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【レポート】次世代の担い手不足解消へ、奮闘する地域と企業

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース・長野県諏訪市フィールドワーク 2023年11月9日(木)~11日(土)開催

8,9,11

2023年11月、長野県諏訪市を舞台に、2泊3日のフィールドワーク「トライアル逆参勤交代」が開催されました。フィールドワークで、参加者はこの地域ならではの魅力、潜在的価値や課題を発見し、最終日には、諏訪市長に対して地域活性化につながる課題解決プランの発表を行いました。丸の内プラチナ大学の受講生ほか、参加者15名はどのような発見をしていったのでしょうか。

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ものづくりの伝統が息づく長野県諏訪市

ものづくりの伝統が息づく長野県諏訪市

諏訪市はかつて「東洋のスイス」とも呼ばれ、古くは製糸産業、戦後は時計・カメラ・オルゴールなどの精密加工技術を中心に、ものづくりの伝統が息づくまちとして発展してきました。また、諏訪湖や諏訪大社を中心とした観光業も盛んで、コロナ禍以前は花火大会や御柱祭などに年間600万人以上が訪れていました。製造業や観光業を基幹産業とする日本有数の都市である一方で、日本全体を覆う人口減少、少子高齢化といった課題にも直面しています。国の推計値によると、2045年までに同市の人口は2割以上減少する見込み(2020年比)で、1970年に全人口の7割を占めた生産年齢人口も50%を切るという、労働力不足の懸念もあります。このような将来予測もあり、今回のトライアル逆参勤交代では「産業界の担い手不足の解消」という課題に着目しました。

1日目:産業の担い手を求め、事業の多角化や連携の広がりで変革を起こす

オリエンテーション→(株)小松精機工作所→立石公園→宮坂醸造(株)→懇親会

晴れ上がった空の下、上諏訪駅近くの「クリロンワークショップ伊久美」でオリエンテーションが始まりました。スタッフの所由香氏が「諏訪市民が芸術や食に触れ合い、新しい未来を創っていける愛される場所になってほしい」と展望を語る伊久美は、かつて地元の名士や企業人が通う有名料亭として愛され、現在はその佇まいを残しつつ、クリロン化成株式会社による「暮らしと伝統」をコンセプトにしたリノベーションを経て、今ではレンタルキッチンや写真展の会場として使われています。そんな諏訪の歴史や文化が融合する場所で、参加者は自己紹介やトライアル逆参勤交代への熱意を語り、3日間のフィールドワークが幕を開けました。
今回は、金融・IT・製造業・行政関係者や大学生など、多彩なバックグラウンドを持つ人々が参加しました。オリエンテーションの中で、諏訪市役所(経済部産業連携推進室)の職員は「諏訪市は産業全体で担い手不足が課題となっています。市内への移住や転職による人口増はすぐに望めない状況で、関係人口や関係企業の創出が一つの鍵だと考えています。外部視点による皆さんの提案を通じて、新たな化学反応に期待します」と、参加者へ語りました。

image_event_231109.002.jpeg 左:クリロンワークショップスタッフの所氏
右:クリロンワークショップ伊久美

オリエンテーションの次は、自動車の部品などの精密加工等を行う株式会社小松精機工作所を訪れました。専務取締役の小松隆史氏は、「弊社は最小径φ0.080mmという微細な穴を斜めに開けることができる独自技術を持ち、その高い技術力を生かして自動車の燃料噴射装置部品の先端ノズルでは世界シェアの4割を占めています」と話しました。一方で自動車のEV化など産業の変革に直面しているほか、社員採用が順調に進まないときもあるなど、課題もあるようです。
その状況を打開するため、同社は技術力を活かして様々な分野に挑戦しています。例えば金属結晶を従来の10分の1まで細かくし、金属の強度や加工安定性を向上させた超微細粒鋼"nanoSUS®"を開発しています。また、鉗子や内視鏡など医療分野の市場開拓や、検査ツールとして使われる磁気センサー技術の土壌測定への応用も模索中です。米国に子会社を立ち上げるなど海外進出にも積極的で、小松氏は「就活生に海外展開をしていると話すと良い反応が返ってくる」と語りました。

