イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】復興に向け奮闘する七尾市民、復興支援型逆参勤交代の可能性を考える

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース・石川県七尾市フィールドワーク 2024年12月6日(金)~8日(日)開催

11,17

丸の内プラチナ大学逆参勤交代コースの受講生ら約10名が2024年12月6日~8日までの3日間、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県七尾市を訪れ、被災地の現況を知るとともに首都圏人材の関わり方を探りました。同コース講師の松田智生氏は「我々が関わることで、被災地に少し貢献できるのではないか。それを探るために、七尾の今の状況や人々の心境を知ってほしい」と語りました。

続きを読む
1日目:草の根の復興 七尾市民の取り組み

1日目:草の根の復興 七尾市民の取り組み

石川県立七尾高等学校→矢田郷地域コミュニティセンター
 

金沢駅に集合した参加者らは最初の目的地である石川県立七尾高等学校に向かいました。生徒の中には、能登半島地震により自宅に住めなくなるなど大きな被害がありました。参加者らは、そんな被災地の高校生と七尾の地域のことや学生の取り組みについて意見を交わします。

高校生たちは七尾の魅力として祭りや牡蠣などを挙げ、課題については交通網の脆さや人口流出だと語りました。彼らは地域を盛り上げようと、地域資源を活用したビジネスプランとして耕作放棄地の活用や六次産業化、廃棄される牡蠣の殻を建材として使うなどのアイデアを挙げました。高校生たちが地元の活性化策を生き生きと語る姿を目にし、参加者らは被災地のために自分たちも貢献したいという想いを強めたようでした。

image_event_241206.002.jpeg 左:参加者と高校生との意見交換の様子
右:今回の逆参勤交代ではグラフィックレコーディングを実施した

次に矢田郷(やたごう)コミュニティセンターに場所を移し、矢田郷地区まちづくり協議会会長の飯田伸一氏から被災と復興の動きを伺いました。矢田郷地区は七尾市で最も人口が多い地区で、同センターも発災直後から避難所として、9月に閉鎖されるまで最大700人の被災者が身を寄せていました。

飯田氏は「発災直後は食料の問題、次に断水の問題、そしてその後も健康や感染症の問題などに次々と直面し大変な1年だった」と振り返ります。そんな市内最大の避難所運営を支えたのは民間の力だと飯田氏は明かしました。「行政への支援要請は時間がかかる。だから私たちが支援物資を提供してくれる人たちと直接つながることで迅速に供給してもらえた。我々が震災前に構築していた関係人口やネットワークなどの素地があったからこそ、迅速かつ効率的に避難所運営ができた」

また今後について「震災関連のイベントなどを通じて、七尾城はじめ七尾の歴史や文化などの情報発信を復活の狼煙として出していきたい。支援者や関係人口の方々にお返しをしていくのが復興につながっていくはずだ」と思いを語りました。

image_event_241206.003.jpeg 左:「平時からのつながりが被災時に活きた」と矢田郷地区まちづくり協議会会長の飯田伸一氏
右:震災からの復興などについて話を聞く参加者ら

飯田氏が言及した支援ネットワークの素地の一つが、同協議会が主催する市民大学「YATAGOUビレッジセカンド大学」です。運営を行う一般社団法人きたまえJAPANの代表理事、政浦義輝氏によれば、同大学は震災前から市民や大学、企業が一体となって七尾市の観光やまちづくり、健康・スポーツでの課題解決に取り組んでおり、震災後は他の被災地から学びを得るセミナーなどを開催してきました。今後はさらに「七尾城を使ったまちづくりや商品開発などにも取り組みたい」と話しました。きたまえJAPANは七尾の地域活性化の原動力となり、国内外に様々なネットワークを構築し、石川発のビジネス案件を次々に成就させているそうです。

image_event_241206.004.jpegYATAGOUビレッジセカンド大学について語る一般社団法人きたまえJAPAN代表理事の政浦義輝氏

まちの仕組みづくりの一つとして特徴的だったのはファン通貨「Anshin Coin」です。金沢大学学生の岡本岳人氏によれば、もともとインバウンド旅行客が決済時に商品への想いやメッセージを届けられる決済手段として開発されたものを、震災以降は「復興への応援メッセージを届けたり商品改善に役立てたりする仕組み」に進化させたとのことです。「今後は能登の里山里海のファンコミュニティで使ってもらえる決済手段になるように事業化していきたい」と意気込みを語りました。

image_event_241206.006.jpegAnshin Coinの取り組みを解説する金沢大学学生の岡本岳人氏

夜には懇親会が行われ、会場は被災した飲食店が仮店舗を構える能登屋台村でした。地元の事業者や議員が参加し、牡蠣など能登の食材を囲みながら交流を深めました。能登の牡蠣は特に人気を集め、「被災地の食文化を知る貴重な機会だった」と参加者らは話していました。

