フィールドワークの小諸市編。最終日は課題解決プランをまとめ、市のみなさんにプレゼンを行います。
※前編はこちら
最終日3日目の午前中は、プレゼンに向けて意見のブラッシュアップや内容の検討を行いました。前日に受講生にはプレゼン用のテンプレートが渡されており、そこに記入する形でプレゼン内容を検討する仕様。前半、グループディスカッションで、それぞれの意見を検討し、その後にプレゼン内容を作り込みました。
そして午後、いよいよプレゼンへ。市長のほか、主だった市職員幹部の皆さまにも同席していただき、相対する形で、受講生6名ずつが前後半で発表しました。
発表に先だち、まず講師の松田氏が次のように話しています。
「今回、小諸に初めて来た人もいましたが、また来たいというリピート意向率は100%です。3日間、充実したフィールドワークができたことに御礼を申し上げますし、その恩返しとして市役所の皆さん、地域の皆さんに貢献するアイデアを発表したい。しかし、大切なのは『私主語』。こうした事業を長く続けていると、『●●市はこうすべきだ』という、あなた主語の提案をする人が多いことに驚きます。しかし、今回逆参勤交代FWでは、あくまで私主語に注力し、今回参加した我々が主体的に、地域に何が貢献できるのかを提案してもらいたいと思います」
これを受けて小泉市長が期待を述べました。
「初日にご挨拶したあと同行できませんでしたが、皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか。今日のこのプレゼン、とても楽しみにしておりました。ここに住んでいる人間にしてみると、食べるものも、見るものにしても、それが当たり前になってしまって、良いも悪いも分からなくなっています。そのあたりをご指摘いただけると、大変私たちにとっても勉強になりますし、そこから、皆さんとのご縁を深めていければと思います」
プレゼンでは以下のような意見が発表されました(発表順)。
『小諸に恋する同好会』
カテゴリーや対象を絞らずに、さまざまな層を対象としたさまざまなコンテンツを提供するコミュニティ、プラットフォームを設立する。「初小諸だったが、こんなに素晴らしいまちだとは知らなかった。本当に良かったと心から思える体験だった」という思いに基づく。学生向けにはセミナーハウスを提供し、"ゼミ合宿の聖地"化を図る。女性向けにはワインと食を中心としたコンテンツ。ファミリー向けには自然体験とグランピングといったように、各カテゴリーで体験をキーワードにしたコンテンツを用意。『小諸チャレンジスクール』という体で、地元の人々には先生になっていただく。また、コンセプト別の分科会を設立し、コンテンツ作成や情報発信に携わる人材を育成する。"私は"その人材コーディネーター、企画運営協力に携わる。また、逆参勤交代に係る行政職員に女性がいなかったことから、「ぜひメンバーには女性も加えてほしい」と要望を出した。
『聖地創造プロジェクト』
アニメファンをつなぎ、体験を共有する場所、コミュニティを創出するプロジェクト。小諸市はVtuberとのコラボや、アニメ作品(『あの夏でまってる』『ろんぐらいだぁす!』など)の舞台となり、ファンの間では良く知られていて"巡礼"も行われているが、「ポスターが貼られているくらいで、ファンが集う場所がない」のが課題ではないかと提起。ファンが集まり感想を話し合い、体験を共有できるような場所を作るプロジェクトだ。"私は"ネットワークコーディネーターとして、アニメファン、地元の人をつなぐ役割を果たすほか、広報や布教などの業務も担当したいとしている。また、直近の活動として、Vtuberコラボの『初恋』のPVに書き込みをしてくれたファン全員を小諸に招待したいと話している。
『関係人口倍増プロジェクト』
小諸には資源が豊富にあり、対策もかなり打ち出されている。来てもらうことが何よりも必要。そこで"私だったら何ができるか"を考えた末、都市銀でアジア担当だった経歴を活かし、アジア人を対象としたマーケティング、関係人口増加を図る。インバウンド人口の内訳を見ると実はアジア人が全体の8割を占めている。SNSを通じた口コミで広まる率が高く、まず在日アジア人へ訴求、その後にインバウンドへの波及を狙う二段階戦法を取る。"私は"アジア勤務の経験を活かし、アジア方面に強い旅行代理店やインフルエンサーを紹介するなど、側面援護を行う。
『こもろ発信&体験ハブ拠点プロジェクト~アウトドア宿泊施設併設~』