image_event_231109.003.jpeg左:参加者の質疑応答に答える小松精機工作所の小松専務(左端)
右:小松精機工作所の看板

その後、諏訪湖を一望できる立石公園を訪れました。
諏訪市は、ものづくりのまちであると同時に、諏訪湖をはじめとする天与の自然資源に恵まれた観光のまちとしても知られています。ここ立石公園からは、諏訪湖を中心に隣接する諏訪市、岡谷市、下諏訪町を望むことができ、天気の良い日には遠く北アルプスを眺めることもできます。夕景と夜景も美しい、多くの観光客が訪れる人気スポットです。諏訪地域有数の景観に触れるひと時は、その後のフィールドワーク、そして、地域課題解決プラン作成への活力となったのではないでしょうか。

image_event_231109.004.jpeg 左:諏訪湖を一望できる立石公園にて
右:立石公園から諏訪湖を望む

続いて、全国的に有名な日本酒ブランド「真澄」を持つ酒造メーカーの宮坂醸造株式会社を訪問しました。現在の酒造拠点は同じ諏訪地域内にある諏訪郡富士見町に移り、諏訪市内で本格的な酒造りは行っていないそうですが、日本の酒造りにおいて欠かせないと言われるほどに重要な酵母「協会7号酵母」が発見された由緒ある蔵でもあります。昔ながらのタンクが立ち並ぶ姿など、酒蔵を見学しました。
同社代表取締役社長の宮坂直孝氏は、「私たちが持つ4つの夢を実現することで、環境変化に左右されないような強力なブランドを創っていきたい」と、社内外へ広がる4つの夢を語りました。
まず、日本一うまい酒を造るための品質向上。続いて、消費者の多様なニーズに合わせた商品開発やマーケティング。さらには、会社の垣根や業界を超えて「まちににぎわいをもたらす酒蔵」を目指し、地域の酒蔵や商店と連携したイベント及び酒蔵ツーリズムの強化や、県内の発酵産業の業界団体が連携して"発酵で健康な長野県"の売り出しなどを始める予定です。最後に、「日本酒の世界酒化」です。これを進めるべく、2005年以降、外国人の積極的な採用を進めています。
宮坂氏は、「夢を高く掲げて着実に実現していけば、産業を担う人材が確保していけるのではないか」と展望を語りました。

image_event_231109.005.jpeg 左:日本酒のテイスティングを楽しむ参加者たち
右:宮坂醸造のオフィシャルショップ外観

2日目: 産業の担い手発掘への問題意識

後山地区→SUWAガラスの里((株)信州諏訪ガラスの里)→(株)竹屋→(株)共進→RAKO華乃井ホテル(諏訪湖リゾート(株))→懇親会

2日目最初の訪問地は、諏訪湖の南西に位置する里山集落・後山地区です。江戸時代から続く歴史がある集落で、かつては370人ほどの人口が、現在では48人で、平均年齢70歳とも言われる、いわゆる限界集落です。
そんな後山地区を活性化させるために始まったのが、住民有志による"SUWA後山ブランドプロジェクト"です。リーダーの金子公明氏によれば、「手塩にかけた農産物の良さを多くの人に知ってもらい、若い世代に後山の良さを伝えて誇りに感じてもらう」ことを目的に、自慢の農産物をブランド化しました。ふるさと納税返礼品にしたり通販サイトで販売したりして、市外のファンや関係人口を増やし、後山の地で安定的な収入をもたらせる基盤を作りたいと考えています。
主な特産品はピュアホワイト(純白のトウモロコシ)、枝豆、マツタケ、蜂蜜などで、なかでもピュアホワイトは昨年4,000本を販売した大人気商品。消費者からの反応も良いとのこと。金子氏は「高齢化や後継者など課題はあるが、移住ではなくファンを増やすことで自分たちの子どもや孫たちに未来をつなげていきたい」とこれからの期待を語りました。

