美唄市長桜井氏を迎えて東京講座が開催された
美唄市長桜井氏を迎えて東京講座が開催された
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逆参勤交代とは、都市の人材が期間限定で地域に越境し、地域が抱える課題の解決策や潜在的価値を一緒に考える事業です。
北海道のほぼ中央部に位置する美唄市で2024年11月開催の丸の内プラチナ大学逆参勤交代コースフィールドワークを前に、9月26日、大手町の3×3Lab Futureでは美唄市について学びを深めようと受講生たちが続々と集まってきました。
同コース講師の松田智生氏は挨拶で「美唄市はかつて炭鉱で栄えた町だったが、廃坑による街の衰退、人口減少、高齢化に苦しんでいる。しかし現在は新市長のもと官民連携や新たな地方創生政策を一生懸命頑張っている。私たち首都圏人材がどのように貢献できるか今日の講座の中でぜひ考えてみてほしい」と述べました。
美唄市で生まれ育ち、道内外の民間企業で勤務した後、2023年6月に美唄市長に当選した美唄市長の桜井恒氏が登壇しました。同氏は美唄市の特徴や魅力について、四季の美しさや食の豊かさ紹介した上で、北海道でも有数の豪雪地帯ならではの雪を活用した事業にも言及しました。市内の民間企業、株式会社ホワイトデータセンターでは、バイオマス発電等で電力を賄いながら、雪を大規模サーバーの冷却に利用し、さらには排熱による雪解け水を使ってウナギを養殖したり野菜を育てたりして、CO2の排出ゼロを実現しています。
このような多面的な魅力を持つ美唄市ですが、人口減少が大きな課題となっています。桜井氏は「美唄市は明治期からずっと石炭の街として栄えてきた。ピーク時には10万近くの人口だったが、閉山後は4万人まで激減し、大きな人口の増減を経験した」と言い、「現在でも毎年5%ずつ人口が減り続けており、危機感を持っている」とその深刻さを訴えていました。
美唄市は、このような状況を打開するため官民連携でIT人材を育成するプロジェクト「未来クライム」を開催したり、野球の独立リーグ球団を設立したりと人口流出の抑制と関係人口の創出に力を入れてきました。その中でも桜井氏が最も力を入れているのがシビックプライド(市民としての誇り)の醸成です。桜井氏はその醸成に取り組む意義として次のように話しました。「行政の意思決定や施策は、民間出身の私から見れば遅い。もっと生産性やスピードを上げる必要があり、そのためには関係者で早く合意形成することが重要。シビックプライドを醸成することで市民がまちづくりを自分事化し、行政が持っている課題感を共有してもらえる。そうすれば市の施策を納得して受け入れ、時に助けて頂きながら、将来的には市民がまちづくりの主役になって行動を起こしてくれることが期待できる。そして、皆がときめく未来を語るまちに変わっていきたい」。そのため桜井氏は年間40回を目標に市民と対話の場を持ち、市の意思決定プロセスや施策に対する課題感を共有しています。またシビックプライドを高めるためとして、地域資源をフィールドにして探究学習を行ったり、子どもたちが主役となってまちを盛り上げる美唄まちづくり部を創設したりと様々な取り組みを行っています。
最後に桜井氏は、来年は子どもたちのまちづくりアイデアに予算を充て、子どもたち自身でそのアイデアを実行してもらうという「子ども議会」を開催すると新たな挑戦を明かしました。「子どもの頃から自分のまちが好きであれば、仮に大人になって道外に出たとしても美唄のために尽力したいと思ってくれる。美唄のために将来力を貸してほしいという願いを込めている」と桜井氏は子ども議会に込めた想いを語っていました。
続いての対談では、講師の松田氏が、桜井氏に美唄市の課題や今後の展望などについて掘り下げて聞いていきました。
松田氏:最初は率直な質問になりますが、なぜ民間企業の社員から美唄市長になろうと思ったのでしょうか。市長になってみて、やりがいや手ごたえはいかがでしょうか。
桜井氏:市議会議員である父の手伝いをきっかけに、美唄市の人口が年間500人減少していることを知り、何とかしたいと思いました。その後市長選があり、色々なアイデアを市政に盛り込んで美唄市を盛り上げたいと考え、一念発起しました。
当選後、一つ一つの決断がまちの動きに変換されていく点にやりがいを感じます。ホワイトデータセンターやデジタル人財育成施策を視察すると、自分の育ったまちを良くしていけると実感でき、達成感は民間企業のときより大きいです。
松田氏:一方で民間企業にはない役所ならではのご苦労もあると思います。