30代子育て世代として「親としてやはり小諸のような景観の良い自然のあるところで雲海体験や星空体験などをしてほしい」という思いからの視点と提案。小諸は首都圏から程よい距離にありコンテンツも豊富。これを体験する拠点を複数設置し、発信し各施設間の流動を促す。こもろ体験からファンを創出し、移住へのきっかけとすることも視野に。"私は"勤務する会社が小諸での事業を検討していることもあり、社内の『小諸観光大使』となって、事業化を促進したい。都内の子育て世代は100万世帯あるとされ、その1%にあたる1万世帯が動くことで、1家族3~4人としても計3、4万人の関係人口創出につながると見込む。
『旅するご飯プロジェクト(体験型の旅)』
日本酒、ワイン、ウィスキーの醸造所・蒸留所が揃っているところは小諸のほかに例がない。また、農産物も豊富でツルヤなどの購入スポットもある。これらの『点』を、食をキーワードにつなぐ体験、ツアーなどのコンテンツ企画として、提供したい。対象は旅好き・お酒好きなアッパー30世代とし、サブキーワードとして『自然』『癒やし』を設定する。"私は"これまでにワイン関連のイベントの企画運営に実績があるため、この体験をもとに企画立案、運営にあたるとともに、知人・友人などを通した情報発信も行いたい。
『小諸の露天風呂を味わい尽くそう!プロジェクト』
小諸市内に点在する魅力的な露天風呂を紹介し、広めていく。豊かな自然環境の中でも露天風呂に訴求し、信州小諸をウェルネスシティとして訴求する。ターゲットは露天風呂ファン、ウェルビーイングに関心が高く可処分所得も多い首都圏のアクティブシニア。"私は"露天風呂ファンで、40年以上全国の露天風呂めぐりをしてきた経験があることから、体験型レポーターとして、実際に小諸の露天風呂に入浴し、そのレポートをSNSで発信する役割を果たす。手始めに、Facebookでコミュニティ『小諸露天風呂同好会(仮称)』を立ち上げ、情報共有を開始したい。また、『小諸露天風呂スタンプ帳』の仕組みづくりも手掛けたい。
前半6名が終了したところで、金井課長から講評をいただきました。
「まず、なによりもびっくりしたという感想です。というのも、今いただいたご意見はどれも商工観光課を中心に、市役所で考えている問題だったから。企業誘致、移住定住促進、観光振興すべてに結びつくように検討していますが、今お話いただいた6名の方のご意見は、事前に調べてきたんじゃないかと思うくらい、そこにぴたりとハマるご意見でした」
一人ひとりの提案に対し、これまでの行政の動きを説明するとともに感想と講評の意見を述べた金井課長。温泉については、高峰高原にある「標高2000メートルの露天風呂を紹介したかったが、スケジュールの都合でできなかった。ぜひ次回ご案内したい」と、受講生たちへ小諸再訪を呼びかけていただきました。
『時を巡る街景観』
小諸駅前の相生町商店街を中心に残る古き良き昭和を彷彿させる町並みを整備し、利活用するプロジェクト。旧北国街道沿いは江戸時代、荒町・寺町エリアは大正から昭和初期、そして相生町は昭和中後期と、時代の変遷を感じさせる町並みが残る。このうち、ピンクレディー、ドリフ世代、昭和レトロに憧憬を持つ若年層をターゲットに相生町周辺の昭和中後期の町並みの活性化を図る。"私は"不動産業の経験を活かしエリア活性化コーディネーターとして、優れた尖ったテナントの誘致を図る。将来的には証券化し、ファンドの組成なども視野に入れたい。さしあたっては商店街のファサードの修復再生、耐震化が急務と考えている。
『まちとワイナリーをつなぐ「小諸宿」プロジェクト』
フィールドワークで、ワイナリーもまちなかも頑張っている姿を見て「その2つが補完し合えばもっと強くなる」との思いで企画。現在あるワイナリーマップとまちなかを示した街道マップを統合した地図を作り、ワインを購入して飲む、歩く......という動線を誘導する。そして、現在実証実験で稼働中のスマートカート『egg』をワイナリーとまちなかをつなぐ足として利用する。ほか、ワインぶどうの収穫時期にみはらし交流館で試飲イベント『みはらしBAR』を開催し、まちの飲食店はキッチンカーで出店するなどさまざまにワイナリーとまちの接続を促し、観光客向けのコンテンツとして提供する。"私は"若年層の開拓欲をサポートする役目、PRなどを手伝う。
『小諸でもう1泊プロジェクト』