image_event_231109.006.jpeg 左:SUWA後山ブランドプロジェクトについて説明する金子氏
右:後山地区

後山地区を後にした一行は、次にSUWAガラスの里を訪問し、官民連携の地域ブランド「SUWAプレミアム」のオフィシャルショップを見学しました。ここでは、諏訪の高い精密加工技術を駆使した様々な商品が販売されています。
株式会社信州諏訪ガラスの里会長の岩波太佐衛門尚宏氏が「地域の人と文化を発信していきたい」と言うように、ものづくりの情熱や歴史が各商品に込められていました。なかでも、自動車燃料噴射装置部品7万台分の製造過程で生じる合金の砂が入っており、裏蓋には時計を研磨する際の技術が使われている「超高精度金属砂時計SUWA±5μ-」は、諏訪の御柱をイメージしたデザインもさることながら、開発に携わった岩波氏にとっても印象に残る逸品とのことです。岩波氏は、「ただ売るだけでなく、諏訪地域を知る、そして来ていただくきっかけになれば」と、SUWAプレミアムにかける想いを語りました。
また、施設内には、ガラスの資源循環について学び、循環の仕組みを考え発信することを目的とした、諏訪ガラスオープンラボも開設されています。
意見交換会では、観光業の課題にも及び、「諏訪地域は夏に多くの観光客を集める一方で、冬は閑散とする。そのため人的資源の配分が難しい」(岩波氏)と、季節ごとの変動の大きさによって産業の担い手を安定的に育てていく難しさも語りました。

image_event_231109.007.jpeg 上:信州諏訪ガラスの里の岩波会長
左下:超高精度金属砂時計SUWA±5μ-
右下:参加者たちとの意見交換会

昼食をはさみ、続いては「タケヤみそ」という、女優の森光子さんのCMでも全国的に有名な株式会社竹屋を訪問しました。取締役社長の藤森伝太氏の案内で、味噌づくりやその後のパック詰めなど、一連の工程を見学しました。
高校を卒業して働く人材が減少し、かつてのような高校生を採用するルートが機能しなくなって、職人不足が課題であると伺いました。他のルートから採用を試みるも「ものづくりは魅力ある仕事だと思うが、その魅力をどうやって発信して就活生に届けるか」に頭を悩ませているそうです。また、味噌への関係人口を増やす取り組みや販売以外のワークショップなどから収益を得る必要性も感じていると話しました。
味噌業界と酒造業界が協働してイベントを開催するような業界間のコラボレーションの実現性について参加者が尋ねると、藤森氏は「業界より、まずは会社単位でコラボレーションを考えている」と今後の可能性を話しました。

image_event_231109.008.jpeg 上:工場を案内する竹屋の藤森社長
左下:竹屋の工場外観
右下:味噌づくりの樽の展示

次に訪問したのは株式会社共進です。同社は主に自動車のエンジン部品や産業機械の部品製造を行う金属加工メーカーで、市内に本社工場を含めて6工場を抱えています。代表取締役社長の五味武嗣氏によれば、かつては売上の9割が自動車部品でしたが、昨今の燃料電池車やEV化の流れをうけ、今後は自動車関連部品以外の市場へ分散していきたいそうです。
同社は「カシメ接合法」という、金属の塑性(そせい)変形を利用して二種類以上の部品を接合する独自の技術を持っています。熱を加えず、接着剤も使わずに金属接合が行えるため材料変質が起こりにくく、安定した強度の接合部材を製作でき、その特徴を活かし内視鏡やカテーテルといった医療機器部品の開発などへの展開を模索しています。また、他の製造業と同様に、人材の確保も課題です。高校生の多くが進学する諏訪市では「高校生を採用するのは至難の業。かといって高い専門性を持った優秀な人材は県外に出て行ってしまう」(五味氏)のです。人材不足に備え、従来は人の経験と勘に頼っていたカシメ製造条件の設定をAIに学習させ最適な条件を推定させるなど、デジタル化やDXの推進にも取り組んでいます。説明後は、実際にカシメ接合を行っている工場見学も行いました。

image_event_231109.009.jpeg 上:参加者に説明する共進の五味社長
左下:工場内の解説に耳を傾ける参加者たち
右下:カシメ接合が施された部品

2日目最後の訪問先は諏訪湖リゾート株式会社です。同社は諏訪市内にRAKO華乃井ホテルをはじめとした宿泊施設やお土産処を運営しています。
代表取締役の白鳥和美氏は、今回の宿泊地でもあるRAKO華乃井ホテルの強みを語ったほか、諏訪の観光業における課題として、最近のインバウンド旅行客が宿泊はするものの観光はせずに諏訪を出て行ってしまう事例を念頭に、「市内で観光をしてもらえるような商品づくり、マーケティング、情報発信や、DXを活用した新しい観光スタイルを確立、今までとは違う形での人材の育成も行っていく必要がある」と語りました。

image_event_231109.015.jpeg 左:観光業について語る諏訪湖リゾートの白鳥社長
右:懇親会

3日目:それぞれの視点から産業の担い手解消策を市長に提案

課題解決プランまとめ、諏訪市長へのプレゼンテーション(SUWAガラスの里)