image_event_241206.007.jpeg左:初日の懇親会会場となった能登屋台村
右:七尾高校の学生も絶賛の能登の牡蠣

2日目:外部人材を活用した「発酵的復興」へ 能登の文化も体感

道の駅能登食祭市場→一本杉商店街散策→御祓川→里山里海キッチン→和倉温泉お祭り会館→のと里山里海ミュージアム→スギヨ本社
 

2日目は朝から能登の産品が揃う能登食祭市場を訪れました。市場内には能登最大の漁港・七尾港で揚がる新鮮なカニやブリなどの魚介類が並びます。館内には屋台や食堂などもあり、参加者らは買い物を楽しみながら、午後のにぎり寿司体験に向けた食材を購入しました。

image_event_241206.008.jpeg左:食祭市場の入口には、「負けないぞ七尾!!」 の垂れ幕
右:新鮮な海産物を前に参加者の声も弾む

その後、一行は七尾市のメインストリートともいえる一本杉通りで被災の状況を視察しました。案内をしてくれたのは株式会社御祓川代表取締役の森山奈美氏。一本杉通りに立ち並ぶ店舗はまだ土壁がはがれていたり、ブルーシートを被せていたり、仮設店舗で営業していたりなど、震災による影響が残っていました。参加者らは神妙な面持ちで森山氏の説明を聞き、復興への道のりの険しさを実感していました。

image_event_241206.009.jpeg 上:一本杉通りを案内する株式会社御祓川代表取締役の森山奈美氏
左下:発災から約1年、今まだブルーシートが掛けられているところも
右下:仮設店舗で営業を続けているお店も多数

視察を終えると、被災地内外をつなぐ役割を果たしてきた株式会社御祓川の活動について伺いました。復興に深く関わってきた森山氏は地震から約1年経過した今の学びとして「災害時に急に『こうするべきだ』と言っても人は動けない」といい、平時からの関係性構築の重要性を強調しました。また、行き慣れた場所に自主避難所ができることや、避難時も人々は生業を続けようとすること、住民が自治可能なエリアは行政区よりも小さかったことなど、被災時の経験を共有してくれました。

そのうえで今後の能登の復興に必要なのは、復興の担い手たる能登の事業者、新たな風を送り込む外部人材、そしてコーディネーターの3者が一体となった共創だと言います。「私たちは『発酵的復興』を目指す。発酵は外部から菌(外部リソース)が入ることによって元々の構造が組み替えられて新たな価値が生まれる。そんな復興を目指したい」と語りました。

image_event_241206.010.jpeg左:発酵的復興について語る株式会社御祓川代表取締役の森山奈美氏
右:御祓川の取り組みを聞く参加者ら

そんな発酵的復興の先駆けとなっているのが、「能登の人事部」という人材不足解消に向けた取り組みです。同事業に取り組む御祓川の圓山晃歩氏は「能登には仕事がないと言われるが、実際は仕事があり、人手が足りない。問題は多くの企業に人事部がなく採用や育成が十分でないことや、既存事業で手一杯なことだ」と言いました。能登の人事部では人集めだけではなく、人が集まる企業を育てることを先決として事業計画の策定、人材活用、未来志向の事業開発などを支援しています。

また、能登の人事部は企業だけではなく、地域をフィールドとして担い手を増やしていくことにも取り組んでいます。「能登は地震によって課題最先端地域になった。その課題を今後資源にしていかなければいけない。地域リソースだけでは限界があるので、担い手を外部から招く必要がある」といい、県外学生のインターンシップ受け入れや社会人の兼業マッチングを通じて持続可能な事業や人を育てていきたいと語りました。

image_event_241206.011.jpeg「能登の人事部」について説明する圓山晃歩氏

午後からは七尾市の食や文化、歴史の魅力を学びます。昼食として食祭市場で購入した魚介類を使い、里山里海キッチンで握り寿司体験をしました。教えてくれたのは地元寿司職人の田尻洋平氏。シャリの握り方からネタの載せ方まで田尻氏は丁寧に教えてくれました。参加者は初めての体験に苦戦しながらも、寒ブリやのどぐろなど能登の豊かな海産に舌鼓を打っていました。

image_event_241206.012.jpeg 上:能登の魚について解説する寿司職人の田尻洋平氏
左下:シャリの握り方を習う参加者ら
右下:苦戦しながらも自分で作った握り寿司は格別

海の幸を堪能した一行は和倉温泉お祭り会館に移動し、七尾のお祭りについて一般社団法人ななお・なかのとDMO専務理事の遠藤敦氏から説明を受けました。七尾市には青柏祭(せいはくさい)、石崎奉燈祭、能登島向田の火祭りなどがありますが、特に5月の青柏祭は「でか山」と呼ばれる高さ12メートルの巨大な山車が奉納されることで知られています。今年の青柏祭は中止となりましたが、「2025年には必ず開催したい」という地元の強い意気込みが語られました。最後に遠藤氏は「能登の人はお祭り好き。祭りがないと復興は進まない」と述べ、参加者らに応援を呼びかけていました。

image_event_241206.013.jpeg左:お祭り会館について説明する一般社団法人ななお・なかのとDMO専務理事の遠藤敦氏
右:館内には実物のでか山や奉燈も

