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逆参勤交代フィールドワークの京丹後市編。最終日の様子をお届けします。
※前編はこちら
<3日目>
京丹後市役所峰山庁舎(課題解決プランのまとめ、提案)→峰山駅にて解散
課題解決プランの提案後、全員で記念撮影
いよいよ迎えた最終日。この日は朝から京丹後市役所峰山庁舎へ移動し、各々の課題解決プランをまとめる作業に取り掛かります。松田氏は「自分がどれだけ主体的になって京丹後に貢献できるか」を課題解決プランのテーマにしてもらいたいと話しました。
「『京丹後はこうすべきだ』のように"あなた"を主語にするのではなく、『私はこうやる』と"私"を主語にしてもらいたいと思います。そうでなければ言いっぱなしになって、話を聞いた側は『じゃあ誰がやるんだ』となってしまいます。やることは何でもいいんです。会社をつくって社長になる、営業や広報をするなどでもいいですし、家族と一緒に旅行に来る、ふるさと納税をするというのでもいい。主体的に何ができるかを考えてみてください。その上で、What(何をするか)、Why(なぜするか)、Who(私は何を担うか)、Whom(誰を対象にするか)、How(どのように実現するか)の5つを押さえたアイデアをまとめてみましょう」(松田氏)
写真左:課題解決プランを考える上でのポイントを説明する松田氏
写真右:受講生たちは2つのグループに分かれて京丹後の「good & new」を話し合いながらアイデアを固めていきました
アイデアをまとめるにあたり、受講生たちは2つのグループに分かれてこれまでの行程を振り返ります。そして京丹後の良かったところや新たな発見、気づいた課題について話し合い、京丹後をもっと良くするためのアイデアを抽出していきました。
それぞれがプランをまとめ上げたところで、いよいよ課題解決プランの発表がスタートしました。この日は事務局の2名も加えた計10名がプランを提案。聴講側は、中山泰京丹後市長を筆頭に、商工観光部長の高橋尚義氏、並びに島貫氏と日下部氏が参加しました。プレゼンテーションに先立って、中山市長は次のように歓迎のメッセージを送ってくれました。
「皆さまは関東や広島からお越しいただいたと伺っていますが、いずれの場合も列車で京丹後市に来るのはとても時間が掛かります。例えば、大都市近郊の小都市であれば地域に仕事がなくても大都市に通えばいいので、福祉や子育ての環境を整えれば移住者を増やしやすいのですが、京丹後市の場合は大都市圏と距離があるので一筋縄では行きません。実際、『京丹後市に住んでみたいけど、仕事がなあ』と昔からよく言われてきました。ですから、移住について考える際には仕事をつくり出さなければならないことも課題としてありました。
しかし近年、色々な分野でICTの社会実装が進み、距離的なハンデが大幅に解消し始めています。これによって豊かな自然環境や、人と人の温かいネットワークを求める志向が高まって来ていると感じますし、それらを兼ね備えた京丹後はかつてのマイナスをプラスに反転できる機会が来ていると思っています。そうしたタイミングに逆参勤交代で訪れてくれたことはまさしく時宜を得ているんじゃないかと感じています。今回の行程で見ていただいたようにこの町には多彩な資源がありますので、皆さまとつながって地域の資源をさらに活かし、一緒になってまちづくりをしていきたいと楽しみにしています」(中山市長)
中山泰京丹後市長
今回提案されたプランのタイトルは以下の通りです。
(1)KTⅡH(ケーティツーエイチ/京丹後セカンドホーム)プロジェクト
(2)コッペちゃんプロジェクト
(3)PIKARIプロジェクト
(4)「ゆるくてかたい絆」プロジェクト
(5)旬Tangoプロジェクト
(6)「京丹後健康増進スタイル」プロジェクト
(7)ひとの交流による地元経済活性化プロジェクト
(8)地域資源とそれに寄り添い生きる人たちをつなぐ 「京丹後×福山」地域活性化ワーケーションプロジェクト
(9)京丹後×宮崎 海がつなぐ関係人口創出プロジェクト
(10)越境型「学び」と「交流」