3日目の最終日は、諏訪市長へのプレゼンテーションを行いました。他人任せの提案ではなく「私は~をする」という自分主語の提案をすることがトライアル逆参勤交代におけるプレゼンテーションでの唯一のルールです。
午前中、参加者はグループに分かれて振り返りを行ったのちに、各自提案内容をまとめました。

image_event_231109.011.jpeg 左:グループでこれまでの行程を振り返り、意見交換する参加者たち
右:資料作りに没頭する参加者たち

昼食後、諏訪市長の金子ゆかり氏へ向けてプレゼンテーションを行いました。冒頭に逆参勤交代コース講師の松田智生氏から「逆参勤交代は縁と運と恩だと思っている。諏訪市と良い縁ができた。その良い縁のおかげで、諏訪で挑戦している人に会うという運に恵まれた。それに対して恩返しをしようというのがプレゼンの狙い」と趣旨説明があり、参加者たちが順番に発表しました。

今回提案されたプランのタイトルは、次のとおりです。
1) プロダクトアウトからの脱却 SUWA-I(愛)プロジェクト(SUper WAkuwaku Industry プロジェクト)
2) 諏訪人材創出プロジェクト
3) 諏訪湖に素敵なcaféが欲しい!まずはキッチンカーでやってみよう! キッチンカー+諏訪湖マルシェ
4) 諏訪テック&カルチャープロジェクト
5)「すわ地域連携、若い担い手創出プロジェクト」~岡谷からの視点と観光マーケティングの手法~
6) 諏訪市で「諏訪マイスター制度」の設立 その基盤として外部への情報発信の再構築
7) Global engineering Hub SUWA(諏訪に世界中からエンジニアが集結)
8) 諏訪でママパパリフレッシュプロジェクト
9) 天竜川上下流交流プロジェクト
10)後山再生プロジェクト(美しい里山作り)
11)スマート農業の推進
12)諏訪市製造業の技術を農業へ!
13)市民・産業・観光の3方良しの交差点づくり「道の駅 諏訪湖プロジェクト」

さらに、オブザーバーとして参加していた神奈川県足柄上郡開成町長の山神裕氏は、「(諏訪市でも開成町でも)観光や労働力を活性化させるためには外国人誘致が鍵だと思う」として、外国都市と友好都市関係を結ぶ案や、SUWAプレミアムでの超高額商品の開発・販売、都市部の私立小中学校の誘致、地球温暖化を逆手にとって温暖な気候を活かした観光資源化など、諏訪市の活性化に向けた提案を行いました。

image_event_231109.014.jpeg 左:講評する諏訪市の金子市長
中:発表前に挨拶に立つ松田講師
下:オブサーバーとして参加した開成町の山神町長

金子市長は参加者からの発表を受け次のようにコメントしました。
「いろんな視点でアイデアを聞かせていただき、我々も思いもつかなった分野での提案もありました。地元にいる人間では気づかないこと、ネガティブに考えていたことが、皆さんと一緒にポジティブに変換できるのであれば、この地域の潜在的な可能性が花開くのだと勇気を頂きました。これからも皆さんには関係人口として、ファンとして、アドバイザーとして諏訪市に関わっていただければ嬉しいです」

最後に松田氏は次のように述べて締めくくりました。
「逆参勤交代のフィールドワークは、『半学半教』と思っています。この半学半教は、福澤諭吉が残した言葉で、師弟の分を定めず学び合い教え合うことが人生で大切だということですが、この3日間、地域の方と参加者で半分は学んで半分は教え合うことにより、良い化学変化が起こった場でした。特に諏訪市長や経営者の皆さんのリーダーシップに関して、多く学ぶことができました。この縁を機会に、新しい逆参勤交代に向けた一歩を踏み出していきたいと思っています」

終わりに
産業の担い手不足は全国的な問題でもあります。その解決策として、移住の促進や新しい産業の創出などが取り上げられがちですが、今回のトライアル逆参勤交代で、移住や新産業などの"ないものねだり"だけではなく、地域や企業がそれぞれの特色や伝統を最大限活用して現状を脱却していこうと、"あるものさがし"に取り組む姿勢もまた大切なことではないかと感じられました。諏訪市の企業や団体は、自分たちの強みや特徴を生かして新たな道や連携について模索を続けています。今回の参加者からの提案や熱意が現状を打開するために勢いを与えるものになるのではないかと期待を感じさせる3日間となりました。

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