桜井氏:意思決定をスピーディーにできないことです。次年度予算を毎年2月ごろに組むのですが、そこで決めたことを翌年3月までやり続けなければならず、臨機応変に施策を打つことが難しいです。今年からは年度半期で見直しができるような予算組みに挑戦しています。
松田氏:多くの官民連携事業に取り組まれています。その狙いや課題は。
桜井氏:地元の人が見る美唄市と外部から来た人が見る美唄市には乖離があると思っています。例えば東京や名古屋で暮らして北海道に戻ってきた私には、近隣の市町村を含めた広い視野で美唄市の立ち位置を見ることができます。外部からの視点を取り入れることで大きな刺激を得て、まちのエネルギーにしていきたいと考え官民連携事業に取り組んでいます。今後の課題は、私たち受け入れ側と企業がどのようにビジョンを共有して協力をし合えるかです。
そして話は松田氏が「最も印象的だった」と語るシビックプライドに及びました。
松田氏:小さな自治体ほど、子どもたちの多くはまちから早く出て都会にいきたいと思い、こんな田舎は何もないと言うなど、郷土愛が低く、自己否定感が強いと感じます。そのなかで、美唄市が郷土愛とシビックプライドの醸成に取り組まれていることは非常に素晴らしいです。逆参勤交代は、さまざまなバックグラウンドの方々が参加します。そんなよそ者から見た美唄市の魅力を地元の子どもたちと話すことによって、郷土愛を高めることにつながると思います。ぜひフィールドワークで実施してみたいです。
桜井氏:私も大学などと連携して新たな教育プログラムを実施していこうと考えていたところで、ぜひ逆参勤交代でも子どもたちとの交流など実現していきたいです。
松田氏:他の地域で地元の子どもたちとの交流を通じてわかったのは、私たちも学んだということでした。子どもたちのストレートな質問にどう答えるのか、あるいはわかりやすく伝えるとはどういうことなのか、まさに福沢諭吉が言う「半学半教」の大切さを学ぶ機会になりました。そのような意味でもシビックプライドの醸成に協力したいと思っています。
続いて、美唄市への逆参勤交代フィールドワークの行程説明がありました。
11月15日(金)1日目
12:35 美唄駅集合、バスで移動
12:50 アルテピアッツァ美唄着
13:00 オリエンテーション(アルテピアッツァ美唄ミニガイド)
13:25 昼食
14:10 セッション1:黒いダイヤ編~旧産炭地のいま
14:55美唄ハイテクセンター着
15:00 セッション2:白いダイヤ編~利雪の取り組み~
16:00 セッション3:美唄の遊雪 ~SNOWLANDとインバウンド~
18:00 懇親会
11月16日(土)2日目
9:00 ホテル発
9:10 美唄市郷土資料館着
9:15 セッション4:郷土資料館見学
10:10 宮島沼水鳥・湿地センター着
10:15 セッション5:ラムサール条約登録湿地 宮島沼を知る
11:45 昼食
13:00 セッション6:地元起業家との意見交換
14:00 セッション7:地域活性化起業人・地域おこし協力隊との意見交換
15:00 セッション8:参加者振り返り
16:30 日帰り温泉体験
18:30 懇親会
11月17日(日)3日目
8:45 ホテル出発
9:00 課題解決プランまとめ
12:00 昼食
13:00 市長への提案・総括
15:00 終了
その後、市長や市職員を交えてグループディスカッションが行われました。受講生からはシビックプライドへの共感が聞かれたほか、合意形成の難しさに理解を示す意見もありました。参加者の一人は「若い世代へのキャリア教育に貢献してみたいと思った。市外の人をうまく巻き込める仕組みができれば、キャリア教育を通じた関係人口の創出につなげられると思う」と語っていました。また社員教育の場を探していたという参加者は「美唄市は交通アクセスも良く、まちの規模感や雰囲気も魅力的。社員が地域での交流を通じて多くの気づきを得てもらえるのではないか」と美唄市が人的資本経営に有効な場であると感じたようでした。
講座終了後、逆参勤交代への期待を問われた桜井氏は「地元の『常識』を打ち壊してくれること、そして美唄が新たな挑戦を始めるフィールド(実験場)になることの2つに期待している。将来的には、市内外の人たちに対して新たな体験や学びを提供できるまちにしていきたい」と語りました。
美唄市のまちづくりは、市民の気持ちから変えることでまち全体の動きにしていこうという考えが非常にユニークでした。11月の越境学習ではその現場を訪れます。受講生たちと美唄市民との間に起きる化学変化が楽しみです。
丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。