いずれも受講生が持つ独自の経験や人脈、スキル、ノウハウを活かしながら、この二泊三日の中で各々が感じた京丹後の良さをさらに伸ばすためのプランでした。例えば、日光さんが提案した「(2)コッペちゃんプロジェクト」は、京丹後市観光協会のマスコットキャラクター「コッペちゃん」を通して域外の人にも京丹後の魅力を広めていくアイデアです。SNSによる情報発信はもちろんのこと、今回の逆参勤交代で出会ったキーパーソンを大学に招いて京丹後の情報を紹介してもらうという考えを披露しました。大学で経営学やマーケティングを学ぶ鵜久森創さんが提案した「(3)PIKARIプロジェクト」は、自らが通うゼミの合宿を京丹後で開催し、大学関係者に京丹後の魅力を知ってもらうとともに、学生たちが大学で学んだノウハウを活かせる場を京丹後につくることで、両者の持続的な関係を築いていくというアイデアです。
社会人組のアイデアも負けてはいません。新生銀行の行員として西日本の地方銀行と関わりながら地方創生に関する活動を行っている大山浩さんは、織物や観光、機械器具などの産業基盤が豊富な点や、京丹後市がワーケーション関連設備の整備を進めている点に着目。ワーケーションの場を通じて都市圏人材を呼び込みながら地元企業とのコラボレーションを生み出すことで、地元経済の活性化や雇用拡大を実現する「(7)ひとの交流による地元経済活性化プロジェクト」を提案しました。
また、福山市企画財政局に勤める山本尊也さんが提案した「(8)地域資源とそれに寄り添い生きる人たちをつなぐ 「京丹後×福山」地域活性化ワーケーションプロジェクト」は、「京丹後市の地域資源とそれに寄り添い生きる人々」というこの地域が持つ価値の最大化を図るために、両地域が持つ資産をかけ合わせていくアイデアです。例としては、京丹後の丹後ちりめんと生産量日本一を誇る福山市のデニム産業が連携し、後継者不足の解消や新商品開発を行ったり、ユニバーサルツーリズムに力を入れる福山市と健康長寿のまちである京丹後市で新しい旅行商品を開発したりというものです。「このプロジェクトを通じて、企業やプレーヤーを3件集めたい」(山本さん)と、具体的な数値目標も掲げました。
受講生たちの発表の様子
すべてのプレゼンテーションを聞き終えた中山市長は次のように全体の講評を述べました。
「全プランを実現したいし、できるんじゃないかと思いながら聞いていました。皆さんのアイデアを実現していくには、それぞれがご自身の拠点に戻られてからも継続的に関わりを持っていただく必要がありますし、我々としてもそのためのきっかけを作らないとならないと感じました。例えば、定期的に逆参勤交代の分校を開催していただいたり、あるいは逆参勤交代チームに市の準職員として働いていただくような方法も考えられるかもしれません。そういった何らかの形で継続的に関わっていく仕組みを検討していきたいです」(中山市長)
講評後は、各参加者が全体の感想を述べていきました。この日は受講生と共にプレゼンテーションも行った事務局の田口真司は、次のように振り返りました。
「今日披露したアイデアを言いっぱなしにしたくはないと思っています。今はオンラインを活用すればコストを掛けずにミーティングもできますから、これをスタートとして、今後も京丹後市と継続的にコミュニケーションを取っていきたいです。今回の逆参勤交代では見られなかった場所やお会いできなかったキーパーソンも多いですが、我々のようなよそ者だからこそ発見できる良さはまだまだあると思っています。それを市民の方々に伝える機会があるとシビックプライドを芽生えさせたり、さらにアクティブな活動を誘発できるはずなので、これからも共に歩んでいきましょう」(田口)
3日間一行を案内してくれた島貫氏と日下部氏からは次のようなコメントが述べられました。
「この二泊三日で京丹後の冬の厳しさを体感していただくことになりましたが、その中でも地域の資源やポテンシャルを再評価いただきましたので、それを自信にして活動を続けていきます。今回ご提案いただいたプランに対して市長から『全部やりたい』という発言もありましたが、今後も皆さんとつながり、それぞれが役割を担いながら進められればと思っています」(島貫氏)
「ご紹介しきれなかった情報も、会っていただきたい人もまだまだたくさんいました。ですが、『もっと見たい』『もっと知りたい』と健全な欲求不満状態になっていただけたのは、次につながるものだとポジティブに考えていますし、ご提案いただいたプランは今後も長きに渡って巡り巡って行きそうだと感じました」(日下部氏)
そして松田氏は、今回の逆参勤交代を次のように総括しました。