その後、「のと里山里海ミュージアム」を訪れ、能登半島全体の文化や特産品、七尾の豊かな自然環境や歴史について学びました。副館長の和田学氏は「七尾は昔から政治や文化の中心部だった。古くは日本書紀にも記述があり、また古墳群や七尾城があったことからもそれがわかる。七尾湾は交易船などの中継地として経済的にも重要な役割を果たし、文化的な要素も七尾湾から発信され広まっていった」と七尾の歴史的重要性を解説しました。

image_event_241206.014.jpeg左:七尾市の歴史的文化的重要性について語るのと里山里海ミュージアム副館長の和田学氏
右:伝馬船に乗って記念撮影

2日目の最後に訪問したのは株式会社スギヨの北陸工場でした。同社は世界初のカニカマや長野県のソウルフードビタミンちくわを生産していることで知られています。経営企画室広報主任の田畑梨杏里氏は、カニカマが生まれた経緯について「1960年代、中国からクラゲが輸入できなくなってしまったときに人工クラゲを作ろうとした失敗作からカニカマができた」とヒット商品の誕生秘話を明かしてくれました。

能登半島地震について田畑氏は「幸いにも怪我人はいないが、工場の天井や壁の崩落で復旧まで半年かかり、全ての基幹商品が出揃ったのは7月だった」と事業に深刻な影響を与えたと語ります。しかし現在スギヨは新工場の建設計画を進めるなど将来に向けた動きを加速させているそうです。

image_event_241206.015.jpeg左:スギヨ北陸工場の様子
右:スギヨの歴史について解説する同社経営企画室の田畑氏

3日目:「平時からのコミュニティづくりの大切さ」地元との意見交換から得た学び

矢田郷地区コミュニティセンターで振り返り・意見交換

最終日には、今回の訪問の振り返りと地元の方々との意見交換が行われました。参加者らは4つのグループに分かれ、それぞれ感想や今後の関わり方について議論しました。「『発酵的復興』という言葉が一番印象的だった。自分がどのような菌になれるか考えたい」という意見や「七尾は市民が主体となって復興へ動き出していることが良く分かった」などの感想が聞かれました。また、今後の関わりについては「矢田郷地区を筆頭に成功例を1つでもつくって、石川県全体に広がる取り組みにしていくお手伝いができれば」といった声が聞かれました。

image_event_241206.016.jpeg

矢田郷地区まちづくり協議会の飯田会長は「逆参勤交代の参加者に会って、我々の方向性は間違っていないと確信できた。これからも復旧復興を進めていくうえで、皆さんの経験を活かした伴走やアドバイスをお願いしたい。長期的なつながりを作っていきたい」と述べました。

image_event_241206.017.jpeg左:逆参勤交代への期待を語る飯田氏
右:フィールドワークの総括をする逆参勤交代コースの松田講師

講師の松田氏は総括として、「今回の最大の学びは平時からのコミュニティづくりの重要性だった。YATAGOUビレッジセカンド大学などで平時から人と繋がっていたことが災害時に避難所運営などに活かされていることが良く分かった。ただし被災後も人口が減少する能登半島では、今後は住民だけでなく、復興支援型逆参勤交代者で首都圏の関係人口が定期的に通い、担い手や消費者になることが必要である。それが平時からのコミュニティづくりが一層強くするはずだ。そして今後は続けること、深めること、広めることを目標に七尾の皆さんとの関係性を深化させていきたい」と締めくくりました。

松田氏は来年も七尾市で復興支援型逆参勤交代を実施したいとし、それまでにも様々な形で交流を続けたいと話していました。今後も七尾市との関わり方に注目していきたいと思います。

丸の内プラチナ大学

あなたの「今後ありたい姿」「今すべきこと」とは?

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1【丸の内プラチナ大学】2024年度開講のご案内~第9期生募集中!~
  2. 2【大丸有シゼンノコパン】【朝活】大丸有で芽吹きを「視る(みる)」ー春の兆しは枝先からー/まちの四季
  3. 3大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 冬
  4. 4フェアウッド×家具~ものづくりを通じた自然や生態系への貢献~
  5. 5【大丸有フォトアーカイブ】第2回 みんなの写真展  2月21日~3月4日
  6. 6【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 壱岐市フィールドワーク
  7. 73×3Lab Future個人会員~2024年度(新規・継続会員)募集のお知らせ~
  8. 8【大丸有シゼンノコパン】大手町から宇宙を「望る(みる)」ービルの隙間からみる、星空の先ー
  9. 9【レポート】COP16が各セクターに与えた影響とは
  10. 10【レポート】NTT東日本グループが手掛けるバイオマス利活用の現状を知る