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【レポート】「100年に1度の変革期」長崎の再生可能エネルギーの今とこれから

【丸の内プラチナ大学】再生可能エネルギー入門コース「長崎県」再生可能エネルギー実践地視察ツアー 2024年3月7日(木)〜8日(金)開催

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再生可能エネルギーの現状や地域活性化について実践的に学ぶ視察が3月7日、8日に長崎県で開催されました。視察の企画は丸の内プラチナ大学再生可能エネルギー入門コース講師の三上己紀氏。三上氏は「再生可能エネルギーを使った地域活性化や今後のエネルギーの利活用の展望を描いている企業や行政の話を聞くことが目的です。長崎県はその両方を持ち合わせた地域。再生可能エネルギーコースは開講以来洋上風力に注目してきましたが、それ以外にも目を向け、今回は太陽光発電や熱供給システムなどもあり、とても勉強になると思います」と期待を語りました。

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開業以来、自然環境や文化と調和した持続可能な開発を目指すハウステンボス

開業以来、自然環境や文化と調和した持続可能な開発を目指すハウステンボス

最初の目的地は、長崎県佐世保市にあるオランダのまち並みをイメージしたテーマパーク、ハウステンボス。オランダ語で「森の家」を意味し「エコロジーとエコノミーの共存」というコンセプトでつくられました。ハウステンボス株式会社人事総務本部(当時)の松尾綾子氏は名前の由来を次のように教えてくれました。

「開発当時はヘドロが多くて樹木が育たないところでした。それを4年間かけて土壌改良を行い、約40万本の木々を植えてまちづくりの礎を築き『森の家』の土台を作りました。テーマパークの名前は特に木々の多いエリアでオランダ本国に実在する宮殿を模したパレスハウステンボスからいただいたものです」(松尾氏)

image_event_20240307.002.jpeg 左:ハウステンボスのサステナビリティについて語るハウステンボス株式会社の松尾氏
右:ハウステンボスの熱供給システムについて解説する中村氏

このような由来もあり、ハウステンボスは自然環境や文化と調和し持続可能な開発となるように様々な工夫が凝らされています。その一つが熱供給の事業、ハウステンボス熱供給株式会社事業部長の中村博氏によれば、ハウステンボスは1992年から冷熱と温熱を園内の施設や周辺のホテルなどに「売却」してきました。

「冷熱でいえば、冷凍機で6℃にした水を送り、施設の空調や保冷用に使用された後、13℃になった水が帰ってきます。それをまた冷凍機で冷やすという循環システムがあります。一方温熱は暖房や給湯などに使われますが、ボイラーを使って180℃の蒸気を送り、各施設に設置された貯湯槽タンクの水を蒸気で温めた後は60℃のお湯になって帰ってきます」(中村氏)

熱供給は園内のエネルギープラントに装備された6台の冷凍機と3台のボイラーが担っています。このような熱供給を行うメリットの一つはエネルギー効率です。例えばターボ冷凍機なら1のエネルギーを使って6倍のエネルギーを提供できます。

「エネルギー消費が激しい夏場などには、ガスをうまく使いながら電気をピークカットでき、トータルエネルギー効率を上げるベストミックスがつくれます」(中村氏)

このような熱供給はハウステンボスが開園した当時、九州では先進的な取り組みとして注目を集めたそうです。ハウステンボスではこのような冷・温熱を、総延長3,200メートルの共同溝と呼ばれる地下トンネルを使い各施設に送ります。共同溝には冷・温水管のほかに電気、上下水道、通信などの配管も通り、そのためハウステンボス内に電柱や電線が一切ない景観を生み出しています。

説明の後、中村氏は参加者らをエネルギープラントへと案内しました。エネルギープラントでは蒸気が使われた後のお湯(環水)を貯める環水槽、ボイラー、蒸気吸収式冷凍機、そして共同溝など様々な機器や設備を目にすることができました。コロナ禍が明けて以降、環境を考えるきっかけとして、修学旅行を中心に頻繁に見学の要請があるようです。エネルギープラントを出ると次は太陽光発電所の見学へ移ります。ハウステンボスの太陽光発電は、2009年に新エネルギーへの国民の理解増進を進める「長崎次世代エネルギーパーク」として開始され、計7,000枚(900キロワット)の太陽光パネルが設置されました。

image_event_20240307.023.jpg 左:エネルギープラントで設備を説明する中村氏
右:ハウステンボス内の太陽光発電所

見学から戻り意見交換が活発に行われました。松尾氏は「現在はミッションとして2027年までにCO2排出量を2019年に比べ50%削減できる案を探しています。例えば駐車場に屋根を付け、その上に太陽光パネルを設置し、発電した電気を園内で使用するなどです」とさらなる環境施策を考えていることを明かしました。参加者からは「山を切り開かず、駐車場を活用することでメガソーラーが作れるのは恵まれている」や「脱炭素のためにEV車を導入しては」、「海に近いので波力発電は使えないか」などの意見があがりました。他にもコロナ禍からの旅行客の回復、ハウステンボスのターゲット層などに関しても質問が寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえました。