小諸の景観、特に宿泊しなければ見られない朝と夕方、夜の美しさを訴求し、宿泊客、宿泊数を増やす。アウトドア、自然を楽しみたい層、お決まりのリゾートに飽きてきた層などを対象にする。朝夕夜の良い景色をピックアップし調査、ガイドブック化し、そのお供に使えるフードやワインの情報も掲載する。マップは、他の提案のマップとミックスすることも可能。"私は"ホスピタリティーアドバイザーとして、食材やレシピの調査提供に協力する。
『小諸健康・長寿集合住宅プロジェクト――KOMORO Wellness Residence;略称「KWR100」』
小諸市が提供するウェルネスな生活を、非定住者が享受するには長期滞在施設が必要であるとし、駅前周辺の環境を利用した健康志向型の長期滞在施設、宿泊施設を準備する。コンドテル、民泊可マンションを想定しており、地域のウェルネス施設としての利用も見込む。医療施設とのリレーションも促進すれば、サ高住としての利用も可能になる。長期滞在型の旅行を好む欧米系観光客、別荘的な二地域居住をする首都圏富裕層などをターゲットにする。駅前の魅力あるレトロな建築群、町並みを再活性するカンフル剤にもなると期待できる。"私は"投資家として建物投資を行うとともに、不動産マンとして、不動産オーナーのコンサルタントにも携わる。
『小諸×宮崎 異文化マリアージュプロジェクト』
宮崎県出身者による宮崎と小諸の交流スキーム構築の提案。宮崎は南国で、きれいな海、豊かな山に恵まれているが、小諸市のような山の景観は見たことがないという。宮崎県人は焼酎を飲み、締めに辛麺などを食べる。小諸市の人はワインを飲んで、そばで締めるのだろうか。お互いの文化を体験できるイベントをそれぞれに地域で企画し、交流を促す。ひいてはお互いがファンになり、関係人口の底上げ、自治体間連携のプロジェクト創出を目指したいとする。"私は"宮崎県側のスタッフとして企画、広報、運営全部を担いたい。
『こもろフューチャーセンター ~課題共有・課題設定の場づくり~』
小諸が抱えている問題、または潜在化している課題を可視化することを目的にフューチャーセンターを開設する。対象は全市民だが、特に起業家などのアクティブ人材、中高生等の未来人材、行政・NPOなどのまちづくり関係者をメインに想定する。さまざまなプレイヤーとともに小諸市の課題を浮き彫りにし、解決にアプローチする。任意団体として設立した後社団法人化、セッション等の場の運営ともにコワーキングスペースなどの運営、イベントの実施も行い、将来的にはソリューションの提供も行う。"私は"勤務先の副業制度を利用して共同代表に就いて活動する。
受講生たちの発表を受けて、小泉市長が「大変な宝物をいただいた気持ち」と挨拶しました。
「これは本当に宝物だと思っています。しっかり読み直しをさせていただき、しっかり活用できるようにしていきたい。また、この先、皆さんとまたつながるためのきっかけとしても、受け止めさせていただきます」
そのうえで、小諸市の取り組みと照らし合わせるように、一人ひとりのプレゼンについての感想や意見を述べ、市側の状況などについても解説していただきました。例えば露天風呂については「2000メートルの天国に近いような露天風呂」ではあるものの、軽井沢に来る観光客でさえ知らないことが多く、「意外に知られていないのはご指摘の通りで、大きなコンテンツであるぶん、しっかりとやっていきたい」とのこと。また、いくつかに共通していたこととして「当たり前と思っていたことが当たり前でなかったという気づき」があったとも述べています。
「皆さんのどの提案も実現できればと思います。私たちもこれで終わりにせず、なんとか地方創生を実現していきたいと思いますし、地方が抱える課題を解決し、地方の暮らしを持続させていきたい。しかし、私たちだけでは限界があるし、少しずつでも動き出している中で、ぜひ、民間の皆さん、外部の皆さんと連携していきたいと考えていますので、引き続きここで頂いたご縁を大切にしていきたいと思います」
市長につづいて、市幹部の皆さんからも一言ずつ講評をいただきましたが、そのうち、産業振興部の小田中順一部長は、「最初心配していたが」と率直な感想を話してくれました。
「丸の内プラチナ大学、逆参勤交代のお話を聞いて、最初はちょっと心配していたというのが正直なところでした。今までもたくさんご提案はいただくのですが、提案疲れというのもありました。しかし今回は、私たちが持っている課題に即したご提案をいただけて、本当に良かったと思います」