「行ったことがないところで、普段なら出会わない人と出会い、自分の価値観や働き方が変わる逆参勤交代は、『自分の生き方改革』だと思っています。私たちにとってこれから大事になるのは、『続けること、深めること、広めること』に尽きます。一過性のイベントにはしないように地域に関わり続けたいですし、そのためには丸の内プラチナ大学京丹後分校という形も考えていきます。また、深めるためには市民の方にも入っていただいてディスカッションやワークショップが必要です。今回は感染症防止のために見送りましたが、今後は交流の機会を設けたいと思います。また、広めるに関しては、今日のプレゼンテーションでも福山市や宮崎県との広域連携のアイデアが出ましたが、これまでに逆参勤交代を受け入れてくれた地域の首長同士をつないで『逆参勤交代首長連合』のようなものをつくりたいと考えています」(松田氏)
さらに松田氏は、個人や法人がより気軽に逆参勤交代ができるようになるための制度設計の必要性を訴えた上で、「法人版Go To」と「学生版Go To」を実施したいと話しました。
「コロナ禍で実施されたGo Toキャンペーンは、多くが一泊二日で帰ってしまうものでした。しかし逆参勤交代やワーケーションで地方を訪れる場合はある程度ロングステイすることになり、より地域経済を潤すはずです。そこで、個人ではなく逆参勤交代やワーケーションを実施する法人に移動交通費を補助するんです。同様に学生版Go Toを実施して若い人々が地方に行きやすくなる仕組みも必要だと思います。また、京丹後市の中学校を卒業して市外に出ていった人々を対象とするのもいいと思います。彼らが帰省する際の交通費を補助すればUターンのきっかけづくりにもなるでしょう。京丹後市には、全国に先駆けてこうした提言をしてもらえると、地域活性化や逆参勤交代の普及につながっていくと考えています」(同)
こうしてすべての行程が終了を迎えました。この日は準備ができた人から解散の流れになっていましたが、プレゼンテーションの緊張感から解放されると共に旅が終わってしまう名残惜しさからか、受講生たちも職員の方々もしばらくの間話し込んでいる様子でした。そこでこの時間を利用して、改めて松田氏と中山市長にこの逆参勤交代で見えたものについて話を聞いてみました。
「コロナ禍の影響で2020年の逆参勤交代講座はすべてオンラインでしたが、その分、多くの人がリアルで地域に行くことを渇望するようになりました。その意味で、昨年1年間は今年に向けた助走期間になったと言えます。この2年間で社会の状況は大きく変わり、兼業や副業、ワーケーションを導入する企業も増えていて、逆参勤交代には追い風が吹いている状態です。言い換えればこれからの1,2年が逆参勤交代にとっては勝負の年です。もはや逆参勤交代の賛否について議論すべき時は終わり、いよいよ実装すべきタイミングに入りました。この動きを進めるためにも、『100人の有識者よりも1人の実践者』の考えを大事にしながら、制度設計などを展開していきたいと思います」(松田氏)
「今回は二泊三日の短期間だったので、京丹後の一部しか回っていただけませんでしたが、その中でも地域の特徴を本当によく捉えていただきましたし、一緒になって未来の豊かさを作っていきたいと思わせる提案をいただけました。市民の皆さんとの間では『まず自分たちで自分たちの地域を好きになろう』とよく話していますが、今回外から来た皆さんの目を通すことで私たちでは気づかなかった京丹後の良さを教えてもらえたとも思っています。それを市民の方々にどう広げていくかも大切になってきますので、そこへの取り組みも行っていきたいと思います」(中山市長)
世の中の働き方が大きな変革期を迎えている今、逆参勤交代にはまたとない機会が訪れています。この波に乗って本構想を広げていくには、中山市長も触れたように経済面以外に地域がメリットを享受できることを広め、そして松田氏が口にしたように1人でも多くの実践者を増やしていくことが重要になるのでしょう。これから勝負の年を迎えていく中で、様々な資源やこれからの時代に不可欠な「多様性」を持つ京丹後市のような地域で逆参勤交代が実現できたのは大きな幸運と言えるかもしれません。これからの逆参勤交代の展開、そして京丹後市との関係には、大きな注目と期待が寄せられます。
最後に、松田氏、中山市長、田口の3人で記念撮影。
今後の京丹後市×逆参勤交代の継続的な協力を誓い合いました
※前編はこちら
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