image_event_20240307.006.jpeg 左:資料を読み込みながら理解を深める参加者
右:ハウステンボス内での記念撮影

洋上風力発電で活気づく長崎県の海洋アカデミーで最先端を学ぶ

2日目は長崎大学構内にある長崎海洋アカデミーで洋上風力発電について学びました。長崎海洋アカデミーは2020年に開講された教育機関で、事業開発からファイナンス、施工、プロジェクトマネジメントまで幅広いコースを提供しており、洋上風力のプロフェッショナルを育てることを目的としています。開講以来すでに60回講座が開催されており、およそ800人が受講しました。

初めに、長崎県産業労働部新産業創造課の中尾将来氏から海洋エネルギーの産業化に向けた県の取り組みが説明されました。

「長崎県は九州本土の面積に匹敵するぐらいの海の面積を有します。離島数が594島で全国1位、漁業生産高も全国2位で文字通り『海洋県』。これまでは水産業と炭鉱業、造船業などが県の経済をリードしてきましたが、現在私たちは100年に1度の産業構造の変革期を迎え、その1つが洋上風力発電などの海洋関連産業だと考えています。洋上風力発電は造船技術を活かせるというメリットもあり、培ってきたものを活かして新しい産業をつくる後押しをしています。将来、エネルギーの脱炭素や再生可能エネルギーの電力供給体制を構築し、企業や人材を呼び込める地域づくり『グリーントップ長崎』を目指したいです」(中尾氏)

県のこのような動きの背景には、政府が再エネ海域利用法に基づく促進地域に五島市沖や西海市江島沖を指定したことがあります。洋上風力発電事業の機運をさらに盛り上げるためにも、長崎県は企業間マッチング支援や県内企業の海洋エネルギー研究開発や人材育成への投資を支援するなどの枠組みを整えているそうです。

image_event_20240307.007.jpeg 左:長崎県の洋上風力発電の取り組みについて語る中尾氏
右:洋上風力発電の設備について解説する松尾氏

その後、NPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会エグゼクティブコーディネーターの松尾博志氏にバトンタッチし、洋上風力発電所の設計から施工までの一連の流れ、洋上風力発電が風車、海底ケーブルや変電所など多くの設備から構成されていることや、各設備の役割についても解説いただきました。
洋上風力発電は日本ではまだ黎明期で多くのものを輸入しているように思われがちですが、例えば風車メーカーは海外の会社ですが、風車内の電気機器や、発電機に使用される磁石、ブレードに使用される炭素繊維などの各コンポーネントや素材を見ると日本製の多くの製品が風車に利用されています。また、国内の建設やメンテナンスなどは日本企業が担っているので、洋上風力発電は日本の製造業や建設業に支えられていると言えます。また、多くの設備をレイアウトするには風、土質、潮流、波などに関するデータが必要で、それらを考慮したうえでタービンや支持構造物などを選択していくと松尾氏は語りました。さらに周辺海域での生物の生息環境や漁業の操業状況など周辺環境も重要な要素です。

「風車のレイアウトを考える際に碁盤目状に並べるのが一番簡単ではありますが、コストの問題、後流(こうりゅう)効果、稼働率、環境アセスメントなど様々なトレードオフが存在し難しさがあります」(松尾氏)

image_event_20240307.008.jpegワークショップで使われた洋上風力発電の模型部材

講義はミニチュア洋上風力発電所の建設を体験するワークショップに移りました。先の講義で松尾氏は、洋上風力発電の建設に使用される船の稼働時間のうち、約半分が「待機時間」であり、その待機時間の内、サプライチェーンに起因するものが40%近くを占めていることを語りました。ワークショップではチームが協力して効率的なサプライチェーン構築の重要性を学びます。参加者はそれぞれ陸上サプライヤーやコーディネーター、輸送船、電気技師、施工船などの役割に分かれて、陸上から洋上風力を建設するためのモノパイル(風車を支える軸)やブレード、ケーブルなどを輸送し、洋上に見立てた水槽に風力発電設備の模型をいかに早く建設するかを競いました。

image_event_20240307.009.jpeg 左:チーム内で作戦会議をする様子
右:洋上風力発電模型の組み立ての様子

今回、6基の洋上風力発電所を「稼働」させるのに要した時間は約18分、過去には15分で完成させたチームもあったそうです。いくつかの反省点はありながらも、参加者からは洋上風力の建設を体験したようだったとの声が聞けました。