地方創生を巡って都市部の人間が好き勝手に提案し地方を疲弊させるという現象はつとに知られるところですが、そうではないと面と向かって評価いただけたことは逆参勤交代にとっても大きなプラス。最後に、松田氏がこの先「続ける、深める、広める」ことが重要であると総括しています。
「続けるとは、これを一過性のイベントで終わらせず今後も継続し、例えば『丸の内大学小諸分校』を設立するなど関わりを続けたい。深めるとは、今回とは違ったアプローチで小諸市を知るということ。今回市民の皆さんとの交流がありませんでしたが、市民、高校生とのワークショップなども行いたい。そして広めるとは、広域連携のこと。宮崎県はもちろん、日本各地の丸の内大学分校との交流、さらには世界で少子高齢化や健康寿命で悩む国々とも連携し、国際会議を小諸で開くということも考えたい。理想は大きくもって、ぜひ、小さな一歩から始めていきたいと思います」
市役所でのプレゼンを終えてホッと肩の荷をおろした受講生たち。最後はマンズワイン小諸ワイナリーを訪問し、日本庭園「万酔園」、貴重な地下セラーなどを見学。ワインの試飲もし、身も心もすっかりほぐすことができたようでした。
フィールドワーク全般に渡ってご尽力いただいた、産業振興部商工観光課の金井圭二課長は、次のように感想を述べています。
「小諸市をどうするのか、それを考えるのが私たちの仕事ではありますが、気付かないことは多くあり、外から見て教えていただいた今回は、非常に良い機会となりました。市としては、パークPPIなどを通じ、民間の活力の取り入れの重要性を感じていたところ。行政的な動きだけでは難しいため、今後民間の経営感覚は必須のものになると思っています。その意味で、皆さんのご提案は行政側の感覚を変える力があったと思いますし、ご提案いただいただけで十分に価値があったと感じています」
同部農林課の佐藤工課長も、市の取り組みに反映したいと話しました。
「形式張らずにお話ができたことが良かったと思います。みなさんが率直に質問してくれたので、こちらも率直に『ここが困っている』と本音で話すことができ、その過程だけでも非常に学ぶところが多かったです。提案もひとつひとつ、今までのものとは違って、意識が小諸市に向いていることを感じました。こちらも、もう少し掘り下げた現場感のあるフィールドワークができれば良かったと思うところもあります。今後は、ぜひ言いっぱなしで終わらせず、提案の1つでも2つでも実現していきたい。それは市の責任ではありますが、また皆さんには関わっていただければうれしく思います」
松田氏は最後に取材に答え、フィールドワークを振り返って次のようにコメントしています。
「コロナ禍対応もあり、多くの自治体は守勢に入っているのが普通だが、小諸市は攻めている人ばかりで、すごい力だと驚かされました。小諸市のフィールドワークは、城下町・北国街道、駅前の寂れ、レトロな繁華街、そして一部ではセンスのある店舗や取り組みが盛んで、これはまさに現代日本社会の縮図であったとも言えると思います。受講生の提案は、小諸から見えてくる日本の課題にリーチしようとするものですが、その実現は大企業の営利活動とは違うものになるかもしれません。受講生の多くは大企業でビッグプロジェクトを担当するような人ですが、今後は地方都市でスモールプロジェクトを仕掛けていくところに可能性があるのではないか。そんなことを考えさせられるフィールドワークでした。
逆参勤交代は江戸時代の参勤交代に範をとったものですが、令和版の『租庸調』も必要と感じています。ふるさと納税やクラウドファンディングで地方経済を回す(租)とともに、自分自身の活動として地方を支援する(庸)。個人の力でも、企業のSDGs活動の一環としても、労働力として提供すること(調)が重要になるかもしれません。
2年ぶりに実施できたことは、丸の内プラチナ大学にとっても大きな実績となりました。これを次にしっかりとつなげていきたいと思います」
新型コロナウイルス感染症は大きな災禍ではありますが、同時に地方と都市部の関係に大きな変化を迫るもので、日本社会にも変革期が訪れようとしています。今回の小諸フィールドワークは、そこに触れる機会となり、また、新しい丸の内プラチナ大学、逆参勤交代のかたちを示唆するものとなったとも言えるかもしれません。
※前編はこちら
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。