午後からは長崎海洋産業クラスター形成推進協議会研究員の湯浅慶太氏から風車が回る複雑な仕組みの解説いただいました。湯浅氏によれば風車は大きく分けて風に押されて回る抗力型と、飛行機の翼のように風が当たることで発生する垂直の力を利用する揚力型に分類できます。洋上風力発電の風車は揚力を利用したものが多く、風車がうまく回るためには風車のブレードは風に対して水平ではなく、少し傾けたほうが揚力は大きくなり、より大きな力を得ることができます。ところが、話はそう単純ではないようです。

「傾きによって揚力を最大化しすぎると、風車に対して悪さをする抗力も大きくなる問題が出てきます。そのため揚力は大きくしながらも、抗力を小さくする必要があります。複雑なのは風車のブレードが根本と先端では回るスピードが大きく異なるためブレードの傾きは一律ではなく、先端に行くほど傾きも大きくしています」(湯浅氏)

image_event_20240307.010.jpeg風車が回る仕組みを説明する湯浅氏

風から最大限の揚力を引き出すための工夫が施されている風車ですが、限界もあるそうです。

「風車はいくらでも早く回るわけではなく、定格出力の風速以上に風が強くなったら、それ以上速く風車を回すと内部システムが壊れてしまう恐れがあります。そのような時はピッチシステムと呼ばれる仕組みでブレードの傾きを変えることで風を逃がし回転数を一定にするよう調整します。さらに強風になった時にはピッチ角を風向きと平行にするフェザリングを行うことで出力をカットアウトすることもあります」(湯浅氏)

湯浅氏の解説を受け、参加者は次のワークショップに臨みました。今回のワークショップでは風車のブレードをケント紙で自作し、扇風機の風を当て回転させ発生する出力を競いました。ブレードの枚数や長さ、迎角、回転方向などは自由で、制限時間内なら何回作り直しても良いということで、参加者は各自の想像力で自由に作成しました。松尾氏は「今回は電圧つまりは回転数だけで競うので、枚数が少なくて短いブレードのほうが有利です」とコツを伝え、その言葉通り、2枚の短いブレードの風車が4.7ボルトと最高電圧を記録しました。

image_event_20240307.011.jpeg 左:自作の風車をつくる参加者
右:風車の回転数を測定している様子

その後松尾氏が再び登壇し、洋上風力の事業開発について解説がありました。洋上風力発電における開発プロセスを説明した後、欧州の洋上風力事業開発と日本の現状を比較した課題等を指摘しました。

「欧州はEEZ(排他的経済水域)まで開発していますが、日本は領海のみしか認められていません。現在、日本でもEEZまで洋上風力の開発が可能となるような法律の整備が勧められており、今後数年の間にはEEZでの開発が可能になると考えています。また欧州では、政府が海域の確保と調査・選定に関わるセントラル方式が採用されており、一方日本では事業者が自ら開発を進めているという側面があるために、複数の事業者が同一海域で重複した調査を実施するなど効率の悪い点が指摘されおり、日本でも欧州のようなセントラル方式を目指して政府の動きが始まったところです。」(松尾氏)

image_event_20240307.012.jpeg洋上風力の事業開発について説明する松尾氏

最後に、洋上風力発電事業に関する意見交換が行われました。海中は陸上に比べて環境アセスメントのコストが高く、評価も難しい点や、地元住民の理解を得るには時間がかかることなどが話題に上がりました。そして日本の洋上風力事業で先行している長崎県の五島列島に話が及び、洋上風力発電の誘致以降五島市では地域が活性化されていることや五島市のオープンな雰囲気が洋上風力の受け入れにつながっているのではないかといった意見が交わされました。また、日本国内で洋上風力が増えていくためにはという話題に、松尾氏は「日本の各地方はどこも人口減少や少子高齢化に悩まされています。洋上風力発電を通じて地域が少しでも良くなるという事例が見えてくると雰囲気が変わってくるのではないかと期待しています」と語りました。 こうして参加者はワークショップに楽しく賑わいながら、洋上風力発電の建設について学び、交流を深めていきました。

image_event_20240307.013.jpeg視察の最後に挨拶する丸の内プラチナ大学再生可能エネルギー入門コース講師の三上氏

今回の視察では再生可能エネルギーの活用の実例や洋上風力発電の建設の全体像を学ぶことができました。様々なハードルがあるなか、長崎県の産官学各団体がグリーンエネルギーの普及や地域活性化に高い目標を掲げて邁進する姿が印象的でした。このような取り組みが今後より日本全国に波及していくことを期待したいと思います。

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